妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
10 / 13

アドルフの帰宅

しおりを挟む
 レイチェルが帰った後、私は何となくぞわぞわしながら家で過ごしていました。
 アドルフにはアーロンという瓜二つの双子がいて、その人物がレイチェルに対して何かよからぬことを企んでいると分かり、何とはなしに嫌な気持ちになってしまうのです。

 アドルフの身に何か起きないで欲しい、レイチェルに降りかかる災難が実家に波及しないで欲しい、と祈ることしか出来ません。

「今日はどこか浮かない様子ですが、いかがされましたか?」

 その翌日、いつも通り過ごしていたつもりだったのに事情を知らないメイドにまで心配されてしまいます。
 それを聞いて私は無理に笑顔を浮かべました。

「いえ、そんなことはありませんよ。ただアドルフさんが出ていって長いので少し寂しくなってしまっただけです」
「本当に仲がいいのですね。憧れてしまいますわ」

 メイドがそう言ってくれて少し嬉しくなります。

 そこへばたばたと音がして使用人の一人がこちらに走ってきました。

「若奥様、アドルフ様がお帰りです!」
「本当に!?」

 それを聞いて私はほっと胸を撫で下ろしました。
 荒唐無稽な想像とは思いつつもアーロンがアドルフに何かするのではないかという不安が胸をぬぐえなかったのです。

「はい、もうすぐ帰ってこられると思います」
「良かったです。それなら早速出迎えなければ」

 私は少しだけ身だしなみを整えると、玄関へと急ぎます。すると庭の方に馬車が入ってくる音がしたかと思うと、義父とアドルフが降りてくるのが見えます。

「アドルフ様!」

 私は家で待っていることも出来ずに彼に駆け寄りました。
 そんな私を見てアドルフは少し驚きつつも腕を広げて私を抱きしめてくれます。

「ただいま」
「お帰りなさい。また会えて良かったです」

 しばらくの間私はアドルフと久しぶりのハグをして、彼が無事だったという感触を確かめます。
 少しして、アドルフは少し驚いたように言います。

「僕はそんなに心配されていたのか? もう少し心配されないような人物にならなくてはな」
「いえ、そういう意味ではありません。家臣の方から連絡がいったかもしれませんがアドルフ様の偽者が現れたと聞いて、もしもアドルフ様に何かったらと」
「ああ、アーロンのことか」

 私の言葉を聞いて急にアドルフは真顔になりました。

「済まないな、隠していたというよりは本当にこの家ではなかったことになっていたんだ。だからクララが嫁いだ時も当然のように伝えなかった」
「五年も前のことですから当然のことです。しかしアーロンは一体何を企んでいるのでしょうね?」
「それは分からない。我が家に居た時は物を奪うとか女を襲うとかそういう短絡的な悪事ばかりを繰り返していたが、今はどうだろうな。とはいえ妹には注意をしたんだろう? それならば大丈夫じゃないか?」

 アドルフは私を安心させるためか、そう言ってくれます。
 とはいえそればかりは彼の言うことに同意出来ませんでした。

「いえ、アドルフさんはレイチェルの頑固さを知らないのです。彼女は昨日話した時も最期まで私の言うことを聞きたくない様子でしたし、一体どうなるか」
「そうか。しかし家を追放したときはもう終わりと思ったが、そんなことになっている以上放っておくことも出来ないようだな」
「そうだな。やはり親子の情に囚われ勘当で片をつけたつもりになったわしの間違いだったかもしれぬ」

 それまで私たちのやりとりには口を挟まなかった義父がぽつりと言います。
 確かにアーロンのやったことは一般人なら重罪になるところですが、基本的に貴族は罪が甘くなる傾向があるので、仕方ありません。大きな声では言えませんが、他家でもそういうことを裏でやっている者がいるという噂は聞いたことがあります。幸いこの家ではアーロン以外はそのような者はいないようですが。

