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頑ななレイチェル
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「どうでしたか、お姉様」
私が応接室に戻ってくると、レイチェルは我が家のメイドが出した紅茶とお茶菓子に手を付けてまるで自分の家のようにくつろいでいました。
別にくつろいでいるのは構いませんが、どうしてそこまで強気でいられるのかは私にはよく分かりません。
私はそんなレイチェルの向かい側に座ると真剣な表情で告げます。
「今から真面目な話をするから真面目に聞いて欲しいのですが、どうもこの家にはアドルフさんの双子の兄にアーロンというアドルフさんにそっくり人物がいるようです。そしてアーロンは悪行の限りを尽くし、五年前に追放されたようです。だからおそらく今レイチェルに近づいているのはアーロンの方でしょう」
「嘘……」
私が真実を告げると、レイチェルは一瞬呆然とします。
「アーロンはその昔、アドルフさんの振りをして街に出て女性を次々に襲ったらしいです。レイチェルもそのような方と一緒に居れば酷い目に遭わされるかもしれません。早く別れた方がいいですよ」
「そ、そんなはずない!」
バン、と音がしてレイチェルがテーブルを叩きます。
上に乗っていたお皿やティーカップががしゃりと音を立てました。
「な、何を言っているの?」
ここまで話しているのに否定されてさすがに私は驚きました。
「アドルフ様はあんなに私に優しくしてくれました! あの方がそんな極悪な別人のはずがありません!」
「いえ、そう言われましても……。仮にアーロンではなかったとしてもその方は別人がアドルフさんの振りをしているだけなので、もう離れた方が……」
「違う!」
レイチェルは大声で私の話を遮ります。
どうしても彼女は自分の相手がアドルフではないという事実が受け入れられないようです。
ここまで鬼気迫った表情のレイチェルは初めてかもしれません。
「そ、そうよ、きっと私が付き合っている方のアドルフさんが本物に決まっていますわ! 多分お姉様がアドルフ様と思う方こそ偽者に決まっています!」
「レイチェル……そんな訳ないでしょう? 何を言っているのですか?」
あまりに支離滅裂な言い分に私は驚愕します。もはやそこには全く道理も理屈もありません。
ですがレイチェルは虚ろな目で叫びます。
「そうよ、だって私とアドルフ様が結ばれるのは運命で決まっていることですわ! 恐らくアドルフ様は政略結婚で実家に決められ、それに対する反発からアーロンという人物と入れ替わった、そして私とデートする自由を手に入れたのです!」
まるでレイチェルは自分が悲恋の恋物語のヒロインになったかのようなことを言います。
確かにアドルフが運命の相手と結ばれるために身分を捨てて入れ替わった、というのは物語ならドラマチックかもしれません。
しかし運命の相手がこんな現実が見えていないレイチェルで、入れ替わった相手があのアーロンでは悲恋というよりはただの頭のおかしい物語になってしまいます。
「レイチェル、何馬鹿なことを言っているのですか? とにかくその男と会うのはすぐにやめてください」
「私が本物のアドルフ様と結ばれているから嫉妬しているんですのね? お姉様こそいつかアーロンとやらが本性を出すか分かったものではありませんし、気を付けることですね!」
そう叫んでレイチェルは立ち上がります。
「レイチェル……とにかくその男と関わるのはやめてください!」
私は彼女にそう叫びましたが、レイチェルは私の言葉になど聞く耳持たずにそのまま屋敷を出ていってしまったのです。
こうなってしまった以上後はどうにもなりません。
アーロンの企みが出来るだけ穏やかなものであることを祈るしかないのでした。
私が応接室に戻ってくると、レイチェルは我が家のメイドが出した紅茶とお茶菓子に手を付けてまるで自分の家のようにくつろいでいました。
別にくつろいでいるのは構いませんが、どうしてそこまで強気でいられるのかは私にはよく分かりません。
私はそんなレイチェルの向かい側に座ると真剣な表情で告げます。
「今から真面目な話をするから真面目に聞いて欲しいのですが、どうもこの家にはアドルフさんの双子の兄にアーロンというアドルフさんにそっくり人物がいるようです。そしてアーロンは悪行の限りを尽くし、五年前に追放されたようです。だからおそらく今レイチェルに近づいているのはアーロンの方でしょう」
「嘘……」
私が真実を告げると、レイチェルは一瞬呆然とします。
「アーロンはその昔、アドルフさんの振りをして街に出て女性を次々に襲ったらしいです。レイチェルもそのような方と一緒に居れば酷い目に遭わされるかもしれません。早く別れた方がいいですよ」
「そ、そんなはずない!」
バン、と音がしてレイチェルがテーブルを叩きます。
上に乗っていたお皿やティーカップががしゃりと音を立てました。
「な、何を言っているの?」
ここまで話しているのに否定されてさすがに私は驚きました。
「アドルフ様はあんなに私に優しくしてくれました! あの方がそんな極悪な別人のはずがありません!」
「いえ、そう言われましても……。仮にアーロンではなかったとしてもその方は別人がアドルフさんの振りをしているだけなので、もう離れた方が……」
「違う!」
レイチェルは大声で私の話を遮ります。
どうしても彼女は自分の相手がアドルフではないという事実が受け入れられないようです。
ここまで鬼気迫った表情のレイチェルは初めてかもしれません。
「そ、そうよ、きっと私が付き合っている方のアドルフさんが本物に決まっていますわ! 多分お姉様がアドルフ様と思う方こそ偽者に決まっています!」
「レイチェル……そんな訳ないでしょう? 何を言っているのですか?」
あまりに支離滅裂な言い分に私は驚愕します。もはやそこには全く道理も理屈もありません。
ですがレイチェルは虚ろな目で叫びます。
「そうよ、だって私とアドルフ様が結ばれるのは運命で決まっていることですわ! 恐らくアドルフ様は政略結婚で実家に決められ、それに対する反発からアーロンという人物と入れ替わった、そして私とデートする自由を手に入れたのです!」
まるでレイチェルは自分が悲恋の恋物語のヒロインになったかのようなことを言います。
確かにアドルフが運命の相手と結ばれるために身分を捨てて入れ替わった、というのは物語ならドラマチックかもしれません。
しかし運命の相手がこんな現実が見えていないレイチェルで、入れ替わった相手があのアーロンでは悲恋というよりはただの頭のおかしい物語になってしまいます。
「レイチェル、何馬鹿なことを言っているのですか? とにかくその男と会うのはすぐにやめてください」
「私が本物のアドルフ様と結ばれているから嫉妬しているんですのね? お姉様こそいつかアーロンとやらが本性を出すか分かったものではありませんし、気を付けることですね!」
そう叫んでレイチェルは立ち上がります。
「レイチェル……とにかくその男と関わるのはやめてください!」
私は彼女にそう叫びましたが、レイチェルは私の言葉になど聞く耳持たずにそのまま屋敷を出ていってしまったのです。
こうなってしまった以上後はどうにもなりません。
アーロンの企みが出来るだけ穏やかなものであることを祈るしかないのでした。
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