妹が行く先々で偉そうな態度をとるけど、それ大顰蹙ですよ

今川幸乃

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エピローグ

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「そう言えば皆さん……今日はアーノルド様とお話にいらした訳ではなかったのですか?」

 パーティーがもうすぐ終わるというころ、今更ではあるが私は尋ねる。
 が、それを聞いて他の令嬢たちはなぜ怪訝な表情になった。

「いや、だってそれはねえ」
「ほぼ決まっているというか」

 そう言って彼女らは顔を見合わせる。
 私はそれを見ていよいよ首をかしげた。

「あの、一体どういうことでしょうか?」
「だって、婚約者はもうラーナさんに決まったようなものじゃないですか」
「え、そうなのですか?」

 そんなことは寝耳に水だ。婚約者がシェリルではなくなったというのは分かるが、他のご令嬢たちもアーノルドの婚約者候補と聞く。それなのにいつの間に私に決まったのだろうか。

「はい、今のアーノルド様は貴族家の当主の方ばかりと話しているではありませんか」
「確かに」

 言われてみれば、シェリルの件の後、アーノルドは私たちの父親、つまり各家の当主とばかり話している。てっきりご令嬢たちがずっと私と話し込んでいるせいかと思っていたけど。

「それはもう婚約者選びなんて終わったからということですわ」
「なるほど? でも一体なぜ」

 そう言われてみればそんな気もするが、でも今日のパーティーで私に決まる要素は何かあったのだろうか。

「それは元から僕はラーナと婚約する予定だったからだ」
「え?」

 急に現れたアーノルドの言葉に私は驚いた。

「でも、今日のパーティーは婚約者選びって……」

 私の言葉にアーノルドは頭をかく。

「まいったな、それは誤解だというのに。だって一回のパーティーの印象で婚約者なんて選べる訳がないだろ?」
「それはそうですが……」
「僕は元からラーナと婚約する予定だったが、他の家から大量に婚約の申し入れがあってね。しかも君の妹からもそんな文が届いた」
「まあ、それはご迷惑おかけしました」

 まさかシェリルが勝手にそんなことをしていたとは。

「それでただ断るのも申し訳ないとパーティーを開くことにしたのだが、気が付いたらこのパーティーで婚約者を選ぶかのような話になったんだ」
「そうだったのですか」

 そう言えば父上もそこは明言していませんでしたが。

「もちろん今日君と会って、婚約するに堪えないような酷い人物であったら考え直すつもりであったが、聞いていた通りで安心した」
「それは、ありがとうございます」
「しかもシェリルが帰った後は他のご令嬢たちとも仲良くしていたようじゃないか。公爵夫人の一番大事な役割は他人と仲良くすることだと僕は思っているからね」
「なるほど」

 言われてみれば、シェリルの件でアーノルドと話したときも、他人への接し方を褒められたような気がする。

「外では他家の夫人たちと親しくし、屋敷でも僕が留守の間は執事やメイドたちを束ねてもらわなければならない。だからそれが任せられるような人物でなければならないんだ」
「あ、ありがとうございます」

 褒められて嬉しいが、何分唐突なことなので全然実感がわかない。
 そんな私の心を見透かしたようにアーノルドは言う。

「とはいえ今日は普通のパーティーだ。後日改めて正式に伝えるからそれまでに心の準備を整えておいてくれ」
「わ、わかりました」

 こうして私は気が付くとアーノルドの婚約者の地位を手に入れていたのだった。
 これまでずっと周囲に尊大な態度をとるシェリルの後始末ばかりさせられて貧乏くじだと思っていたけど、きちんとそれを見ていてくれる人はいるんだ、と実感する。
 ある意味、みんなの憧れの人物であるアーノルドと婚約できることよりもそのことの方が嬉しかった。

「あの、少しお話しませんか?」

 もうパーティーも終わりの時間に差し掛かり、私は思い切ってアーノルドに切り出す。

「もちろん、じゃあ少し庭を歩こうか」
「はい」

 こうして私たちは連れ立って庭へ出るのだった。
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