上 下
42 / 56
アイシャと王都

その後

しおりを挟む
「う……ここは……」

 目を覚めると、俺の上には知らない天井が見える。体には多少の気だるさがあるが、特に異常はないらしい。そうだ、俺は賢者の石を直そうとして石に魔力を吸われ過ぎて意識を失ったんだということを思い出す。

「はっ、石は大丈夫だったのか!?」

 俺はそう言って上体を起こす。

「アルスさん!?」
「アルス!?」

 すると俺の傍らにいたミリアが声を上げる。その隣にはマキナもいてくれた。ミリアは久し振りに、王女らしい純白のドレスをまとっていて少し新鮮だ。

「ここは? あれからどうなったんだ?」
「落ち着いてください。石の件は解決しました。今では正常な状態に戻っています。はい、お水です」

 そう言ってミリアは水の入ったコップを渡してくる。ずっと寝ていたせいか喉がからからになっていたので水がしみ渡るようだ。
 とりあえず石が無事戻ったようでひとまずほっとする。

「そうか。そもそも俺は何日ぐらい寝ていたんだ?」
「三日ですね。医者の方によると急激に魔力を吸われたことによるショックみたいなものらしいので、魔力さえ回復すれば治るとのことです」
「そうか。それで、諸々のことはどうなったんだ?」

 石以外にも王宮には様々な問題があったはずだ。
 するとミリアは少し複雑そうな表情で話し始める。

「そうですね、あの後王宮はしばらく大騒ぎになりました。エレナが死んだ後、ケイン殿下の他に大臣のムムーシュも味方を集めて権力を握ろうとしたのです。ムムーシュというのは言うなればエレナ派の筆頭で、残ったエレナ派の貴族や兵士を集めて引き続き権力を握ったままでいようとしたのです。しかしエレナの死によりエレナ派の半分以上が逃亡し、ムムーシュの元に残った者はわずかでした。そのため、無事ケイン殿下がムムーシュ軍を破り、思いつめたムムーシュは自殺したようです」
「そうか。しかしエレナ派というのはそんなに多かったのか?」
「金や権力に釣られてなびいた者が半数、命令には逆らえない、と消極的に協力してきた者が半数という感じでしょうか。しかしエレナの死により反エレナ派からの復讐を恐れ、逃亡や抗戦を選んだようです」
「なるほど」

 よほど悪辣な者を除けば、今後は考えを改めて新しい王国の再建に力を尽くして欲しいという気持ちもあったが、エレナに恨みを持つ者からすれば許せないだろう。

「じゃあ今は王宮に人はあまりいないのか?」
「そうですね。そもそもエレナ派がほとんど逃亡か討死した上、そもそもエレナに敵対していた者たちはほとんどエレナの生前に追放されていたため、今は賢者の石の部屋に閉じ込められていた者たちで王国の再建を頑張っているところです」

 確かに閉じ込められていたということはどっち派でもなかったから恨みをかっていないのか、と俺は妙なことに納得してしまう。
 よく見るとミリアも目元に隈が出来ており、疲れているようだった。

「それでミリアも頑張っているのか?」
「そんな大層なものではないですが、何分人手が足りないもので」

 これまで蚊帳の外であったが、急に人がいなくなったのでミリアも王族として政治に関わらなければいけなくなったのだろう。特に慣れない彼女からすれば大変なことだらけに違いない。

「悪いな、そんな中俺の看病までしてもらって」
「い、いえ。むしろこちらの方が個人的には重要なので!」
「ありがとう」
「ところでアルスはこれからどうするのだ?」

 ふとマキナが尋ねる。そう言えばマキナは王国のごたごたとは全く関係ない立場にあるから手持無沙汰なのか。

「うーん、特に考えてはなかったな」

 国外追放を命じたエレナはいなくなった訳だし、宮廷錬金術師に復帰しようと思えばそれも出来るだろう。しかし一度ごたごたに巻き込まれた俺は王宮の政治的なごたごたに嫌気が差しているのも事実であった。それに俺が王宮に戻れば、マキナはどうなるのだろう。彼女の正体がばれないように近くに住むことも不可能ではないかもしれないが、万一の時は大変なことになる。かといって一人にするのはありえない。

「今後も石に何かあるかもしれませんし、また王都で暮らしませんか?」

 ミリアは俺を誘ってくれる。そうか、ミリアもエレナが死んだ以上普通に王都に戻るのか、ということに思い至る。マキナは放っておけないが、ミリアと別れるのも寂しい。

「どうするかな。まあ急ぐこともなくなった訳だし、今後についてはゆっくり考えてみる」

 だが、俺はこの時王都の人間関係の面倒くささをすっかり忘れていた。ミリアが仕事で立ち去った後、入れ替わり立ち代わり様々な人間がやってきて俺の病気祝いと、気の早い者は復帰祝いまで述べていった。
 やってきたのは貴族や役人などに加えて、宮廷錬金術師時代に交流があった魔術師、さらには元弟子など様々だった。
 そして彼らの怒涛の見舞が終わるともう夜も遅くなっていた。

「ああ、疲れた。やっぱり王都は面倒だな」

 彼らの中には今後大きな力を持つであろう俺と仲良くしたいという者もいたが、大部分はいわれのない罪で追い出された俺が戻ることを素直に祝ってくれていた。

 特にアイシャとケインは俺へのお礼を言ってくれた上、欲しいものがあれば恩賞としてくれるとも言ってくれた。
とはいえ一度国外でのひっそりした暮らしに慣れてしまうと、たくさんの人に称賛されることにわずらわしさを感じてしまう。

 こうして俺は決断がつかないまま、しばらく王都で過ごすのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...