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ダンジョン都市アルディナと王女ティア
「王女」
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「すみません……実は訳あって買って欲しい職業があるんです」
「買って欲しい職業?」
控え目だがきれいな声と、ローブの下から覗く顔を見るに、俺と年が近い少女らしい。ということはまだ職業を授かったばかりのはずだ。
俺は改めて彼女の職業を見る。ここまで人目をはばかるということは「詐欺師」のような社会的に白い目で見られるようなものなのだろうか。
が、すぐにそんな予想は覆される。
何と彼女の職業は「王女」だったのだ。
俺は驚きのあまり絶句してしまう。最初俺は自分の力が誤作動を起こしたのかと思った。とはいえ、ローブの隙間から見えるきれいな金髪や白い肌を見ると本当かもしれない、と思えてくる。
そして彼女も俺のそんな表情を見て、俺が見ただけで職業を把握したことを察したらしい。
「もしかして、本当に見ただけで私の職業が分かるのですか?」
「あ、ああ、王女って……本当か?」
俺が思わず口にしてしまうと彼女は慌てて唇に人差し指をあてる。
「しーっ、それは口にしないでください!」
「ああ、悪い」
「農民」「商人」などという職業と違って「王女」というのは俺が知る限り本物の王族にしか与えられない職業である。
彼女が人目をはばかる恰好をして、深刻そうな表情でこんなところに家来の一人もつけずにやってきているということを考えると、何かのっぴきならない事情があるに違いない。
そんな雰囲気を察したのか、リンが小声で言う。
「……場所を変えた方がいいのでは?」
「そうだな」
ギルドにいる冒険者たちも、俺が職業を売買していると知ったからといってすぐに決断する訳にもいかないし、今日はもう立ち去っていいだろう。
俺たちはギルドの裏手にある人気のないところに向かった。
リンは少し離れたところで周囲を見張っていてくれる。
「君は本物の王女なのか?」
「はい」
一応、王族でもない人間が何かの間違いで「王女」になってしまった可能性もあるので確認したが、彼女はこくりと頷く。
だが、彼女はまだ俺への警戒を解いていない様子で、多くは語りたがらないようだ。もし王族がこんなことをしているのだとすれば言えない事情があっても仕方ない。
「とはいえ、俺には『王女』に釣り合うほどのお金はないが」
「お代はいりません! むしろ私の職業を引き取っていただけるのであれば口止め料も支払います」
「そういうことか」
口止め料、という言葉を聞いて俺は何となく察する。
要するに彼女は「王女」という地位にいるゆえの何らかの事情があって、「王女」の職業を捨てようとしているのだろう。例えば攫われそうになっているとか、もしくは命を狙われているとか。
俺はそもそももらえなかったからよく分からないが、職業を手放せば彼女は身分からも自由になれると思ったのかもしれない。
少し前までならたかが職業を捨てたところで、と思ったかもしれないが、結局職業次第で周囲の反応などいくらでも変わるということを俺は思い知った。
彼女が探しに来た家臣に見つかっても「王女」の職業さえ持っていなければやはり空似だったか、となるかもしれない。
確か隣国エートランド王国に、目の前の少女ぐらいの年のティアレッタ殿下という人物がいたような気がする。エートランド王国はここアルディナの街からだと山を挟んで隣国なので近いと言えば近い。
そのティアレッタ殿下が自分の地位を捨てたいと思うほどの悩みを抱えているとは知らなかったのだが、えらい人にも色々あるのだろう。
そんなことを考えていると、彼女は俺の前に袋を差し出す。
受け取ってみるとずっしりと金貨が入っているようだった。俺は何とか声を堪えたが、見たこともない金額に内心驚く。
「本当にいいのか?」
「どうせ、このままでは誰かに奪い取られる金貨です」
彼女は思いつめた声で言う。切迫した事態であるのは確かなようだ。
とはいえ、彼女の言うがままに「王女」の職業をもらえば国際問題になる可能性すらある。
それでもいいのか? そう自分に問いかけたが、そのことで問題が起こるリスクよりも、俺は未知の職業に対する興味の方が大きかった。
それに俺は持っている職業によって力が強化される。もし「王女」という珍しい職業を手に入れれば俺はさらに強くなれるかもしれない。
「分かった。それなら職業をもらうぞ」
「……はい」
彼女は決然とした表情で頷く。
俺はそんな彼女から静かに職業を奪い去った。
その瞬間、
”あなたのレベルが7に上がりました”
「え?」
それを聞いて俺は驚愕する。これまでは合成だの強化だのをしていてもレベルは1上がる程度だったのに、珍しい職業を手に入れればここまでレベルが上がるのか?
俺はどうにか内心の興奮がばれないように真面目な表情を保ち続ける。
一方、目の前にいる彼女は、まるで重い荷物を降ろしたような晴れ晴れとした表情で頭を下げる。
「ありがとうございます、これで自由になれました」
そして俺の前から去っていこうとした。
事情が分からなくてもやもやするが、職業もお金ももらってしまった以上、無理矢理引き留めて事情を話させるのも気が引ける……と思っていると。
「買って欲しい職業?」
控え目だがきれいな声と、ローブの下から覗く顔を見るに、俺と年が近い少女らしい。ということはまだ職業を授かったばかりのはずだ。
俺は改めて彼女の職業を見る。ここまで人目をはばかるということは「詐欺師」のような社会的に白い目で見られるようなものなのだろうか。
が、すぐにそんな予想は覆される。
何と彼女の職業は「王女」だったのだ。
俺は驚きのあまり絶句してしまう。最初俺は自分の力が誤作動を起こしたのかと思った。とはいえ、ローブの隙間から見えるきれいな金髪や白い肌を見ると本当かもしれない、と思えてくる。
そして彼女も俺のそんな表情を見て、俺が見ただけで職業を把握したことを察したらしい。
「もしかして、本当に見ただけで私の職業が分かるのですか?」
「あ、ああ、王女って……本当か?」
俺が思わず口にしてしまうと彼女は慌てて唇に人差し指をあてる。
「しーっ、それは口にしないでください!」
「ああ、悪い」
「農民」「商人」などという職業と違って「王女」というのは俺が知る限り本物の王族にしか与えられない職業である。
彼女が人目をはばかる恰好をして、深刻そうな表情でこんなところに家来の一人もつけずにやってきているということを考えると、何かのっぴきならない事情があるに違いない。
そんな雰囲気を察したのか、リンが小声で言う。
「……場所を変えた方がいいのでは?」
「そうだな」
ギルドにいる冒険者たちも、俺が職業を売買していると知ったからといってすぐに決断する訳にもいかないし、今日はもう立ち去っていいだろう。
俺たちはギルドの裏手にある人気のないところに向かった。
リンは少し離れたところで周囲を見張っていてくれる。
「君は本物の王女なのか?」
「はい」
一応、王族でもない人間が何かの間違いで「王女」になってしまった可能性もあるので確認したが、彼女はこくりと頷く。
だが、彼女はまだ俺への警戒を解いていない様子で、多くは語りたがらないようだ。もし王族がこんなことをしているのだとすれば言えない事情があっても仕方ない。
「とはいえ、俺には『王女』に釣り合うほどのお金はないが」
「お代はいりません! むしろ私の職業を引き取っていただけるのであれば口止め料も支払います」
「そういうことか」
口止め料、という言葉を聞いて俺は何となく察する。
要するに彼女は「王女」という地位にいるゆえの何らかの事情があって、「王女」の職業を捨てようとしているのだろう。例えば攫われそうになっているとか、もしくは命を狙われているとか。
俺はそもそももらえなかったからよく分からないが、職業を手放せば彼女は身分からも自由になれると思ったのかもしれない。
少し前までならたかが職業を捨てたところで、と思ったかもしれないが、結局職業次第で周囲の反応などいくらでも変わるということを俺は思い知った。
彼女が探しに来た家臣に見つかっても「王女」の職業さえ持っていなければやはり空似だったか、となるかもしれない。
確か隣国エートランド王国に、目の前の少女ぐらいの年のティアレッタ殿下という人物がいたような気がする。エートランド王国はここアルディナの街からだと山を挟んで隣国なので近いと言えば近い。
そのティアレッタ殿下が自分の地位を捨てたいと思うほどの悩みを抱えているとは知らなかったのだが、えらい人にも色々あるのだろう。
そんなことを考えていると、彼女は俺の前に袋を差し出す。
受け取ってみるとずっしりと金貨が入っているようだった。俺は何とか声を堪えたが、見たこともない金額に内心驚く。
「本当にいいのか?」
「どうせ、このままでは誰かに奪い取られる金貨です」
彼女は思いつめた声で言う。切迫した事態であるのは確かなようだ。
とはいえ、彼女の言うがままに「王女」の職業をもらえば国際問題になる可能性すらある。
それでもいいのか? そう自分に問いかけたが、そのことで問題が起こるリスクよりも、俺は未知の職業に対する興味の方が大きかった。
それに俺は持っている職業によって力が強化される。もし「王女」という珍しい職業を手に入れれば俺はさらに強くなれるかもしれない。
「分かった。それなら職業をもらうぞ」
「……はい」
彼女は決然とした表情で頷く。
俺はそんな彼女から静かに職業を奪い去った。
その瞬間、
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それを聞いて俺は驚愕する。これまでは合成だの強化だのをしていてもレベルは1上がる程度だったのに、珍しい職業を手に入れればここまでレベルが上がるのか?
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一方、目の前にいる彼女は、まるで重い荷物を降ろしたような晴れ晴れとした表情で頭を下げる。
「ありがとうございます、これで自由になれました」
そして俺の前から去っていこうとした。
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