9 / 56
精霊姫ミリア
“精霊石”の正体
しおりを挟む
よく見ると、彼女の身体を包む魔力は線となってどこかに繋がっている。その続く先を見ると線はミリアの荷物の中へと延びていた。いや、正確には荷物の中から延びていたと言うべきか。荷物に近づくにつれ、黒い線はより太く強固になっていた。
俺はおそるおそる彼女が持ってきたあまり大きくない鞄を開く。その中には最低限の旅支度とともに、一つの拳大の布袋が入っていた。黒い魔力はその中から延びている。
「もしや、これか?」
俺は予感とともに布袋を取り出す。すると中には黒い魔力を発しながら七色に輝く歪な宝石が入っていた。これが噂の精霊石というやつだろうか。しかしその色彩は全くその名にふさわしくない。
「解除」
俺が「アナライズ」の魔法を解除すると宝石から発されていた黒い魔力は見えなくなり、ただのきれいな宝石に変わる。こうして見ると“精霊石”と言われても納得できる見た目になる。
「アナライズ・マジックアイテム」
俺は今度は宝石を対象に魔法をかける。が、魔法は石に触れたところで消滅した。
この魔法は術者の魔法技術によって解析できる対象の複雑さが変わる。俺であれば大体のものは解析できるはずだった。
俺の魔法で解析できないということは誰かが嫌がらせのために即興で作ったようなちゃちなものではない。だとするとこれは一体何なんだという疑問が持ち上がってくる。
「ディスペル・マジック」
今度は宝石にかかっている魔法を打ち消す魔法をかけてみる。ディスペル・マジックは初級の魔術師でも使える魔法だが俺のは威力が違う。魔道具を作る際に強化の魔法を打ち消して別の強化魔法をかけ直す、というようなことを繰り返していくうちにどんどん威力はあがっていき、今では大概の魔法を打ち消すことが出来るようになってしまった。
すると。
俺の魔力が宝石に触れた瞬間、宝石の周りを覆っていた七色の光が消滅し、そして中からどす黒い石が現れる。
「これは……もしや闇の魔力で作られた石を精霊魔術でコーティングしていたのか?」
が、精霊魔術という外殻を失った石からはとめどなく黒い魔力があふれ出す。ということはこれは元々誰かを呪う目的で作られたものだろう。
このままではミリアだけでなく俺も危ない。むしろミリアがこの呪いを受けながらここまで歩いてきたのが奇跡に思えるぐらいだ。
「マジック・シェル」
俺は慌てて石を魔法の殻で覆う。これは外部からの魔力の衝撃を防ぐ魔法で、本来防具などが魔法攻撃を受けても壊れないようにするための魔法なのだが、まさか魔法を封じ込めるために使うことになるとは思わなかった。
今度は無色透明の殻に覆われ、石から溢れ出ていた魔力は減っていく。それでもミリアに対して注がれている魔力は途切れることはなかった。
このままでは彼女の命が危ない。考えられる手段はいくつかある。
一つ目は石を遠くに捨てること。この石がミリアの手に渡るまでミリアの体に異常はなかっただろうから物理的に遠くへ捨てれば呪いが解ける可能性はある。問題は、捨てた場所に住んでいる人々に呪いの影響があるかもしれないことである。魔族の土地に捨てれば拾って悪用されるかもしれない。
二つ目は石を破壊すること。多分ミリアの呪いは解けるが、石にこめられている闇の魔力がこの周辺に拡散すると思うと怖い。また破壊する際に大惨事が起こる可能性もあり、一番危険だ。
三つ目は石の効果を解析し、呪いを解くこと。しかしここには大した設備もないし、時間をかけていればミリアの身体が持たない可能性もある。
「となれば先送りにするしかないか……アイス・コフィン」
魔法の発動とともに宝石は氷に閉ざされ、部屋の室温が数度下がる。俺は思わず身震いしたが、石から放出される魔力はさらに減った。
「マジック・シェル」
そしてその上から再びマジック・シェルで包み込むことで石は完全に閉ざされる。遠目から見ると溶けない氷に閉ざされたきれいな石にすら見えるかもしれない。
しかしこれも応急処置に過ぎず、少しずつ呪いの力は覆いを侵食していき、やがて再び呪いの力はあふれ出すだろう。
「アナライズ」
一方、ミリアに目をやると彼女の周囲にはまだ黒い魔力が一部残っている。とはいえ大本を封印した以上あと少しで何とかなるはずだ。
「ディスペル・マジック」
今度こそミリアの周囲の魔力は全てかき消される。心なしか、彼女の表情も穏やかになりすうすうと規則正しい寝息に変わる。どうやら呪いの力は消えたらしい。
それを見て俺はほっと息を吐く。思わず夢中になってしまい、気が付くとほとんどの魔力を使ってしまっていたらしい。ということはこの石は魔族の軍勢と同じぐらいの強敵だったということになるようだ。
そんなことを考えていると魔力の欠乏による眠気が俺を襲う。
気が付くと、俺はそのまま眠りに落ちていた。
俺はおそるおそる彼女が持ってきたあまり大きくない鞄を開く。その中には最低限の旅支度とともに、一つの拳大の布袋が入っていた。黒い魔力はその中から延びている。
「もしや、これか?」
俺は予感とともに布袋を取り出す。すると中には黒い魔力を発しながら七色に輝く歪な宝石が入っていた。これが噂の精霊石というやつだろうか。しかしその色彩は全くその名にふさわしくない。
「解除」
俺が「アナライズ」の魔法を解除すると宝石から発されていた黒い魔力は見えなくなり、ただのきれいな宝石に変わる。こうして見ると“精霊石”と言われても納得できる見た目になる。
「アナライズ・マジックアイテム」
俺は今度は宝石を対象に魔法をかける。が、魔法は石に触れたところで消滅した。
この魔法は術者の魔法技術によって解析できる対象の複雑さが変わる。俺であれば大体のものは解析できるはずだった。
俺の魔法で解析できないということは誰かが嫌がらせのために即興で作ったようなちゃちなものではない。だとするとこれは一体何なんだという疑問が持ち上がってくる。
「ディスペル・マジック」
今度は宝石にかかっている魔法を打ち消す魔法をかけてみる。ディスペル・マジックは初級の魔術師でも使える魔法だが俺のは威力が違う。魔道具を作る際に強化の魔法を打ち消して別の強化魔法をかけ直す、というようなことを繰り返していくうちにどんどん威力はあがっていき、今では大概の魔法を打ち消すことが出来るようになってしまった。
すると。
俺の魔力が宝石に触れた瞬間、宝石の周りを覆っていた七色の光が消滅し、そして中からどす黒い石が現れる。
「これは……もしや闇の魔力で作られた石を精霊魔術でコーティングしていたのか?」
が、精霊魔術という外殻を失った石からはとめどなく黒い魔力があふれ出す。ということはこれは元々誰かを呪う目的で作られたものだろう。
このままではミリアだけでなく俺も危ない。むしろミリアがこの呪いを受けながらここまで歩いてきたのが奇跡に思えるぐらいだ。
「マジック・シェル」
俺は慌てて石を魔法の殻で覆う。これは外部からの魔力の衝撃を防ぐ魔法で、本来防具などが魔法攻撃を受けても壊れないようにするための魔法なのだが、まさか魔法を封じ込めるために使うことになるとは思わなかった。
今度は無色透明の殻に覆われ、石から溢れ出ていた魔力は減っていく。それでもミリアに対して注がれている魔力は途切れることはなかった。
このままでは彼女の命が危ない。考えられる手段はいくつかある。
一つ目は石を遠くに捨てること。この石がミリアの手に渡るまでミリアの体に異常はなかっただろうから物理的に遠くへ捨てれば呪いが解ける可能性はある。問題は、捨てた場所に住んでいる人々に呪いの影響があるかもしれないことである。魔族の土地に捨てれば拾って悪用されるかもしれない。
二つ目は石を破壊すること。多分ミリアの呪いは解けるが、石にこめられている闇の魔力がこの周辺に拡散すると思うと怖い。また破壊する際に大惨事が起こる可能性もあり、一番危険だ。
三つ目は石の効果を解析し、呪いを解くこと。しかしここには大した設備もないし、時間をかけていればミリアの身体が持たない可能性もある。
「となれば先送りにするしかないか……アイス・コフィン」
魔法の発動とともに宝石は氷に閉ざされ、部屋の室温が数度下がる。俺は思わず身震いしたが、石から放出される魔力はさらに減った。
「マジック・シェル」
そしてその上から再びマジック・シェルで包み込むことで石は完全に閉ざされる。遠目から見ると溶けない氷に閉ざされたきれいな石にすら見えるかもしれない。
しかしこれも応急処置に過ぎず、少しずつ呪いの力は覆いを侵食していき、やがて再び呪いの力はあふれ出すだろう。
「アナライズ」
一方、ミリアに目をやると彼女の周囲にはまだ黒い魔力が一部残っている。とはいえ大本を封印した以上あと少しで何とかなるはずだ。
「ディスペル・マジック」
今度こそミリアの周囲の魔力は全てかき消される。心なしか、彼女の表情も穏やかになりすうすうと規則正しい寝息に変わる。どうやら呪いの力は消えたらしい。
それを見て俺はほっと息を吐く。思わず夢中になってしまい、気が付くとほとんどの魔力を使ってしまっていたらしい。ということはこの石は魔族の軍勢と同じぐらいの強敵だったということになるようだ。
そんなことを考えていると魔力の欠乏による眠気が俺を襲う。
気が付くと、俺はそのまま眠りに落ちていた。
1
お気に入りに追加
3,294
あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる