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レイチェルの話 Ⅲ
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「仕方ないですわ、そんなに強情なら私たちがきちんと愛を誓い合ったときのことをお話ししますわ」
それから私は何回かアドルフとお会いしました。
私たちの関係は秘密のものだったため会う場所は他の貴族の方々の目に触れない場所にならざるをえず、必然的に普段行かないような場所になりましたが、それでも新しい刺激があって楽しかったです。
そして私とアドルフの仲が深まってきて、昨日のデートのことです。アドルフは独自の伝手があるのか、私が知らない商会の屋上に入れてもらい、一緒に街の夜景を眺めていました。
「きれいだね、レイチェル」
夜も遅くなり街の家々に灯りがともってくると夜の川にたくさんの光虫が舞っているような幻想的な光景が浮かびあがってきます。
「はい、アドルフ様は本当に色々なことを知っていらっしゃるのですね」
「その通りだ。僕にとって王都は庭みたいなものさ」
「さすがアドルフ様。でも私たちは運命で結ばれているはずなのにこうしてこっそりとしか会えないことがもどかしいですわ」
私はアドルフを困らせると分かっていてもついそんな愚痴を言ってしまいます。
これまでここまで直接的ではないにせよこういうことを言うとアドルフは決まって困り顔になりました。
が、昨日は違いました。
私の言葉に意を決したような表情で口を開きます。
「……分かった。それならどうにかしよう。とはいえ僕らが一緒になるには色々な障害がある。残念ながら僕らが運命の糸で結ばれていると分かっているのは僕たちだけだ。それは分かるね?」
「はい、愚かなお姉様や常識に囚われた父上や母上はどれだけ説明しても私たちが結ばれるべき相手であることは分かってくれないでしょう」
「そうだ。だからそういう凡人にも分かるような理由を作らなければならない。例えば、クララが実は他の男と遊んでいる、とか」
「お姉様にはそんな度胸はないと思いますが」
お姉様はアドルフと結ばれたという身に余る幸せで手一杯で他の男と会うなど無理でしょう。
私の言葉にアドルフは苦笑します。
「もちろんそうだ。今のはあくまで例えだよ。とにかく、分かりやすい理由を見つけるために今僕は色々必死ということだ」
「そうでしたか。そうとは知らずに催促してすみませんでした」
私は少し反省します。が、アドルフはそんな私にも優しく笑いかけてくれました。
「いいんだ、それだけ君が僕のことを思ってくれているということだから。だから約束しよう、次に会う時は必ず君との婚姻届けを持ってくるよ」
「本当ですか!?」
それを聞いて私は一気に心臓が跳ね上がるような気持ちになりました。
これまでの生活も楽しかったですが、いよいよ世間に認められてアドルフと結ばれることが出来る。そう思うと夢のようです。
「ああ、だから少しの間いい子で待っていてくれ」
「はい、分かりました!」
私が答えるとアドルフは私を抱き寄せて熱い口づけをします。
私はしばらくの間アドルフにされるがままになっていたのでした。
「……ということがありましたわ。このままではお姉様が知らないうちに私たちが婚姻届けにサインしてしまうことになりそうでしたが、それではあまりにも可哀想なので事前に教えてあげることにしましたの」
「そうですか」
私は答えつつも内心首をかしげます。
もしレイチェルの記憶の中に出てくるアドルフが本物だとすれば彼は私に何らかの冤罪を着せてレイチェルと結ばれようとしているのだと思います。
そのためもし本物だとすればその計画を私にばらしているレイチェルはバカだということになりますが、それはいったんおいておきましょう。
しかしそのアドルフが偽物だとすると一体何の目的でレイチェルに近づいているのでしょうか。単に貴族のお嬢様とお近づきになろうとしているだけなら私があれこれ言う必要はありませんが、「次に会う時は必ず君との婚姻届けを持ってくる」という言葉が引っ掛かります。彼が偽者である以上そんなものを用意出来るはずがないからです。仮に完璧に偽造したとしてもその後結婚する段階になれば絶対にばれてしまいます。
ということは次会うときに彼はレイチェルに対して何かをすると思っていいでしょう。
そう思うとさすがに気になってきます。
もしアドルフの偽者が何か悪事をして本物のアドルフに風評被害でも立てば大変です。
アドルフの偽者が存在しているのであれば家の方であれば何か知っている可能性があります。
「すみません、ちょっと家の者に確認してきます」
「ええ、好きなだけ確認して早く現実を受け入れるといいですわ」
