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帝国の影
竜のガルド
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それから数日後、ついに私は人間に対してあまり良い感情を抱いていない竜たちの元に赴くことに決まりました。
その日の朝、いつものように殿下と御使様がやってきます。
それを見て私は引っ掛かっていたことを述べます。
「あの、殿下が毎回ついてきてくださるのは嬉しいですが、王宮での仕事もお忙しいのに大丈夫なのでしょうか? 護衛だけであれば他の方々でも」
もちろん私としても本当は殿下についてきていただきたいのですが、もしかしたら私のために無理をさせてしまっているのかもしれません。
「もちろん僕がシンシアを心配して毎回同行していっているというのもあるが、それだけではない。竜と話すというのは言うなれば我が国にとっての外交と同じだ。もし竜から何か要求などがあったとき、シンシアの一存では対応できないだろう」
殿下はそう断言してくださいます。そういう事情であれば私としても安心してお言葉に甘えられるというものです。そう思って一瞬納得しましたが、すぐに新たな疑問が出てきます。
「確かにそうですね。でも今までの巫女は一人で別荘で暮らしていたと聞きますが」
「それは今までの巫女はシンシアほど細かなコミュニケーションがとれなかったからだ。だから竜から難しい要求をしてくることはなかった。でも、シンシアはほぼ人間相手と同じぐらいにコミュニケーションがとれる。それに今度の竜は人間に対して好意を持っていない。もしかしたら何か交換条件のようなものを持ち出してくる可能性もある」
「分かりました。そういうことでしたら是非同行お願いします」
まさか殿下にそこまで深い意図があったとは思いませんでした。それなら毎回同行するのも納得です。
どういう意図にせよ、毎度同行していただけるのは心強いですし、嬉しいものです。
こうして私たちは東のガルドロス山脈に向かって飛び立ちました。馬よりも遥かに速い竜の背に乗って飛んでいるのに、五日ほどかかってしまいます。
王都を少し離れると農村地帯が広がっていますが、さらに進んでいくと、だんだんと荒れ地が多くなっています。人間が棲んでいないところには魔物たちが小さな集落をつくって暮らしているのが見えます。
その荒れ地を越えていくと、やがて遠くに灰色の山肌をした山々が見えてきます。その山々の上には御使様やヘルメスよりも体格が大きな竜がときおり飛び回っているのが見えます。
が、私たちに気が付くとそのうちの一体がこちらに向かって飛んできます。こころなしか、私たちに敵対的な視線を向けているように思えます。彼らが人間にあまり友好的でない竜たちなのでしょう。
“人間が我らに何の用だ”
“おぬしたちの首領と話がしたい”
そう答えたのは御使様でした。竜は少し考えた末、頷きます。
“まあいい、ならばついてくるが良い”
私たちはその竜について飛んでいきます。
やがて私たちは山の頂上付近にある開けた土地に降り立ちました。すると、竜たちが次々と集まってきます。そして私たちを囲むように次々と降りたちました。
「どうやら威圧されているようだな」
殿下が緊張した面持ちで言います。
「え、そうなのですか!?」
「そうだ。とはいえ安心してくれ。竜が人間に危害を加えることはこれまでほぼなかったし、いざとなったら絶対に君だけは逃がす」
殿下の力強い言葉に私は少し安心しました。
が、すぐに二十体ほどの竜たちに周囲を包囲されます。威圧されている、というのは適切な表現で場合によってはこのまま逃がさない、という気迫のようなものを感じます。
そこへ一際大きい、体長数メートルの竜が彼らの中央に降り立ちます。彼がこの竜たちのボスなのでしょうか。
“我が名はガルド。ここの竜の長だ。早速だが、人間たちが何の用だ”
ガルドの言葉に御使様がこちらを見ます。ここからの会話は私が行うようです。
“それではお伺いしますが、皆様が守護竜様に協力していただけないのは我らに何か不手際があったためでしょうか”
“不手際? 不手際も何もお前たちは我らの土地で我がもの顔に暮らしているではないか!”
初手から機嫌の悪さ全開です。その敵対的な様子に私も少したじろいでしまいます。
“しかし代わりに私たちは守護竜様に祈りを捧げているはずです。そしてこれまではそれで問題なかったと思うのですが”
“我らは気づいたのだ。お前たち守護竜と呼ぶ竜が人間の祈りを独り占めして我らには何の恩恵もない。ならば我らが人間たちのために働く云われはない!”
私の言葉にガルドは語気を荒げます。
そこで私はかねてから考えていたことを述べます。
“ならば私が守護竜様と、例えばあなたにも祈りを捧げればいいのでしょうか?”
“巫女殿、それは”
私の言葉に御使様がさっと止めに入ります。
一方、相手方の竜たちも私の言葉に“本当か?”“そうしてもらえるのであれば””いや、そんなことが出来るはずない”などとざめきます。
“さすがに無理があるのではないか?”
