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ダークドワーフのオルギム

魔族の動向

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「我らは砦周辺を数人ずつのグループを使って哨戒しているのですが、このごろ結界付近をうろうろしている魔族の姿がよく見られるのです。最初はゴブリンのような下級魔族ばかりだったので深い意味はないのかと思っていましたが、時折アークオーガのような比較的知能が高い魔族も見かけるようになったのです。もちろん見つけ次第撃退するようにはしているのですが、中には結界に魔法をかけて何らかの検証を行っている者もいる様子」

 ラザルの言葉に俺は眉をひそめた。アークオーガと言えばオーガの中でも知能が高く、特に魔力に優れている。なかなか前線をうろうろしていることは少なく、魔族側が本格的に結界の調査に入ったと見ていいだろう。

「他に魔族たちに変わったところはあったか?」
「他には我らの観測範囲ではあまりないですね」

 魔族が結界の突破を考えているが、どの程度本気なのか、どこまで進んでいるのかはよく分からない。

「でも、結界はそんなに簡単に破れたりしないですよね?」
「そうだな。だが魔族が大挙して押し寄せてくればそんなに簡単でないことが起こるかもしれない。まあでも、今はまだ調査の魔族がうろうろしているということだろう? それはまだ奴らが手がかりを得られていないからじゃないか?」
「そ、そうですね」

 特に確証がある訳ではなかったが、とりあえず俺はラザルたちを安心させるように言う。

「では、いったんこの話は終わりにしてアルスさんの帰還を祝ってパーティーでもしましょう」

 そう言ってラザルは荷車から食材と酒を降ろす。王宮で行われていたパーティーに比べれば、パンや焼いただけの肉がテーブルに並ぶ粗末なものだったが、一つありがたいのはたくさんの酒があることだ。王宮のパーティーでは酒は少量しか出ないし、たくさん出たとしても怖くてあまり飲むことは出来ない。しかしここでなら多少のはめをはずしても大丈夫だろう。
 こうして俺たちはその日は夜遅くまで楽しんだのだった。



 翌朝、少し遅い時間に俺は目を覚ます。

「う……少し飲みすぎたな。ミリア、水」

 そう言って俺はこの家にミリアはいないことを思い出す。

「どれだけ魔法が使えても人として自立しないとだめだよな……」

 俺はふらつく足を引きずってキッチンに行き、水を飲む。意識は多少クリアになったが、今度は空腹を覚える。しかし前までは黙っていても出てきた朝食は今は誰も作ってくれない。

「おはよう……」

 ちなみにマキナも眠い目をこすって起きてきたところだったので何も期待できない。仕方なく俺はもらった食糧の中からパンを二人分取り出し、マキナに渡す。
 二人でパンをかじっていると少しずつ目が覚めてくる。

「とりあえず、今日は俺たちも結界付近を見回りしてみよう。何かが見つかるかもしれん」
「分かった」

 お互い元々そんなにしゃべる方でもない上に、王都から戻ってくるときからずっと二人で旅をしていたため特に話題もなく、黙々と準備をして黙々と出発する。
 もはや誰に追われることもない俺は悠々と結界周辺を歩く。砦周辺は兵士がいるだろうから、俺たちはそこそこ離れたところを歩いていた。すると遠くに、ゴブリンたちが数匹、結界を棍棒でつついたり、中に入ろうとして遮られたりしているのが見えた。

「早速見つかったか。ならば……」

 そう言って俺が魔法を発動しようとした時だった。

「待ってくれないか?」

 不意にマキナが俺を止める。

「どうした?」
「ちょっとわらわに試してみたいことがある」

 そう言ってマキナは右手をゆっくりと魔王の状態へ変異させる。最近は彼女も慣れてきたようで、右手だけの変異であればすんなりと行えるようになっていた。

「ゴブリンよ……こちらに来い」

 するとゴブリンの群れのうち二匹ほどがマキナの権能に釣られてふらふらとこちらに歩いて来る。そう言えばマキナの力を使えば下級魔族程度であれば操ることが出来るのか。

「………」

 マキナがゴブリンたちに向かって俺には分からない言葉で何かを言う。

「………」

 ゴブリンたちもそれに答えるように何かを言った。そんなやりとりを数度繰り返すと、マキナの支配が解けてゴブリンたちは帰っていく。

「すごいな、そんなことまで出来るのか」
「まあ、相手が下級魔族だからな」

 とは言うものの、マキナは満更でもなさそうだ。

「それで何て言ってたんだ?」
「うむ、彼らは四天王の一人、剛勇のゴルゴールというオーガ最強の者の家来の家来らしい。主から結界について調べてこいと言われて困っていたそうだ」
「だろうな」

 ゴブリンごときにどうにかなる結界を作った覚えはない。

「ちなみに、彼らは具体的には分かっていないが、ゴルゴールは結界を破壊するために何か兵器のようなものを造りに北方の山に向かったという」
「兵器か。なるほど」

 魔道具には魔道具で対抗するということだろうか。

「ちなみにその山はどんなところなんだ?」

 魔族の領土であるため俺たち人間は詳しくは知らない。

「そこは確かダークドワーフと呼ばれる特殊なドワーフたちが棲んでいるらしい。彼らもドワーフと同等かそれ以上に鍛冶が得意だからその力を使うのだろう」

 魔族がすごい魔道具を作るという話はあまり聞かないが、ドワーフは鍛冶に長けている種族という印象がある。

「なるほど。それならそこに行ってみるか」

 俺は軽い気持ちで言った。だが、マキナは微妙な顔をする。

「ダークドワーフがドワーフと違うのは、その昔魔族と交配したことがあり、魔族の魔力を体内に取り込んでいるからだ。そのため普通のドワーフや人間とは対立関係にある。もちろん魔族ともそこまで仲がいい訳でもないが、アルスが言ってどうにかなるかは分からないぞ」
「なるほど」

 そんな複雑な事情があったとは。とはいえただ座して待つのもいかがなものか、と思った時だった。かすかに遠くからではあるが金属が打ち合うような戦いの音が聞こえてくる。
 俺は思考を打ち切ってとりあえずそちらへ向かうことにした。
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