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対決

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 翌日、私たちは緊張した面持ちで軍勢を離れ、会談場所に向かいました。一応味方には逐一敵情を探らせていますが、今のところ敵軍からはボルグとレイシャが進み出た以外に動きはありません。会談予定地に事前に何かが仕掛けられた様子もなかったと聞いて、ようやくオーウェン様は私を連れて出発しました。

 城門と軍勢のちょうど真ん中ぐらいまで歩くと、向かい側から殿下とレイシャが歩いて来るのが見えます。ちょっと前まで娼婦のような恰好をしていたレイシャも今では王妃のように豪華なドレスで着飾っていました。が、私を追い出した時のような余裕はなくぎゅっと表情を引き締めています。

 私たちの距離が十メートルほどになるとどちらからともなく足を止めます。
 向かい合った私たちでしたが、まずボルグが口を開きました。

「我が王都に軍勢を向けるとは反逆だ、許さない、と本来は言うべきところではあるがこのたびの会談に応じたことでいったんそれは脇に置いてやろう。というのも確かに国民たちの中には本当はイレーネこそ正しい聖女であったのではないかと疑うやつがまだ残っていて、この場ではっきりさせた方がいいだろうと思った次第だ」

 前半部分はさておき、珍しく殿下がまともなことを言っているので私たちは黙って聞いています。
 すると殿下はポケットから大きめの宝石のようなものを取り出しました。

「と言う訳でこんなものを用意させた。これはいわゆる映像を記録する宝石だ。これで我々の対決の様子を映す。そして勝負が決まった暁にはその結果を放映することで国民の不安も静まるであろう」
「待て。まずはその魔道具に細工がないことを確認させてもらおうか」

 早速オーウェン様が口を挟みます。すると殿下はちっ、と舌打ちして宝石をこちらに放り投げました。
 それを受け取ったオーウェン様は宝石をつぶさに観察し、投げ返します。

「確かにこれは映像をそのまま届ける魔道具のようだ。細工はない」
「こちらが勝つのにわざわざそんな面倒なことをする訳ないだろう。そしてレイシャとイレーネ、どちらが聖女にふさわしいのかは小細工の入る余地のない魔法対決によって決めたいと思う」
「何だと!? 聖女は別に魔法で戦う存在ではない!」

 オーウェン様が語気を荒げます。本来魔法対決の勝敗と聖女であることは何の関係もないことです。とはいえ、オーウェン様の真意はそれではなく私に危害が加わることを心配してのことでしょう。

「だがそれが一番分かりやすいではないか? 二人が魔法で戦い、どちらかが降参すれば勝負が決まる。複雑なルールにしたり、種目を決めたりすればこちらが小細工をしたと疑われかねないからな」

 なぜ殿下がそこまで自信満々なのかは分かりませんが、確かにそれはそうです。オーウェン様の気遣いはありがたいですが、私がレイシャに魔法対決で負ける訳がありません。

「大丈夫です。それにこの方が実力の差がより分かりやすくなります」
「分かった。ならばそなたを信じよう」

 私の言葉にオーウェン様は苦渋の表情で頷きます。心配してくださるのはありがたいですが、私としてもレイシャとは決着をつけなければなりません。
 一方のレイシャも私を見て宣言します。

「これまであなたのせいで、聖女にふさわしくないだの、お前が聖女になったせいで国が乱れただの散々言われてきましたが、真実を見せてあげましょう。私があなたよりも聖女にふさわしいということを」
「そんな訳がない! あなたたちのせいでたくさんの人が苦しんでいるということが何で分からないの!?」
「では勝負を開始しよう」

 殿下が叫びます。すると、レイシャはドレスの中から一振りの杖を取り出します。大きさは数十センチほどですが、そこには複雑な魔法の術式が彫られ、いくつものきらきらと輝く高価な魔石がとりつけられています。魔石というのは魔力を含んだ石であり、うまく使えば自分の魔力以上の魔法を放つことも出来ます。

「おい、そんなものを使うなんて卑怯だぞ!」
「そんなルールはない。あくまで勝負は二人で戦うとしか決めていないからな!」

 オーウェン様の指摘に即座に殿下は反論します。

「だが、魔道具を使って勝つことがどう聖女にふさわしいと言うのだ!」
「これはレイシャが造ったものだから、レイシャの力だ」

 レイシャが持っている杖からはかなり大きな力を感じるので、彼女のような素人に作れるものではないと思います。しかしそれを証明することは出来ません。
 オーウェン様が口をつぐむと、レイシャが薄く笑います。

「さてイレーネ。どちらの方が聖女にふさわしいか。ついでにどちらの方が強いか決着をつけましょうか」
「構いません。そのような小細工を弄したところで、神はきちんと国のためを思っている私に加護をくださるはずです」
「じゃあ、もし私が勝ったら私の方が国のためを思っている、ということでいいですね?」
「そんなことがあるはずがありませんが」

 こうして私たちの戦いは始まりました。
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