本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
27 / 45
帝国の影

アリエラ Ⅱ

しおりを挟む
 さて、その後綿密な計画を練った私たちは小うるさい大司教グレゴリオが病で倒れた隙を狙って計画を起こした。この時バルクだけでなく父である国王陛下も神殿に嫌気が差していたというのは少し意外だった。
 ネクスタ王国は神の加護で栄えている国だから神殿が大きな顔をしているのが、国王にとってもおもしろくなかったのかもしれない。

 何にせよ、憎きシンシアの追放劇は意外なほどとんとん拍子に進んだ。こうして私は晴れて聖女になった訳である。
 聖女になった私は早速神殿の改革に着手した。神殿に聖女にされかけて捨てられたことを恨んだ私は神殿に徹底的に厳しく当たった。私に逆らう人たちを次々と追放もしくは左遷し、神殿が貯めていたお金は全て王宮改装のために使わせた。この点はバルクとも非常に気が合った。

 神殿に入った時、頭上の神像が落ちてくるという事件があったが、私が神を恨むことはあっても全く尊敬していないことが伝わってしまったからではないかと思う。
 何でもお見通しなところはさすが神様、と思ったが人間の世界のことにいちいちしゃしゃり出てこないで欲しい、とも思ったものだ。

 そして私たちはこれまで自分たちを見下してきた人たちに対する当てつけのように王国を変え、そして気づかぬうちに王国の柱は朽ちていっていた。
 もちろん私もその自覚がなかった訳ではないが、それでも王国は私の予想をはるかに上回る速度で傾いていたのである。
 
 意気投合した殿下と私だが、一つだけ大きな違いがあるとすれば、私は王国がどうなろうと大して気にならなかったことだろう。



「え、殿下が帝国に敗れた?」

 最初にその報告を聞いた時の私はにわかにその報告を信じられなかった。
 殿下が将軍と揉めた話は聞いていたが、だからといって一万以上いる軍勢があっさりと敗れてしまうなんて。

 が、すでにその知らせは複数の筋から届いており、神殿内はざわついている。
 中には、

「やはり聖女様が交代したからではないか」
「神罰ではないか」

 と噂する者もいた。

 そんな訳がない。なぜシンシアではなく私ではだめなのか。
 いなくなった後でも皆は私よりもシンシアを選ぶのか。
 そう思うと無性に腹が立った。

「ベント、彼らを静めて」
「承知いたしました」

 不愉快なことを言う奴らは全員黙らせなければ。幸い、バルクに借りたこのベントという騎士は私の命令に忠実であった。

 そして私は国王の元に向かうと、すぐに隣国のエルドラン王国に援軍要請をするよう頼む。いくら王国を奪っても、その王国があっさりと帝国に倒されては意味がない。

 が、戻って来た使者が伝えた竜国の返答は非情なものだった。

 そして、その時私が聞いた話はよりショッキングなものだった。なんと、あのシンシアが竜の巫女になったというのだ。

 その時私は神を呪った。彼女は私より聖女にふさわしいのではなかったのか。それなら聖女以外にはなれないべきではないか。何であいつは聖女にも竜の巫女にもなれるのか。そして私は聖女にも竜の巫女にもなれなかったのか。

 そう考えると、さらにシンシアが憎くなってきた。
 何で彼女は何にでもなれるのに私は何にもなれないんだ、と。

「た、助けてくれアリエラ」

 そこへ無残に敗走したバルクが帰ってくる。
 出陣したときの意気揚々とした態度はどこへやら、見るも無残に焦燥していた。おそらくは帝国軍が現れた時、道中、王都と皆が彼の無能さを指摘したのだろう。真っ先に逃げ帰ったので傷はなさそうだったが、彼の心はすでに折れてしまっているようだった。
 
 本来なら私も心が折れてさっさと逃走に移っていたかもしれないが、シンシアへの怒りがそれを押しとどめた。私が破滅するのは仕方ないが、せめてあいつを道連れにしなければ気が済まない。

 帰って来たバルクに私は問いかける。

「殿下。殿下はこの国に愛着はありますか?」
「な、何を言ってるんだアリエラ。あるに決まってるだろ!?」

 私の問いにバルクは驚きながら答える。

「本当ですか? この国の人たちは皆殿下を馬鹿にするばかり。彼らは私たちよりも今頃竜国で呑気に巫女をしているシンシアの方がいいのです」
「な、何だと」

 それを聞いてバルクの顔色が変わる。シンシアの名前はバルクの心を固くするのに充分であった。

「それでアリエラは一体何が言いたいんだ」
「私たちは帝国に降伏しましょう。こんな国はどうなっても構いません」
「だが、それでは俺たちは……」
「降伏の条件として、王都の城門を開ける代わりに帝国に多少なりとも領地をもらいましょう。そして」

 そこで私は言葉をきる。バルクはごくりと唾をのみ込んだ。

「帝国軍とともに竜国に攻め込んで憎きシンシアを殺すのです」
「なるほど。確かにあいつを殺さなければ俺たちは永遠に無能王子と無能聖女のままだ」

 バルクは自嘲気味に笑った。確かにその通りだ、と私は思った。



 その数日後、王都を包囲した帝国軍に私たちがその条件を持ちかけると、彼らはあっさり飲んだ。王都の城壁は堅固であり、何か月も包囲して攻城するのは骨が折れると思ったのだろう。

 私たちはベントら、信頼できる家臣たちを率いて城門の警備兵を城内から倒し、城門を開けた。こうして数百年の歴史を誇るネクスタ王国はあっさりと滅亡したのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「自分より優秀な部下はいらない」と国を追い出されました。それから隣国で大成した私に「戻って来て欲しい」なんてよく言えましたね?

木山楽斗
恋愛
聖女の部下になったレフィリアは、聖女以上に優秀な魔法使いだった。 故に聖女は、彼女に無実の罪を着せて国から追い出した。彼女にとって「自分より優秀な部下」は、必要がないものだったのである。 そんなレフィリアは、隣国の第二王子フォルードによって救われた。 噂を聞きつけた彼は、レフィリアの能力を買い、自国に引き入れることにしたのだ。 フォルードの狙い通り、レフィリアは隣国の発展に大きく貢献した。 それを聞きつけたのか、彼女を追い出した王国は「戻って欲しい」などと言い始めた。 当然、レフィリアにとってそれは不快な言葉でしかない。彼女は王国を批判して、その要求を突っぱねるのだった。

聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!

ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。 ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。 そこで私は重要な事に気が付いた。 私は聖女ではなく、錬金術師であった。 悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!

婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。

ぽっちゃりおっさん
恋愛
 公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。  しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。  屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。  【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。  差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。  そこでサラが取った決断は?

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います

黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。 レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。 邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。 しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。 章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。 どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。 表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

処理中です...