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Ⅲ
新しい日常 Ⅰ
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「本日は皆様お越しくださりありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそお招きいただきありがとうございます」
「本当に見違えるようになりましたな」
私の言葉に、アーノルド家にやってきた貴族たちは感心したように屋敷の中を見回しました。
そこにはかつてのアーノルド家の屋敷を知る人なら皆目を疑うような立派なパーティー会場が広がっています。
あれから一か月ほど経った後のことです。
家具や日用品、服など王都で買ったものが次々と馬車で運び込まれ、さらに男爵が新しく執事とメイドを雇ったことで屋敷の中は一新されました。
さすがに屋敷の建て替えまでは行えませんでしたが、屋敷の中はまるでリフォームでもしたかのように見違えるようになりました。
そこでこれまでは金欠で他の貴族たちと疎遠になりがちだったため、きれいになった屋敷でパーティーを開くことにしたのです。
とはいえ私も男爵夫人もよく言えば倹約家、悪く言えば貧乏性になっていたため、他の貴族が開くような有名な料理人や楽団を呼んだ大規模なものではなく、料理もほぼ手作りで高級なお酒を仕入れたぐらいの手作り感のあるものになりましたが。
それでもうちと爵位が近い男爵家や子爵家の貴族たちが多数来て下さったため、元々そこまで広い訳ではなかったうちの屋敷はいっぱいになってしまいました。
屋敷にある広間にきれいな布をかけたテーブルを並べ、その上に料理をたくさん並べてあったのですが、参列者が多いため次々となくなっていきます。
今回は特に何か行事があってのパーティーではなく親睦を深める会という意味合いにが強く、また爵位が近い貴族の参加が多いため皆食事をしながら砕けた様子で談笑しています。
「うむ、このサーモンのムニエルはうまいな。これは一体どこの料理人が作ったものだ?」
私が料理を運んでいると、一人の貴族が尋ねます。
「今日並んでいる料理は大体私と義母上が作ったものです」
「そ、そうなのでしたか!? これは失礼した」
私の答えに貴族の方は恐縮したように頭を下げます。
「いえいえ、それくらいおいしかったということで嬉しいです」
「しかしアーノルド家は奥方様や婚約者様もここまで料理が出来るとは。羨ましい限りです」
まあ自分たちでやらなければならないほど貧しかったということでもあるのですが、そうでなかったとしても私は料理が好きだったのでやっていたかもしれません。
「よろしければ今度奥様と一緒にお料理しましょうか?」
「おお、それはいい。是非よろしく頼む」
半分ほどは社交辞令ですが、私の言葉に彼は嬉しそうに言います。
そこへたまたまブラッドが通りかかると、その貴族は上機嫌で話しかけます。
「ブラッド殿はいい婚約者をお持ちになりましたな」
「確かにそうですが……いきなりどうされたのですか?」
話題の流れが分からなかったブラッドは戸惑いながら答えます。
「いや、毎日このようなおいしい料理を食べさせてもらえるのであれば日々幸せなのではないかと」
「そういうことでしたか。心当たりが多すぎてどれのことか迷ってしまいました……あ」
ブラッドは思わず素で答えてしまい、自分で言ったことに自分で顔を赤くしています。
それを見て話していた貴族はおかしそうに笑いました。
「なるほど、夫婦仲もよろしいようで何よりですな。わしもそうであれば良かったのですが」
「あなた! 次の家に挨拶に行くわよ!」
目の前の貴族が頭をかいていると、どこからかそんな声が飛んできます。
そして人垣をかきわけて現れたのは気の強そうな女性でした。仲がいいのか悪いのかは外からよく分かりませんが、色んな夫婦の形があるようです。
「そ、それでは失礼します」
そう言って彼は妻に腕を引かれてそそくさと去っていくのでした。
「いえいえ、こちらこそお招きいただきありがとうございます」
「本当に見違えるようになりましたな」
私の言葉に、アーノルド家にやってきた貴族たちは感心したように屋敷の中を見回しました。
そこにはかつてのアーノルド家の屋敷を知る人なら皆目を疑うような立派なパーティー会場が広がっています。
あれから一か月ほど経った後のことです。
家具や日用品、服など王都で買ったものが次々と馬車で運び込まれ、さらに男爵が新しく執事とメイドを雇ったことで屋敷の中は一新されました。
さすがに屋敷の建て替えまでは行えませんでしたが、屋敷の中はまるでリフォームでもしたかのように見違えるようになりました。
そこでこれまでは金欠で他の貴族たちと疎遠になりがちだったため、きれいになった屋敷でパーティーを開くことにしたのです。
とはいえ私も男爵夫人もよく言えば倹約家、悪く言えば貧乏性になっていたため、他の貴族が開くような有名な料理人や楽団を呼んだ大規模なものではなく、料理もほぼ手作りで高級なお酒を仕入れたぐらいの手作り感のあるものになりましたが。
それでもうちと爵位が近い男爵家や子爵家の貴族たちが多数来て下さったため、元々そこまで広い訳ではなかったうちの屋敷はいっぱいになってしまいました。
屋敷にある広間にきれいな布をかけたテーブルを並べ、その上に料理をたくさん並べてあったのですが、参列者が多いため次々となくなっていきます。
今回は特に何か行事があってのパーティーではなく親睦を深める会という意味合いにが強く、また爵位が近い貴族の参加が多いため皆食事をしながら砕けた様子で談笑しています。
「うむ、このサーモンのムニエルはうまいな。これは一体どこの料理人が作ったものだ?」
私が料理を運んでいると、一人の貴族が尋ねます。
「今日並んでいる料理は大体私と義母上が作ったものです」
「そ、そうなのでしたか!? これは失礼した」
私の答えに貴族の方は恐縮したように頭を下げます。
「いえいえ、それくらいおいしかったということで嬉しいです」
「しかしアーノルド家は奥方様や婚約者様もここまで料理が出来るとは。羨ましい限りです」
まあ自分たちでやらなければならないほど貧しかったということでもあるのですが、そうでなかったとしても私は料理が好きだったのでやっていたかもしれません。
「よろしければ今度奥様と一緒にお料理しましょうか?」
「おお、それはいい。是非よろしく頼む」
半分ほどは社交辞令ですが、私の言葉に彼は嬉しそうに言います。
そこへたまたまブラッドが通りかかると、その貴族は上機嫌で話しかけます。
「ブラッド殿はいい婚約者をお持ちになりましたな」
「確かにそうですが……いきなりどうされたのですか?」
話題の流れが分からなかったブラッドは戸惑いながら答えます。
「いや、毎日このようなおいしい料理を食べさせてもらえるのであれば日々幸せなのではないかと」
「そういうことでしたか。心当たりが多すぎてどれのことか迷ってしまいました……あ」
ブラッドは思わず素で答えてしまい、自分で言ったことに自分で顔を赤くしています。
それを見て話していた貴族はおかしそうに笑いました。
「なるほど、夫婦仲もよろしいようで何よりですな。わしもそうであれば良かったのですが」
「あなた! 次の家に挨拶に行くわよ!」
目の前の貴族が頭をかいていると、どこからかそんな声が飛んできます。
そして人垣をかきわけて現れたのは気の強そうな女性でした。仲がいいのか悪いのかは外からよく分かりませんが、色んな夫婦の形があるようです。
「そ、それでは失礼します」
そう言って彼は妻に腕を引かれてそそくさと去っていくのでした。
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