レイチェルは勝利を確信しているのか、ふんぞり返っています。
そんな彼女を置いて私は事実確認に向かうのでした。
それから私は何回かアドルフとお会いしました。
私たちの関係は秘密のものだったため会う場所は他の貴族の方々の目に触れない場所にならざるをえず、必然的に普段行かないような場所になりましたが、それでも新しい刺激があって楽しかったです。
そして私とアドルフの仲が深まってきて、昨日のデートのことです。アドルフは独自の伝手があるのか、私が知らない商会の屋上に入れてもらい、一緒に街の夜景を眺めていました。
「きれいだね、レイチェル」
夜も遅くなり街の家々に灯りがともってくると夜の川にたくさんの光虫が舞っているような幻想的な光景が浮かびあがってきます。
「はい、アドルフ様は本当に色々なことを知っていらっしゃるのですね」
「その通りだ。僕にとって王都は庭みたいなものさ」
「さすがアドルフ様。でも私たちは運命で結ばれているはずなのにこうしてこっそりとしか会えないことがもどかしいですわ」
私はアドルフを困らせると分かっていてもついそんな愚痴を言ってしまいます。
これまでここまで直接的ではないにせよこういうことを言うとアドルフは決まって困り顔になりました。
が、昨日は違いました。
私の言葉に意を決したような表情で口を開きます。
「……分かった。それならどうにかしよう。とはいえ僕らが一緒になるには色々な障害がある。残念ながら僕らが運命の糸で結ばれていると分かっているのは僕たちだけだ。それは分かるね?」
「はい、愚かなお姉様や常識に囚われた父上や母上はどれだけ説明しても私たちが結ばれるべき相手であることは分かってくれないでしょう」
「そうだ。だからそういう凡人にも分かるような理由を作らなければならない。例えば、クララが実は他の男と遊んでいる、とか」
「お姉様にはそんな度胸はないと思いますが」
お姉様はアドルフと結ばれたという身に余る幸せで手一杯で他の男と会うなど無理でしょう。
私の言葉にアドルフは苦笑します。
「もちろんそうだ。今のはあくまで例えだよ。とにかく、分かりやすい理由を見つけるために今僕は色々必死ということだ」
「そうでしたか。そうとは知らずに催促してすみませんでした」
私は少し反省します。が、アドルフはそんな私にも優しく笑いかけてくれました。
「いいんだ、それだけ君が僕のことを思ってくれているということだから。だから約束しよう、次に会う時は必ず君との婚姻届けを持ってくるよ」
「本当ですか!?」
それを聞いて私は一気に心臓が跳ね上がるような気持ちになりました。
これまでの生活も楽しかったですが、いよいよ世間に認められてアドルフと結ばれることが出来る。そう思うと夢のようです。
「ああ、だから少しの間いい子で待っていてくれ」
「はい、分かりました!」
私が答えるとアドルフは私を抱き寄せて熱い口づけをします。
私はしばらくの間アドルフにされるがままになっていたのでした。
「……ということがありましたわ。このままではお姉様が知らないうちに私たちが婚姻届けにサインしてしまうことになりそうでしたが、それではあまりにも可哀想なので事前に教えてあげることにしましたの」
「そうですか」
私は答えつつも内心首をかしげます。
もしレイチェルの記憶の中に出てくるアドルフが本物だとすれば彼は私に何らかの冤罪を着せてレイチェルと結ばれようとしているのだと思います。
そのためもし本物だとすればその計画を私にばらしているレイチェルはバカだということになりますが、それはいったんおいておきましょう。
しかしそのアドルフが偽物だとすると一体何の目的でレイチェルに近づいているのでしょうか。単に貴族のお嬢様とお近づきになろうとしているだけなら私があれこれ言う必要はありませんが、「次に会う時は必ず君との婚姻届けを持ってくる」という言葉が引っ掛かります。彼が偽者である以上そんなものを用意出来るはずがないからです。仮に完璧に偽造したとしてもその後結婚する段階になれば絶対にばれてしまいます。
ということは次会うときに彼はレイチェルに対して何かをすると思っていいでしょう。
そう思うとさすがに気になってきます。
もしアドルフの偽者が何か悪事をして本物のアドルフに風評被害でも立てば大変です。
アドルフの偽者が存在しているのであれば家の方であれば何か知っている可能性があります。
「すみません、ちょっと家の者に確認してきます」
「ええ、好きなだけ確認して早く現実を受け入れるといいですわ」
レイチェルは勝利を確信しているのか、ふんぞり返っています。
そんな彼女を置いて私は事実確認に向かうのでした。
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