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身代金

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「大変です、クララ様! レイチェル様が行方不明になり、しかも家には何者かから身代金要求の手紙が届きました!」
「何ですって!?」

 アドルフが帰ってきて安堵したのも束の間、実家から使者がやってきてそんな報告が届いて私は血の気が引きます。このタイミングでそんなことが起こるなどレイチェルがアーロンの元に赴き、そこで何かがあったとしか思えません。
 それを隣にいたアドルフの表情も一気に変わります。

「まさかもうそんなことになっていたとは」
「どうすればいいでしょう?」
「身代金の要求はどのようなものなんだ?」
「それが……」

 実家に仕えていた男は蒼い顔で状況を説明します。
 それによると、金額はちょうど公爵級の貴族であれば屋敷の中に持っていそうな金額でした。そして受け渡しは今日の夕方。

 おそらくアーロンはレイチェルから、私がアーロンの存在を知っていると聞き、出来るだけ早めに大金だけ手に入れて王都を離れるつもりなのでしょう。貴族がどのくらいの金額であればすぐに用意出来るのかを知っているのはさすがというところでしょうか。
 ぎりぎり用意できる金額を今日の夕方までに払わないとならないとなれば実家でも十分の手を打つことは出来ないかもしれません。

 しかも貴族というのは評判が重要なため、謎の誘拐犯に対して右往左往しているところを知られると今後の家の権威に関わります。
 そのため、場合によっては他家には知らせず内々に身代金を払って内密に解決しようとするかもしれません。そうなればアーロンは大掛かりな指名手配がかかることもなく逃げおおせることが出来るかもしれません。

「それで身代金の受け渡し方法は?」
「王都の広場の中央にある初代国王の銅像の足元に金貨が詰まった箱を置けばその時レイチェルを解放する、もし兵士や護衛を連れてこればレイチェルは無事では済まない、と」
「なるほど」

 王都の広場と言えば一番人通りが多いところと言っても過言ではありません。しかも夕方であればかなりの人でしょう。そうなれば誰がアーロンの手下か判別するのは不可能ということでしょう。
 逆に言えばこちらが通行人に紛れて人を派遣してもばれないかもしれないということですし、アーロンも金が欲しい以上数人の護衛であれば作戦を強行するかもしれません。
 どれだけの人を送り込んでもばれないか、という駆け引きにも思えてきます。

「どうすればいいでしょうか?」
「時間があればハワード家ときちんと連携出来るが、今からだとそれも難しいだろう。よし、僕が少数の手下とともに広場に向かう。そしてそこでアーロンを倒す」

 アドルフは決然とした表情で宣言します。

「でもアーロン本人がわざわざそこに来るでしょうか?」
「絶対に来ると断言するのは難しいが、アーロンの手下が奪った身代金をアーロンが受け取らなければならない以上近くには来るだろう。手下は大金を手に入れたらアーロンに渡さないかもしれないし、仮に信頼出来る手下がいたとしても事件の成り行きによってはそいつに追手がかかってアーロンと合流出来なくなるリスクもある」

 確かに、わざわざここまでの作戦をする以上アーロンとしても絶対にお金は手に入れたいところでしょう。
 それに、仮にアーロンの部下がお金を持って逃げても手配がかかるのはアーロンなので、割に合いません。

「なるほど。しかしどうやってアーロンを倒すのでしょうか?」
「簡単なことだ。僕が少人数でその場に向かい、アーロンか手下が身代金を奪ったところで僕がそれを奪い返す。そしてあえて裏路地のようなところへ入ればアーロンは必ず追ってくるだろう」
「なるほど。しかし身代金だけ取り返してもらえればうちとしては……」
「だが、五年前のことで奴に温情をかけてこのような事件になってしまった以上、今回で必ず決着をつけなければならない」

 アドルフは断固とした口調で言いました。
 そう言われると私には止めることは出来ません。

「必ず無事に帰ってきてくださいね」
「ああ。あんな偽者なんかに負けてたまるか」
「では私はうちでおいしいお料理でも作って待っています」
「では行ってくる」

 そう言ってアドルフは数人の家臣を選び、屋敷を出ていったのでした。
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