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レイチェルとの再会

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「お久しぶりですわ」

 そう言って応接室に入ってきたレイチェルは半年ぶりに見るとがらりと印象が変わっていました。

「半年ぶりね」

 元々常におしゃれには気を遣って派手な格好を好んでいたが、今はより女らしくなっているような気がします。恋をすると女らしくなると言うが、レイチェルはアドルフと結ばれたとか言っていたのは本当なのでしょうか。
 いや、本当であるはずはないのですが。

 しかしレイチェルは堂々とした表情で歩いて来ると、ソファに腰を下ろします。
 彼女がアドルフと結ばれたはずはありませんが、それではなぜこんなに自信満々なのかは私も気になってしまいます。

 一応メイドが紅茶とお菓子を持ってきてくれますが、この家の方の前で話す訳にもいかずに私たちは無言でメイドが出ていくのを待ちます。

 そして二人きりになると急に彼女は私を憐れむような目で見てきました。

「しかしお姉様も可哀想ですわね。素晴らしい結婚相手を手に入れたと思ったら半年持たずに見捨てられるなんて。もっとも、最初に私の忠告を聞かなかったお姉様も悪いですが」
「その、見捨てられたというのは一体どういうことですか? アドルフさんはそのようなことをする方ではありませんが」
「違いますわ。アドルフ様は浮気をしたのではありません。選ぶべき人物を正しく選択したのを浮気と呼ぶのは正しくありませんもの」

 レイチェルは自信満々に言い放ちます。
 そこまで言い切るということはやはり何かあるのでしょう。アドルフが本当に浮気している可能性がない以上一番高い可能性は何かと考えて私は一つの考えに思いいたります。

「あの手紙を見てからずっと疑問に思っているのですが、もしかしてあなたはアドルフさんが屋敷を離れているのを見て私を陥れるために嘘をついています? そうやって私にアドルフさんを疑わせて別れさせようとか考えてますか?」
「あははっ、お姉様ったら自分が捨てられていないと思いたいからって、そんな風に思うなんておかしいですわ」

 私の考えになぜかレイチェルはおかしそうに笑います。
 とはいえ今の彼女の様子を見る限り嘘をついているようには見えません。レイチェルは別に演技がうまい訳でもないのでやはり彼女は本心からそう思っているのでしょうか。

「というかお姉様こそ現実逃避のために強がって見せているのではありませんの?」
「そんなことはないですわ。アドルフさんは後継者としての実力を磨くために領地に修行に出かけているのです。そもそも王都にすらいないのにどうやってあなたと浮気するの?」
「あははっ、あの人、そんな嘘をついていたんですね! 確かにそう言われたら浮気なんて疑われないし、お見事ですわ!」

 そう言ってレイチェルはおかしそうに笑いました。
 やはり私を騙すためにお芝居をしているにしては心が入りすぎているような気がします。

 私が首をかしげていると、ひとしきり笑い終えた彼女は言いました。

「分かりました、きっとお姉様は現実が受け入れられないのでそう思い込もうとしているのですね。でしたら私がアドルフ様と仲良くなった時のことを教えてあげますわ」
「そうね、そこまで言うなら話してみなさい」

 私は私でレイチェルがどうしてこんなことを言いだしたのか気になります。

 もしかしたらアドルフと結婚したすぎて頭がおかしくなったか、幻覚が見えるようになってしまったのかもしれません。それなら話を聞けば気づくことが出来るかもしれません。

 そう思って私は彼女の話を聞くことにするのでした。
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