「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
27 / 54

パーティーⅥ

しおりを挟む
 私が会場に戻ると、そこには興奮した表情のレイノルズ侯爵とロルスの姿があった。

「今のは凄かったな」
「ああ、皆盛り上がってる」

 舞台では次の演武の準備にとりかかっているが、まだ準備中ということもあって周囲は今の魔術に対する感想をつぶやく貴族たちで溢れている。

「良かった、もしうまくいかなかったらずっと白い目で見られたままなんじゃないかって不安だったの」
「確かに、わしもあまり詳しくなかったのが悪かったが、こういうところでは観客受けする魔術の鉄板のようなものがあるらしいな」
「そう、それが分からなくて直前のベラの魔法に被せるようにしてしまったけど大丈夫だったでしょうか?」

 そう、仮に魔術の出来自体が良くてもこういう社会では「わざわざ他の相手と内容を被せて自慢するようなことをするのはいかがなものか」と言われることもある。実際、今の私は彼女を負かすためにやったから、力をひけらかそうとしたのは間違いではないし。

 が、私の不安にレイノルズ侯爵は首を横に振った。

「いや、そんなことはない。大体の貴族は今回の件の細かいことまで知らないからな、勝手にブランドをベラが奪ったのでレイラが意趣返しをした、と思っているみたいだ」
「なるほど」

 確かに時系列だけ追っていくとそう見えるのも無理はない。というかベラ本人もそう思っていたようだし。

「もちろんベラと親しい者の中には眉を顰める者もいるし、いきなり魔法が使えるようになったのはおかしい、と思っている者も多いがあまり悪意を持っていそうな者はいなかったよ」
「ありがとう」

 ロルスの言葉に私は安堵した。
 すると私が戻ってきたのを見て、周囲の貴族の何人かがこちらにやってくる。

「今の魔術は凄かった!」
「ベラにブランドをとられて練習を頑張ったのか? 圧巻だった!」
「魔法が使えないという噂は何かの間違えだったんだな!?」

 彼らはそれぞれ若干誤解しているようだったが、皆私を祝福してくれているようだった。そういうことならいちいち誤解を訂正するほどでもないか、と思う。

「ありがとうございます。これまで力を発揮することが出来なかったのは未熟だったからですが、この大舞台で恥ずかしくない魔法を披露することが出来て良かったです」
「おお、さすがオールストン公爵の娘」
「ブランド君ももったいないことをしてしまったなあ」

 そんな私の言葉に貴族たちは無邪気に賞賛の言葉をかけてくれる。中には、

「侯爵も思わぬ良縁に巡り合うことが出来ましたな」
「ロルス殿も良かったですね」

 などと侯爵やロルスに声をかけてくれる者もいる。つい先日までは「オールストン公爵家の出来損ないの押し付け先などと言われていたのにこの変わりように二人も驚いていたが、やがて慣れてきたのか普通に応答するようになったのだった。

 そして私たちは次の演武が始まるまでの間、周囲の祝福を受けたのだった。そしてそんな私たちを遠目に悔し気に見つめているブランドの姿を見つけるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~

鈴宮(すずみや)
恋愛
 王族の秘書(=内侍)として城へ出仕することになった、公爵令嬢クララ。ところが内侍は、未来の妃に箔を付けるために設けられた役職だった。  おまけに、この国の王太子は未だ定まっておらず、宰相の娘であるクララは第3王子フリードの内侍兼仮の婚約者として王位継承戦へと巻き込まれていくことに。  けれど、運命の出会いを求めるクララは、政略結婚を受け入れるわけにはいかない。憧れだった宮仕えを諦めて、城から立ち去ろうと思っていたのだが。 「おまえはおまえの目的のために働けばいい」  フリードの側近、コーエンはそう言ってクララに手を差し伸べる。これはフリードが王太子の座を獲得するまでの期間限定の婚約。その間にクララは城で思う存分運命の出会いを探せば良いと言うのだ。  クララは今日も、運命の出会いと婚約破棄を目指して邁進する。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...