「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃

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レーヴェン公爵Ⅳ

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 その後はレーヴェン公爵が用意した楽団や踊り手たちによる公演が行われる中、パーティーは続いた。が、パーティーそっちのけで、

「先ほどの魔法は素晴らしいものでした」
「今度機会があれば我が屋敷にも来ていただけないか」
 などと声を掛けられる。

 これまで参加してきたパーティーでも似たような反応は多かったが、今日はロルスやレイノルズ侯爵がいないせいか私に直接声をかけてくる方が多い。

 私はそれぞれの方に出来るだけ丁寧に応対し、印象を良くしようとするのだった。

 が、やがて時間が遅くなってくると酔った貴族たちは順に会場を出ていき、レーヴェン公爵が用意した宿泊部屋へと歩いていく。
 そしてパーティーがお開きになると公爵が私の元に歩いてくる。

「おかげさまで本日は大いに盛り上がった」
「それは良かったわ」
「お疲れのところすまないが、娘を診察していただけないか?」

 ある意味先ほどの余興などよりもこちらの方が重要な任務だ。
 余興は成功しても何となく印象がよくなるだけだが、これに成功すれば公爵が味方になってくれるかもしれない。

「分かりました」

 疲れたとはいえ、今日のパーティーでは私に話しかけてくる方は皆私に対して好意的だったのでそこまででもない。

「おお、ありがたい」

 私はレーヴェン公爵に連れられて広間から離れた一室へ向かう。
 ドアを開けると、そこにはベッドがあって一人の少女が寝かせられていた。すうすうと寝息を立てているが、ロウソクの灯りに照らされた顔は明らかに青白いし、頬はごっそりと痩せこけている。その上額には汗がにじんでおり、表情もどことなく苦しそうだ。

 私と年齢が近そうなので、余計に痛ましさを覚える。

「彼女が私の娘のソフィだ。今は眠っているが、日に日に高熱を出し、体力は衰えて食事もほぼ喉を通らない」
「なるほど」

 とはいえ、私は医学の知識はほとんどないので病状を説明されても全く分からない。

「サモン・ノーム」

 そこで私は静かにノームを召喚する。
 召喚されたノームは私の意図を理解したのか、横たわるソフィを見て部屋にある観葉植物の植木鉢に一本の草を生やす。葉っぱの形や茎の色合いが独特でこの辺りには生えてなさそうな植物だ。

「何だこの草は?」

 見たこともない草に公爵は首を捻る。
 が、ノームは私を見て一つ頷くとそのまま姿を消した。

「私も分かりませんが、おそらくこれが病気に効くのでしょう」
「おぬしの力を信じさせてもらうぞ」

 公爵は緊張した面持ちで頷くと、すぐに薬師を呼ぶ。
 呼び出された薬師は困惑しつつも、公爵の指示通りにノームが生やした薬草を煎じて粉薬にして持ってきた。

 そして寝ているソフィの口元から薬を飲ませる。
 当然飲んですぐに劇的な変化がある訳ではない。私は不安になったが、後はノームを信じることしか出来ない。

「ありがとう、今日はもう休んでくれ」
「分かりました。おやすみなさい」

 あの薬草は本当に効くのだろうか。それがとても気になったが私に出来ることは何もない。
 私は公爵家のメイドに案内されて客間へと向かい、翌日屋敷に帰るのだった。
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