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神巫
神託と神巫
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さて、殿下のいる本陣を出た私は砦の一室に籠って神様に祈ります。
私はどうすればいいのでしょうか。私がネクスタ王国に帰らなければ神様は王国を助けてはいただけないのでしょうか。また、次の聖女は現れるのでしょうか。
私が一心に祈りを捧げていると不意に神様の声が聞こえてきます。
“よくぞ帝国軍を倒した。早く王国に戻って祈りを捧げるのだ。信仰が薄れ、我が力も弱まり、すでに国には多くの被害が出ている”
それを聞いて私はやはりか、と暗い気持ちになります。
とはいえどうにか聖女と竜の巫女の役割を両立することは出来ないでしょうか。
無礼とは思いますが、一度うかがってみなければなりません。
“しかし私は聖女ではなく神巫ですし、今は竜たちにも祈りを捧げなければなりません。あの、私より後の聖女は現れるのでしょうか?”
“聖女は同時期にあまり多くの人数が存在することは出来ないし、遺憾ながら一度与えた加護を回収することは出来ない”
神様の言葉がどういうことなのか考えてみます。まず私が聖女になる前の先代聖女様は高齢で引退しただけでおそらく御存命のはずです。そして今聖女の加護を持っているアリエラも神様の言葉を聞く限り死んではいないのでしょう。すでに二人が聖女の加護を持っている以上、三人目が登場するのは難しいのかもしれません。
とすると、新たな聖女が登場するためにはアリエラを殺す必要があるということでしょうか。私はその想像に辿り着いて息をのみます。しかしそんな恐ろしいことを神様に確認する訳にもいきません。
それにアリエラがどこかに逃げたのだとすればすぐに見つけ出すことは難しいでしょう。
そこで私は質問を変えます。
“では神巫とは一体何者なのでしょうか?”
“古の時代我はネクスタ王国だけでなく、もっと広い範囲を守護する存在であった。その時に我に仕えていたのが神巫だ。しかし神巫がいなくなり、我は力を失い、それ以来神巫が現れることはなくなった。そして力を失うと同時に、神巫についての知識も失ったのだ”
思わぬ話の展開に私は驚きます。まさか神巫がそのような伝説に近い存在であったとは。
しかし一体どうすれば伝説の時代の神巫のような力を手にすることが出来るのでしょう。その力があれば、二つの役割を同時にまっとうすることが出来るかもしれません。
“何にせよ、ネクスタ王国を救いたければ王国に戻ることだ。それ以外に我が力を取り戻す方法はない”
そう言って神様の気配は消えていきました。
そこで私はふと思い立ちます。竜たちであれば伝説の時代のことも知っているのではないか、と。
私は砦を出ると急いで御使様のところへ向かいます。幸いなことに御使様は砦の近くで他の竜たちとともに羽を休めていました。
そう言えば私は御使様に神巫のことを話したことはありませんでした。隣国の事情を竜に話しても仕方ないと思っていたのですが、今聞いた話が本当であれば神巫の存在はこの国にも影響することになります。
“巫女殿よ、この度はご苦労であった”
私が近づいていくと、御使様はそんな言葉をかけてくれます。
“いえ、こちらこそありがとうございます。それよりも今回は聞きたいことがありまして”
“何だ”
“神巫についてです”
“神巫だと!?”
その単語が出た瞬間、御使様の声色が変わります。
やはり彼らは神巫の存在を知っている、いや憶えているようです。
“何で突然そのようなことを尋ねたのだ”
“実は私、隣国で神巫の加護を受けていたのです”
“何と……まさか神巫が再び現れるとは”
そう言って御使様は驚きの目でこちらを見ます。
“確かに一目見た時からただものではないと思っていたが、まさかそのような存在だったとは。いいだろう、神巫について我が知る限りを教えたよう”
御使様が語った内容をまとめると大体このようになります。
昔この地は神が支配していた。竜族は神が支配する地に住む一種族としてのびのびと暮らしていた。人間たちは今よりもずっと数が少なかったが、今のネクスタ王国の辺りに固まって棲んでいた。神巫という者が彼らの頂点に立ち、神に祈っていた。当時の神の力は強く、東は竜国から西は帝国の辺りまで力を及ぼしていた。
しかしある時、人間同士の抗争で神巫は死ぬ。それをきっかけに神様は力を失い、地上に魔物が跳梁跋扈するようになった。そしてその後、竜によって守られるエルドラン王国と力が弱まった神によって守られるネクスタ王国が別々に成立したという訳である。
ただし、神巫は神様に直接祈っていたため、竜たちは神巫のことを詳しくは知らない。
“つまり、私が王国に戻って神様に祈りを捧げれば神様の力は元に戻るのでしょうか? しかしそれなら私が聖女だった時代に神様の力が戻っているはず”
“そうだ、ということは何かが足りてないのだろう。神様の記憶が失われている以上、お主はもしネクスタ王国に戻ったら古文書を洗いざらい調べさせるべきだ。王国成立前の神の時代の資料が残っているかは分からぬが、何か手がかりがあるかもしれない。神様の力が戻ってこれば我らも過ごしやすくなる。行ってくるが良い”
御使様の言葉に私は思わぬ光明を見出しました。この神巫の力を解明すれば、二つの国を同時に救えるかもしれないのです。
“本当ですか!? ありがとうございます!”
