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アドルフVSアーロン
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アドルフが出かけていった後、私は屋敷でじりじりしながら続報を待っていました。アドルフは頼りになる方ですし素人目に見ても武術の腕はある方ですが、相手のアーロンと言う方はおそらく犯罪に長けている人物でしょう。正面からの正々堂々の戦いであればともかく、何でもありの戦いでアドルフが勝てるのでしょうか。
先ほどは「おいしいお料理でも作って待っています」などと言いましたが、不安で全然実が入りません。
「でもアドルフ様は今頃頑張っているはず。それなら私も頑張らないと」
私は頬を叩いて気合を入れると、料理作りを再開したのでした。
そしてそれから何時間か経った後のことです。
ばたばたという足音とともにアドルフ様が帰ってくる気配がしました。
私はその音を聞いてすぐに庭へ向かいます。
「アドルフ様!」
そこには軽傷こそ負っているものの、無事なアドルフの姿がありました。
その姿を見てまずはほっと胸をなでおろします。
「アドルフ様! よくぞご無事で戻られました!」
「ただいまクララ、心配かけてすまなかった」
「いえいえ、夕食の用意は済んでいます」
「ありがとう」
私は料理を軽く温め直して運んでいきます。
普段はメイドや料理人に作ってもらうことが多いですが、今日は特別でした。前菜のサラダ、念入りに煮込んだスープ、そしていい肉を使わせてもらったステーキを次々と食卓に並べます。
それを見てアドルフはほっとした表情になりました。
「ありがとう。君の料理を見たおかげで帰ってきた気分になれたよ」
「私にはこれくらいしかアドルフ様を応援することは出来ませんので。ちなみにどんなことがあったか訊いてもいいですが?」
「ああ」
アドルフが話してくれた内容をまとめると以下のようになります。
家臣を連れて広場に向かったアドルフは、広場の四方に家臣と居場所を決めると、まず金貨が詰まった箱を持ったハワード家の家臣が広間に向かっていくのを見かけました。広場には明らかに一般人ではなさそうな、武術の心得がありそうなものが平民の服を着て歩いていますが、ハワード家と連絡を取り合う暇もなかったのでアドルフにも誰が味方で誰が敵なのかも分かりません。
とはいえ、レイチェルが解放されるまでは成り行きを見守る他ありません。
すると家臣が広場へ入ろうとしたところで、彼の周囲に突然目つきの悪い男たちが現れて家臣を包囲します。
「その箱を渡してもらおうか」
「その前にお嬢様を解放しろ!」
金貨を持ってきた家臣の方も役目があるため必死に言い返します。
「いいだろう」
そう言って男の一人が指をぱちんと鳴らします。
広場の中央にある銅像の足元に実は置かれていた荷物のようなものがあったのですが、男が指を鳴らすと布が取り払われ、その下からはミノムシのように体をぐるぐる巻きされ口を塞がれたレイチェルが転がっていました。
それを見て広場にいた人々は騒然となります。
「お嬢様!」
家臣が驚いた隙に男たちは箱をひったくり、走っていきます。
あらかじめ広場に配置されていたと思われるハワード家の家臣たちはレイチェルの救出と金貨の奪還の二手に分かれます。
そしてアドルフも金貨の奪還に向かおうとした時でした。
「死ね!」
突然凄い勢いで後ろから斬りつけられます。
アドルフは間一髪でかわしますが、後ろには目を血走らせたアーロンが立っていました。
「アドルフ……ついに決着をつけに来てやったぞ」
「五年前に父上の情けで追放で済んだのに懲りずにこんなことをするなど許せないな」
「ふん、お前たちも俺が改心なんてする訳ないと分かっていただろう?」
そう言ってアーロンは不敵に笑うのでした。
「お前たちは箱の方を追え!」
そこでこれがアーロンの時間稼ぎの策だと見抜いたアドルフは冷静に家臣に命令を出します。家臣たちはアドルフを不安げに見つつも金貨の方を追うのでした。
「ふん、俺の相手なんか一人で十分ということか?」
「そういうことだ」
立て続けに広場で騒ぎが起こったのを見て一般の人々はさあっと逃げていき、遠巻きに状況を見守ります。
「おもしろい。時間がないから早めに決着をつけてやる!」
「望むところだ!」
こうしてアーロンは剣を抜いて斬りかかります。しかしアドルフはそれをあっさりとかわしました。
「何だと……」
呆然とするアーロンにアドルフは告げます。
「お前が五年間、ならず者を集めてお山の大将をしている間に僕はずっと真面目に剣の修行を積んでいたんだ」
「何だと……!?」
「だからお前なんかに負けるはずがない!」
