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エピローグⅡ
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それから一か月後、私たちレイノルズ一家は改めて王宮に呼ばれた。あのとき私が国王陛下にお願いしたレイノルズ家の公爵家昇格がついに認められたのだ。
あれから私の魔法でどれくらいの雨が降ったかとか、今後も継続的に雨を降らせられるかといった検証が行われた。一回雨が降っただけで作物が育つ訳ではなかったが、私の魔法は何か代償がいる訳でもないので数日休憩すれば魔力が回復し、また使えるようになる。そのため、継続的に魔法を使っていけば無事作物は収穫できるようになるだろう。
そのように評価されて、レイノルズ家は公爵の爵位を与えられることとなったのだ。
「いやあ、最初にオールストン公爵からそなたを押し付けられた時はどうなるかと思ったものだが、まさかこんなことになるとは。つくづく感謝している」
レイノルズ侯爵改め公爵が感慨深げに言う。
「私もあの時はもうだめかと思いました。でも皆さんが私を受け入れてくれたので今は幸せです」
「あの時は本当に済まなかった。オールストン公爵の振る舞いを見てレイラもそのような人物だと思ってしまったんだ」
「それは仕方ないわ。私だって父上のやり方は未だに許せないもの」
もっとも、職を辞して屋敷に引きこもってしまった以上、これ以上の報復をすることも出来ないけど。私の弟はまだ幼く、父上に代わって表舞台に出るほどの能力はないのでオールストン家はしばらく表舞台に出てくることはないだろう。
「それに今回の勝利は私だけで勝ち取ったものではないわ。ロルスも義父上の頑張りもあったと思う」
普通ならあそこまで執拗な嫌がらせを受ければ途中で音を上げて頭を下げようと思ってもおかしくはない。もしくは途中で家自体が立ち行かなくなっていたかもしれない。そうならなかったのは二人が必死で家を支えてくれたからというのも大きい。
「まあ、レイラの働きに比べれば大したことはない」
ロルスは照れたように頭をかく。
そこへレーヴェン公爵が姿を現す。
「皆さん、オーガスト家の所業について調査結果が出た」
魔法を使った日以来王宮内での勢力は一変し、オーガスト家がうちにしてきた嫌がらせにもきちんと調査すべきだという声が大きくなった。元々はオーガスト家とオールストン家に歯向かってはならないと沈黙していたが、皆心の内ではあのやり方に怒っていたのだろう。
そして調査を行うことが決定された訳だが、それを買ってでたのがレーヴェン公爵だったという訳だ。
「おお、どうだったんだ」
義父上が身を乗り出して尋ねる。オーガスト家は賊を使って我が家の物資を襲わせるなど露骨な嫌がらせを行ってきたのに、ろくに調査をすることも出来ずに私たちは鬱憤が溜まっていた。
「オーガスト家の者に金をちらつかせて訊ねたところ、あっさりと口を割った。やはり領内の賊と取引して罪を見逃す代わりに貴家を襲わせたらしい。ひどいものだ」
「しかしよく口を割ったな?」
「彼もこれから落ちていくオーガスト家に忠を尽くすよりも我が家に仕えた方がいいと思ったのだろう」
レーヴェン公爵はあっけらかんと言う。薄情なようにも聞こえるが、そもそも盗賊に他家を襲わせるようなことをすれば見限られるのも当然だろう。
「これまでの働きもあるし、王国軍を握っているからどういう処分になるのかは分からないが、少なくともしばらくの間は表に出てくることはないだろう」
「それは良かった」
レーヴェン公爵の言葉にロルスはほっと息を吐く。
義父上は改めてレーヴェン公爵に頭を下げた。
「このたびは助けていただき本当にありがとうございます」
「いやいや、そもそもわしはソフィを助けられている。それに比べればこの程度のこと、造作もないことだ。もっとも、魔法を使う日の前日は一睡もできなかったが」
そう言ってレーヴェン公爵は笑った。
ついでに私も頭を下げる。
「本当にありがとうございました」
「いやいや、それよりも公爵叙任おめでとう。今後も良好な関係を続けていきたい」
「もちろんです」
こうして私たちは玉座の間へ向かうのだった。
あれから私の魔法でどれくらいの雨が降ったかとか、今後も継続的に雨を降らせられるかといった検証が行われた。一回雨が降っただけで作物が育つ訳ではなかったが、私の魔法は何か代償がいる訳でもないので数日休憩すれば魔力が回復し、また使えるようになる。そのため、継続的に魔法を使っていけば無事作物は収穫できるようになるだろう。
そのように評価されて、レイノルズ家は公爵の爵位を与えられることとなったのだ。
「いやあ、最初にオールストン公爵からそなたを押し付けられた時はどうなるかと思ったものだが、まさかこんなことになるとは。つくづく感謝している」
レイノルズ侯爵改め公爵が感慨深げに言う。
「私もあの時はもうだめかと思いました。でも皆さんが私を受け入れてくれたので今は幸せです」
「あの時は本当に済まなかった。オールストン公爵の振る舞いを見てレイラもそのような人物だと思ってしまったんだ」
「それは仕方ないわ。私だって父上のやり方は未だに許せないもの」
もっとも、職を辞して屋敷に引きこもってしまった以上、これ以上の報復をすることも出来ないけど。私の弟はまだ幼く、父上に代わって表舞台に出るほどの能力はないのでオールストン家はしばらく表舞台に出てくることはないだろう。
「それに今回の勝利は私だけで勝ち取ったものではないわ。ロルスも義父上の頑張りもあったと思う」
普通ならあそこまで執拗な嫌がらせを受ければ途中で音を上げて頭を下げようと思ってもおかしくはない。もしくは途中で家自体が立ち行かなくなっていたかもしれない。そうならなかったのは二人が必死で家を支えてくれたからというのも大きい。
「まあ、レイラの働きに比べれば大したことはない」
ロルスは照れたように頭をかく。
そこへレーヴェン公爵が姿を現す。
「皆さん、オーガスト家の所業について調査結果が出た」
魔法を使った日以来王宮内での勢力は一変し、オーガスト家がうちにしてきた嫌がらせにもきちんと調査すべきだという声が大きくなった。元々はオーガスト家とオールストン家に歯向かってはならないと沈黙していたが、皆心の内ではあのやり方に怒っていたのだろう。
そして調査を行うことが決定された訳だが、それを買ってでたのがレーヴェン公爵だったという訳だ。
「おお、どうだったんだ」
義父上が身を乗り出して尋ねる。オーガスト家は賊を使って我が家の物資を襲わせるなど露骨な嫌がらせを行ってきたのに、ろくに調査をすることも出来ずに私たちは鬱憤が溜まっていた。
「オーガスト家の者に金をちらつかせて訊ねたところ、あっさりと口を割った。やはり領内の賊と取引して罪を見逃す代わりに貴家を襲わせたらしい。ひどいものだ」
「しかしよく口を割ったな?」
「彼もこれから落ちていくオーガスト家に忠を尽くすよりも我が家に仕えた方がいいと思ったのだろう」
レーヴェン公爵はあっけらかんと言う。薄情なようにも聞こえるが、そもそも盗賊に他家を襲わせるようなことをすれば見限られるのも当然だろう。
「これまでの働きもあるし、王国軍を握っているからどういう処分になるのかは分からないが、少なくともしばらくの間は表に出てくることはないだろう」
「それは良かった」
レーヴェン公爵の言葉にロルスはほっと息を吐く。
義父上は改めてレーヴェン公爵に頭を下げた。
「このたびは助けていただき本当にありがとうございます」
「いやいや、そもそもわしはソフィを助けられている。それに比べればこの程度のこと、造作もないことだ。もっとも、魔法を使う日の前日は一睡もできなかったが」
そう言ってレーヴェン公爵は笑った。
ついでに私も頭を下げる。
「本当にありがとうございました」
「いやいや、それよりも公爵叙任おめでとう。今後も良好な関係を続けていきたい」
「もちろんです」
こうして私たちは玉座の間へ向かうのだった。
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