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ダークドワーフのオルギム
ダークドワーフたちの決断
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「今度は誰だ!?」
「俺だ、オルギムだ」
とはいえその声は疲れ果てていた。最初に魔族たちに囲まれていたのを助けていた時よりも疲労感が強い。
俺はすぐに立ち上がると、家のドアを開ける。するとそこにはぼろぼろの服をまとい、息をきらしたオルギムと、その仲間と思われる三人のダークドワーフがいた。
「とりあえず中に入ってくれ」
「怪我はありませんか?」
ミリアが尋ねる。
「大丈夫だ。全部途中で雑魚魔族に会っただけで傷自体は大したことはねぇ」
「ではお茶どうぞ」
ミリアは彼らに人数分のお茶を注いで出す。彼らは出されたお茶を一気に飲み干す。彼らが席について一息ついたところで俺は尋ねる。
「一体何があったんだ?」
「あれから俺は集落に戻って話をした。王国は混乱していてすぐに軍勢を出すのは無理だ。だから魔族に屈するか、王国に移住するか、もしくは玉砕覚悟で魔族に戦いを挑むのか、と」
そう言ってオルギムは一息つく。
「そしたら案の定、いや思った以上に議論は紛糾した。そしてきれいに三派に分かれちまったんだ。人間が頼りにならないならもはや魔族に協力するしかない、という者。いわゆる現実路線を歩む者たちだが、ここには人質にとられた者の家族や友も加わっている。そして次はやはり魔族に膝を屈するのは嫌だし、人間側が煮え切らない態度なら独力で魔族を迎え撃つ、という者たち。どちらかというとこれまで独立を守って来た年寄連中に多いな」
人間だけでなくダークドワーフにも世代間ギャップのようなものはあるらしい。もっとも彼らは人間より寿命が長いからギャップの規模も大きいのだろうが。
「そして最後が、脅迫してきた魔族よりは人間たちの元に避難しようという勢力。まあわしらだな。利害関係で考えている者たち、誇りで動いている者たち、後は個人的な好き嫌いで判断する者たちもいて議論はまとまらなかった」
ずっと狭いコミュニティーを築いてきたダークドワーフたちでもそこまで揉めるのか、と思ったがいつも内輪揉めばかりしている人間に比べればまだましなのかもしれない。
「そしてついに事件は起きた。魔族恭順派はあくまで魔族のために魔導砲を造ることを訴えたが、拒否された。そしてそのままゴルゴールの元へと逃亡したんだ」
「何だと!?」
「それを聞いて徹底抗戦派は邪魔者がいなくなった、と決意を固めた。そして自分たちの棲み処に要塞を築き、武器を量産して魔族と戦う体制を固めた。とはいえ集落には徹底抗戦派だけでなく女子供もいる。そこでわしらは皆で集落を抜け出そうと思ったのだが、大移動になったため魔族との遭遇戦になり、散り散りになったという訳だ」
「そうか……」
それを聞いてすぐに言葉が出なかった。ダークドワーフたちの中でどの判断をとった者の気持ちも分かるし、人質や自分の命を大事に思って魔族の元に走る気持ちも分かる。
だからといって今の王国にダークドワーフたちに援軍を出す余力もなかった。そう考えると誰も悪くはなかったはずなのに、気が付くと最悪の事態になってしまっている。
「そして、こういう事態になってしまった以上ゴルゴールが先にわしらの集落に軍を向けるのか、人間を攻撃するのかは分からないな……ところでそちらの方は?」
そう言ってオルギムはミリアの方を見る。言われてみれば彼女は前にオルギムが来た時はいなかった。
オルギムに尋ねられたミリアは一礼して自己紹介する。
「私はオルメイア魔法王国の第三王女のミリアと申します。色々事情はあったのですが、王国からこちらの様子の視察に派遣されてきました」
「は? 王女?」
ミリアの自己紹介にオルギムは困惑した表情を浮かべる。誰でもそう思うだろうな。
それからしばらくダークドワーフの仲間たちやミリアの自己紹介などで雑談が繰り広げられる。
その間、俺はこれからどうするのか色々と考える。ダークドワーフたちの将来だけを考えるならこのままそれぞれの選択を尊重するのがいいだろう。しかしそうすると最悪の場合、魔族が魔導砲を完成させてダークドワーフを無視してこちらに攻めてくることがある。
人間の利益だけを考えるのであれば魔導砲の完成を妨害するのが最善だろう。
「ところで魔導砲というのは造るのにどのくらいかかるんだ?」
「どうだろうな。魔族が本気で協力すれば一月はかからないのではないか?」
俺の言葉にオルギムは険しい表情で答える。一月では王国の再建は難しいだろう。
「ではオルギムはどうしたいというのはあるか?」
「こうなってしまった以上、我らとしては人間社会で暮らしたい者だけを集めて移住出来ればそれでいい。他の道を選んだ者たちのことは彼らが考えることだ」
「オルギムの一行はどのくらいいたんだ?」
「五十以上はいたな」
「彼らの行方は分かるか?」
「分からない。中には魔族に捕らえられた者もいるかもしれない」
「助けようにも行方は分からないと言うことか」
「そうだな」
オルギムの表情は暗い。
どうにかオルギムの要望を叶えつつ、魔導砲の建造を阻止する方法があればいいのだが、と俺は考えるのだった。
「俺だ、オルギムだ」
とはいえその声は疲れ果てていた。最初に魔族たちに囲まれていたのを助けていた時よりも疲労感が強い。
俺はすぐに立ち上がると、家のドアを開ける。するとそこにはぼろぼろの服をまとい、息をきらしたオルギムと、その仲間と思われる三人のダークドワーフがいた。
「とりあえず中に入ってくれ」
「怪我はありませんか?」
ミリアが尋ねる。
「大丈夫だ。全部途中で雑魚魔族に会っただけで傷自体は大したことはねぇ」
「ではお茶どうぞ」
ミリアは彼らに人数分のお茶を注いで出す。彼らは出されたお茶を一気に飲み干す。彼らが席について一息ついたところで俺は尋ねる。
「一体何があったんだ?」
「あれから俺は集落に戻って話をした。王国は混乱していてすぐに軍勢を出すのは無理だ。だから魔族に屈するか、王国に移住するか、もしくは玉砕覚悟で魔族に戦いを挑むのか、と」
そう言ってオルギムは一息つく。
「そしたら案の定、いや思った以上に議論は紛糾した。そしてきれいに三派に分かれちまったんだ。人間が頼りにならないならもはや魔族に協力するしかない、という者。いわゆる現実路線を歩む者たちだが、ここには人質にとられた者の家族や友も加わっている。そして次はやはり魔族に膝を屈するのは嫌だし、人間側が煮え切らない態度なら独力で魔族を迎え撃つ、という者たち。どちらかというとこれまで独立を守って来た年寄連中に多いな」
人間だけでなくダークドワーフにも世代間ギャップのようなものはあるらしい。もっとも彼らは人間より寿命が長いからギャップの規模も大きいのだろうが。
「そして最後が、脅迫してきた魔族よりは人間たちの元に避難しようという勢力。まあわしらだな。利害関係で考えている者たち、誇りで動いている者たち、後は個人的な好き嫌いで判断する者たちもいて議論はまとまらなかった」
ずっと狭いコミュニティーを築いてきたダークドワーフたちでもそこまで揉めるのか、と思ったがいつも内輪揉めばかりしている人間に比べればまだましなのかもしれない。
「そしてついに事件は起きた。魔族恭順派はあくまで魔族のために魔導砲を造ることを訴えたが、拒否された。そしてそのままゴルゴールの元へと逃亡したんだ」
「何だと!?」
「それを聞いて徹底抗戦派は邪魔者がいなくなった、と決意を固めた。そして自分たちの棲み処に要塞を築き、武器を量産して魔族と戦う体制を固めた。とはいえ集落には徹底抗戦派だけでなく女子供もいる。そこでわしらは皆で集落を抜け出そうと思ったのだが、大移動になったため魔族との遭遇戦になり、散り散りになったという訳だ」
「そうか……」
それを聞いてすぐに言葉が出なかった。ダークドワーフたちの中でどの判断をとった者の気持ちも分かるし、人質や自分の命を大事に思って魔族の元に走る気持ちも分かる。
だからといって今の王国にダークドワーフたちに援軍を出す余力もなかった。そう考えると誰も悪くはなかったはずなのに、気が付くと最悪の事態になってしまっている。
「そして、こういう事態になってしまった以上ゴルゴールが先にわしらの集落に軍を向けるのか、人間を攻撃するのかは分からないな……ところでそちらの方は?」
そう言ってオルギムはミリアの方を見る。言われてみれば彼女は前にオルギムが来た時はいなかった。
オルギムに尋ねられたミリアは一礼して自己紹介する。
「私はオルメイア魔法王国の第三王女のミリアと申します。色々事情はあったのですが、王国からこちらの様子の視察に派遣されてきました」
「は? 王女?」
ミリアの自己紹介にオルギムは困惑した表情を浮かべる。誰でもそう思うだろうな。
それからしばらくダークドワーフの仲間たちやミリアの自己紹介などで雑談が繰り広げられる。
その間、俺はこれからどうするのか色々と考える。ダークドワーフたちの将来だけを考えるならこのままそれぞれの選択を尊重するのがいいだろう。しかしそうすると最悪の場合、魔族が魔導砲を完成させてダークドワーフを無視してこちらに攻めてくることがある。
人間の利益だけを考えるのであれば魔導砲の完成を妨害するのが最善だろう。
「ところで魔導砲というのは造るのにどのくらいかかるんだ?」
「どうだろうな。魔族が本気で協力すれば一月はかからないのではないか?」
俺の言葉にオルギムは険しい表情で答える。一月では王国の再建は難しいだろう。
「ではオルギムはどうしたいというのはあるか?」
「こうなってしまった以上、我らとしては人間社会で暮らしたい者だけを集めて移住出来ればそれでいい。他の道を選んだ者たちのことは彼らが考えることだ」
「オルギムの一行はどのくらいいたんだ?」
「五十以上はいたな」
「彼らの行方は分かるか?」
「分からない。中には魔族に捕らえられた者もいるかもしれない」
「助けようにも行方は分からないと言うことか」
「そうだな」
オルギムの表情は暗い。
どうにかオルギムの要望を叶えつつ、魔導砲の建造を阻止する方法があればいいのだが、と俺は考えるのだった。
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