19 / 29
Ⅲ
支度
しおりを挟む
その後私たちは記念式典に出向く支度を始めました。
とはいえ、支度というのはもっぱらアーノルド男爵がお金やその他諸々の物を無心するのが主でしたが。
私にとって嬉しかったのは、一度お屋敷に服飾商の方がやってきたときです。アーノルド一族の服装を選ぶため、彼らは王都の外れに建つ私たちの屋敷まで大きな荷車を曳いてやってきてくれたのです。その中には私が見たことのないような色とりどりのドレスが入っていました。
それを見て私だけでなく、大きなパーティーに出たことのないブラッドも目を見張ります。
そして普段よりも少し機嫌が良い男爵夫人が私にも声を掛けてくれます。
「今日は誰にも気を遣わずに好きなドレスを選んでいいのよ」
「ありがとうございます」
やがて何人かの商人がそれぞれ大きな箱を持って屋敷の中に入ってきます。私の中にも若い女性が一人、大きな箱を持ってやってきます。服飾商人だけあって、平民ながらもおしゃれな装いをしていて感心します。
そして私たちは一緒に屋敷の空いている部屋に入りました。
「今日はよろしくお願いいたしますね」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「それでは早速ですが、こちらの中から好みのものをお選びください」
そう言って彼女は色とりどりのドレスを私に見せます。いつもはエイダやジェーンが着ているのを眺めるばかりでしたが、ようやく自分もきらびやかな服を着られると思うと胸が躍ります。
「でしたらこちらでお願いします」
私は並んでいるドレスの中から一着を選びます。全体的に落ち着いた濃い青の配色で、どちらかというと大人し気な雰囲気のものです。
すると女性は少し驚いたように言いました。
「これでよろしいのですか? せっかくお綺麗なのでもう少し派手なものでもよろしいのでは?」
「そうでしょうか? ですが大人しめの色の方が落ち着きますので」
「そうですか。でしたらフリルやリボンなどの装飾を足してみるというのはいかがでしょうか?」
「え、そんなことが出来るのですか?」
私が驚くと、彼女の方も驚きます。
「はい、どの道寸法を直さなければいけませんので、その際にある程度の要望でしたら叶えることが出来ますが」
「すみません、実はこういうのを頼むのは初めてで」
私は少し恥ずかしくなります。普通の貴族令嬢たちはこういう経験はあって当然なのでしょう。
「なるほど、そういうことですか。でしたら差し出がましいかもしれませんが、こちらからご提案させていただいてもよろしいでしょうか?」
「是非お願いします」
この手のことにかけては経験がない私よりも専門の女性の方が絶対適任です。
すると彼女はしばらく考えた末、私が選んだドレスの袖口や襟元に大胆に装飾をあしらいます。またそれだけではなく、ネックレスやブレスレットなどもいくつも見せてくれます。
確かにきれいではあるのですが、それらを見て私は不安になります。
「こんなに派手に着飾っても大丈夫ですか?」
「はい、パーティーというのはそういうものです。それに、キャロル様は元がお美しいので下品に見えることもありませんよ」
一瞬商売人によくあるお世辞かとも思いましたが、そもそもアーノルド家に対する好意でやってくれている以上、多少社交辞令が含まれていたとしても全くのお世辞ということもないでしょう。
私は先ほどの男爵夫人の言葉を思い出します。
これまでエイダやジェーンが着飾っているのを見て羨ましいと思う気持ちがなかったと言えば嘘になります。
「でしたら、これでお願いします」
「はい、でしたら体にあててみましょうか」
そう言って彼女は、装飾品を仮止めしたドレスを私の体に当ててくれます。鏡を見ると、そこにはきれいなドレスに身を包んだ私が立っていました。
これまで使い古しの服ばかり着ていたこともあって、まるで別人のようです。
そしてそんな私の姿を見て女性も息をのみました。
「お綺麗ですね! これだけでもすごいのに、きちんと寸法を直して、お化粧やヘアアレンジもすればさらにイメージが変わりますよ」
「本当ですか!?」
今でも十分別人なのに、この上さらに変わることが出来るとは。
その後私はさらに寸法を測ったり、お化粧や髪型の打ち合わせをしたりして、その日はお別れしたのでした。
とはいえ、支度というのはもっぱらアーノルド男爵がお金やその他諸々の物を無心するのが主でしたが。
私にとって嬉しかったのは、一度お屋敷に服飾商の方がやってきたときです。アーノルド一族の服装を選ぶため、彼らは王都の外れに建つ私たちの屋敷まで大きな荷車を曳いてやってきてくれたのです。その中には私が見たことのないような色とりどりのドレスが入っていました。
それを見て私だけでなく、大きなパーティーに出たことのないブラッドも目を見張ります。
そして普段よりも少し機嫌が良い男爵夫人が私にも声を掛けてくれます。
「今日は誰にも気を遣わずに好きなドレスを選んでいいのよ」
「ありがとうございます」
やがて何人かの商人がそれぞれ大きな箱を持って屋敷の中に入ってきます。私の中にも若い女性が一人、大きな箱を持ってやってきます。服飾商人だけあって、平民ながらもおしゃれな装いをしていて感心します。
そして私たちは一緒に屋敷の空いている部屋に入りました。
「今日はよろしくお願いいたしますね」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「それでは早速ですが、こちらの中から好みのものをお選びください」
そう言って彼女は色とりどりのドレスを私に見せます。いつもはエイダやジェーンが着ているのを眺めるばかりでしたが、ようやく自分もきらびやかな服を着られると思うと胸が躍ります。
「でしたらこちらでお願いします」
私は並んでいるドレスの中から一着を選びます。全体的に落ち着いた濃い青の配色で、どちらかというと大人し気な雰囲気のものです。
すると女性は少し驚いたように言いました。
「これでよろしいのですか? せっかくお綺麗なのでもう少し派手なものでもよろしいのでは?」
「そうでしょうか? ですが大人しめの色の方が落ち着きますので」
「そうですか。でしたらフリルやリボンなどの装飾を足してみるというのはいかがでしょうか?」
「え、そんなことが出来るのですか?」
私が驚くと、彼女の方も驚きます。
「はい、どの道寸法を直さなければいけませんので、その際にある程度の要望でしたら叶えることが出来ますが」
「すみません、実はこういうのを頼むのは初めてで」
私は少し恥ずかしくなります。普通の貴族令嬢たちはこういう経験はあって当然なのでしょう。
「なるほど、そういうことですか。でしたら差し出がましいかもしれませんが、こちらからご提案させていただいてもよろしいでしょうか?」
「是非お願いします」
この手のことにかけては経験がない私よりも専門の女性の方が絶対適任です。
すると彼女はしばらく考えた末、私が選んだドレスの袖口や襟元に大胆に装飾をあしらいます。またそれだけではなく、ネックレスやブレスレットなどもいくつも見せてくれます。
確かにきれいではあるのですが、それらを見て私は不安になります。
「こんなに派手に着飾っても大丈夫ですか?」
「はい、パーティーというのはそういうものです。それに、キャロル様は元がお美しいので下品に見えることもありませんよ」
一瞬商売人によくあるお世辞かとも思いましたが、そもそもアーノルド家に対する好意でやってくれている以上、多少社交辞令が含まれていたとしても全くのお世辞ということもないでしょう。
私は先ほどの男爵夫人の言葉を思い出します。
これまでエイダやジェーンが着飾っているのを見て羨ましいと思う気持ちがなかったと言えば嘘になります。
「でしたら、これでお願いします」
「はい、でしたら体にあててみましょうか」
そう言って彼女は、装飾品を仮止めしたドレスを私の体に当ててくれます。鏡を見ると、そこにはきれいなドレスに身を包んだ私が立っていました。
これまで使い古しの服ばかり着ていたこともあって、まるで別人のようです。
そしてそんな私の姿を見て女性も息をのみました。
「お綺麗ですね! これだけでもすごいのに、きちんと寸法を直して、お化粧やヘアアレンジもすればさらにイメージが変わりますよ」
「本当ですか!?」
今でも十分別人なのに、この上さらに変わることが出来るとは。
その後私はさらに寸法を測ったり、お化粧や髪型の打ち合わせをしたりして、その日はお別れしたのでした。
28
お気に入りに追加
4,840
あなたにおすすめの小説
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました
サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。
「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」
やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――
虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~
***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」
妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。
「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」
元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。
両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません!
あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。
他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては!
「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか?
あなたにはもう関係のない話ですが?
妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!!
ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね?
私、いろいろ調べさせていただいたんですよ?
あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか?
・・・××しますよ?
【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?
鏑木 うりこ
恋愛
父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。
「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」
庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。
少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *)
HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい!
色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー!
★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!
これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい!
【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)
婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。
妹は私から奪った気でいますが、墓穴を掘っただけでした。私は溺愛されました。どっちがバカかなぁ~?
百谷シカ
恋愛
「お姉様はバカよ! 女なら愛される努力をしなくちゃ♪」
妹のアラベラが私を高らかに嘲笑った。
私はカーニー伯爵令嬢ヒラリー・コンシダイン。
「殿方に口答えするなんて言語道断! ただ可愛く笑っていればいいの!!」
ぶりっ子の妹は、実はこんな女。
私は口答えを理由に婚約を破棄されて、妹が私の元婚約者と結婚する。
「本当は悔しいくせに! 素直に泣いたらぁ~?」
「いえ。そんなくだらない理由で乗り換える殿方なんて願い下げよ」
「はあっ!? そういうところが淑女失格なのよ? バーカ」
淑女失格の烙印を捺された私は、寄宿学校へとぶち込まれた。
そこで出会った哲学の教授アルジャノン・クロフト氏。
彼は婚約者に裏切られ学問一筋の人生を選んだドウェイン伯爵その人だった。
「ヒラリー……君こそが人生の答えだ!!」
「えっ?」
で、惚れられてしまったのですが。
その頃、既に転落し始めていた妹の噂が届く。
あー、ほら。言わんこっちゃない。
【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます
よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」
婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。
「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」
「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」
両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。
お姉様からは用が済んだからと捨てられます。
「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」
「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」
ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。
唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。
ここから私の人生が大きく変わっていきます。
妹は私の婚約者と駆け落ちしました
今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ブレンダ男爵家の姉妹、カトリナとジェニーにはラインハルトとレオルという婚約者がいた。
姉カトリナの婚約者ラインハルトはイケメンで女性に優しく、レオルは醜く陰気な性格と評判だった。
そんな姉の婚約者をうらやんだジェニーはラインハルトと駆け落ちすることを選んでしまう。
が、レオルは陰気で不器用ではあるが真面目で有能な人物であった。
彼との協力によりブレンダ男爵家は次第に繁栄していく。
一方ラインハルトと結ばれたことを喜ぶジェニーだったが、彼は好みの女性には節操なく手を出す軽薄な男であることが分かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる