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精霊姫ミリア
発熱と看病
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「なるほど」
俺はミリアの話を聞いて大体の事情を把握した。
現在オルメイア魔法王国国王ガンドⅢ世は病に倒れており、大臣を初めとする有力貴族たちの中には表立ってエレナに歯向かおうとする者はいない。そんな中、明確に疑問を口にしたミリアの口を最初に封じようとしたのだろう。
ミリアが王都を離れたのはエレナにとって嬉しい誤算だが、まさか俺の元にやってくるとは思っていないだろう。
「とりあえず石を見せてくれ。もっとも、俺は精霊魔術には詳しくないのでこれが本当にその精霊石であればお手上げだがな」
「はい……ですが、分かる範囲でどうにかお願いします」
そう言うと、話を終えて旅の疲れが噴き出したのか、ミリアはばたんとテーブルに突っ伏した。普段離宮に引きこもっているのに慣れない長旅で疲れたのだろう、と思ったが毛布をかけるために近寄ってみるとその顔色は悪い。わずかに聞こえてくる呼吸も荒くなっていた。明らかにただの疲労という雰囲気ではない。
「もしや体調が悪いのか?」
不慣れな旅を続けて体を壊したのだろうか。試しに恐るおそる額に手を触れてみる。
すると、額は出来たての煮物のように熱かった。
「悪いが、今は王族だろうと失礼させてもらうぞ」
俺はテーブルに突っ伏している彼女の体を抱えると、お姫様抱っこする。持ち上げてみると、華奢な見た目だったが、ぐったりしているせいで随分重く感じた。しかも発熱による汗で服がじっとりと体に貼りついている。放っておけば汗が引いた時に体を冷やしてしまう。
俺は彼女をベッドに横たえるとラザルからもらった物資をあさる。中に何かいいものはなかっただろうか。幸いラザルは余った衣服をどさっとくれたらしく、サイズはバラバラであった。俺はその中でも小さ目なものを選ぶ。
「あの、このまま寝ると風邪を引いてしまう。辛いとは思うが着替えた方がいいと思うんだが」
が、俺の言葉に彼女は反応しない。おそらく本当に眠っているのだろう。
「せめて服だけでも」
俺は少し強めにゆすってみるが、それでも彼女は目を覚まさない。眠っているというよりは本当に意識を失っているようで、これはただの風邪なのか、と少し疑ってしまう。
「とはいえ放っておくわけにはいかないしな」
悪いとは思いつつも、俺はミリアが着ているぼろぼろになったドレスをぬがし、ラザルがくれた服に着替えさせる。そもそも女性の服を脱がせたこともないし、その相手が第三王女となれば緊張もしてしまう。
俺はかなりもたつきながら彼女の服を脱がせる。ミリアの肌は透き通るほど白く、時折指が触れてしまうとびっくりするほど柔らかかった。
どうにかして服を脱がせたが次は着せなければならない。むしろこちらの方が大変だったが、悪戦苦闘の末、どうにか無事着替えを終わらせることに成功した。俺は今度こそ布団をかぶせて寝かせる。
「ふう、疲れた。しかしここまでされて目を覚まさないなんてよっぽどだな。むしろそこまで体調が悪い中よくここまで歩いてこられたな」
次に俺はラザルがくれた荷物から薬を探す。すると食糧の端っこに古くなった薬草が何本か無造作に押し込まれているのが見つかった。普通、古くなった薬草を食べると腹を下す危険があるのでいらなくなったのだろうが、俺にくれるのは助かる。魔法で加工することにより、ある程度の品質は補えるからだ。
「クリエイト・ヒーリング・ポーション」
俺が魔法を使用すると、薬草が光に包まれて透明な液体になり、目の前のコップの中に出現する。
俺は寝ているミリアの口元にコップを運ぶと、無理矢理液体を飲ませる。すると苦しそうだった彼女の表情が少しだけやわらぐ。
だが、俺が作ったポーションは言うなればHPを回復するものであり、病気そのものを治せる訳ではない。風邪程度であればポーションで体力を回復すれば治ることもあるが、複雑な病気を治すためには、その病気専用のポーションを作らなければならない。
そのためにはまず彼女の病状を知る必要がある。もしこれが本当に重病であれば医者ではない俺には分からないが、話を聞く限りつい最近まで彼女は健康であった。それならこれはただの病気というよりは魔法などの外的要因によるものな気がする。
それなら俺の得意分野だ。
「アナライズ」
俺は彼女に手を翳して魔法を唱える。これは対象の状態を把握する魔法だ。
すると、目の前に恐るべき光景が浮かび上がる。
「アナライズ」で周辺の魔力が可視化され、彼女の身体を黒い魔力が包んでいるのが見える。さらに、心臓の辺りに魔力は集積し、どす黒い塊を作っていた。
