38 / 45
神巫
神託と神巫
しおりを挟む
さて、殿下のいる本陣を出た私は砦の一室に籠って神様に祈ります。
私はどうすればいいのでしょうか。私がネクスタ王国に帰らなければ神様は王国を助けてはいただけないのでしょうか。また、次の聖女は現れるのでしょうか。
私が一心に祈りを捧げていると不意に神様の声が聞こえてきます。
“よくぞ帝国軍を倒した。早く王国に戻って祈りを捧げるのだ。信仰が薄れ、我が力も弱まり、すでに国には多くの被害が出ている”
それを聞いて私はやはりか、と暗い気持ちになります。
とはいえどうにか聖女と竜の巫女の役割を両立することは出来ないでしょうか。
無礼とは思いますが、一度うかがってみなければなりません。
“しかし私は聖女ではなく神巫ですし、今は竜たちにも祈りを捧げなければなりません。あの、私より後の聖女は現れるのでしょうか?”
“聖女は同時期にあまり多くの人数が存在することは出来ないし、遺憾ながら一度与えた加護を回収することは出来ない”
神様の言葉がどういうことなのか考えてみます。まず私が聖女になる前の先代聖女様は高齢で引退しただけでおそらく御存命のはずです。そして今聖女の加護を持っているアリエラも神様の言葉を聞く限り死んではいないのでしょう。すでに二人が聖女の加護を持っている以上、三人目が登場するのは難しいのかもしれません。
とすると、新たな聖女が登場するためにはアリエラを殺す必要があるということでしょうか。私はその想像に辿り着いて息をのみます。しかしそんな恐ろしいことを神様に確認する訳にもいきません。
それにアリエラがどこかに逃げたのだとすればすぐに見つけ出すことは難しいでしょう。
そこで私は質問を変えます。
“では神巫とは一体何者なのでしょうか?”
“古の時代我はネクスタ王国だけでなく、もっと広い範囲を守護する存在であった。その時に我に仕えていたのが神巫だ。しかし神巫がいなくなり、我は力を失い、それ以来神巫が現れることはなくなった。そして力を失うと同時に、神巫についての知識も失ったのだ”
思わぬ話の展開に私は驚きます。まさか神巫がそのような伝説に近い存在であったとは。
しかし一体どうすれば伝説の時代の神巫のような力を手にすることが出来るのでしょう。その力があれば、二つの役割を同時にまっとうすることが出来るかもしれません。
“何にせよ、ネクスタ王国を救いたければ王国に戻ることだ。それ以外に我が力を取り戻す方法はない”
そう言って神様の気配は消えていきました。
そこで私はふと思い立ちます。竜たちであれば伝説の時代のことも知っているのではないか、と。
私は砦を出ると急いで御使様のところへ向かいます。幸いなことに御使様は砦の近くで他の竜たちとともに羽を休めていました。
そう言えば私は御使様に神巫のことを話したことはありませんでした。隣国の事情を竜に話しても仕方ないと思っていたのですが、今聞いた話が本当であれば神巫の存在はこの国にも影響することになります。
“巫女殿よ、この度はご苦労であった”
私が近づいていくと、御使様はそんな言葉をかけてくれます。
“いえ、こちらこそありがとうございます。それよりも今回は聞きたいことがありまして”
“何だ”
“神巫についてです”
“神巫だと!?”
その単語が出た瞬間、御使様の声色が変わります。
やはり彼らは神巫の存在を知っている、いや憶えているようです。
“何で突然そのようなことを尋ねたのだ”
“実は私、隣国で神巫の加護を受けていたのです”
“何と……まさか神巫が再び現れるとは”
そう言って御使様は驚きの目でこちらを見ます。
“確かに一目見た時からただものではないと思っていたが、まさかそのような存在だったとは。いいだろう、神巫について我が知る限りを教えたよう”
御使様が語った内容をまとめると大体このようになります。
昔この地は神が支配していた。竜族は神が支配する地に住む一種族としてのびのびと暮らしていた。人間たちは今よりもずっと数が少なかったが、今のネクスタ王国の辺りに固まって棲んでいた。神巫という者が彼らの頂点に立ち、神に祈っていた。当時の神の力は強く、東は竜国から西は帝国の辺りまで力を及ぼしていた。
しかしある時、人間同士の抗争で神巫は死ぬ。それをきっかけに神様は力を失い、地上に魔物が跳梁跋扈するようになった。そしてその後、竜によって守られるエルドラン王国と力が弱まった神によって守られるネクスタ王国が別々に成立したという訳である。
ただし、神巫は神様に直接祈っていたため、竜たちは神巫のことを詳しくは知らない。
“つまり、私が王国に戻って神様に祈りを捧げれば神様の力は元に戻るのでしょうか? しかしそれなら私が聖女だった時代に神様の力が戻っているはず”
“そうだ、ということは何かが足りてないのだろう。神様の記憶が失われている以上、お主はもしネクスタ王国に戻ったら古文書を洗いざらい調べさせるべきだ。王国成立前の神の時代の資料が残っているかは分からぬが、何か手がかりがあるかもしれない。神様の力が戻ってこれば我らも過ごしやすくなる。行ってくるが良い”
御使様の言葉に私は思わぬ光明を見出しました。この神巫の力を解明すれば、二つの国を同時に救えるかもしれないのです。
“本当ですか!? ありがとうございます!”
御使様の思わぬ言葉に私は嬉しくなります。
こうして私は王国に戻る決意を固めたのです。
私はどうすればいいのでしょうか。私がネクスタ王国に帰らなければ神様は王国を助けてはいただけないのでしょうか。また、次の聖女は現れるのでしょうか。
私が一心に祈りを捧げていると不意に神様の声が聞こえてきます。
“よくぞ帝国軍を倒した。早く王国に戻って祈りを捧げるのだ。信仰が薄れ、我が力も弱まり、すでに国には多くの被害が出ている”
それを聞いて私はやはりか、と暗い気持ちになります。
とはいえどうにか聖女と竜の巫女の役割を両立することは出来ないでしょうか。
無礼とは思いますが、一度うかがってみなければなりません。
“しかし私は聖女ではなく神巫ですし、今は竜たちにも祈りを捧げなければなりません。あの、私より後の聖女は現れるのでしょうか?”
“聖女は同時期にあまり多くの人数が存在することは出来ないし、遺憾ながら一度与えた加護を回収することは出来ない”
神様の言葉がどういうことなのか考えてみます。まず私が聖女になる前の先代聖女様は高齢で引退しただけでおそらく御存命のはずです。そして今聖女の加護を持っているアリエラも神様の言葉を聞く限り死んではいないのでしょう。すでに二人が聖女の加護を持っている以上、三人目が登場するのは難しいのかもしれません。
とすると、新たな聖女が登場するためにはアリエラを殺す必要があるということでしょうか。私はその想像に辿り着いて息をのみます。しかしそんな恐ろしいことを神様に確認する訳にもいきません。
それにアリエラがどこかに逃げたのだとすればすぐに見つけ出すことは難しいでしょう。
そこで私は質問を変えます。
“では神巫とは一体何者なのでしょうか?”
“古の時代我はネクスタ王国だけでなく、もっと広い範囲を守護する存在であった。その時に我に仕えていたのが神巫だ。しかし神巫がいなくなり、我は力を失い、それ以来神巫が現れることはなくなった。そして力を失うと同時に、神巫についての知識も失ったのだ”
思わぬ話の展開に私は驚きます。まさか神巫がそのような伝説に近い存在であったとは。
しかし一体どうすれば伝説の時代の神巫のような力を手にすることが出来るのでしょう。その力があれば、二つの役割を同時にまっとうすることが出来るかもしれません。
“何にせよ、ネクスタ王国を救いたければ王国に戻ることだ。それ以外に我が力を取り戻す方法はない”
そう言って神様の気配は消えていきました。
そこで私はふと思い立ちます。竜たちであれば伝説の時代のことも知っているのではないか、と。
私は砦を出ると急いで御使様のところへ向かいます。幸いなことに御使様は砦の近くで他の竜たちとともに羽を休めていました。
そう言えば私は御使様に神巫のことを話したことはありませんでした。隣国の事情を竜に話しても仕方ないと思っていたのですが、今聞いた話が本当であれば神巫の存在はこの国にも影響することになります。
“巫女殿よ、この度はご苦労であった”
私が近づいていくと、御使様はそんな言葉をかけてくれます。
“いえ、こちらこそありがとうございます。それよりも今回は聞きたいことがありまして”
“何だ”
“神巫についてです”
“神巫だと!?”
その単語が出た瞬間、御使様の声色が変わります。
やはり彼らは神巫の存在を知っている、いや憶えているようです。
“何で突然そのようなことを尋ねたのだ”
“実は私、隣国で神巫の加護を受けていたのです”
“何と……まさか神巫が再び現れるとは”
そう言って御使様は驚きの目でこちらを見ます。
“確かに一目見た時からただものではないと思っていたが、まさかそのような存在だったとは。いいだろう、神巫について我が知る限りを教えたよう”
御使様が語った内容をまとめると大体このようになります。
昔この地は神が支配していた。竜族は神が支配する地に住む一種族としてのびのびと暮らしていた。人間たちは今よりもずっと数が少なかったが、今のネクスタ王国の辺りに固まって棲んでいた。神巫という者が彼らの頂点に立ち、神に祈っていた。当時の神の力は強く、東は竜国から西は帝国の辺りまで力を及ぼしていた。
しかしある時、人間同士の抗争で神巫は死ぬ。それをきっかけに神様は力を失い、地上に魔物が跳梁跋扈するようになった。そしてその後、竜によって守られるエルドラン王国と力が弱まった神によって守られるネクスタ王国が別々に成立したという訳である。
ただし、神巫は神様に直接祈っていたため、竜たちは神巫のことを詳しくは知らない。
“つまり、私が王国に戻って神様に祈りを捧げれば神様の力は元に戻るのでしょうか? しかしそれなら私が聖女だった時代に神様の力が戻っているはず”
“そうだ、ということは何かが足りてないのだろう。神様の記憶が失われている以上、お主はもしネクスタ王国に戻ったら古文書を洗いざらい調べさせるべきだ。王国成立前の神の時代の資料が残っているかは分からぬが、何か手がかりがあるかもしれない。神様の力が戻ってこれば我らも過ごしやすくなる。行ってくるが良い”
御使様の言葉に私は思わぬ光明を見出しました。この神巫の力を解明すれば、二つの国を同時に救えるかもしれないのです。
“本当ですか!? ありがとうございます!”
御使様の思わぬ言葉に私は嬉しくなります。
こうして私は王国に戻る決意を固めたのです。
27
お気に入りに追加
3,534
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!
ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。
ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。
そこで私は重要な事に気が付いた。
私は聖女ではなく、錬金術師であった。
悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について
青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。
公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。
ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。
怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。
慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。
というお話にする予定です。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】
小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。
しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。
そして、リーリエルは戻って来た。
政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています

とりかえばや聖女は成功しない
猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。
ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。
『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』
その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。
エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。
それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。
それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる