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生い立ち
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怒りながら私の前から去っていく父上の姿を私は呆然として見送ることしか出来なかった。
私、レイラはこのオールストン家に生まれて十六年になる。
父上が宮廷魔術師というだけあって幼いころから私は魔術の英才教育を受けてきた。
寝る時は魔力が籠った石を枕の下に入れ、起きると魔力が上がると言われているハーブをふんだんに使った朝食を食べさせられる。そして食後には父上が調合した特性の魔力増進剤と呼ばれている毒々しい色のジュースのようなものを飲む。それを飲むと一瞬ではあるが全身の血液が沸騰するような感覚に襲われ、確かに魔力が高まるような感覚になる。
そして朝起きると、午前中は主に魔術理論や魔術史などの座学を専門の教師に学ばされた。
私は魔法を使うのは下手だったが、幸い座学だけは出来た。基本的に座学はやればやっただけ覚えられるので楽だ。そのためこの時間は数少ない安らぎの時間だったと思う。
とはいえ普通の貴族の子供は文化とか普通の歴史を学ばされるので、気が付くと私は同年代の子供とは知識が根本的に異なっていた。他の貴族令嬢たちが「楽器の練習が大変」「踊りの練習ばかりで足がつる」という話をしていても私は全く話題に入っていけなかった。そのせいで私はほとんど友達も出来なかった。
まあ、父上も私に交友関係は一切期待しておらず、魔術の腕さえ上達すればいいと思っている節はあったけど。
それから午後になると、いよいよ憂鬱な実技の練習をさせられる。
その練習では様々な魔法を使わせられるのだが、幼いころは基本的な魔法であれば練習すれば使えるようになった。
しかし難しい魔法を使おうとするとすぐに魔力が暴走してしまう。どうも私は他の子供に比べて魔力を制御するのが壊滅的に下手らしい。
そして簡単な魔法にたちかえろうとすると、今度は今まで使えた魔法すら暴走するようになっていた。
最初は名家の娘だからと優しかった先生も、父上に怒られたのかだんだん厳しくなっていき、気が付くと私が失敗したときは叩いたり怒鳴ったりするのは当然のようになっていた。
時には夕食の時間になっても指導が終わらなかったり、早朝に呼び出されたりした時もある。
こうして心身ともに疲弊しきっていた時に婚約させられたのがブランドだった。婚約が決まったとき私は喜んだ。父上を始めとする家族には白い目で見られ、先生には怒られ、他に友達もいない。ブランドならそんな私を助けてくれるかもしれない。ブランドの評判しか知らなかった私は希望を抱いた。
私が全然魔法を使えないことは秘匿されていたらしく、実際、最初ブランドは私に対して優しかった。
しかし私の実力を知ったブランドが私を軽蔑し始めるのに時間はかからなかった。
父上もどこかで私の教育に失敗したことに気づきながらも、そのことを外に向かって言えず、「明日こそ突然魔法がうまく使えるようになるのではないか」と思いながら日々過ごしていたのかもしれない。
ブランドと婚約するとますます先生の指導は過酷になっていき、先生が帰った後も夜遅くまで練習をさせられたけど全然改善する気配はなかった。
しかし結局その努力も無駄になり、ついに婚約を破棄されてしまった。
これから私はどうしたらいいのだろう。
そう思っている私の近くを使用人や他の家族が通りかかるが、皆婚約破棄のことを聞いたせいか、私のことは見て見ぬ振りをして通り過ぎていく。
父上によると魔力というのは遺伝的な要素が強いので魔術の名家に生まれた私が魔法をうまく使えないのは私が悪いらしい。
宮廷魔術師である父上の言葉を疑う者がいる訳もなく、気が付くと私は実家の中で「怠惰」「無能」「ろくでなし」と思われるようになっていた。
「はあ、もう知らない」
いつもなら日課の魔術の訓練をしなければならないが、これまで十六年間上達しなかったのに、今更練習したところで無意味だろう。
そう思った私はさっさと自室に戻ってベッドに入る。
普段ならそんなことをすれば「サボりやがって」と激怒されるのだが、今日はもはや見捨てられてしまったせいかそれすらなかった。
