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パーティーⅠ
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それから侯爵は王宮に私の魔法の件の話をしたり、パーティーに出席する準備を整えたりしていた。
侯爵家の人々も社交界に出る経験はあったので、礼服はあったのですが、私だけが唯一何も持っていなかった。
世間の常識によると普通は貴族令嬢が他家に嫁ぐ時はドレスの一着や二着は持って嫁ぐらしいが、私の場合は手ぶらだったのでそれもない。
「悪いが急造で仕立ててもらうことになるので今回ばかりは粗末なものになってしまうが……申し訳ない」
そのことを知った侯爵は私に頭を下げた。
「いえ、構いません。むしろ今回は最低限の服にしておいて、いずれ時間ある時にゆっくり仕立ててもらえれば」
「気を遣わせてすまないな」
私の言葉に侯爵は申し訳なさそうに溜め息をついた。
とはいえ、そもそも侯爵自身の服装も父上がパーティーに出る時に着ていたような服に比べるとかなり値段は落ちるだろう。正直ある程度その場にふさわしいものであれば、無駄に高級なものを用意する必要はないと思うのだが、この爵位だとこのくらいの値段の服を着なければ恥ずかしい、みたいな面倒な風潮がある。
その尺度に当てはめれば私も、そして侯爵も恥ずかしいということになってしまうだろう。
そんなことを思いつつパーティー当日を迎える。
私は侯爵が用意してくれたドレスに袖を通す。母上や妹が着ていた物に比べれば質素だったが、そもそも華やかな服を着せてもらうこと自体が初めてなのだ。だからそれだけで自然と気分がよくなってくる。
メイドさんに着つけてもらった私はしばらく鏡の前でターンしたり、スカートの裾をつまんだりしてみる。
「どんな感じだ?」
そんなことをしているところへロルスがやってくる。
恥ずかしくなった私は慌てて姿勢を正して表情を引き締める。
が、彼は一目私を見て息を飲んだ。
思っていたのと違う彼の反応に私は少し驚く。
「……どうかしら?」
「これまで平服しか見たことなかったから意識しなかったけど……ドレスを着たら見違えるようだ」
「本当に?」
つられて鏡を見てみるが、やはり比較対象が自分の家族であるせいか、どこか安っぽい印象はぬぐえない。
だが、ロルスは興奮した面持ちで私を見てくる。
「ああ、今までと全然印象が違う。ここまできれいだと逆に惜しく思えてくる。もっとちゃんとしたドレスを着ていたらさらに美しかったというのに」
「そ、そうかな」
「ああ、そうに決まっている! ああ、今まで安物の服しか用意出来なかったのが急に罰当たりに思えてきた!」
「え、そこまで言う?」
珍しく熱のこもった口調で話すロルスを見て私は少し嬉しいと同時に少し照れくさくなる。
「ありがとう」
「……いやいや、礼を言うほどでは」
そこでようやくロルスは自分がどれだけ熱心に話していたのか気づいたのだろう、少し恥ずかしくなって口をつぐむのだった。
侯爵家の人々も社交界に出る経験はあったので、礼服はあったのですが、私だけが唯一何も持っていなかった。
世間の常識によると普通は貴族令嬢が他家に嫁ぐ時はドレスの一着や二着は持って嫁ぐらしいが、私の場合は手ぶらだったのでそれもない。
「悪いが急造で仕立ててもらうことになるので今回ばかりは粗末なものになってしまうが……申し訳ない」
そのことを知った侯爵は私に頭を下げた。
「いえ、構いません。むしろ今回は最低限の服にしておいて、いずれ時間ある時にゆっくり仕立ててもらえれば」
「気を遣わせてすまないな」
私の言葉に侯爵は申し訳なさそうに溜め息をついた。
とはいえ、そもそも侯爵自身の服装も父上がパーティーに出る時に着ていたような服に比べるとかなり値段は落ちるだろう。正直ある程度その場にふさわしいものであれば、無駄に高級なものを用意する必要はないと思うのだが、この爵位だとこのくらいの値段の服を着なければ恥ずかしい、みたいな面倒な風潮がある。
その尺度に当てはめれば私も、そして侯爵も恥ずかしいということになってしまうだろう。
そんなことを思いつつパーティー当日を迎える。
私は侯爵が用意してくれたドレスに袖を通す。母上や妹が着ていた物に比べれば質素だったが、そもそも華やかな服を着せてもらうこと自体が初めてなのだ。だからそれだけで自然と気分がよくなってくる。
メイドさんに着つけてもらった私はしばらく鏡の前でターンしたり、スカートの裾をつまんだりしてみる。
「どんな感じだ?」
そんなことをしているところへロルスがやってくる。
恥ずかしくなった私は慌てて姿勢を正して表情を引き締める。
が、彼は一目私を見て息を飲んだ。
思っていたのと違う彼の反応に私は少し驚く。
「……どうかしら?」
「これまで平服しか見たことなかったから意識しなかったけど……ドレスを着たら見違えるようだ」
「本当に?」
つられて鏡を見てみるが、やはり比較対象が自分の家族であるせいか、どこか安っぽい印象はぬぐえない。
だが、ロルスは興奮した面持ちで私を見てくる。
「ああ、今までと全然印象が違う。ここまできれいだと逆に惜しく思えてくる。もっとちゃんとしたドレスを着ていたらさらに美しかったというのに」
「そ、そうかな」
「ああ、そうに決まっている! ああ、今まで安物の服しか用意出来なかったのが急に罰当たりに思えてきた!」
「え、そこまで言う?」
珍しく熱のこもった口調で話すロルスを見て私は少し嬉しいと同時に少し照れくさくなる。
「ありがとう」
「……いやいや、礼を言うほどでは」
そこでようやくロルスは自分がどれだけ熱心に話していたのか気づいたのだろう、少し恥ずかしくなって口をつぐむのだった。
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