「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃

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変わる日常

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 こうして、いいことと悪いことが半分ずつあったパーティーは終了し、翌日に私たちは屋敷へと戻った。
 大部分の貴族は魔法の力を披露した私に対して好意的に接してくれたが、それはあくまで表面的なものだろう。その証拠に私が魔法の力を披露するまでは彼らは皆私たちのことなど無視していた(もしくは眼中になかった)のだから。
 そんなことを思いつつ私たちはいつも通りの日常に戻った。

 が、あんなことがあった以上完全に元の日常に戻る訳もない。

「侯爵様、お茶会の誘いが届いております」
「今度のパーティーに是非参加していただけないかと誘いが来ていますが」

 その日以降、頻繁に家臣が侯爵に様々な招待状を持ってくるようになって、侯爵はしきりに困惑していた。
 今日もこれから夕食という時に立て続き手紙が届いて侯爵は首をかしげていた。
 何せこれまでは誰からもあえては誘われなかったし、参加せずに過ごしてきたのだから。

「一体どうしたものか」
「とはいえ父上、ここで行かなければ誘ってくれた者たちに角が立ってしまいます」

 ロルスが言う。

「確かに、これまでは他家にどう思われようと大して困りませんでしたが、もし父上から圧力を掛けられた際のことを考えると……」

 自分で言うのも何なので言葉は濁しているが、父上が例えば、私に実家に戻るよう圧力をかけて私が断った時、周囲の貴族たちにうちと関わらないよう圧力をかけてくる可能性がある。
 そんな時に周囲との関係が悪ければすぐに孤立してしまうでだろう。

「はい、そもそもうちは周囲との関りがなかった以上これからは改善していくべきかと」

 ロルスも私と同じことを考えていたのか、そう言う。

「とはいえ、パーティーはどうも苦手だし、そもそもそんなに裕福な訳でもない」
「でしたら代わりに僕が行っても構いません」
「お金に関しても、一度周囲に相談してみてはいかがでしょうか?」

 実家は裕福な家だったが、それでも有力貴族だからこそ突然重要な役目を命じられて先立つ物が必要になることもあった。そんな時でも親しい家がいくつかあればお金を融通してもらえることもある。

 もちろんそうなれば返済なりお返しなりはしなければならない訳だが、我が家の立場が上がれば王宮内でも重要な役職に就けてもらうなど収入が増える可能性もある。
 また、あまり褒められたことではないのかもしれないが人気のある貴族は機嫌をとるために周囲の家からたくさんの贈り物が届くこともあるという。少なくとも父上の元には様々な貴族から色々なものが届いていた。

「なるほど……確かにそうだ」
「でもいいではないですか、この前の王宮でのパーティーは楽しかったですし」
「それはそうだが、そんなに簡単に言うな! 色々準備が大変だったし、第一こちらが招かれるだけになることは失礼だからどこかで我が家でも主催をしなければならないんだぞ」
「まあまあ、とりあえずは親交ある相手を増やすことを考えましょう。もしブランドが本当に何か脅しをかけてきたらそれが役に立ちますし、結局あれがただの負け犬の遠吠えだったらパーティーでも何でもやればいいです」

 レイノルズ家の出費になるのに気軽に「パーティーを開けばいい」とばかり言うのも気が引けるのだが、ブランドや父上が理不尽なことを言って来た時に立ち向かうには他の貴族の世論が重要になる。
 それに私とロルスが一緒にパーティーに参加している姿を何度も他の貴族が目撃すれば、私とロルスの婚姻は既成事実となっていくでだろう。まあ、この場合は正式に結婚しているので規制事実という言葉は当てはまらないけど。

「分かった。それなら準備をしておこう」

 こうして私たちはこれまでとは打って変わってたくさんのパーティーやお茶会に出向くようになったのだった。
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