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決戦

更なる味方

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 こうしてエルドラン王国軍五千は王都を出発しました。
 軍勢を間近で見たことのない私からすれば五千人でも十分多く見えますが、帝国軍はこのさらに六倍と思うととんでもない数です。

 ネクスタ王国とエルドラン王国の国境には元々ぼろぼろの砦があったのですが、今は帝国軍の襲来を聞いて慌てて土塀や空堀など急造の防御施設が拡大されています。とはいえネクスタ王国やエルドラン王国の王城に比べれば頼りなく、帝国の大軍を防ぎきれるようには到底見えません。

 私たちが砦に着くとそちらにすでに集まっていた王国軍三千ほどと合流しますが、それでも帝国軍からすればかなり少ないと言わざるを得ません。
 兵士たちも、皆不安そうな表情をしています。

 が、そこへ東の空から十体の巨大な竜が飛翔してくるのが見えます。急いで砦の見張り台に上って見にいくと、その先頭を飛んでいるのはガルドです。
 それを見てこれまで帝国軍に恐怖していた兵士たちは一気に盛り上がりました。

「竜が我らに味方してくださるのか!」
「これなら帝国にも負ける訳がない!」

 さらに、それを見た貴族たちも私の元にやってきます。

「会議の際は巫女様を引き渡すようなことを主張して申し訳ありません」
「まさか人同士の戦いにも竜をお呼びくださるとは。さすがのお力です」
「いえ、あの時は皆国を思っての発言ですから気にしておりませんよ。それに実際帝国軍と戦うのは皆様です。私は祈ることしか出来ませんので」
「そのようなことはありません。竜が人間同士の争いで味方してくださるなど前代未聞のことですので」

 こうして味方は俄然士気が上がります。
 ガルドたちは砦付近に広がっている平原に降り立ちました。私は急いで砦を出ると、竜たちの元に向かいます。

 “来てくださってありがとうございます。もし何かおもてなしできることがあれば”
 “別にお前たちのために来た訳ではない。我らはただ帝国のやり方が許せなかっただけだ”

 ガルドが皆を代表して言います。

 “だから我らへの気遣いは無用だ。帝国軍がやってこれば、勝手に攻撃し、戦いが終われば勝手に帰っていく”

 私は彼らが滞在している間お世話などをした方がいいのかと内心心配していましたが、どうやら彼なりに私に対して気を遣ってくれているようで、少し嬉しくなります。

 “分かりました。でしたらせめて祈りを捧げさせていただきます”

 私はその場でガルドに祈りを捧げるのでした。



 さらにその数日後のことです。
 再び東の空から十五体ほどの竜たちが飛んできます。急いで見張り台に上って見にいくと、先頭を飛んでいるのは御使様です。ということはこちらは守護竜様に味方する竜たちの一派でしょう。
 私は嬉しいのを通り越して驚きながら、急いで出迎えに行きました。

 “御使様! 皆さんも来て下さったのですか!?”
 “巫女殿もご苦労だ。我らは元々人同士の争いには関与しない予定だったが、ガルド一派が加勢したと聞いた。元々王国と距離があったガルド一派が加勢したのに王国と親しくしている我らが傍観している訳にはいかぬ。そう思って急ぎやってきたのだが、間に合って良かった”

 まさかガルドたちの加勢がこのような効果を生むとは。
 これは嬉しい誤算です。

 “本当にありがとうございます”
 “帝国軍が来るまで我らは少し離れたところで待機しているので気にしなくてよい”

 御使様たちはガルドたちとは砦を挟んで反対側の平原に降りたち、そこで休息します。
 私が砦に戻ると、興奮した様子の殿下が駆け寄ってきました。

「まさか御使様たちまで来て下さるとは」
「どうも、ガルドさんたちに対抗意識を燃やしたようです」

 そう言って私は御使様から聞いたことをお話します。それを聞いて殿下は何度も驚きながら頷きました。

「なるほど、そういうこともあるのか。竜たちが二派に分かれていたことは少し気になっていたが、まさかそれがいい方に出るとはな」
「はい、私も驚きました」
「しかしそれもシンシアのおかげだろう。元はそなたが守護竜様だけでなくガルドたちにも祈りを捧げようと言ったことが全ての発端だ。そなたのひたむきな姿勢が、それまで対立していた彼らを結び付けたのだ」
「そう言っていただけるとありがたいです」

 こうして私たちは数では負けていながらも、竜たちの加勢を受け旺盛な士気で帝国軍を待ち受けたのです。
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