上 下
43 / 56
アイシャと王都

クルトとの再会

しおりを挟む
 今後どうするかを決めかねて王宮で日々を過ごしていたある日のことである。
 一人の兵士が俺の部屋にやってくる。

「アルス様、もし不快に思われたら仕方がないのですが、クルトに会われますか?」
「クルト? そうだ、そう言えばあいつは今どうしていたんだったか?」

 そう言えばアイシャに王都の話を聞いた時も、クルトの名前は出てこなかった。事態は解決したからどうでもいいと言えばいいのだが、そう言われると気になる。

「はい、彼は賢者の石の暴走を抑えられなかったためエレナに使えないと判断され、賢者の石に魔力を吸われるための犠牲として閉じ込められておりました」

 エレナと一緒に俺を裏切ったはいいが、そのエレナにも早々に切り捨てられたらしい。
 エレナからすれば賢者の石が暴走したのは話が違うことだろうし、クルトからすれば利用するだけされて捨てられたというところだろう。

「近いうちに今回の騒動の原因を作ったということで処刑される訳ですが、一応アルス様も言いたいことがあるかもしれないと思いまして。何もなければそのまま処刑されると思います」
「今回はほぼエレナが主犯だったから忘れていたぐらいだし、どうでもいいが……。最後に一言ぐらい声をかけておくか。会わせてくれ」
「分かりました」

 そう言って兵士は俺を王宮の地下にある牢に案内する。
 地下牢では今回の騒ぎで味方したエレナ派の主だった者のうち逃げ遅れた者たちが何人も拘束されていたが、そのうちの一室に魔法封じの鎖で拘束されたクルトがうつろな目で閉じ込められていた。

 が、俺と兵士の姿を見ると彼の目に突然生気が戻る。

「師匠、師匠じゃないですか!」

 いきなり師匠と呼びかけられ俺は鳥肌が立つ。

「もう俺は師匠じゃないと言ったのはお前だろ、クルト」
「ち、違うんです! これは全部エレナに騙されていたことなんです! あいつが全部悪いんです!」

 クルトは熱烈に訴えてくる。それを聞いて俺は失望した。彼の人格にがっかりしたというのもあるが、こんな奴に足元を掬われた自分の間抜けさにも失望する。

「一応聞いてやるが、俺を嵌める話はどっちから持ち掛けたんだ?」
「もちろんエレナからです! エレナは師匠を嫌っていたので、錬金術の相談などがあれば全て僕を誘っていたのです! そこで僕はエレナの演技に騙されて親しくなったと思ってしまい、ある日例の計画を持ちかけられたのです!」
「俺の知らぬ間に王女と仲良くなっていたのか」
「違うんです! それもこれも全てエレナに騙されていたんです!」

 そう言ってクルトは目から涙を流す。

「では俺を嵌める件はどちらから言い出したんだ?」
「もちろんエレナです! 僕は師匠が禁忌魔術の研究を行っているという嘘を吹き込まれて騙されただけです!」
「じゃああの偽の証拠は誰が俺の工房に隠したんだ?」
「……」

 俺の言葉にそれまで流暢にしゃべっていたクルトは急に沈黙する。
 しかし俺は工房にはほぼ常駐していたし、そうでない時も誰かしらかの弟子はいたはずだ。エレナやエレナの命令を受けた兵士が入ってこればすぐに分かる。

「あんなものを俺の工房に隠せるのはお前ぐらいしかいないんだ」
「……」

 即座に論破され、クルトは沈黙する。

「まあいい、別にお前がどう弁解しようと他人を陥れ、石を暴走させて国を滅亡寸前に追いやった罪が許される訳ではない。せいぜいあの世でエレナと罪のなすりつけ合いでもするがいい」
「そ、そんな! 待ってください! 僕と師匠の仲じゃないですか!」
「うるさい! この期に及んでまだ助かろうとするのか!? 見苦しいぞ!」
「くそ、エレナめ……僕を担いだうえで途中で監禁し、あまつさえ最終的に僕を捨てるなんて許せん……」

 最後までクルトはエレナの悪口を言っていた。こいつとこれ以上話しても何も言うことはない。そう思った俺は黙って引き返したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

処理中です...