“いえ、祈りを捧げる場所さえ王都の近くでいいのであればやってやれないことはないはずです”
私は真剣な表情で言います。これが私がずっと考えていたことです。
確かに全ての竜に祈りを捧げることは無理でしょう。しかし守護竜様にプラスしてガルドに祈ることなら出来るはずです。
私の言葉にそれまで拒絶だった竜たちの態度は変わり、彼らは仲間同士で相談を始めます。
そんな時でした。不意に竜たちの向こうから黒ローブを纏った一人の怪しい男がやってきます。そして彼は竜語で流暢に話しました。
“そのような世迷言を真に受けてはならぬ。人間たちが我らにしてきた仕打ちを忘れてはならない! むしろここでエルドラン王国の指導者を捕えれば、奴らは要求を呑むだろう”
その日の朝、いつものように殿下と御使様がやってきます。
それを見て私は引っ掛かっていたことを述べます。
「あの、殿下が毎回ついてきてくださるのは嬉しいですが、王宮での仕事もお忙しいのに大丈夫なのでしょうか? 護衛だけであれば他の方々でも」
もちろん私としても本当は殿下についてきていただきたいのですが、もしかしたら私のために無理をさせてしまっているのかもしれません。
「もちろん僕がシンシアを心配して毎回同行していっているというのもあるが、それだけではない。竜と話すというのは言うなれば我が国にとっての外交と同じだ。もし竜から何か要求などがあったとき、シンシアの一存では対応できないだろう」
殿下はそう断言してくださいます。そういう事情であれば私としても安心してお言葉に甘えられるというものです。そう思って一瞬納得しましたが、すぐに新たな疑問が出てきます。
「確かにそうですね。でも今までの巫女は一人で別荘で暮らしていたと聞きますが」
「それは今までの巫女はシンシアほど細かなコミュニケーションがとれなかったからだ。だから竜から難しい要求をしてくることはなかった。でも、シンシアはほぼ人間相手と同じぐらいにコミュニケーションがとれる。それに今度の竜は人間に対して好意を持っていない。もしかしたら何か交換条件のようなものを持ち出してくる可能性もある」
「分かりました。そういうことでしたら是非同行お願いします」
まさか殿下にそこまで深い意図があったとは思いませんでした。それなら毎回同行するのも納得です。
どういう意図にせよ、毎度同行していただけるのは心強いですし、嬉しいものです。
こうして私たちは東のガルドロス山脈に向かって飛び立ちました。馬よりも遥かに速い竜の背に乗って飛んでいるのに、五日ほどかかってしまいます。
王都を少し離れると農村地帯が広がっていますが、さらに進んでいくと、だんだんと荒れ地が多くなっています。人間が棲んでいないところには魔物たちが小さな集落をつくって暮らしているのが見えます。
その荒れ地を越えていくと、やがて遠くに灰色の山肌をした山々が見えてきます。その山々の上には御使様やヘルメスよりも体格が大きな竜がときおり飛び回っているのが見えます。
が、私たちに気が付くとそのうちの一体がこちらに向かって飛んできます。こころなしか、私たちに敵対的な視線を向けているように思えます。彼らが人間にあまり友好的でない竜たちなのでしょう。
“人間が我らに何の用だ”
“おぬしたちの首領と話がしたい”
そう答えたのは御使様でした。竜は少し考えた末、頷きます。
“まあいい、ならばついてくるが良い”
私たちはその竜について飛んでいきます。
やがて私たちは山の頂上付近にある開けた土地に降り立ちました。すると、竜たちが次々と集まってきます。そして私たちを囲むように次々と降りたちました。
「どうやら威圧されているようだな」
殿下が緊張した面持ちで言います。
「え、そうなのですか!?」
「そうだ。とはいえ安心してくれ。竜が人間に危害を加えることはこれまでほぼなかったし、いざとなったら絶対に君だけは逃がす」
殿下の力強い言葉に私は少し安心しました。
が、すぐに二十体ほどの竜たちに周囲を包囲されます。威圧されている、というのは適切な表現で場合によってはこのまま逃がさない、という気迫のようなものを感じます。
そこへ一際大きい、体長数メートルの竜が彼らの中央に降り立ちます。彼がこの竜たちのボスなのでしょうか。
“我が名はガルド。ここの竜の長だ。早速だが、人間たちが何の用だ”
ガルドの言葉に御使様がこちらを見ます。ここからの会話は私が行うようです。
“それではお伺いしますが、皆様が守護竜様に協力していただけないのは我らに何か不手際があったためでしょうか”
“不手際? 不手際も何もお前たちは我らの土地で我がもの顔に暮らしているではないか!”
初手から機嫌の悪さ全開です。その敵対的な様子に私も少したじろいでしまいます。
“しかし代わりに私たちは守護竜様に祈りを捧げているはずです。そしてこれまではそれで問題なかったと思うのですが”
“我らは気づいたのだ。お前たち守護竜と呼ぶ竜が人間の祈りを独り占めして我らには何の恩恵もない。ならば我らが人間たちのために働く云われはない!”
私の言葉にガルドは語気を荒げます。
そこで私はかねてから考えていたことを述べます。
“ならば私が守護竜様と、例えばあなたにも祈りを捧げればいいのでしょうか?”
“巫女殿、それは”
私の言葉に御使様がさっと止めに入ります。
一方、相手方の竜たちも私の言葉に“本当か?”“そうしてもらえるのであれば””いや、そんなことが出来るはずない”などとざめきます。
“さすがに無理があるのではないか?”
“いえ、祈りを捧げる場所さえ王都の近くでいいのであればやってやれないことはないはずです”
私は真剣な表情で言います。これが私がずっと考えていたことです。
確かに全ての竜に祈りを捧げることは無理でしょう。しかし守護竜様にプラスしてガルドに祈ることなら出来るはずです。
私の言葉にそれまで拒絶だった竜たちの態度は変わり、彼らは仲間同士で相談を始めます。
そんな時でした。不意に竜たちの向こうから黒ローブを纏った一人の怪しい男がやってきます。そして彼は竜語で流暢に話しました。
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