もう何もかもどうでもいい、と割り切ったのが良かったのか、その日はショックだったはずなのに今までよりもすぐに寝付くことが出来たのだった。
私、レイラはこのオールストン家に生まれて十六年になる。
父上が宮廷魔術師というだけあって幼いころから私は魔術の英才教育を受けてきた。
寝る時は魔力が籠った石を枕の下に入れ、起きると魔力が上がると言われているハーブをふんだんに使った朝食を食べさせられる。そして食後には父上が調合した特性の魔力増進剤と呼ばれている毒々しい色のジュースのようなものを飲む。それを飲むと一瞬ではあるが全身の血液が沸騰するような感覚に襲われ、確かに魔力が高まるような感覚になる。
そして朝起きると、午前中は主に魔術理論や魔術史などの座学を専門の教師に学ばされた。
私は魔法を使うのは下手だったが、幸い座学だけは出来た。基本的に座学はやればやっただけ覚えられるので楽だ。そのためこの時間は数少ない安らぎの時間だったと思う。
とはいえ普通の貴族の子供は文化とか普通の歴史を学ばされるので、気が付くと私は同年代の子供とは知識が根本的に異なっていた。他の貴族令嬢たちが「楽器の練習が大変」「踊りの練習ばかりで足がつる」という話をしていても私は全く話題に入っていけなかった。そのせいで私はほとんど友達も出来なかった。
まあ、父上も私に交友関係は一切期待しておらず、魔術の腕さえ上達すればいいと思っている節はあったけど。
それから午後になると、いよいよ憂鬱な実技の練習をさせられる。
その練習では様々な魔法を使わせられるのだが、幼いころは基本的な魔法であれば練習すれば使えるようになった。
しかし難しい魔法を使おうとするとすぐに魔力が暴走してしまう。どうも私は他の子供に比べて魔力を制御するのが壊滅的に下手らしい。
そして簡単な魔法にたちかえろうとすると、今度は今まで使えた魔法すら暴走するようになっていた。
最初は名家の娘だからと優しかった先生も、父上に怒られたのかだんだん厳しくなっていき、気が付くと私が失敗したときは叩いたり怒鳴ったりするのは当然のようになっていた。
時には夕食の時間になっても指導が終わらなかったり、早朝に呼び出されたりした時もある。
こうして心身ともに疲弊しきっていた時に婚約させられたのがブランドだった。婚約が決まったとき私は喜んだ。父上を始めとする家族には白い目で見られ、先生には怒られ、他に友達もいない。ブランドならそんな私を助けてくれるかもしれない。ブランドの評判しか知らなかった私は希望を抱いた。
私が全然魔法を使えないことは秘匿されていたらしく、実際、最初ブランドは私に対して優しかった。
しかし私の実力を知ったブランドが私を軽蔑し始めるのに時間はかからなかった。
父上もどこかで私の教育に失敗したことに気づきながらも、そのことを外に向かって言えず、「明日こそ突然魔法がうまく使えるようになるのではないか」と思いながら日々過ごしていたのかもしれない。
ブランドと婚約するとますます先生の指導は過酷になっていき、先生が帰った後も夜遅くまで練習をさせられたけど全然改善する気配はなかった。
しかし結局その努力も無駄になり、ついに婚約を破棄されてしまった。
これから私はどうしたらいいのだろう。
そう思っている私の近くを使用人や他の家族が通りかかるが、皆婚約破棄のことを聞いたせいか、私のことは見て見ぬ振りをして通り過ぎていく。
父上によると魔力というのは遺伝的な要素が強いので魔術の名家に生まれた私が魔法をうまく使えないのは私が悪いらしい。
宮廷魔術師である父上の言葉を疑う者がいる訳もなく、気が付くと私は実家の中で「怠惰」「無能」「ろくでなし」と思われるようになっていた。
「はあ、もう知らない」
いつもなら日課の魔術の訓練をしなければならないが、これまで十六年間上達しなかったのに、今更練習したところで無意味だろう。
そう思った私はさっさと自室に戻ってベッドに入る。
普段ならそんなことをすれば「サボりやがって」と激怒されるのだが、今日はもはや見捨てられてしまったせいかそれすらなかった。
もう何もかもどうでもいい、と割り切ったのが良かったのか、その日はショックだったはずなのに今までよりもすぐに寝付くことが出来たのだった。
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