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アイシャと王都

その後

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「う……ここは……」

 目を覚めると、俺の上には知らない天井が見える。体には多少の気だるさがあるが、特に異常はないらしい。そうだ、俺は賢者の石を直そうとして石に魔力を吸われ過ぎて意識を失ったんだということを思い出す。

「はっ、石は大丈夫だったのか!?」

 俺はそう言って上体を起こす。

「アルスさん!?」
「アルス!?」

 すると俺の傍らにいたミリアが声を上げる。その隣にはマキナもいてくれた。ミリアは久し振りに、王女らしい純白のドレスをまとっていて少し新鮮だ。

「ここは? あれからどうなったんだ?」
「落ち着いてください。石の件は解決しました。今では正常な状態に戻っています。はい、お水です」

 そう言ってミリアは水の入ったコップを渡してくる。ずっと寝ていたせいか喉がからからになっていたので水がしみ渡るようだ。
 とりあえず石が無事戻ったようでひとまずほっとする。

「そうか。そもそも俺は何日ぐらい寝ていたんだ?」
「三日ですね。医者の方によると急激に魔力を吸われたことによるショックみたいなものらしいので、魔力さえ回復すれば治るとのことです」
「そうか。それで、諸々のことはどうなったんだ?」

 石以外にも王宮には様々な問題があったはずだ。
 するとミリアは少し複雑そうな表情で話し始める。

「そうですね、あの後王宮はしばらく大騒ぎになりました。エレナが死んだ後、ケイン殿下の他に大臣のムムーシュも味方を集めて権力を握ろうとしたのです。ムムーシュというのは言うなればエレナ派の筆頭で、残ったエレナ派の貴族や兵士を集めて引き続き権力を握ったままでいようとしたのです。しかしエレナの死によりエレナ派の半分以上が逃亡し、ムムーシュの元に残った者はわずかでした。そのため、無事ケイン殿下がムムーシュ軍を破り、思いつめたムムーシュは自殺したようです」
「そうか。しかしエレナ派というのはそんなに多かったのか?」
「金や権力に釣られてなびいた者が半数、命令には逆らえない、と消極的に協力してきた者が半数という感じでしょうか。しかしエレナの死により反エレナ派からの復讐を恐れ、逃亡や抗戦を選んだようです」
「なるほど」

 よほど悪辣な者を除けば、今後は考えを改めて新しい王国の再建に力を尽くして欲しいという気持ちもあったが、エレナに恨みを持つ者からすれば許せないだろう。

「じゃあ今は王宮に人はあまりいないのか?」
「そうですね。そもそもエレナ派がほとんど逃亡か討死した上、そもそもエレナに敵対していた者たちはほとんどエレナの生前に追放されていたため、今は賢者の石の部屋に閉じ込められていた者たちで王国の再建を頑張っているところです」

 確かに閉じ込められていたということはどっち派でもなかったから恨みをかっていないのか、と俺は妙なことに納得してしまう。
 よく見るとミリアも目元に隈が出来ており、疲れているようだった。

「それでミリアも頑張っているのか?」
「そんな大層なものではないですが、何分人手が足りないもので」

 これまで蚊帳の外であったが、急に人がいなくなったのでミリアも王族として政治に関わらなければいけなくなったのだろう。特に慣れない彼女からすれば大変なことだらけに違いない。

「悪いな、そんな中俺の看病までしてもらって」
「い、いえ。むしろこちらの方が個人的には重要なので!」
「ありがとう」
「ところでアルスはこれからどうするのだ?」

 ふとマキナが尋ねる。そう言えばマキナは王国のごたごたとは全く関係ない立場にあるから手持無沙汰なのか。

「うーん、特に考えてはなかったな」

 国外追放を命じたエレナはいなくなった訳だし、宮廷錬金術師に復帰しようと思えばそれも出来るだろう。しかし一度ごたごたに巻き込まれた俺は王宮の政治的なごたごたに嫌気が差しているのも事実であった。それに俺が王宮に戻れば、マキナはどうなるのだろう。彼女の正体がばれないように近くに住むことも不可能ではないかもしれないが、万一の時は大変なことになる。かといって一人にするのはありえない。

「今後も石に何かあるかもしれませんし、また王都で暮らしませんか?」

 ミリアは俺を誘ってくれる。そうか、ミリアもエレナが死んだ以上普通に王都に戻るのか、ということに思い至る。マキナは放っておけないが、ミリアと別れるのも寂しい。

「どうするかな。まあ急ぐこともなくなった訳だし、今後についてはゆっくり考えてみる」

 だが、俺はこの時王都の人間関係の面倒くささをすっかり忘れていた。ミリアが仕事で立ち去った後、入れ替わり立ち代わり様々な人間がやってきて俺の病気祝いと、気の早い者は復帰祝いまで述べていった。
 やってきたのは貴族や役人などに加えて、宮廷錬金術師時代に交流があった魔術師、さらには元弟子など様々だった。
 そして彼らの怒涛の見舞が終わるともう夜も遅くなっていた。

「ああ、疲れた。やっぱり王都は面倒だな」

 彼らの中には今後大きな力を持つであろう俺と仲良くしたいという者もいたが、大部分はいわれのない罪で追い出された俺が戻ることを素直に祝ってくれていた。

 特にアイシャとケインは俺へのお礼を言ってくれた上、欲しいものがあれば恩賞としてくれるとも言ってくれた。
とはいえ一度国外でのひっそりした暮らしに慣れてしまうと、たくさんの人に称賛されることにわずらわしさを感じてしまう。

 こうして俺は決断がつかないまま、しばらく王都で過ごすのだった。
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