「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
15 / 54

団欒Ⅱ

しおりを挟む
 が、私の心配に反してレイノルズ一家の反応は好意的だった。

「そうか、そんなことがあったのか。そうと知らずにすまなかった」

 まずはレイノルズ侯爵が同情と後悔の視線をこちらに向けてくる。

「今の話を聞いて申し訳なくなった。君が怠惰で魔法が使えるようにならないという噂を聞いていたけど、そうではなかったんだな。というか、思い返してみると僕の方こそどうせ貧乏貴族だからって大して頑張らなくてもいいと甘えていたところがあったかもしれない」

 レイノルズもそんなことを言う。

「公爵家に生まれたと聞いて楽な暮らしをしていたのかと思っていたけどそうではなかったのね」
「というかブランドというのは大層酷い人物だわ」

 他の人々も口々に私への同情を口にする。
 少しの間私は目の前に広がる光景を信じることが出来なかった。実家ではもし自分の境遇が辛いなどと言えば、「怠けている癖にそんなことを言うな」「そう思うならさっさと魔法の一つでも使えるようになれ」などと言われて終わりだっただろう。

 もちろん今は魔法が使えるようになってはいるが、仮にそうでなくてもここでは私の境遇に対して同情してくれそうな気がした。

「おい、大丈夫か、泣いているぞ!」
「え!?」

 侯爵の言葉で私はようやく自分が涙を流していることに気づく。
 どうやら話に熱が入りすぎて昔のことを思い出し、知らないうちに目から涙がこぼれていたようだ。全く気付かなかったが、気づくととても恥ずかしい。

「すみません、こんな場で……」
「いや、いいんだ。それなら今度は僕の話でも聞いてくれないか?」
「おい、彼女が悲しんでいる時にまた暗い話をする気か?」

 話題を変えようとしてくれたロルスに侯爵が苦言を呈する。とはいえ、ロルスの話は聞いてみたかった。何せ私はここに来てからまだまともに彼の話を聞いてはいないのだ。

「いえ、私はロルスの話を聞いてみたい」
「いいのか? 父上の言う通り、あまり愉快な話ではないが」
「いいの。これから一緒に暮らすんだから」
「ありがとう。それなら聞いてくれ」

 そう言ってロルスは話を始める。
 ロルスの話はある意味私と逆で、周囲に全く期待されずに育ってきたらしい。幼少期は武術や学問に精を出していた彼だったが、周囲の大人たちはロルスがいくら頑張っても、「所詮貧乏貴族」と取り合わなかったらしい。

 そしてその話を聞きながら渋い顔をしている侯爵もそんなロルスにあまり関心がなかったのかもしれない。
 また、ロルスの話の中にはマロード侯爵を含む数人の貴族に馬鹿にされたり辱めを受けたりしたエピソードもあった。

「……まあ僕のこれまでの人生のことだから無限に語れることはあるからとりあえずここまでにしておくよ。ただ一つだけ覚えておいて欲しいのは僕が初日に君に冷たい態度をとったのは、これまで見下され続けた上にオールストン家という名門貴族から僕を厄介払い先みたいに扱われたのが頭に来ていたからなんだ」
「うん、分かった」

 父上とロルスは今の話を聞いた限りでは婚姻話が出るまでは接点がなかったようだが、きっと彼は幼いころからのトラウマのせいで名門貴族というだけでアレルギーのようなものがあるのだろう。
 こうしてお互いの話が終わるころにはすっかり夜も更けていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

処理中です...