22 / 45
帝国の影
ネクスタ王国からの使者
しおりを挟む
その翌日のことでした。私が部屋の中から何となく王宮の方を眺めていると、私の出身であるネクスタ王国の旗印を掲げた使者が歩いていくのが見えます。
ネクスタ王国とエルドラン王国は特に何もない時に使者が往来するほど仲がいい関係ではなかったような気がしたので、私は何となく胸騒ぎを覚えて王宮に向かうことにしました。
「巫女様、いかがされましたか?」
私の姿を見た貴族の一人が声をかけてきます。相変わらずここまでちやほやされるのは慣れませんが、今はかえって話が速いです。
「ネクスタ王国からの使者が入ってくるのが見えまして。実は私はそちらの出身なものなので、何か起こったのではないかと気になっていたのです」
「なるほど……そう言えばそうでしたな」
私の言葉を聞いて貴族の方は複雑な表情を見せます。
そして少し考えた末に口を開きました。
「実は先ほど届いた情報によると、ネクスタ王国はデュアノス帝国に大敗したのです」
「え!?」
思わぬ言葉に私は声をあげてしまいました。元々仲は良くない二国でしたが、まさかここまで早く戦いになってしまうとは。
「一体何があったのですか!?」
「実は……」
そう言って貴族の方はバルク王子の失政と相次ぐ反乱、そして敗北に至るまでの流れをかいつまんで説明してくれます。
「そんな……いなくなってすぐにそんな恐ろしいことになっていたとは」
あまりのことに戦慄しました。確かに彼は危ういところがありましたが、まさか私がいなくなってから短期間でそこまでひどいことになってしまうとは思いませんでした。
しかも話を聞く限りでは、バルク王子の暴政や帝国の侵略はむしろここからが本番。国民の被害は増えていくばかりでしょう。
「それで使者は我が国に援軍を求めてきたらしいのです」
ネクスタ王国は西のデュアノス帝国、東のエルドラン王国に挟まれており、北は山、南は荒れ地が広がっています。
そのため助けを求めるとすれば我が国しかありません。
「それで使者の方は?」
「今殿下と謁見しているはずだが、どうなることやら」
貴族も隣国で起こっている悲劇に表情を暗くしました。
それを聞いた私はいても立ってもいられなくなります。
そして使者が退出するのと入れ替わりに、殿下の部屋に向かいました。そこで部屋から出てきた殿下と鉢合わせします。
「ハリス殿下、シンシアです」
「シンシアか。ちょうど僕も呼ぼうと思っていたところだ。入ってくれ」
殿下の言葉に促されて入室すると、殿下も険しい表情を浮かべています。
私が殿下と向かい合うように腰かけると、殿下は使者から聞いた話を語り始めました。
内容はおおむね、先ほど使者から聞いた話と同じでした。
「……と言う訳でネクスタ王国から救援要請が出た訳だが、結論から言うと援軍を送ることは出来ない。申し訳ない」
「いえ、これはそもそもバルク王子の自業自得です」
王国や王家がどうなろうと構わないですが、無関係の人々が被害を受けることだけは心が痛みます。
とはいえ、仮に援軍を送って帝国軍を撃退しても、王子をどうにかしないことには問題は解決しません。かといってバルク王子をどうにかしても、混乱した状態では帝国に対峙することも難しいでしょう。
「そもそも我が国は守護竜様の力で国を守ってもらっている以上、他国に比べて軍隊がかなり弱い。巫女がいないときに攻め込まれていればすぐに滅ぼされていただろう。続いて、最近は落ち着いてきたが、魔物の大量発生による傷跡は深く、その少ない軍勢もかなり損害を受けている」
「はい」
たくさんの貴族たちが私に感謝する際、いかに自分たちがこれまで苦しんでいたかも同時に聞きました。そのため、その状況は王都にいる私にもある程度想像はつきます。
とても勝利の勢いに乗っている帝国軍と戦う余力はないでしょう。
「そしてもう一つ、人間に味方しない竜の存在も気になっている。僕としてはまず国内の問題を先に解決することが先だと思う」
「その通りです」
「とはいえ、今後もネクスタ王国の動向には注意を払うし、我が国の状況が一段落すれば援軍も出せるかもしれない」
「お気遣いありがとうございます」
ハリス殿下はエルドラン王国の王子。まずは自分の国の人々を守ることを第一にすべきでしょう。
そんな中、私のフォローまでしてくれてありがたい限りです。
「こういう中王都を離れるのは不安であるが、人間にあまり好意的でない竜たちが棲むガルドロス山脈というところがある。なのでまずそちらの問題をどうにかしようと思う」
「分かりました」
殿下の言葉に私は頷きます。
「竜の背に乗っても数日かかる遠いところだ。旅支度だけはしておいてくれ」
こうして私は祖国の心配をしつつも旅支度を始めるのでした。
ネクスタ王国とエルドラン王国は特に何もない時に使者が往来するほど仲がいい関係ではなかったような気がしたので、私は何となく胸騒ぎを覚えて王宮に向かうことにしました。
「巫女様、いかがされましたか?」
私の姿を見た貴族の一人が声をかけてきます。相変わらずここまでちやほやされるのは慣れませんが、今はかえって話が速いです。
「ネクスタ王国からの使者が入ってくるのが見えまして。実は私はそちらの出身なものなので、何か起こったのではないかと気になっていたのです」
「なるほど……そう言えばそうでしたな」
私の言葉を聞いて貴族の方は複雑な表情を見せます。
そして少し考えた末に口を開きました。
「実は先ほど届いた情報によると、ネクスタ王国はデュアノス帝国に大敗したのです」