そう言ってアドルフが剣を振るうと、アーロンはどうにか剣で受けますが、カキン、という甲高い音と主にアーロンの剣は折れて飛んでいきます。
「これで終わりだ!」
そしてアドルフが剣を振るうと、今度こそアドルフの剣はアーロンを倒したのでした。
先ほどは「おいしいお料理でも作って待っています」などと言いましたが、不安で全然実が入りません。
「でもアドルフ様は今頃頑張っているはず。それなら私も頑張らないと」
私は頬を叩いて気合を入れると、料理作りを再開したのでした。
そしてそれから何時間か経った後のことです。
ばたばたという足音とともにアドルフ様が帰ってくる気配がしました。
私はその音を聞いてすぐに庭へ向かいます。
「アドルフ様!」
そこには軽傷こそ負っているものの、無事なアドルフの姿がありました。
その姿を見てまずはほっと胸をなでおろします。
「アドルフ様! よくぞご無事で戻られました!」
「ただいまクララ、心配かけてすまなかった」
「いえいえ、夕食の用意は済んでいます」
「ありがとう」
私は料理を軽く温め直して運んでいきます。
普段はメイドや料理人に作ってもらうことが多いですが、今日は特別でした。前菜のサラダ、念入りに煮込んだスープ、そしていい肉を使わせてもらったステーキを次々と食卓に並べます。
それを見てアドルフはほっとした表情になりました。
「ありがとう。君の料理を見たおかげで帰ってきた気分になれたよ」
「私にはこれくらいしかアドルフ様を応援することは出来ませんので。ちなみにどんなことがあったか訊いてもいいですが?」
「ああ」
アドルフが話してくれた内容をまとめると以下のようになります。
家臣を連れて広場に向かったアドルフは、広場の四方に家臣と居場所を決めると、まず金貨が詰まった箱を持ったハワード家の家臣が広間に向かっていくのを見かけました。広場には明らかに一般人ではなさそうな、武術の心得がありそうなものが平民の服を着て歩いていますが、ハワード家と連絡を取り合う暇もなかったのでアドルフにも誰が味方で誰が敵なのかも分かりません。
とはいえ、レイチェルが解放されるまでは成り行きを見守る他ありません。
すると家臣が広場へ入ろうとしたところで、彼の周囲に突然目つきの悪い男たちが現れて家臣を包囲します。
「その箱を渡してもらおうか」
「その前にお嬢様を解放しろ!」
金貨を持ってきた家臣の方も役目があるため必死に言い返します。
「いいだろう」
そう言って男の一人が指をぱちんと鳴らします。
広場の中央にある銅像の足元に実は置かれていた荷物のようなものがあったのですが、男が指を鳴らすと布が取り払われ、その下からはミノムシのように体をぐるぐる巻きされ口を塞がれたレイチェルが転がっていました。
それを見て広場にいた人々は騒然となります。
「お嬢様!」
家臣が驚いた隙に男たちは箱をひったくり、走っていきます。
あらかじめ広場に配置されていたと思われるハワード家の家臣たちはレイチェルの救出と金貨の奪還の二手に分かれます。
そしてアドルフも金貨の奪還に向かおうとした時でした。
「死ね!」
突然凄い勢いで後ろから斬りつけられます。
アドルフは間一髪でかわしますが、後ろには目を血走らせたアーロンが立っていました。
「アドルフ……ついに決着をつけに来てやったぞ」
「五年前に父上の情けで追放で済んだのに懲りずにこんなことをするなど許せないな」
「ふん、お前たちも俺が改心なんてする訳ないと分かっていただろう?」
そう言ってアーロンは不敵に笑うのでした。
「お前たちは箱の方を追え!」
そこでこれがアーロンの時間稼ぎの策だと見抜いたアドルフは冷静に家臣に命令を出します。家臣たちはアドルフを不安げに見つつも金貨の方を追うのでした。
「ふん、俺の相手なんか一人で十分ということか?」
「そういうことだ」
立て続けに広場で騒ぎが起こったのを見て一般の人々はさあっと逃げていき、遠巻きに状況を見守ります。
「おもしろい。時間がないから早めに決着をつけてやる!」
「望むところだ!」
こうしてアーロンは剣を抜いて斬りかかります。しかしアドルフはそれをあっさりとかわしました。
「何だと……」
呆然とするアーロンにアドルフは告げます。
「お前が五年間、ならず者を集めてお山の大将をしている間に僕はずっと真面目に剣の修行を積んでいたんだ」
「何だと……!?」
「だからお前なんかに負けるはずがない!」
そう言ってアドルフが剣を振るうと、アーロンはどうにか剣で受けますが、カキン、という甲高い音と主にアーロンの剣は折れて飛んでいきます。
「これで終わりだ!」
そしてアドルフが剣を振るうと、今度こそアドルフの剣はアーロンを倒したのでした。
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