 そんな義父の言葉を聞いてアドルフは決意したように言います。

「父上、僕にやらせてください」
「アドルフ……お前に出来るか?」
「はい、クララを不安にさせたことを許す訳にはいきませんので」

 そう言ってアドルフは静かに拳を握りしめました。

「ありがとうございます」
「ああ。もう少し待ってくれたら必ず奴を捕まえて、そなたを安心させよう。……よし、帰って来たばかりではあるが早速アーロンの情報を集めるぞ!」
「はいっ」

 こうしてアドルフは家臣たちに命令を出すのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

【完結・全10話】偽物の愛だったようですね。そうですか、婚約者様?婚約破棄ですね、勝手になさい。

BBやっこ
恋愛
アンネ、君と別れたい。そういっぱしに別れ話を持ち出した私の婚約者、7歳。 ひとつ年上の私が我慢することも多かった。それも、両親同士が仲良かったためで。 けして、この子が好きとかでは断じて無い。だって、この子バカな男になる気がする。その片鱗がもう出ている。なんでコレが婚約者なのか両親に問いただしたいことが何回あったか。 まあ、両親の友達の子だからで続いた関係が、やっと終わるらしい。

元婚約者に未練タラタラな旦那様、もういらないんだけど?

しゃーりん
恋愛
結婚して3年、今日も旦那様が離婚してほしいと言い、ロザリアは断る。 いつもそれで終わるのに、今日の旦那様は違いました。 どうやら元婚約者と再会したらしく、彼女と再婚したいらしいそうです。 そうなの?でもそれを義両親が認めてくれると思います? 旦那様が出て行ってくれるのであれば離婚しますよ?というお話です。

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?

Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とクラレット・メイズ伯爵令嬢は困惑していた。 最近何故か良く目にする平民の生徒──エボニーがいる。 とても可愛らしい女子生徒であるが視界の隅をウロウロしていたりジッと見られたりするため嫌でも目に入る。立場的に視線を集めることも多いため、わざわざ声をかけることでも無いと放置していた。 クラレットから自分に任せて欲しいと言われたことも理由のひとつだ。 しかし一度だけ声をかけたことを皮切りに身に覚えの無い噂が学園内を駆け巡る。 次期フロスティ公爵夫人として日頃から所作にも気を付けているキャナリィはそのような噂を信じられてしまうなんてと反省するが、それはキャナリィが婚約者であるフロスティ公爵令息のジェードと仲の良いエボニーに嫉妬しての所業だと言われ── 「私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 そう問うたキャナリィは 「それはこちらの台詞だ。どうしてエボニーを執拗に苛めるのだ」 逆にジェードに問い返されたのだった。 ★★★★★★ 覗いて下さりありがとうございます。 女性向けHOTランキングで最高20位までいくことができました。(本編) 沢山の方に読んでいただけて嬉しかったので、続き?を書きました(*^^*) ★花言葉は「恋の勝利」  本編より過去→未来  ジェードとクラレットのお話 ★ジェード様の憂鬱【読み切り】  ジェードの暗躍?(エボニーのお相手)のお話

【完結】婚約破棄された私が惨めだと笑われている?馬鹿にされているのは本当に私ですか?

なか
恋愛
「俺は愛する人を見つけた、だからお前とは婚約破棄する!」 ソフィア・クラリスの婚約者である デイモンドが大勢の貴族達の前で宣言すると 周囲の雰囲気は大笑いに包まれた 彼を賞賛する声と共に 「みろ、お前の惨めな姿を馬鹿にされているぞ!!」 周囲の反応に喜んだデイモンドだったが 対するソフィアは彼に1つだけ忠告をした 「あなたはもう少し考えて人の話を聞くべきだと思います」 彼女の言葉の意味を 彼はその時は分からないままであった お気に入りして頂けると嬉しいです 何より読んでくださる事に感謝を!

見た目を変えろと命令したのに婚約破棄ですか。それなら元に戻るだけです

天宮有
恋愛
私テリナは、婚約者のアシェルから見た目を変えろと命令されて魔法薬を飲まされる。 魔法学園に入学する前の出来事で、他の男が私と関わることを阻止したかったようだ。 薬の効力によって、私は魔法の実力はあるけど醜い令嬢と呼ばれるようになってしまう。 それでも構わないと考えていたのに、アシェルは醜いから婚約破棄すると言い出した。

処理中です...