22 / 54
パーティーⅠ
しおりを挟む
それから侯爵は王宮に私の魔法の件の話をしたり、パーティーに出席する準備を整えたりしていた。
侯爵家の人々も社交界に出る経験はあったので、礼服はあったのですが、私だけが唯一何も持っていなかった。
世間の常識によると普通は貴族令嬢が他家に嫁ぐ時はドレスの一着や二着は持って嫁ぐらしいが、私の場合は手ぶらだったのでそれもない。
「悪いが急造で仕立ててもらうことになるので今回ばかりは粗末なものになってしまうが……申し訳ない」
そのことを知った侯爵は私に頭を下げた。
「いえ、構いません。むしろ今回は最低限の服にしておいて、いずれ時間ある時にゆっくり仕立ててもらえれば」
「気を遣わせてすまないな」
私の言葉に侯爵は申し訳なさそうに溜め息をついた。
とはいえ、そもそも侯爵自身の服装も父上がパーティーに出る時に着ていたような服に比べるとかなり値段は落ちるだろう。正直ある程度その場にふさわしいものであれば、無駄に高級なものを用意する必要はないと思うのだが、この爵位だとこのくらいの値段の服を着なければ恥ずかしい、みたいな面倒な風潮がある。
その尺度に当てはめれば私も、そして侯爵も恥ずかしいということになってしまうだろう。
そんなことを思いつつパーティー当日を迎える。
私は侯爵が用意してくれたドレスに袖を通す。母上や妹が着ていた物に比べれば質素だったが、そもそも華やかな服を着せてもらうこと自体が初めてなのだ。だからそれだけで自然と気分がよくなってくる。
メイドさんに着つけてもらった私はしばらく鏡の前でターンしたり、スカートの裾をつまんだりしてみる。
「どんな感じだ?」
そんなことをしているところへロルスがやってくる。
恥ずかしくなった私は慌てて姿勢を正して表情を引き締める。
が、彼は一目私を見て息を飲んだ。
思っていたのと違う彼の反応に私は少し驚く。
「……どうかしら?」
「これまで平服しか見たことなかったから意識しなかったけど……ドレスを着たら見違えるようだ」
「本当に?」
つられて鏡を見てみるが、やはり比較対象が自分の家族であるせいか、どこか安っぽい印象はぬぐえない。
だが、ロルスは興奮した面持ちで私を見てくる。
「ああ、今までと全然印象が違う。ここまできれいだと逆に惜しく思えてくる。もっとちゃんとしたドレスを着ていたらさらに美しかったというのに」
「そ、そうかな」
「ああ、そうに決まっている! ああ、今まで安物の服しか用意出来なかったのが急に罰当たりに思えてきた!」
「え、そこまで言う?」
珍しく熱のこもった口調で話すロルスを見て私は少し嬉しいと同時に少し照れくさくなる。
「ありがとう」
「……いやいや、礼を言うほどでは」
そこでようやくロルスは自分がどれだけ熱心に話していたのか気づいたのだろう、少し恥ずかしくなって口をつぐむのだった。
侯爵家の人々も社交界に出る経験はあったので、礼服はあったのですが、私だけが唯一何も持っていなかった。
世間の常識によると普通は貴族令嬢が他家に嫁ぐ時はドレスの一着や二着は持って嫁ぐらしいが、私の場合は手ぶらだったのでそれもない。
「悪いが急造で仕立ててもらうことになるので今回ばかりは粗末なものになってしまうが……申し訳ない」
そのことを知った侯爵は私に頭を下げた。
「いえ、構いません。むしろ今回は最低限の服にしておいて、いずれ時間ある時にゆっくり仕立ててもらえれば」
「気を遣わせてすまないな」
私の言葉に侯爵は申し訳なさそうに溜め息をついた。
とはいえ、そもそも侯爵自身の服装も父上がパーティーに出る時に着ていたような服に比べるとかなり値段は落ちるだろう。正直ある程度その場にふさわしいものであれば、無駄に高級なものを用意する必要はないと思うのだが、この爵位だとこのくらいの値段の服を着なければ恥ずかしい、みたいな面倒な風潮がある。
その尺度に当てはめれば私も、そして侯爵も恥ずかしいということになってしまうだろう。
そんなことを思いつつパーティー当日を迎える。
私は侯爵が用意してくれたドレスに袖を通す。母上や妹が着ていた物に比べれば質素だったが、そもそも華やかな服を着せてもらうこと自体が初めてなのだ。だからそれだけで自然と気分がよくなってくる。
メイドさんに着つけてもらった私はしばらく鏡の前でターンしたり、スカートの裾をつまんだりしてみる。
「どんな感じだ?」
そんなことをしているところへロルスがやってくる。
恥ずかしくなった私は慌てて姿勢を正して表情を引き締める。
が、彼は一目私を見て息を飲んだ。
思っていたのと違う彼の反応に私は少し驚く。
「……どうかしら?」
「これまで平服しか見たことなかったから意識しなかったけど……ドレスを着たら見違えるようだ」
「本当に?」
つられて鏡を見てみるが、やはり比較対象が自分の家族であるせいか、どこか安っぽい印象はぬぐえない。
だが、ロルスは興奮した面持ちで私を見てくる。
「ああ、今までと全然印象が違う。ここまできれいだと逆に惜しく思えてくる。もっとちゃんとしたドレスを着ていたらさらに美しかったというのに」
「そ、そうかな」
「ああ、そうに決まっている! ああ、今まで安物の服しか用意出来なかったのが急に罰当たりに思えてきた!」
「え、そこまで言う?」
珍しく熱のこもった口調で話すロルスを見て私は少し嬉しいと同時に少し照れくさくなる。
「ありがとう」
「……いやいや、礼を言うほどでは」
そこでようやくロルスは自分がどれだけ熱心に話していたのか気づいたのだろう、少し恥ずかしくなって口をつぐむのだった。
100
お気に入りに追加
4,775
あなたにおすすめの小説

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
鈴宮(すずみや)
恋愛
王族の秘書(=内侍)として城へ出仕することになった、公爵令嬢クララ。ところが内侍は、未来の妃に箔を付けるために設けられた役職だった。
おまけに、この国の王太子は未だ定まっておらず、宰相の娘であるクララは第3王子フリードの内侍兼仮の婚約者として王位継承戦へと巻き込まれていくことに。
けれど、運命の出会いを求めるクララは、政略結婚を受け入れるわけにはいかない。憧れだった宮仕えを諦めて、城から立ち去ろうと思っていたのだが。
「おまえはおまえの目的のために働けばいい」
フリードの側近、コーエンはそう言ってクララに手を差し伸べる。これはフリードが王太子の座を獲得するまでの期間限定の婚約。その間にクララは城で思う存分運命の出会いを探せば良いと言うのだ。
クララは今日も、運命の出会いと婚約破棄を目指して邁進する。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる