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手の平を返すブランド
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その後武術の演武が始まった。その中にはブランドの姿もあったが、先ほどの出来事の影響なのかブランドの演武にはいまいちキレがなかった。
そして演武が終わると、いよいよパーティーが始まる。私は広間に運ばれてくる色とりどりの料理に目を白黒させた。たまに屋敷でもこういう豪勢な料理が出ることはあったが、広間に並んでいる料理は食べ物というよりは芸術品のようであった。
「わあ、すごい」
「王宮のパーティーは王族としての威信をかけたものだからな。下手なものを出せば王家が衰えていると思われてしまう」
「なるほど」
ロルスの言葉に頷きつつ、私は少し浮いた気持ちで料理が置かれたテーブルを回る。
が、料理に夢中になったため、そして話しかけてくる周囲の人々と話していたせいもあって、いつの間にかロルスたちと離れてしまっていた。
そんな私の元に人混みをかき分けて一人の人物がやってくる。ブランドだ。彼はなぜか、式典前に会った時とは別人のようにニコニコとしていた。
「やあ、レイラ、先ほどは凄かったね」
「……何?」
もしかしてこれはまたあのパターンなのではないか、と私は多少警戒しながら尋ねる。ブランドのこういう態度にはなぜか既視感のようなものがあった。
「何って、君の活躍に祝福を言いにきただけだ。やっぱり君はオールストン公爵の娘というだけはあるね」
「はあ」
「その名に恥じない魔法の凄さで、感心してしまったよ」
ブランドはまるで役者のように心にもないであろう台詞をペラペラと喋る。
彼の言葉はある意味誹謗や侮蔑の言葉よりも不愉快であった。
「……それで、何?」
「何って、僕たちは婚約者の間柄だろう? 別に何か不自然なことでもあるのかい?」
「え?」
嫌な予感はしていたものの、さすがに聞こえてきた言葉が意味不明過ぎて私は思わず訊き返してしまう。
「婚約者? 婚約を破棄したのは誰なの!?」
「破棄したって人聞きが悪いな。僕はちょっと君の魔法が不調のようだったから奮起を促す意味で強い言葉を言っただけで、まさか本当に破棄する訳がないじゃないか」
そんな、「もう職場に来るな」とは言ったけど仕事を辞めろと言った訳ではない、みたいなことを言われても。一度こぼれた水はもう元には戻らないし、一度口から出た言葉は言わなかったことは出来ない。
さすがにこの態度には開いた口が塞がらなくなる。
「そんな馬鹿な。私にはもう新しい夫がいるというのに」
「でもろくに結婚式すら開いていないんだろ? そんなのは本当の結婚じゃないよ」
「それは私が決めることであって外からとやかく言われることじゃない! 大体あなたはベラとかいう女と婚約するんじゃなかったの!?」
「ああ、いや、彼女はただ容姿がいいから愛人候補にしようと思っていただけだよ。僕の結婚相手は決まっているからね、そこは揺らがない」
そこは言葉だけでも「古い友人で」とか「彼女が困っていたので相談に乗っていて」とか言うべきではないだろうか。
言い訳にしてももっとましな言い訳が思いつかなかったのだろうか。
ちなみにそんなベラの姿は、あの舞台がよほど屈辱だったのか、見た感じ会場にはない。
「そんな馬鹿みたいな話が通る訳がない。ふざけるのも大概にして」
「馬鹿みたいな話? そういうならオールストン公爵に一緒に訊きに行こうじゃないか。そもそもあの婚約も、今の結婚も親同士が決めたんだからそれが筋だろう?」
ブランドはニヤニヤしながら言う。
それを聞いて私は背筋がぞくりとした。あの時私が魔法を使えないからといって追い出した父上なら、簡単に今の結婚をなかったことにしかねない。
ブランドが私を父上の元に連れていけば……
「ほら、行こう」
「やめて!」
そう言ってブランドが私の手を掴む。武術で鍛えられた彼は力強く、振りほどくことは出来ない。
が、そんな時だった。
「やめてください」
そう言って私の前に現れたのはロルスだった。
そして演武が終わると、いよいよパーティーが始まる。私は広間に運ばれてくる色とりどりの料理に目を白黒させた。たまに屋敷でもこういう豪勢な料理が出ることはあったが、広間に並んでいる料理は食べ物というよりは芸術品のようであった。
「わあ、すごい」
「王宮のパーティーは王族としての威信をかけたものだからな。下手なものを出せば王家が衰えていると思われてしまう」
「なるほど」
ロルスの言葉に頷きつつ、私は少し浮いた気持ちで料理が置かれたテーブルを回る。
が、料理に夢中になったため、そして話しかけてくる周囲の人々と話していたせいもあって、いつの間にかロルスたちと離れてしまっていた。
そんな私の元に人混みをかき分けて一人の人物がやってくる。ブランドだ。彼はなぜか、式典前に会った時とは別人のようにニコニコとしていた。
「やあ、レイラ、先ほどは凄かったね」
「……何?」
もしかしてこれはまたあのパターンなのではないか、と私は多少警戒しながら尋ねる。ブランドのこういう態度にはなぜか既視感のようなものがあった。
「何って、君の活躍に祝福を言いにきただけだ。やっぱり君はオールストン公爵の娘というだけはあるね」
「はあ」
「その名に恥じない魔法の凄さで、感心してしまったよ」
ブランドはまるで役者のように心にもないであろう台詞をペラペラと喋る。
彼の言葉はある意味誹謗や侮蔑の言葉よりも不愉快であった。
「……それで、何?」
「何って、僕たちは婚約者の間柄だろう? 別に何か不自然なことでもあるのかい?」
「え?」
嫌な予感はしていたものの、さすがに聞こえてきた言葉が意味不明過ぎて私は思わず訊き返してしまう。
「婚約者? 婚約を破棄したのは誰なの!?」
「破棄したって人聞きが悪いな。僕はちょっと君の魔法が不調のようだったから奮起を促す意味で強い言葉を言っただけで、まさか本当に破棄する訳がないじゃないか」
そんな、「もう職場に来るな」とは言ったけど仕事を辞めろと言った訳ではない、みたいなことを言われても。一度こぼれた水はもう元には戻らないし、一度口から出た言葉は言わなかったことは出来ない。
さすがにこの態度には開いた口が塞がらなくなる。
「そんな馬鹿な。私にはもう新しい夫がいるというのに」
「でもろくに結婚式すら開いていないんだろ? そんなのは本当の結婚じゃないよ」
「それは私が決めることであって外からとやかく言われることじゃない! 大体あなたはベラとかいう女と婚約するんじゃなかったの!?」
「ああ、いや、彼女はただ容姿がいいから愛人候補にしようと思っていただけだよ。僕の結婚相手は決まっているからね、そこは揺らがない」
そこは言葉だけでも「古い友人で」とか「彼女が困っていたので相談に乗っていて」とか言うべきではないだろうか。
言い訳にしてももっとましな言い訳が思いつかなかったのだろうか。
ちなみにそんなベラの姿は、あの舞台がよほど屈辱だったのか、見た感じ会場にはない。
「そんな馬鹿みたいな話が通る訳がない。ふざけるのも大概にして」
「馬鹿みたいな話? そういうならオールストン公爵に一緒に訊きに行こうじゃないか。そもそもあの婚約も、今の結婚も親同士が決めたんだからそれが筋だろう?」
ブランドはニヤニヤしながら言う。
それを聞いて私は背筋がぞくりとした。あの時私が魔法を使えないからといって追い出した父上なら、簡単に今の結婚をなかったことにしかねない。
ブランドが私を父上の元に連れていけば……
「ほら、行こう」
「やめて!」
そう言ってブランドが私の手を掴む。武術で鍛えられた彼は力強く、振りほどくことは出来ない。
が、そんな時だった。
「やめてください」
そう言って私の前に現れたのはロルスだった。
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