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決着

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「ファイアーボール」

 戦いが始まるなり、レイシャは魔法を発動します。ファイアーボールは一般的に一番攻撃力が高いと言われる魔法ですが、およそ聖女が使うものではありません。レイシャは聖女とは言えなくてもそこそこの魔術師ではあるのでしょう、大きな火球が彼女の前に出現し、続けざまに三つほどこちらに飛んできます。

「ホーリー・シールド」

 すぐに私が防御魔法を発動すると爆音とともに魔法同士がぶつかり、そして防がれます。

「あなたはそのような魔法を使って本当に聖女にふさわしいと思っているのでしょうか?」
「そんなありきたりなイメージなんてどうでもいいわ。それよりあなたは攻撃魔法なんて使えるの? 使えなければ一方的に攻撃するけど」

 そう言ってレイシャは続けざまにファイアーボールを発動し、私が張った防御魔法を次々と攻撃してきます。
 彼女の猛攻を受けても防御はびくともしませんが、私が一方的に攻撃されているせいかオーウェン様は心配げにこちらを見つめてきて、殿下はというと勝ち誇った表情を見せています。

「ところでレイシャは私が聖女時代本気を出していなかったことをご存知でしょうか?」
「何それ。聖女なんて片手間で務まるとでも言いたいの?」

 この戦いの様子が録画されているからか、レイシャは私の印象を悪くするようなことを言ってきます。

「そうではありません。そちらの殿下が自分より目立つ人が近くにいるのは嫌だから、とおっしゃるので私は意図的に目立たないようにしていたのです」
「おい、まさか僕のせいにするって言うのか!?」

 唐突に矛先を向けられて殿下は動揺します。
 まさかも何も全てあなたのせいですが。

「そうです。あなたのせいで私は魔力を抑え、そしてあなたは今度はそれが気に食わず私を追放したじゃないですか」
「ち、違う! 僕はそんなつもりで言った訳じゃない!」

 殿下が叫びましたが動揺したのは隣にいたレイシャでした。
 途切れずに連続で使っていた魔法の手が突然にぶったのです。そして蒼白な表情で尋ねます。

「殿下、今のは本当ですか!?」
「ち、違う! それはこいつが言っている出鱈目だ!」
「嘘……」

 しかしレイシャは殿下の態度から彼の言っていることが本当だということを確信してしまったのでしょう。勝負中にも関わらず動揺しています。

「殿下、もし私が勝っても私が気に入らなくなる可能性があるということですよね!?」
「そ、そんなことはない! 僕はレイシャを愛している!」

 かつてここまで嘘くさい愛の言葉があったでしょうか。声は上ずり、視線は泳いでいて何一つ信じられません。

「まさか私は勝っても負けても聖女にはなれないということですか!?」

 殿下の言葉にレイシャは半狂乱に陥ります。ここで勝ったとしても殿下の気まぐれで追い出されるかもしれないとなればたまったものではありません。

「そうです。所詮あなたは元々聖女の器ではなかった。それがたまたま間違ったことが重なって一時的に聖女になれているだけです。なのでそれがあるべきところに収まるだけです」
「そんな……」
「とはいえ、この戦いは録画されているようなので一つ教えてあげましょう。あなたは勝っても負けてもと言いましたが、あなたが勝つことはありません」

 が、私の言葉にレイシャはふっきれたようにこちらに向き直りました。

「そんなことはない! こうなったら、聖女にはなれないとしてもせめてお前だけは倒す! ファイアーボール!」
「では私も本気を出してあげましょう。ホーリー・ランス!」

 私は唯一覚えている攻撃魔法を唱えます。
 もう私が遠慮する理由は何一つありません。王国の人々を救うためにも。オーウェン様を助けるためにも。
 私の渾身の力をこめた聖なる槍はレイシャが発動したファイアーボールとぶつかり、火球を爆発させます。爆炎でレイシャの周りの視界がぼやけますが、それでも槍は砕けずにレイシャに向かっていきます。

「うわああああああああ!」

 それを見た殿下は情けないことに悲鳴を上げて城の中へと逃げていったのでした。

「見事だった、イレーネ」

 それを見たオーウェン様が私に声をかけてくださります。

「ありがとうございます。これで誰もが私こそ聖女にふさわしいということを認めてくださったのではないでしょうか」
「ああ。俺たちは堂々と城に戻ろう」

 するとそこには逃げる際に殿下が落としていた映像記録の宝石が落ちていました。これがあればもはや殿下の肩を持つ者もいないでしょう。

 すると、ファイアーボールを砕いた時に発生した爆炎が消滅し、霧が晴れるように視界が広がっていきます。
 が、そこには倒れているはずのレイシャの姿は見当たりませんでした。
 おそらく爆炎で視界が隠れている隙に逃げたのでしょう、どうも私の攻撃では止めにはいたらなかったようです。とはいえそこにレイシャの死体が転がっていなかったことに一抹の安堵があったことは否定出来ません。

「すみません、どうも逃がしてしまったようで」
「構わない。聖女じゃなくなったあいつはもはやどうでもいい存在だ。それに俺は君に殺しはして欲しくない」
「はい。私も少しだけほっとしてしまいました」
「それはよいことだ。今度は俺が頑張ろう。次は俺の番だ」

 こうしてレイシャは逃がしたものの、決着はついたのです。
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