上 下
18 / 54

実家からの使者

しおりを挟む
 それから数日、私は今までの暮らしが嘘のようにレイノルズ家の皆様と打ち解けていった。それまでは今回の婚姻でうちの実家に対して向いていた敵意が私に対しても向いていたが、あの日初めて私は「オールストン家からきた令嬢」ではなく「レイノルズ家の嫁」になったと思う。
 食事を家族一緒にとるようになったり、家の仕事を手伝うようになったり、魔法の練習を堂々と出来るようになったりと私の生活は目まぐるしく変化を遂げた。

 そんなある日のことである。
 私がいつものように魔法の練習をしていると、レイノルズ家の使用人の一人が私の元へやってくる。

「レイラ様にご実家からの使者という方が来ています」
「え、実家から?」

 それを聞いて私は困惑する。正直あの輿入れで実家との縁はきれたものと思っていたが、まだ私に対して接触するとは。

 とはいえ、私はマロード公爵に対して派手に魔法を使ってしまったからその話が流れ流れて我が家にも伝わってしまったのかもしれない。
 あまり気は進まないが、来てしまった以上は会わずに追い返すことも出来ない。

「分かったわ」

 仕方なく私は使者が待っているという応接間に向かった。
 そこにいたのは父上の側に仕えていた家臣であった。実家では私に対してはそこにいないかのように振る舞っていたが、今は私を見てニコニコと愛想笑いを浮かべている。その表情を見ただけで何となく用件が想像出来て嫌な気持ちになる。

「これはこれはレイラ様、お久しぶりですが、お元気でしたか?」
「ええ、おかげさまで」

 あの窮屈な家から出られたおかげでね、という意味をこめた皮肉だったが彼は意味がよく分かっていないのか、分からない振りをしているだけなのか、依然として笑顔を顔に張り付けている。

「いえ、ご主人様も送り出したはいいものの、その後レイラ様が無事かどうか気になって夜も眠れないとのことで」
「それは大変ね」

 よくもまあそんな嘘がすらすらと口から出るものだ、と思うものの口先だけは合わせておく。

「はい、屋敷の者は皆心配しているとのことでご無事だったということを報告すれば喜ぶでしょう」
「……ふふっ」

 ここまで露骨な追従を見るのは初めてだったのでついおかしくなってしまう。
 が、それを喜んでいるとでも思ったのか、家臣は話を進めていく。

「はい、それで先日マロード公爵を素晴らしい魔法で追い返したとの話が耳に入りましたが、それは本当でしょうか?」

 ついに本題が来たか、と私は内心身構える。
 面倒だからシラを切りたい気持ちもあるけど、さすがに嘘をつきとおせることでもない。

「本当だけど、それが何か?」
「おお、それは良かった! しかし一体なぜ急に魔法が使えるようになったのでしょうか?」
「窮屈な屋敷から出たからじゃない?」
「え」

 私が敵意を隠さずに伝えると、それまでの愛想笑いを浮かべていた家臣の表情が急に凍り付く。
 どうやら今まで本当に私が恨んでいることに気づいていなかったらしい。きっと偉大な宮廷魔術師である父上を私なんかが恨んでいるとは思いもしなかったのだろう。

「あの、それは一体どういう……」

 とはいえ、これからも変に期待されても鬱陶しいからこの場できちんと本心を伝えておこう。
 私はそう決意した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...