10 / 10
エピローグ
しおりを挟む
「そう言えば皆さん……今日はアーノルド様とお話にいらした訳ではなかったのですか?」
パーティーがもうすぐ終わるというころ、今更ではあるが私は尋ねる。
が、それを聞いて他の令嬢たちはなぜ怪訝な表情になった。
「いや、だってそれはねえ」
「ほぼ決まっているというか」
そう言って彼女らは顔を見合わせる。
私はそれを見ていよいよ首をかしげた。
「あの、一体どういうことでしょうか?」
「だって、婚約者はもうラーナさんに決まったようなものじゃないですか」
「え、そうなのですか?」
そんなことは寝耳に水だ。婚約者がシェリルではなくなったというのは分かるが、他のご令嬢たちもアーノルドの婚約者候補と聞く。それなのにいつの間に私に決まったのだろうか。
「はい、今のアーノルド様は貴族家の当主の方ばかりと話しているではありませんか」
「確かに」
言われてみれば、シェリルの件の後、アーノルドは私たちの父親、つまり各家の当主とばかり話している。てっきりご令嬢たちがずっと私と話し込んでいるせいかと思っていたけど。
「それはもう婚約者選びなんて終わったからということですわ」
「なるほど? でも一体なぜ」
そう言われてみればそんな気もするが、でも今日のパーティーで私に決まる要素は何かあったのだろうか。
「それは元から僕はラーナと婚約する予定だったからだ」
「え?」
急に現れたアーノルドの言葉に私は驚いた。
「でも、今日のパーティーは婚約者選びって……」
私の言葉にアーノルドは頭をかく。
「まいったな、それは誤解だというのに。だって一回のパーティーの印象で婚約者なんて選べる訳がないだろ?」
「それはそうですが……」
「僕は元からラーナと婚約する予定だったが、他の家から大量に婚約の申し入れがあってね。しかも君の妹からもそんな文が届いた」
「まあ、それはご迷惑おかけしました」
まさかシェリルが勝手にそんなことをしていたとは。
「それでただ断るのも申し訳ないとパーティーを開くことにしたのだが、気が付いたらこのパーティーで婚約者を選ぶかのような話になったんだ」
「そうだったのですか」
そう言えば父上もそこは明言していませんでしたが。
「もちろん今日君と会って、婚約するに堪えないような酷い人物であったら考え直すつもりであったが、聞いていた通りで安心した」
「それは、ありがとうございます」
「しかもシェリルが帰った後は他のご令嬢たちとも仲良くしていたようじゃないか。公爵夫人の一番大事な役割は他人と仲良くすることだと僕は思っているからね」
「なるほど」
言われてみれば、シェリルの件でアーノルドと話したときも、他人への接し方を褒められたような気がする。
「外では他家の夫人たちと親しくし、屋敷でも僕が留守の間は執事やメイドたちを束ねてもらわなければならない。だからそれが任せられるような人物でなければならないんだ」
「あ、ありがとうございます」
褒められて嬉しいが、何分唐突なことなので全然実感がわかない。
そんな私の心を見透かしたようにアーノルドは言う。
「とはいえ今日は普通のパーティーだ。後日改めて正式に伝えるからそれまでに心の準備を整えておいてくれ」
「わ、わかりました」
こうして私は気が付くとアーノルドの婚約者の地位を手に入れていたのだった。
これまでずっと周囲に尊大な態度をとるシェリルの後始末ばかりさせられて貧乏くじだと思っていたけど、きちんとそれを見ていてくれる人はいるんだ、と実感する。
ある意味、みんなの憧れの人物であるアーノルドと婚約できることよりもそのことの方が嬉しかった。
「あの、少しお話しませんか?」
もうパーティーも終わりの時間に差し掛かり、私は思い切ってアーノルドに切り出す。
「もちろん、じゃあ少し庭を歩こうか」
「はい」
こうして私たちは連れ立って庭へ出るのだった。
パーティーがもうすぐ終わるというころ、今更ではあるが私は尋ねる。
が、それを聞いて他の令嬢たちはなぜ怪訝な表情になった。
「いや、だってそれはねえ」
「ほぼ決まっているというか」
そう言って彼女らは顔を見合わせる。
私はそれを見ていよいよ首をかしげた。
「あの、一体どういうことでしょうか?」
「だって、婚約者はもうラーナさんに決まったようなものじゃないですか」
「え、そうなのですか?」
そんなことは寝耳に水だ。婚約者がシェリルではなくなったというのは分かるが、他のご令嬢たちもアーノルドの婚約者候補と聞く。それなのにいつの間に私に決まったのだろうか。
「はい、今のアーノルド様は貴族家の当主の方ばかりと話しているではありませんか」
「確かに」
言われてみれば、シェリルの件の後、アーノルドは私たちの父親、つまり各家の当主とばかり話している。てっきりご令嬢たちがずっと私と話し込んでいるせいかと思っていたけど。
「それはもう婚約者選びなんて終わったからということですわ」
「なるほど? でも一体なぜ」
そう言われてみればそんな気もするが、でも今日のパーティーで私に決まる要素は何かあったのだろうか。
「それは元から僕はラーナと婚約する予定だったからだ」
「え?」
急に現れたアーノルドの言葉に私は驚いた。
「でも、今日のパーティーは婚約者選びって……」
私の言葉にアーノルドは頭をかく。
「まいったな、それは誤解だというのに。だって一回のパーティーの印象で婚約者なんて選べる訳がないだろ?」
「それはそうですが……」
「僕は元からラーナと婚約する予定だったが、他の家から大量に婚約の申し入れがあってね。しかも君の妹からもそんな文が届いた」
「まあ、それはご迷惑おかけしました」
まさかシェリルが勝手にそんなことをしていたとは。
「それでただ断るのも申し訳ないとパーティーを開くことにしたのだが、気が付いたらこのパーティーで婚約者を選ぶかのような話になったんだ」
「そうだったのですか」
そう言えば父上もそこは明言していませんでしたが。
「もちろん今日君と会って、婚約するに堪えないような酷い人物であったら考え直すつもりであったが、聞いていた通りで安心した」
「それは、ありがとうございます」
「しかもシェリルが帰った後は他のご令嬢たちとも仲良くしていたようじゃないか。公爵夫人の一番大事な役割は他人と仲良くすることだと僕は思っているからね」
「なるほど」
言われてみれば、シェリルの件でアーノルドと話したときも、他人への接し方を褒められたような気がする。
「外では他家の夫人たちと親しくし、屋敷でも僕が留守の間は執事やメイドたちを束ねてもらわなければならない。だからそれが任せられるような人物でなければならないんだ」
「あ、ありがとうございます」
褒められて嬉しいが、何分唐突なことなので全然実感がわかない。
そんな私の心を見透かしたようにアーノルドは言う。
「とはいえ今日は普通のパーティーだ。後日改めて正式に伝えるからそれまでに心の準備を整えておいてくれ」
「わ、わかりました」
こうして私は気が付くとアーノルドの婚約者の地位を手に入れていたのだった。
これまでずっと周囲に尊大な態度をとるシェリルの後始末ばかりさせられて貧乏くじだと思っていたけど、きちんとそれを見ていてくれる人はいるんだ、と実感する。
ある意味、みんなの憧れの人物であるアーノルドと婚約できることよりもそのことの方が嬉しかった。
「あの、少しお話しませんか?」
もうパーティーも終わりの時間に差し掛かり、私は思い切ってアーノルドに切り出す。
「もちろん、じゃあ少し庭を歩こうか」
「はい」
こうして私たちは連れ立って庭へ出るのだった。
89
お気に入りに追加
1,109
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

【完結】“自称この家の後継者“がうちに来たので、遊んでやりました。
BBやっこ
恋愛
突然乗り込んできた、男。いえ、子供ね。
キンキラキンの服は、舞台に初めて上がったようだ。「初めまして、貴女の弟です。」と言い出した。
まるで舞台の上で、喜劇が始まるかのような笑顔で。
私の家で何をするつもりなのかしら?まあ遊んであげましょうか。私は執事に視線で伝えた。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

病弱だった私は彼の姉の結婚式に参加できなかったことで怒られ婚約破棄されました。しかし彼は後に不治の病にかかったようです。
四季
恋愛
病弱だった私は彼の姉の結婚式に参加できなかったことで怒られ婚約破棄されました。
しかし彼は後に不治の病にかかったようです。

強欲な妹が姉の全てを奪おうと思ったら全てを失った話
桃瀬さら
恋愛
幼い頃、母が言った。
「よく見ていなさい。将来、全て貴方の物になるのよ」
母の言葉は本当だった。姉の周りから人はいなくなり、みんな私に優しくしてくれる。
何不自由ない生活、宝石、ドレスを手に入れた。惨めな姉に残ったのは婚約者だけ。
私は姉の全てを奪いたかった。
それなのに、どうして私はこんな目にあっているの?
姉の全てを奪うつもりが全てを失った妹の話。


姉の引き立て役として生きて来た私でしたが、本当は逆だったのですね
麻宮デコ@ざまぁSS短編
恋愛
伯爵家の長女のメルディナは美しいが考えが浅く、彼女をあがめる取り巻きの男に対しても残忍なワガママなところがあった。
妹のクレアはそんなメルディナのフォローをしていたが、周囲からは煙たがられて嫌われがちであった。
美しい姉と引き立て役の妹として過ごしてきた幼少期だったが、大人になったらその立場が逆転して――。
3話完結

私、女王にならなくてもいいの?
gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。

この国では魔力を譲渡できる
ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」
無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。
五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる