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窮地

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 レーヴェン公爵の屋敷から帰ってきた後もオーガスト家とオールストン家からの嫌がらせは続いていた。

「大変です、これまで懇意にしていた商人が急に我が家とは取引出来ないと」
「我が家と親交のあった貴族から申し訳ないがしばらく親交を控えさせてもらいたい、と」
「何だと……」

 次々と入ってくる知らせにさすがのレイノルズ侯爵も頭を抱え込む。
 大貴族が手を結んでいるだけあって嫌がらせは嫌がらせという言葉で言い表せるような生ぬるいものではあった。

 おそらく、彼らは手あたり次第に我が家と親交のある貴族や商人、教会などに圧力をかけているのだろう。
 そして残念ながらレイノルズ家のような貧乏貴族と親交があっても大した利益にはならない。だからひとたび圧力がかかると次々と縁が切られていった。

「ただいま戻りました」

 そこへロルスが帰ってくる。彼は最初に我が家を襲った賊の調査を行っていた。

「どうだった、ロルス」
「それが、オーガスト家からは賊は懲役が適切と判断したため牢に入れており引き渡せない、と」

 要するに自分たちの命令で我が家の人々を賊に襲わせたが、証拠が見つかると問題なので牢に入れるという名目で保護しているのだろう。

「賊のことを訊き回ってきましたが、それまでオーガスト家の領内でかなりの悪事を重ねていたらしいのに入牢で済ませているのは絶対におかしい! 我が家を襲わせる代わりに罪を許そうという魂胆に違いない!」

 そう言ってロルスは声を荒げる。
 レイノルズ侯爵もそれを聞いて難しい顔をした。

「レイラはどうだ?」 

 ロルスは一縷の望みをかけて私の方を見てくる。
 私はと言えば、その間レイノルズ家で招待を受けていたパーティーやお茶会を一人で回っていた。ただ、その結果もあまり芳しいものではなかった。

「あれからいくつかの家のパーティーに行ってるけど、最近は私が出るパーティーに来る貴族の方々は少しずつ数が減っている。それに昨日は行く予定だったパーティーが中止になった」
「そんな……」

 そう言ってロルスが天を仰ぐ。
 そこへさらに蒼い顔をした家臣が駆け込んでくる。

「大変です、ローゼン商会からこれまで返済を猶予していた借金をすぐに返して欲しいと」
「無理だ……」

 それを聞いて思わず侯爵はつぶやく。

「普段ならまだしもここまで踏んだり蹴ったりの状況で借金を前倒しで返済するなど不可能だ……」

 ロルスと私も無言で顔を合わせるが、当然妙案などない。そんなものがあればとっくに使っている。
 私たちの間に絶望が流れた時だった。

「取り込み中のところすみません、レーヴェン公爵からの使者が来ています」
「レーヴェン公爵?」
「はい」

 家臣がそう言うと、レーヴェン公爵屋敷で見た人物が私たちの前に現れる。

「たった今、ソフィ様の体調が回復しました。そのため公爵様は是非レイラ様にお礼させていただきたいとのことです」
「本当に!?」

 こうして絶望的な状況に一筋の光が差したのだった。
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