御使様の思わぬ言葉に私は嬉しくなります。
こうして私は王国に戻る決意を固めたのです。
私はどうすればいいのでしょうか。私がネクスタ王国に帰らなければ神様は王国を助けてはいただけないのでしょうか。また、次の聖女は現れるのでしょうか。
私が一心に祈りを捧げていると不意に神様の声が聞こえてきます。
“よくぞ帝国軍を倒した。早く王国に戻って祈りを捧げるのだ。信仰が薄れ、我が力も弱まり、すでに国には多くの被害が出ている”
それを聞いて私はやはりか、と暗い気持ちになります。
とはいえどうにか聖女と竜の巫女の役割を両立することは出来ないでしょうか。
無礼とは思いますが、一度うかがってみなければなりません。
“しかし私は聖女ではなく神巫ですし、今は竜たちにも祈りを捧げなければなりません。あの、私より後の聖女は現れるのでしょうか?”
“聖女は同時期にあまり多くの人数が存在することは出来ないし、遺憾ながら一度与えた加護を回収することは出来ない”
神様の言葉がどういうことなのか考えてみます。まず私が聖女になる前の先代聖女様は高齢で引退しただけでおそらく御存命のはずです。そして今聖女の加護を持っているアリエラも神様の言葉を聞く限り死んではいないのでしょう。すでに二人が聖女の加護を持っている以上、三人目が登場するのは難しいのかもしれません。
とすると、新たな聖女が登場するためにはアリエラを殺す必要があるということでしょうか。私はその想像に辿り着いて息をのみます。しかしそんな恐ろしいことを神様に確認する訳にもいきません。
それにアリエラがどこかに逃げたのだとすればすぐに見つけ出すことは難しいでしょう。
そこで私は質問を変えます。
“では神巫とは一体何者なのでしょうか?”
“古の時代我はネクスタ王国だけでなく、もっと広い範囲を守護する存在であった。その時に我に仕えていたのが神巫だ。しかし神巫がいなくなり、我は力を失い、それ以来神巫が現れることはなくなった。そして力を失うと同時に、神巫についての知識も失ったのだ”
思わぬ話の展開に私は驚きます。まさか神巫がそのような伝説に近い存在であったとは。
しかし一体どうすれば伝説の時代の神巫のような力を手にすることが出来るのでしょう。その力があれば、二つの役割を同時にまっとうすることが出来るかもしれません。
“何にせよ、ネクスタ王国を救いたければ王国に戻ることだ。それ以外に我が力を取り戻す方法はない”
そう言って神様の気配は消えていきました。
そこで私はふと思い立ちます。竜たちであれば伝説の時代のことも知っているのではないか、と。
私は砦を出ると急いで御使様のところへ向かいます。幸いなことに御使様は砦の近くで他の竜たちとともに羽を休めていました。
そう言えば私は御使様に神巫のことを話したことはありませんでした。隣国の事情を竜に話しても仕方ないと思っていたのですが、今聞いた話が本当であれば神巫の存在はこの国にも影響することになります。
“巫女殿よ、この度はご苦労であった”
私が近づいていくと、御使様はそんな言葉をかけてくれます。
“いえ、こちらこそありがとうございます。それよりも今回は聞きたいことがありまして”
“何だ”
“神巫についてです”
“神巫だと!?”
その単語が出た瞬間、御使様の声色が変わります。
やはり彼らは神巫の存在を知っている、いや憶えているようです。
“何で突然そのようなことを尋ねたのだ”
“実は私、隣国で神巫の加護を受けていたのです”
“何と……まさか神巫が再び現れるとは”
そう言って御使様は驚きの目でこちらを見ます。
“確かに一目見た時からただものではないと思っていたが、まさかそのような存在だったとは。いいだろう、神巫について我が知る限りを教えたよう”
御使様が語った内容をまとめると大体このようになります。
昔この地は神が支配していた。竜族は神が支配する地に住む一種族としてのびのびと暮らしていた。人間たちは今よりもずっと数が少なかったが、今のネクスタ王国の辺りに固まって棲んでいた。神巫という者が彼らの頂点に立ち、神に祈っていた。当時の神の力は強く、東は竜国から西は帝国の辺りまで力を及ぼしていた。
しかしある時、人間同士の抗争で神巫は死ぬ。それをきっかけに神様は力を失い、地上に魔物が跳梁跋扈するようになった。そしてその後、竜によって守られるエルドラン王国と力が弱まった神によって守られるネクスタ王国が別々に成立したという訳である。
ただし、神巫は神様に直接祈っていたため、竜たちは神巫のことを詳しくは知らない。
“つまり、私が王国に戻って神様に祈りを捧げれば神様の力は元に戻るのでしょうか? しかしそれなら私が聖女だった時代に神様の力が戻っているはず”
“そうだ、ということは何かが足りてないのだろう。神様の記憶が失われている以上、お主はもしネクスタ王国に戻ったら古文書を洗いざらい調べさせるべきだ。王国成立前の神の時代の資料が残っているかは分からぬが、何か手がかりがあるかもしれない。神様の力が戻ってこれば我らも過ごしやすくなる。行ってくるが良い”
御使様の言葉に私は思わぬ光明を見出しました。この神巫の力を解明すれば、二つの国を同時に救えるかもしれないのです。
“本当ですか!? ありがとうございます!”
御使様の思わぬ言葉に私は嬉しくなります。
こうして私は王国に戻る決意を固めたのです。
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