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魔王の娘 マキナ

マキナと魔王の力

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「う……ここは……」

 それから数時間後。再び俺の家のベッドに寝かされていたマキナが目をこすりながら上体を起こす。それを見て俺とミリアはほっとした。起き上がったのも嬉しかったが、あの時の我を忘れたマキナではなく、いつものマキナに見えたからだ。

「大丈夫か?」
「ああ、わらわは何ともないが……は」

 そこでマキナは魔王化していた時のことを思い出したのか、愕然とした表情になる。

「わらわは何ということをしてしまったのだろう。アルス、ミリア、怪我はないか?」
「大丈夫だ、俺たちには傷一つついていない」

 マキナを安心させるためにそう言うが、彼女の表情は浮かない。

「そうか……だが危うく取り返しのつかないところになるところだった」

 そう言ってマキナは肩を落とす。
 新事実が明らかになったとはいえ、当初は俺たちを殺そうとしていたマキナが今では危害を加えそうになったことを反省しているというのは大きな進展だった。
 マキナはしばし落ち込んでいたが、やがて大きく息を吸うと決心したように言う。

「命を助けてもらい、幼いころの事件の謎も解き明かされたというのにわらわは逆におぬしを傷つけようとしてしまった。だからわらわにもここで恩返しをさせてもらえないだろうか」
「あ、ああ」

 マキナは人間の社会に戻すことも出来ないし、かといって放っておけばまた魔族に絡まれる可能性もある。そのため俺はどの道マキナをしばらくはうちに置いておこうと思っていたが、マキナの方からそれを申し出てくるとは。

「ミリアは、それでも問題ないだろうか?」

 なぜかマキナはミリアに対して遠慮がちに尋ねる。

「大丈夫です。でも、だからといって譲るつもりはありませんので」
「わ、わらわは別にそういうのではない!」

 ミリアの言葉になぜかマキナは真っ赤になって狼狽する。二人の間では通じているようだが俺には何のことだか分からない。

「おい、何の話だ?」
「こ、こればかりは乙女の秘密です! アルスさんにも言えません」
「そうだ。おぬしは気にせずいつも通りにしていればよい」

 二人にそう言われてしまっては釈然としないが、俺としてはこれ以上突っ込むことも出来ない。

「ではマキナさんの快気祝いをしましょうか。実は、今日はカレーを用意していたんです」

 ミリアが言った瞬間、ぐぅ~、とマキナのお腹が鳴る。こうして俺たちは再び日常へ戻っていくのであった。



 翌朝、あんなことはあったものの俺たちは普通に食卓を囲んでいた。
 自分の前に並べられたパンとスープを見てマキナは目を丸くする。

「人間の社会では毎朝こうして温かいご飯が出てくるのか!?」
「むしろ魔族たちは朝食はどうしてるんですか?」
「上級魔族は下級が持ってきた肉とかを食っている。下級魔族はその辺の動物を狩ってそのまま食べているな」
「よくそんなところで暮らしていましたね」

 料理好きなミリアからすると信じられない世界だろう。いや、俺から見ても十分信じられないが。
平凡な一軒家の内装なのに、王女のミリアだけでなく黒のゴシックドレスに身を包んでいるお嬢様のような風貌のミリアがいると違和感がすごい。もし魔族がちょっかいをかけてこなければ、マキナも来たことだし家をもう少し立派にしたい、と俺は思う。

「そう言えば、昨日以来どうもわらわは魔王の力の一部に目覚めたようなのだ」

 おもむろにマキナが言う。

「もしかして、あれが意図的に制御できるのか?」
「多分だが、今のわらわがまた全身であの形態になるとおそらく暴走してしまう。だが、身体の一部であれば大丈夫そうなのだ」

 そう言ってマキナは袖をまくると、突然右腕だけを変異させてみせる。その様子はまるで俺が前に倒した四天王ガウゼルのようでもあった。上位の魔族は皆そういうことが出来るのだろうか。

「ちなみにマキナはどんなことが得意なんだ?」
「そうだな、戦いで言えば魔法よりは剣の方が得意だったな。だからこの力があってもここで暮らすのには役に立たないかもしれぬ」

 とはいえ、ミリアの力が異常なだけで普通はそうそう都合よく生活の役に立つ力を持っている訳ではない。

「一応、今日は外に出てどんな力が使えるか確認してみるか? 今後も魔族たちがちょっかいをかけてこないとは言い切れないからな」
「ではよろしく頼む」

 今回はどうにか防いだが、マキナが魔王の娘であればまた誰かが連れ去りにくるかもしれない。その時にマキナが暴走せずに身を守れるようになっておいた方がいいだろう。そんな訳で、俺たちは朝食を食べ終えると家の外に出た。

 色々あったものの、家の前では俺とミリアが作った家庭菜園が順調に、そして恐るべきスピードで育っている。これのおかげで毎日新鮮な野菜を食べられているのだが、そろそろ肉も食べたいと思いつつ俺は土に魔力を注ぐ。肉はラザルが持ってきてくれた物資の中に入っていた干し肉ばかりで、普通の肉はなかなか食べることが出来ない。

「もしやこの菜園はおぬしが作ったのか?」
「俺が、というよりは俺とミリアでだな」
「そうか、幼いころは人間の村で暮らしていたが、ここまで育っている菜園は見たことない」

 マキナは目を丸くして菜園を見渡す。そう言えば彼女がここに来てからはずっとベッドで寝ているばかりで外に出るのは初めてだった。

 が、そんな時だった。突然森の中からがさがさという音がしたかと思うと、数匹のゴブリンが菜園に向かってやってくる。この前の戦いで敗走したゴブリンが食糧を求めてやってきたのだろうか。

「よし、俺が蹴散らしてくる」
「いや、少し待ってくれないか?」

 マキナは俺を制すると、ゴブリンたちの方を見てじっと集中する。するとゴブリンたちは畑に足を踏み入れる直前でぱたりと足を止めた。そして急にきびすを返して去っていく。
 その様子はまるで誰かに命令されているかのようであった。

「こ、これは……」
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