上 下
12 / 13

アドルフVSアーロン

しおりを挟む
 アドルフが出かけていった後、私は屋敷でじりじりしながら続報を待っていました。アドルフは頼りになる方ですし素人目に見ても武術の腕はある方ですが、相手のアーロンと言う方はおそらく犯罪に長けている人物でしょう。正面からの正々堂々の戦いであればともかく、何でもありの戦いでアドルフが勝てるのでしょうか。

 先ほどは「おいしいお料理でも作って待っています」などと言いましたが、不安で全然実が入りません。

「でもアドルフ様は今頃頑張っているはず。それなら私も頑張らないと」

 私は頬を叩いて気合を入れると、料理作りを再開したのでした。

 そしてそれから何時間か経った後のことです。
 ばたばたという足音とともにアドルフ様が帰ってくる気配がしました。
 私はその音を聞いてすぐに庭へ向かいます。

「アドルフ様!」

 そこには軽傷こそ負っているものの、無事なアドルフの姿がありました。
 その姿を見てまずはほっと胸をなでおろします。

「アドルフ様! よくぞご無事で戻られました!」
「ただいまクララ、心配かけてすまなかった」
「いえいえ、夕食の用意は済んでいます」
「ありがとう」

 私は料理を軽く温め直して運んでいきます。
 普段はメイドや料理人に作ってもらうことが多いですが、今日は特別でした。前菜のサラダ、念入りに煮込んだスープ、そしていい肉を使わせてもらったステーキを次々と食卓に並べます。
 それを見てアドルフはほっとした表情になりました。

「ありがとう。君の料理を見たおかげで帰ってきた気分になれたよ」
「私にはこれくらいしかアドルフ様を応援することは出来ませんので。ちなみにどんなことがあったか訊いてもいいですが?」
「ああ」

 アドルフが話してくれた内容をまとめると以下のようになります。



 家臣を連れて広場に向かったアドルフは、広場の四方に家臣と居場所を決めると、まず金貨が詰まった箱を持ったハワード家の家臣が広間に向かっていくのを見かけました。広場には明らかに一般人ではなさそうな、武術の心得がありそうなものが平民の服を着て歩いていますが、ハワード家と連絡を取り合う暇もなかったのでアドルフにも誰が味方で誰が敵なのかも分かりません。

 とはいえ、レイチェルが解放されるまでは成り行きを見守る他ありません。
 すると家臣が広場へ入ろうとしたところで、彼の周囲に突然目つきの悪い男たちが現れて家臣を包囲します。

「その箱を渡してもらおうか」
「その前にお嬢様を解放しろ!」

 金貨を持ってきた家臣の方も役目があるため必死に言い返します。

「いいだろう」

 そう言って男の一人が指をぱちんと鳴らします。
 広場の中央にある銅像の足元に実は置かれていた荷物のようなものがあったのですが、男が指を鳴らすと布が取り払われ、その下からはミノムシのように体をぐるぐる巻きされ口を塞がれたレイチェルが転がっていました。

 それを見て広場にいた人々は騒然となります。

「お嬢様!」

 家臣が驚いた隙に男たちは箱をひったくり、走っていきます。
 あらかじめ広場に配置されていたと思われるハワード家の家臣たちはレイチェルの救出と金貨の奪還の二手に分かれます。
 そしてアドルフも金貨の奪還に向かおうとした時でした。

「死ね!」

 突然凄い勢いで後ろから斬りつけられます。
 アドルフは間一髪でかわしますが、後ろには目を血走らせたアーロンが立っていました。

「アドルフ……ついに決着をつけに来てやったぞ」
「五年前に父上の情けで追放で済んだのに懲りずにこんなことをするなど許せないな」
「ふん、お前たちも俺が改心なんてする訳ないと分かっていただろう?」

 そう言ってアーロンは不敵に笑うのでした。

「お前たちは箱の方を追え!」

 そこでこれがアーロンの時間稼ぎの策だと見抜いたアドルフは冷静に家臣に命令を出します。家臣たちはアドルフを不安げに見つつも金貨の方を追うのでした。

「ふん、俺の相手なんか一人で十分ということか?」
「そういうことだ」

 立て続けに広場で騒ぎが起こったのを見て一般の人々はさあっと逃げていき、遠巻きに状況を見守ります。

「おもしろい。時間がないから早めに決着をつけてやる!」
「望むところだ!」

 こうしてアーロンは剣を抜いて斬りかかります。しかしアドルフはそれをあっさりとかわしました。

「何だと……」

 呆然とするアーロンにアドルフは告げます。

「お前が五年間、ならず者を集めてお山の大将をしている間に僕はずっと真面目に剣の修行を積んでいたんだ」
「何だと……!?」
「だからお前なんかに負けるはずがない!」

 そう言ってアドルフが剣を振るうと、アーロンはどうにか剣で受けますが、カキン、という甲高い音と主にアーロンの剣は折れて飛んでいきます。

「これで終わりだ!」

 そしてアドルフが剣を振るうと、今度こそアドルフの剣はアーロンを倒したのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離婚された夫人は、学生時代を思いだして、結婚をやり直します。

甘い秋空
恋愛
夫婦として何事もなく過ごした15年間だったのに、離婚され、一人娘とも離され、急遽、屋敷を追い出された夫人。 さらに、異世界からの聖女召喚が成功したため、聖女の職も失いました。 これまで誤って召喚されてしまった女性たちを、保護している王弟陛下の隠し部屋で、暮らすことになりましたが……

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

婚約者が知らない女性とキスしてた~従順な婚約者はもう辞めます!~

ともどーも
恋愛
 愛する人は、私ではない女性を抱きしめ、淫らな口づけをしていた……。  私はエスメローラ・マルマーダ(18)  マルマーダ伯爵家の娘だ。  オルトハット王国の貴族学院に通っている。  愛する婚約者・ブラント・エヴァンス公爵令息とは七歳の時に出会い、私は一目で恋に落ちた。  大好きだった……。  ブラントは成績優秀、文武両道、眉目秀麗とみんなの人気者で、たくさんの女の子と噂が絶えなかった。 『あなたを一番に愛しています』  その誓いを信じていたのに……。  もう……信じられない。  だから、もう辞めます!! 全34話です。 執筆は完了しているので、手直しが済み次第順次投稿していきます。 設定はゆるいです💦 楽しんで頂ければ幸いです!

【完結】真実の愛に生きるのならお好きにどうぞ、その代わり城からは出て行ってもらいます

まほりろ
恋愛
私の名はイルク公爵家の長女アロンザ。 卒業パーティーで王太子のハインツ様に婚約破棄されましたわ。王太子の腕の中には愛くるしい容姿に華奢な体格の男爵令嬢のミア様の姿が。 国王と王妃にハインツ様が卒業パーティーでやらかしたことをなかったことにされ、無理やりハインツ様の正妃にさせられましたわ。 ミア様はハインツ様の側妃となり、二人の間には息子が生まれデールと名付けられました。 私はデールと養子縁組させられ、彼の後ろ盾になることを強要された。 結婚して十八年、ハインツ様とミア様とデールの尻拭いをさせられてきた。 十六歳になったデールが学園の進級パーティーで侯爵令嬢との婚約破棄を宣言し、男爵令嬢のペピンと婚約すると言い出した。 私の脳裏に十八年前の悪夢がよみがえる。 デールを呼び出し説教をすると「俺はペピンとの真実の愛に生きる!」と怒鳴られました。 この瞬間私の中で何かが切れましたわ。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 他サイトにも投稿してます。 ざまぁ回には「ざまぁ」と明記してあります。 2022年1月4日HOTランキング35位、ありがとうございました!

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

処理中です...