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ダークドワーフのオルギム

地下牢

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 俺たちが城に向かっている間にも、城中からは屈強な体躯のオーガたちがミリアの方へ向かって出撃していくのが見える。

 ミリアの魔法は途切れることのない雨のように街を襲い、すでに街の半分は壊滅状態であった。
 その隙に俺たちは城壁際までたどり着く。さすがに城門には見張りのオーガが残っており、普通に入るのは難しそうだ。目の前にそびえたつ城壁は大きな岩が積み上げられた高さ数メートルのものだ。

 俺がどうしようと思っていると、オルギムは不意に城壁の一点を見つめ、そちらに向かって歩いていく。そしてその部分の岩を掴むと、一気に引き抜いた。ほとんどの岩は固定されているが、その部分の岩はごろごろと転がっていく。そして人が一人が這って通れるぐらいの穴が空いた。

「よく分かったな」
「オーガの奴らは自分たちがあの巨体だからな。こんな小さな綻びは気にしないのさ」

 そう言われてみればそうかもしれない。俺たちは城壁に空いた穴から這って城内に入る。城内はすでにほぼも抜けの空だったので、俺たちは巨大な城に向かう。周囲をぐるぐる回っていると、やがて窓が空いたままになっている部屋があったのでそこから侵入する。

 中は大柄なオーガたちが通るため、やたら天井が高く、廊下や部屋もやたら広かった。
 いきなり城内に入って道が分かるだろうかと思ったが、城内には案内図のようなものがあった。この城はゴルゴールが最近建造したと言っていたし、慣れぬ者が多いから設置されているのだろう。

 俺たちは石造りの階段を降りて地下に向かう。オーガは夜目が利く者が多いせいか、灯りが設置されていないので俺は魔法の灯りをともす。

 地下に降りていくと、暗くてじめじめした廊下が続いている。案内図には片方は牢獄で、片方は工房と書かれていたので牢獄に向かう。
 牢獄に向かうと、そこには鉄格子で区切られた部屋がいくつもあり、そこにはたくさんのダークドワーフや、それから別件で捕まったと思われる魔族たちが監禁されているのが見える。

 俺たち、というよりは主にオルギムの姿を見たダークドワーフたちは目を輝かせる。彼らは数人ずつに分けて狭い鉄格子の牢獄に生気を失った目で押し込まれていたが、それでも助けが来たことで元気が蘇ったようだった。

「オルギムか!?」「助けに来てくれたのか!?」
「無事だったか!」
「ああ、待遇は悪いが人質としての価値があったから乱暴はされなかった」

 そう答えたのはおそらく最初に連れ去られたドワーフではなく、人間領への旅の途中で魔族に捕まったドワーフだろう。
 それを聞いてオルギムも微妙な表情になる。

「ということはやはり」
「ああ、恭順派はあっちの工房で今も魔導砲を造っていると思う」

 ドワーフの一人が神妙な表情で答える。工房というのはその工房だったのか、と俺は納得した。
 ドワーフたちが無事なのは恭順派がこの城にやってきたからというのは大きいが、ここで脱走すれば彼らを裏切ることになってしまう。

「一応聞くが、逃げるつもりがない者はいるか?」

 オルギムが尋ねると、数人が恐る恐る手を挙げる。
 俺は彼らがいる鉄格子以外の錠に旅の道中に作った魔法の鍵を差し込んでいく。これは物理的な錠前であればどんなものでも開けるという優れものだ。

「そんなものまで作れるのか」
「というか本来こういう魔道具を作るのが得意分野だからな」

 俺が次々と牢を開けていくと、彼らは感心の目で俺を見る。

 牢から出たダークドワーフたちは二十人以上に上り、彼らをまとめて連れていくためには途中で追いかけてくる魔族を蹴散らしながらになるだろう。
 俺たちがぞろぞろと牢を出ると、ちょうど工房のドアが開いて一人の若そうなドワーフが出てくるのが見える。彼はオルギムと、その隣にいる敵意の籠った目で見つめる。

「お前は故郷を捨てて人間に魂を売ろうというのか?」
「いきなり仲間を襲ってくるような魔族に従うことは出来ない」

 もう何十回も繰り返されたやり取りなのだろう、それだけで二人はお互い交わらないことを確認したようだった。
 俺はそんな二人をはらはらしながら見つめる。
 すると若者は腰に差した剣を抜く。

「人質を置いて逃げるなら昔のよしみで見逃してやる」
「悪いがわしらは人質を救いに来たんだ。アルスよ、おぬしは手を出すな。おれはわしらの問題だ」
「分かった」

 そう言われてしまえば俺は手を出すことは出来ない。
 オルギムも背負った斧を構えると前に進んでいく。すると若者は剣を構えてまっすぐにオルギムへ突き進む。血で血を洗う殺し合いになるのか、と思ったがオルギムがすっと斧を振るうと斧の柄が若者の頭を撃ち、あっさりと彼は倒れた。

 続いて工房からさらに何体かのドワーフたちが襲ってくるが、オルギムはあっさりと全員を打ち倒していく。彼らはどちらかというと職人タイプで武術は不得手なのかもしれないが、それにしてもあっという間だった。

「よし、行くぞ」
「やはりオルギムは強いんだな」

 俺が無邪気に感心すると、オルギムは首を横に振る。

「いや、そうではない。彼らは魔族についたが、だからといって人質に捕まっていて欲しい訳ではない。だからわしらが人質を救出するのは問題ないと思っていたが、それを見過ごしては後で魔族にお咎めを受けるかもしれない。だが、戦って倒されたのであれば魔族も彼らを責めることはないだろう」
「なるほど」

 オルギムの言葉に俺は今度こそ本気で感心した。
 敵味方に分かれてもなおお互いを繋ぐ仲間意識のようなものがあるらしい。オルギムの言葉を聞いても人質だった者たちは当たり前のようにしている以上、皆似たような意識を持っているのだろう。俺は彼らを羨ましいなと思いながら城を出るのだった。
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