「え!?」
思わぬ言葉に私は声をあげてしまいました。元々仲は良くない二国でしたが、まさかここまで早く戦いになってしまうとは。
「一体何があったのですか!?」
「実は……」
そう言って貴族の方はバルク王子の失政と相次ぐ反乱、そして敗北に至るまでの流れをかいつまんで説明してくれます。
「そんな……いなくなってすぐにそんな恐ろしいことになっていたとは」
あまりのことに戦慄しました。確かに彼は危ういところがありましたが、まさか私がいなくなってから短期間でそこまでひどいことになってしまうとは思いませんでした。
しかも話を聞く限りでは、バルク王子の暴政や帝国の侵略はむしろここからが本番。国民の被害は増えていくばかりでしょう。
「それで使者は我が国に援軍を求めてきたらしいのです」
ネクスタ王国は西のデュアノス帝国、東のエルドラン王国に挟まれており、北は山、南は荒れ地が広がっています。
そのため助けを求めるとすれば我が国しかありません。
「それで使者の方は?」
「今殿下と謁見しているはずだが、どうなることやら」
貴族も隣国で起こっている悲劇に表情を暗くしました。
それを聞いた私はいても立ってもいられなくなります。
そして使者が退出するのと入れ替わりに、殿下の部屋に向かいました。そこで部屋から出てきた殿下と鉢合わせします。
「ハリス殿下、シンシアです」
「シンシアか。ちょうど僕も呼ぼうと思っていたところだ。入ってくれ」
殿下の言葉に促されて入室すると、殿下も険しい表情を浮かべています。
私が殿下と向かい合うように腰かけると、殿下は使者から聞いた話を語り始めました。
内容はおおむね、先ほど使者から聞いた話と同じでした。
「……と言う訳でネクスタ王国から救援要請が出た訳だが、結論から言うと援軍を送ることは出来ない。申し訳ない」
「いえ、これはそもそもバルク王子の自業自得です」
王国や王家がどうなろうと構わないですが、無関係の人々が被害を受けることだけは心が痛みます。
とはいえ、仮に援軍を送って帝国軍を撃退しても、王子をどうにかしないことには問題は解決しません。かといってバルク王子をどうにかしても、混乱した状態では帝国に対峙することも難しいでしょう。
「そもそも我が国は守護竜様の力で国を守ってもらっている以上、他国に比べて軍隊がかなり弱い。巫女がいないときに攻め込まれていればすぐに滅ぼされていただろう。続いて、最近は落ち着いてきたが、魔物の大量発生による傷跡は深く、その少ない軍勢もかなり損害を受けている」
「はい」
たくさんの貴族たちが私に感謝する際、いかに自分たちがこれまで苦しんでいたかも同時に聞きました。そのため、その状況は王都にいる私にもある程度想像はつきます。
とても勝利の勢いに乗っている帝国軍と戦う余力はないでしょう。
「そしてもう一つ、人間に味方しない竜の存在も気になっている。僕としてはまず国内の問題を先に解決することが先だと思う」
「その通りです」
「とはいえ、今後もネクスタ王国の動向には注意を払うし、我が国の状況が一段落すれば援軍も出せるかもしれない」
「お気遣いありがとうございます」
ハリス殿下はエルドラン王国の王子。まずは自分の国の人々を守ることを第一にすべきでしょう。
そんな中、私のフォローまでしてくれてありがたい限りです。
「こういう中王都を離れるのは不安であるが、人間にあまり好意的でない竜たちが棲むガルドロス山脈というところがある。なのでまずそちらの問題をどうにかしようと思う」
「分かりました」
殿下の言葉に私は頷きます。
「竜の背に乗っても数日かかる遠いところだ。旅支度だけはしておいてくれ」
こうして私は祖国の心配をしつつも旅支度を始めるのでした。
7
お気に入りに追加
3,529
あなたにおすすめの小説
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!
真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」
皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。
ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??
国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡
【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。
佳
ファンタジー
結城依子は、この度異世界のとある国に召喚されました。
呼ばれた先で鑑定を受けると、聖女として呼ばれたのに聖力がありませんでした。
そうと知ったその国の王子は、依子を城から追い出します。
異世界で街に放り出された依子は、優しい人たちと出会い、そこで生活することになります。
パン屋で働き、家具職人スキルを使って恩返し計画!
異世界でも頑張って前向きに過ごす依子だったが、ひょんなことから実は聖力があるのではないかということになり……。
※他サイトにも掲載中。
※基本は異世界ファンタジーです。
※恋愛要素もガッツリ入ります。
※シリアスとは無縁です。
※第二章構想中!
異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……
王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる