本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
45 / 45
神巫

エピローグ

しおりを挟む
 その後さらに数か月の時が過ぎていきました。今年は神様の力が強まってきたためか、与えられる加護の力も強まっていた。また、各地で災害や魔物の出現が収まり、さらに作物も豊かに実るようになるなど、ネクスタ王国・エルドラン王国の両国でいい変化が現れました。

 また、副産物としてそれを見たデュアノス帝国からも神への信仰を取り戻す者がぽつぽつ現れました。デュアノス帝国は人々の技術力で発展してきましたが、やはり隣国の加護がうらやましくなたtのでしょう。
 大昔はデュアノス帝国の地に住む者も神を信仰していましたが、そこでは神の力が失われると信仰を失い、人々は技術や道具を発展させていったようです。そのため、今後はこちらが信仰や神の加護を分け与える代わりに技術をもらうという交流も進むのかもしれません。

 他にはハリス殿下の妹とネクスタ王国新王陛下の婚約も決まりました。政略結婚ではありますが、両国の人々に祝福されての婚約ですので幸せになってくれるでしょう。

 というような様々なことが済んだ後のことです。そろそろ殿下は竜国へ戻らなければならない時が迫っていました。そんなとき私はハリス殿下に呼び出されます。

「何でしょう?」

 私は殿下が執務室として使っている王宮の一室に入ります。
 すると殿下はいつになく緊張の面持ちをしていました。帝国の脅威が去り、神様が力を取り戻してからこのような表情を見せるのは珍しいことです。
 一体何かあったのだろうか、と不安になってしまいます。

「ずっと言おうと思っていたが、色々と忙しくて、いや忙しさを理由に言えなかった。しかし僕はもう国に戻らないといけない。だからその前にぜひとも言っておかねばならなかったことがある」

 殿下の真剣な表情から私は何となく用件を察しました。
 そして私が感じていた不安は一気に緊張へと変わっていきます。

「はい、私も殿下がこのまま帰ってしまうのかと寂しく思っていました」
「そうか。そう言ってもらえると嬉しいと言うべきか、心配させてしまって申し訳ないと言うべきか。改めて言おう。僕はそなたと結婚したい」

 殿下は強い決意とともにその言葉を私にかけてくださりました。
 彼の表情は竜の巫女を選んだ時や帝国と戦った時よりも真剣でした。そんな彼の真剣さが私にも伝播し、私の鼓動は速くなっていきます。

「最初は竜の巫女の素質があるからと思って我が国に連れてきたが、シンシアは知らない土地でも懸命に僕たちのために努力してくれた。巫女に選ばれても奢ることなくどうすればいいのかを常に考えてくれた。僕はそんなシンシアの優しさとひたむきに次第に心を動かされていったんだ」

 殿下の言葉に私は体の奥底からじんわりと幸福感が湧き上がってくるのを感じます。私もここしばらく、常に殿下と過ごすうちに同じ気持ちになっていましたし、殿下が私に好意を抱いてくれているのを感じていました。

 とはいえ、一国の王子である殿下と他国の民に過ぎない私が結ばれる、ということはなかなか具体的に想像出来ずにいました。そのため、殿下の言葉は私にとってとても嬉しいものです。

「はい、私もです。殿下は強くて決断力に富み、いつも国のために動いていました。考えなければならないことがたくさんあるはずなのに、いつも私のことを第一に考えてくださってとても嬉しかったです。竜に会いに行くときはいつも一緒に来て下さいましたし、帝国から手紙が来たときは私の身を第一に考えてくださって嬉しかったです」
「そう言ってくれて嬉しいよ。僕も帝国と戦う時、反対はしたけどシンシアがついてきてくれて嬉しかった。それに、シンシアが隣にいたからこそより一層本気で戦うことが出来たというのもあるしね」

 そう言って殿下は真剣な表情を緩ませ、少し照れたように顔を赤くします。

「本当はもっと早く思いを告げたかったんだが、もしシンシアがネクスタ王国の聖女に復帰するのであれば僕らは結ばれることが出来ない。そう思って伝えられなかったんだ」
「そうだったのですね」

 ちなみに神巫は特にどこにいなければならないという決まりもないため、私が竜国に嫁いでも特に問題はなさそうです。

 こうして、お互いを隔てる障壁がなくなり、気持ちも通じ合っていることを確認した上で殿下は告げます。

「と言う訳で僕と一緒にエルドラン王国に戻ってきてくれないか?」
「はい、喜んで」

 そう言って私は殿下が差し出した手を取ったのでした。



 それから、私たちがエルドラン王国に帰った二か月ほど後に盛大な結婚式が開かれました。
 各国の有力者はもちろんのこと、一時はライバルだったけど最近は国のために私に協力してくれていたアリサ、竜国いる間ずっとお世話をしてくれたエリエといった人々。また、ルイードやエメラルダといったネクスタ王国方々。そして帝国からも友好のために使者が訪れ、三国の人が集まる華やかな式となりました。

 また、人々だけではありません。御使様やガルドら竜たちも式場から少し離れたところで私たちの晴れ姿を見守ってくれています。
 式は王宮の広い庭で行われましたが、広大な庭もたくさんの参列者によって今日だけは狭く感じるほどです。
 そんなたくさんの人々が見守る中、私とハリス殿下は式場の中央に現れます。私たちの姿に広い会場に集まった人々から一斉に歓声が上がりました。

「シンシアは自分が辛い時でもいつも僕やたくさんの人々のために頑張ってくれた。だから私ハリスはこれからどんなことがあってもシンシアの味方であり続け、彼女を守り、いつも傍にいることを誓おう」

「ハリス殿下は一国の王太子という重責を担う身分でありながら常に国民だけなく、私の身を案じ、助けてくれました。そのため私シンシアは今後末永くハリス殿下の隣にいて、彼の支えになりたいと思います」

 そう言って私たちは互いに歩み寄り、殿下が少し顔を下げて私の唇に口づけをしたのでした。

 こうして、私の追放から始まった一連の事件は途中で様々なことが起こったものの、国は豊かになり、私はハリス殿下という素晴らしい方とめぐり合うことができ、結果として事件開始前よりも遥かに幸せな形で結末を迎えることが出来たのでした。

 最初は聖女として呼ばれたのになぜ追放されたのか、と自分の運命を恨むこともありましたが、今では周囲の人々を救い、殿下と結ばれることが出来て本当に良かったと思っています。






===
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
無事完結させることが出来て本当に良かったです。
よろしければ他作品もご覧ください。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!

ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。 ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。 そこで私は重要な事に気が付いた。 私は聖女ではなく、錬金術師であった。 悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について

青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。 公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。 ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。 怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。 慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。 というお話にする予定です。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

とりかえばや聖女は成功しない

猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。 ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。 『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』 その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。 エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。 それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。 それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...