妹が行く先々で偉そうな態度をとるけど、それ大顰蹙ですよ

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
1 / 10

ラーナとシェリル

しおりを挟む
「ちょっと、この私はエインズ公爵家の娘なのですよ! それなのにその程度の物もすぐに用意出来ないって言うの!?」
「す、すみませんお嬢様……、ただ品切れは品切れでして」
「ありえません。あーあ、商品もまともにないお店なんて本当にろくでもありません。もう二度と来ませんわ」
「あの、シェリル?」
「何です?」

 私が声をかけると、妹のシェリルは苛々とした表情で振り返る。
 それを見て私は内心溜め息をついた。

 私、ラーナはエインズ公爵家の長女でこのシェリルの姉でもある。たまたま彼女と一緒に懇意にしている店にやってきたのだが、シェリルが買いたい髪留めがちょうど品切れだったところだ。
 確かに商品を切らしているのは商売人として見通しが甘いのかもしれないが、だからといってシェリルの態度は常軌を逸している。先ほどからずっと平謝りしている店主に向かって、彼女はかれこれ一時間近くも文句を言い続けていた。

「そうやって相手のミスを責めるようなのはちょっと……」
「お姉様は甘すぎです、私たちはエインズ家の一族。庶民などに侮られてはいけません」

 そう、シェリルは昔から周囲が、特に目下の者が何か失敗して被害を受けるとそのことについてやたら文句を言うところがあった。
 正直周りの印象は悪いし、何の得にもならないがやめてくれる気配はない。

「確かに侮られるのはよくないけど、それはただ態度が悪いだけでは?」
「それを言えば、私たち相手に商品を切らしている彼の方が態度が悪いだけです」
「でも、そんな風に言っても髪留めがくる訳でもないし……」
「そういう問題ではありません! 全く、よくそんな甘えた気持ちで店なんて開けますわね。最近の商人は甘えているのではないでしょうか?」

 私がなだめようとしたのが逆効果になったのか、シェリルの愚痴はヒートアップしていく。そしてギロリと商人の男を睨みつけた。

「大変申し訳ありません」

 一方の商人の方はひたすら頭を下げることしか出来ない。
 私が何も悪い訳でもないのにどんどんいたたまれない気持ちになっていく。とはいえシェリルがこのモードに入ってしまったら私にはどうすることも出来ない。
 シェリルのこれは昔からのことで、そのたびに居合わせた私はなだめ役になってきた訳だが、頑なな彼女はそれを聞かない。
 こうなってしまったら方法は一つしかなく、

「すみません、今日は失礼します!」

 そう言って私は強引にシェリルの手を引いて店を離れるのだった。


 
 シェリルがこういう態度をとっていると、相手に対する申し訳なさ、そしてその姉である私まで似たような人物だと思われるのではないかという不安が押し寄せてくる。
 もういっそのことシェリルとは一緒にどこかに行くのをやめようかとも思ったが、止める役がいなければシェリルは行く先々でずっとこんな感じなのかと思うと想像するだけでいたたまれなくなる。

「全く、心構えがなっていませんわ……」

 店から離れたというのにシェリルはずっとぶつぶつと文句を言っている。
 血のつながった妹ながらどうしてこんな性格になってしまったのか。私は頭を抱えながら屋敷に戻るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

貴族の爵位って面倒ね。

しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。 両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。 だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって…… 覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして? 理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの? ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で… 嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

破滅した令嬢は時間が戻ったので、破滅しないよう動きます

天宮有
恋愛
 公爵令嬢の私リーゼは、破滅寸前だった。  伯爵令嬢のベネサの思い通り動いてしまい、婚約者のダーロス王子に婚約破棄を言い渡される。  その後――私は目を覚ますと1年前に戻っていて、今までの行動を後悔する。  ダーロス王子は今の時点でベネサのことを愛し、私を切り捨てようと考えていたようだ。  もうベネサの思い通りにはならないと、私は決意する。  破滅しないよう動くために、本来の未来とは違う生活を送ろうとしていた。

私、女王にならなくてもいいの?

gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

window
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

処理中です...