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解放された日常
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それから私は屋敷の中へ案内される。
質素な屋敷ではあるが掃除は行き届いており、不潔ではない。私が通された個室もベッドとクローゼット、そしてテーブルがあるだけの不自由はないが簡素な部屋だった。それを見ると改めてオールストン家は裕福だったのだなと感じる。だからといって何とも思わないけど。
部屋に入って実家から持ってきた数少ない荷物を片付けていると、こんこんとドアがノックされた。
「何でしょう」
「お食事でございます」
そう言ってメイドが盆に載った食事を渡してくれる。レイノルズ家では執事やメイドが食べていたような食事だ。
普通貴族の結婚なら輿入れ初日は盛大なパーティーが開かれるし、何かの事情でパーティーが別の日になる場合は相手の家族と団らんするものだと思っていたが、これが歓迎されない結婚の実情らしい。
とはいえ、私は料理の横に普段飲まされていた魔力増進薬がないことにほっとする。材料も高価だし調合できるのも限られた魔術師だけという希少なものだったけど、嫌な思い出しかなかった。
あれをいつも食後に飲まされると思うと、どんなに高級な食材でもまずく思えていたのだった。
「あれ、おいしい……」
そして私は料理を口に入れて気づく。料理は簡単なもので、食材も安く手に入るものが使われているもののはずなのに、実家で食べていたものよりもおいしく感じる。
何でだろう、と思ったがおそらく実家にいたときはいつも父上を始めとする家族の見下すような視線とともに食事をしていたからではないか。食卓になると家族が集合することになり、しかも一族は皆父上ほどではないにしろ魔術の才ある人ばかりだったから私はいるだけで針の筵のようだった。
今も一人でぽつんと食べているという寂しい状況ではあるけど、少なくとも地獄からは解き放たれている。
そんな食事が終わると、メイドが食器を回収しにやってきた。
いつもならその日やった魔法の練習で出来なかったところを復習している時間だが、この家では何をしたらいいのだろうか。
「ところで私はこの屋敷で何かしなければならないこととかある?」
「さあ……私は食事の配膳と洗濯物をとりに行くことしか命じられておりませんので」
「そう」
考えてみればメイドが知っている訳でもないが、先ほどあれほど冷たい態度をとられた侯爵やロルスにまた会いにいくのは少し気まずい。
彼らが私に何かして欲しいことがあるようには思えなかったし、何か言われるまではくつろいでいよう。そう思って私は早めにベッドに入るのだった。
「ふう、いい寝覚め」
翌朝、起きた私はいつもより寝覚めが気持ちいいことに気づいた。明らかに実家よりもベッドの質は劣っているはずなのに。
何でだろうと考えてみると、まず睡眠時間が長い。いつもは遅くまで勉強させられてそれから朝早く起きていたが、昨日は早めに寝て今日も少し遅めの寝覚めだ。そのため、起きた直後から体がだるかった記憶がある。
のそのそとベッドから出てカーテンを開けると、部屋の中に朝食が置かれているのに気づく。どうやら先に置いておいてくれたらしい。
朝食を食べ終えた私はいつもよりも体調がいいことに気づく。
いつも遅くまで魔法の練習や学問の復習であまり寝てなかったせいもあるのだろうか。
そこで私は気づく。いつもは食後に飲んでいた魔力増進薬のせいで体内の魔力が活性化して暴れ回っていたが、今日は不思議と落ち着いているのだ。
そこで私は気づく。
「あれ、ということはもしかして……今なら魔法も使える?」
私が今まで魔法を使えなかったのはどうしても魔力が暴走してしまうからだ。それを私は今まで未熟だからと言われ続けてきたが、体調が悪かったり、周囲のプレッシャーだったり、魔力増進薬だったりのせいで魔力が暴走していたせいではないか。
そう思ってふと私は自室の中で密かに魔法を使う準備をしてみることにしたのだった。
質素な屋敷ではあるが掃除は行き届いており、不潔ではない。私が通された個室もベッドとクローゼット、そしてテーブルがあるだけの不自由はないが簡素な部屋だった。それを見ると改めてオールストン家は裕福だったのだなと感じる。だからといって何とも思わないけど。
部屋に入って実家から持ってきた数少ない荷物を片付けていると、こんこんとドアがノックされた。
「何でしょう」
「お食事でございます」
そう言ってメイドが盆に載った食事を渡してくれる。レイノルズ家では執事やメイドが食べていたような食事だ。
普通貴族の結婚なら輿入れ初日は盛大なパーティーが開かれるし、何かの事情でパーティーが別の日になる場合は相手の家族と団らんするものだと思っていたが、これが歓迎されない結婚の実情らしい。
とはいえ、私は料理の横に普段飲まされていた魔力増進薬がないことにほっとする。材料も高価だし調合できるのも限られた魔術師だけという希少なものだったけど、嫌な思い出しかなかった。
あれをいつも食後に飲まされると思うと、どんなに高級な食材でもまずく思えていたのだった。
「あれ、おいしい……」
そして私は料理を口に入れて気づく。料理は簡単なもので、食材も安く手に入るものが使われているもののはずなのに、実家で食べていたものよりもおいしく感じる。
何でだろう、と思ったがおそらく実家にいたときはいつも父上を始めとする家族の見下すような視線とともに食事をしていたからではないか。食卓になると家族が集合することになり、しかも一族は皆父上ほどではないにしろ魔術の才ある人ばかりだったから私はいるだけで針の筵のようだった。
今も一人でぽつんと食べているという寂しい状況ではあるけど、少なくとも地獄からは解き放たれている。
そんな食事が終わると、メイドが食器を回収しにやってきた。
いつもならその日やった魔法の練習で出来なかったところを復習している時間だが、この家では何をしたらいいのだろうか。
「ところで私はこの屋敷で何かしなければならないこととかある?」
「さあ……私は食事の配膳と洗濯物をとりに行くことしか命じられておりませんので」
「そう」
考えてみればメイドが知っている訳でもないが、先ほどあれほど冷たい態度をとられた侯爵やロルスにまた会いにいくのは少し気まずい。
彼らが私に何かして欲しいことがあるようには思えなかったし、何か言われるまではくつろいでいよう。そう思って私は早めにベッドに入るのだった。
「ふう、いい寝覚め」
翌朝、起きた私はいつもより寝覚めが気持ちいいことに気づいた。明らかに実家よりもベッドの質は劣っているはずなのに。
何でだろうと考えてみると、まず睡眠時間が長い。いつもは遅くまで勉強させられてそれから朝早く起きていたが、昨日は早めに寝て今日も少し遅めの寝覚めだ。そのため、起きた直後から体がだるかった記憶がある。
のそのそとベッドから出てカーテンを開けると、部屋の中に朝食が置かれているのに気づく。どうやら先に置いておいてくれたらしい。
朝食を食べ終えた私はいつもよりも体調がいいことに気づく。
いつも遅くまで魔法の練習や学問の復習であまり寝てなかったせいもあるのだろうか。
そこで私は気づく。いつもは食後に飲んでいた魔力増進薬のせいで体内の魔力が活性化して暴れ回っていたが、今日は不思議と落ち着いているのだ。
そこで私は気づく。
「あれ、ということはもしかして……今なら魔法も使える?」
私が今まで魔法を使えなかったのはどうしても魔力が暴走してしまうからだ。それを私は今まで未熟だからと言われ続けてきたが、体調が悪かったり、周囲のプレッシャーだったり、魔力増進薬だったりのせいで魔力が暴走していたせいではないか。
そう思ってふと私は自室の中で密かに魔法を使う準備をしてみることにしたのだった。
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