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ブランドとベラ
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「何だって、レイラが魔法を使えるようになった?」
「はい、マロード公爵お抱えの魔術師を実力で黙らせて追い返したとの噂で持ち切りです」
家臣からの報告を聞いてブランドは眉をひそめた。
どんな魔法を使おうとしてもすぐに失敗していた彼女が急にそこまでの実力を手に入れることがあるだろうか。何かの間違いではないか、とブランドは思う。
「そんな訳があるか。マロード公爵の魔術師は体調が悪かったかとかじゃないか?」
「そんなことはないと思いますが……」
「それで、レイラは実家に帰ったのか?」
魔法がろくに使えなくて追放された(名目上は結婚ということになっているが)彼女だが、もし魔法が使えると分かれば当然呼び戻されるだろう。そうなればまた自分の婚約者になるだろうか。
傍らのベラをちらっと見て、ブランドはその可能性を恐れた。
魔法が使えないことを理由に婚約破棄したとはいえ、実際のところは彼女本人のことも好きではなかった。確かに家の格は少し落ちるが、だからこそベラはブランドに見捨てられないように忠実に尽くしてくれるだろう。
「いえ、実家に戻るよう言いに来たオールストン公爵の誘いを拒絶したとか」
「ということはきっと、魔法が使えるようになったというのは嘘だったのでしょう」
隣にいたベラも安心したように言う。
彼女もレイラが帰ってくるのではないかと内心恐れていたのだろうが、どういう意味なのだろうか。
「それはどういうことだ?」
「だって考えてみてください、もし本当に魔法が使えるようになったならばレイノルズ侯爵家なんかに残らず、実家に帰るに決まっています」
「それは確かに」
ベラの言葉にブランドは納得する。
レイノルズ侯爵家はブランドにとって、ただの貧乏貴族に過ぎなかった。もしそんなところに行かされたら自分ならすぐにでも帰りたくなるだろう。それをしないということは出来ないということだ。
「きっとたまたままぐれですごい魔法が使えただけで、実家に帰るとそれがバレるということでしょう」
「それは確かに。武術の試合でもごくまれにそういうことはあるからな」
武術の試合ではごくまれに素人の予測不能な動きで達人を倒すことはあるが、これまで使えなかった魔法がまぐれで一回だけ使えるということはほとんどない。そのことをブランドは知らなかったし、ベラは知っていてもあえては言わなかった。
「すまないな、ベラ、心配させてしまって」
「いえ、ブランド様は一度選んだ人を捨てるような方ではないと信じていますので」
「ああ、当然だ」
もっとも、もしそれが本当だったらブランドが拒んでも父親に無理やり婚約者を戻されるかもしれないという危惧はあったが。
そんなブランドに家臣は尋ねる。
「レイラのことをもう少し調べた方がいいでしょうか?」
「いや、必要ない。そんな無駄なことをしている暇があれば武術の鍛錬でも積んでいた方がよほど有意義だ」
「分かりました」
そう言って家臣は去っていく。
それを見てブランドはベラとの語らいに戻るのだった。
「ふう、せっかくのお茶会なのに邪魔されてしまったな」
「いえいえ、気にしていませんわ」
「ところでこの茶葉だが……」
ブランドは元の話題へと戻る。
こうして数分後にはすっかりレイラのことを忘れてしまったのだった。
「はい、マロード公爵お抱えの魔術師を実力で黙らせて追い返したとの噂で持ち切りです」
家臣からの報告を聞いてブランドは眉をひそめた。
どんな魔法を使おうとしてもすぐに失敗していた彼女が急にそこまでの実力を手に入れることがあるだろうか。何かの間違いではないか、とブランドは思う。
「そんな訳があるか。マロード公爵の魔術師は体調が悪かったかとかじゃないか?」
「そんなことはないと思いますが……」
「それで、レイラは実家に帰ったのか?」
魔法がろくに使えなくて追放された(名目上は結婚ということになっているが)彼女だが、もし魔法が使えると分かれば当然呼び戻されるだろう。そうなればまた自分の婚約者になるだろうか。
傍らのベラをちらっと見て、ブランドはその可能性を恐れた。
魔法が使えないことを理由に婚約破棄したとはいえ、実際のところは彼女本人のことも好きではなかった。確かに家の格は少し落ちるが、だからこそベラはブランドに見捨てられないように忠実に尽くしてくれるだろう。
「いえ、実家に戻るよう言いに来たオールストン公爵の誘いを拒絶したとか」
「ということはきっと、魔法が使えるようになったというのは嘘だったのでしょう」
隣にいたベラも安心したように言う。
彼女もレイラが帰ってくるのではないかと内心恐れていたのだろうが、どういう意味なのだろうか。
「それはどういうことだ?」
「だって考えてみてください、もし本当に魔法が使えるようになったならばレイノルズ侯爵家なんかに残らず、実家に帰るに決まっています」
「それは確かに」
ベラの言葉にブランドは納得する。
レイノルズ侯爵家はブランドにとって、ただの貧乏貴族に過ぎなかった。もしそんなところに行かされたら自分ならすぐにでも帰りたくなるだろう。それをしないということは出来ないということだ。
「きっとたまたままぐれですごい魔法が使えただけで、実家に帰るとそれがバレるということでしょう」
「それは確かに。武術の試合でもごくまれにそういうことはあるからな」
武術の試合ではごくまれに素人の予測不能な動きで達人を倒すことはあるが、これまで使えなかった魔法がまぐれで一回だけ使えるということはほとんどない。そのことをブランドは知らなかったし、ベラは知っていてもあえては言わなかった。
「すまないな、ベラ、心配させてしまって」
「いえ、ブランド様は一度選んだ人を捨てるような方ではないと信じていますので」
「ああ、当然だ」
もっとも、もしそれが本当だったらブランドが拒んでも父親に無理やり婚約者を戻されるかもしれないという危惧はあったが。
そんなブランドに家臣は尋ねる。
「レイラのことをもう少し調べた方がいいでしょうか?」
「いや、必要ない。そんな無駄なことをしている暇があれば武術の鍛錬でも積んでいた方がよほど有意義だ」
「分かりました」
そう言って家臣は去っていく。
それを見てブランドはベラとの語らいに戻るのだった。
「ふう、せっかくのお茶会なのに邪魔されてしまったな」
「いえいえ、気にしていませんわ」
「ところでこの茶葉だが……」
ブランドは元の話題へと戻る。
こうして数分後にはすっかりレイラのことを忘れてしまったのだった。
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