「何だこれは……まるで呪いだ……」
俺はミリアの話を聞いて大体の事情を把握した。
現在オルメイア魔法王国国王ガンドⅢ世は病に倒れており、大臣を初めとする有力貴族たちの中には表立ってエレナに歯向かおうとする者はいない。そんな中、明確に疑問を口にしたミリアの口を最初に封じようとしたのだろう。
ミリアが王都を離れたのはエレナにとって嬉しい誤算だが、まさか俺の元にやってくるとは思っていないだろう。
「とりあえず石を見せてくれ。もっとも、俺は精霊魔術には詳しくないのでこれが本当にその精霊石であればお手上げだがな」
「はい……ですが、分かる範囲でどうにかお願いします」
そう言うと、話を終えて旅の疲れが噴き出したのか、ミリアはばたんとテーブルに突っ伏した。普段離宮に引きこもっているのに慣れない長旅で疲れたのだろう、と思ったが毛布をかけるために近寄ってみるとその顔色は悪い。わずかに聞こえてくる呼吸も荒くなっていた。明らかにただの疲労という雰囲気ではない。
「もしや体調が悪いのか?」
不慣れな旅を続けて体を壊したのだろうか。試しに恐るおそる額に手を触れてみる。
すると、額は出来たての煮物のように熱かった。
「悪いが、今は王族だろうと失礼させてもらうぞ」
俺はテーブルに突っ伏している彼女の体を抱えると、お姫様抱っこする。持ち上げてみると、華奢な見た目だったが、ぐったりしているせいで随分重く感じた。しかも発熱による汗で服がじっとりと体に貼りついている。放っておけば汗が引いた時に体を冷やしてしまう。
俺は彼女をベッドに横たえるとラザルからもらった物資をあさる。中に何かいいものはなかっただろうか。幸いラザルは余った衣服をどさっとくれたらしく、サイズはバラバラであった。俺はその中でも小さ目なものを選ぶ。
「あの、このまま寝ると風邪を引いてしまう。辛いとは思うが着替えた方がいいと思うんだが」
が、俺の言葉に彼女は反応しない。おそらく本当に眠っているのだろう。
「せめて服だけでも」
俺は少し強めにゆすってみるが、それでも彼女は目を覚まさない。眠っているというよりは本当に意識を失っているようで、これはただの風邪なのか、と少し疑ってしまう。
「とはいえ放っておくわけにはいかないしな」
悪いとは思いつつも、俺はミリアが着ているぼろぼろになったドレスをぬがし、ラザルがくれた服に着替えさせる。そもそも女性の服を脱がせたこともないし、その相手が第三王女となれば緊張もしてしまう。
俺はかなりもたつきながら彼女の服を脱がせる。ミリアの肌は透き通るほど白く、時折指が触れてしまうとびっくりするほど柔らかかった。
どうにかして服を脱がせたが次は着せなければならない。むしろこちらの方が大変だったが、悪戦苦闘の末、どうにか無事着替えを終わらせることに成功した。俺は今度こそ布団をかぶせて寝かせる。
「ふう、疲れた。しかしここまでされて目を覚まさないなんてよっぽどだな。むしろそこまで体調が悪い中よくここまで歩いてこられたな」
次に俺はラザルがくれた荷物から薬を探す。すると食糧の端っこに古くなった薬草が何本か無造作に押し込まれているのが見つかった。普通、古くなった薬草を食べると腹を下す危険があるのでいらなくなったのだろうが、俺にくれるのは助かる。魔法で加工することにより、ある程度の品質は補えるからだ。
「クリエイト・ヒーリング・ポーション」
俺が魔法を使用すると、薬草が光に包まれて透明な液体になり、目の前のコップの中に出現する。
俺は寝ているミリアの口元にコップを運ぶと、無理矢理液体を飲ませる。すると苦しそうだった彼女の表情が少しだけやわらぐ。
だが、俺が作ったポーションは言うなればHPを回復するものであり、病気そのものを治せる訳ではない。風邪程度であればポーションで体力を回復すれば治ることもあるが、複雑な病気を治すためには、その病気専用のポーションを作らなければならない。
そのためにはまず彼女の病状を知る必要がある。もしこれが本当に重病であれば医者ではない俺には分からないが、話を聞く限りつい最近まで彼女は健康であった。それならこれはただの病気というよりは魔法などの外的要因によるものな気がする。
それなら俺の得意分野だ。
「アナライズ」
俺は彼女に手を翳して魔法を唱える。これは対象の状態を把握する魔法だ。
すると、目の前に恐るべき光景が浮かび上がる。
「アナライズ」で周辺の魔力が可視化され、彼女の身体を黒い魔力が包んでいるのが見える。さらに、心臓の辺りに魔力は集積し、どす黒い塊を作っていた。
「何だこれは……まるで呪いだ……」
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