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巫女の祈り
間章Ⅲ デュアノス帝国の陰謀
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「殿下、ウルク村で反乱を起こした農民を鎮圧しました!」
それから数日後、農民反乱の鎮圧に向かった将軍が凱旋する。凱旋も何も、武器を持っただけの農民に勝利しただけだが。当然バルクもそれを聞いて喜ぶことはない。反乱がおきたというだけで不愉快であった。
「よし、残った反乱に関わった者やそれを止めなかった者を全員殺せ」
「は?」
バルクの残虐な命令に、将軍も思わず訊き返してしまった。
それを聞いてますますバルクは苛々する。なぜこいつは当たり前の命令を受けるのにいちいち訊き返すのだろうか。
「王国に刃を向けた者は全員死罪。それは法で決まっていることだろう?」
「は、はい」
それはその通りであるが、もとはと言えばバルクが過酷な労役を課したことが乱の原因である。しかも実際に王国と戦った者だけでなく、巻き込まれた農民たちまで殺すのであればその数は相当数に上るだろう。そんなことをすれば王国への怨嗟の声はさらに膨れ上がるだろう。
「どうあってもその命令は撤回されないということでしょうか?」
「当然だ! なぜ王子である俺が家臣の言葉で命令を撤回しなければならない!」
バルクが苛立った声で言うと、将軍は決心した。
そして深々と頭を下げる。
「分かりました。それでは不肖この私は本日をもって将軍を辞官させていただきます」
「何だと!?」
それを聞いてさすがのバルクも驚愕する。
だが、将軍の決意は固かった。
「いくら罪があろうと、私に数百以上の農民を殺せと下知することは出来ません。とはいえ主君の命令に従えない者が将軍を務める訳にもいきませんので、ただいまをもって辞めさせていただきます」
「何だと……」
呆然としているバルクを尻目に、彼はすたすたと部屋を退出していく。
先日大司教を交代させたばかりで今度は将軍も辞めてしまった。さすがにこうも色々なことが重なると、さすがのバルクでも自分が正しい、という自信に揺らぎが生じてくる。
そこへ将軍と入れ違いになるように、一人の兵士が息をきらして飛び込んでくる。
「大変です殿下! 西方の貴族が王国に反旗を翻しました!」
「何だと」
そして兵士は反乱を起こした数名の貴族の名前を挙げる。
いずれも大した家ではないが、よりにもよって将軍が交代したタイミングでそのようなことが起こるとは。
困ったバルクはもはや唯一頼れる人物であるアリエラの元へ向かう。バルクにとって、他の者は隙あらばバルクの粗を探し「やはり聖女を間違えだった」「宮殿の新築は間違えだった」などと文句をつけてくるので信用出来ない。だがアリエラだけはバルクのために動いてくれるし、親身になってアドバイスをしてくれた。
バルクは神殿に入ると、中にいるアリエラを尋ねた。
現在アリエラは神殿で恐怖政治を敷き、新たな聖女として君臨していた。最近忙しくて会えていなかったが、バルクがやってくるとアリエラは少し嬉しそうにしたが、すぐにただならぬ表情に気づく。
「数日ぶりですね、殿下。……いかがしましたか?」
バルクはすぐに一連の事件についてアリエラに全てを打ち明ける。
「……ということがあったんだが、どうしたものだろうか」
「なるほど。それでしたら殿下が直々に軍勢を率いて反乱を鎮圧されてはいかがでしょうか? そうすれば誰もが殿下の武勇にひれ伏すことでしょう」
アリエラは別に政治や軍事に詳しい訳でもないただの素人だったが、彼女の意見は今のバルクには正しいように思えた。他の者たちがバルクを侮るのは皆バルクが無能だと思っているからだ。ならば力を見せつければ良い、というのは単純明快な理屈だった。
「さすがアリエラ、名案だ! 皆俺の実力を知らぬから侮って反乱など起こすのだろう!」
「きっとその通りでございます」
「とはいえ、そうなればしばらくの間そなたと会えなくなるのが心残りだ」
すぐに名案を思い付いたアリエラをすごいと思いつつ、同時にバルクはそんなアリエラと別れることを寂しく思うのだった。
「はい。ですが殿下の留守中、私が代わりに王都を護っておきます」
「やはり俺が頼りに出来るのはそなたしかいない」
そう言ってバルクはアリエラを抱き寄せるのだった。
翌朝、将軍が辞めて混乱する軍勢を率いてバルクは王都を出立した。兵士たちも困惑していたが、反乱した農民を殺すよりはまだ反乱した貴族を倒す方が気持ち的にましである。そのためどうにか心を合わせて西方に向かった。
今回反乱を起こしたのは元々バルクと縁が薄い貴族たちで、王宮の新築で資金を負担させられそうになったことに嫌気が差しての反乱であった。
とはいえ突発的な反乱であり、まとまっていないとはいえ王国軍に勝てる訳はない。反乱軍は一戦して敗れ、それぞれの城に逃げ込む。バルクは勝利に気を良くして城を囲んだ。
そんなバルクの元に一人の兵士が報告にやってくる。
「殿下、大変です。反乱軍にデュアノス帝国の者が紛れ込んでおりました」
「何だと!?」
デュアノス帝国はネクスタ王国の西方にある帝国で、新しい国であるが一番国力がある。以前バルクが外交に出向いた時も遠回しに馬鹿にされた。
そして、反乱を起こした貴族たちに領地を接している。
元々軍備を増強するなど不穏な動きを見せていた帝国だったが、今回のごたごたに乗じてついに手を出してきたらしい。もしかしたら貴族たちに反乱をそそのかしたのも帝国かもしれない。
そう考えるとバルクの苛立ちはデュアノス帝国にも向かう。
「こうなったら、反乱を鎮圧した勢いで帝国も蹴散らしてやる!」
バルクは一人息巻く。
「明日は反乱軍の城を全て落とす! そのために英気を養っておけ」
そう言ってバルクは兵士たちを休ませた。
バルク率いる王国軍は一万ほどの兵力で、反乱軍は一千から二千程度の兵力。早ければ明日中には片がつく、というのが大方の予想であった。
そして翌朝。
目を覚ました王国軍の前にはデュアノス帝国の軍勢二万が待ち構えていた。その光景を見たバルクの表情から一気に血の気が失せていく。これまで王国内でバルクに文句をつけてくる相手は投獄したり、力で押さえつけて黙らせたりすることが出来た。
しかし自分よりも力を持っているデュアノス帝国は黙らせることが出来ない。
「た、退却だ! 王都に戻るぞ!」
バルクはそう叫び、我先にと王都へ駆け出すのであった。
バルクが逃げた後の王国軍はデュアノス帝国によってあっさりと蹴散らされたのである。
それから数日後、農民反乱の鎮圧に向かった将軍が凱旋する。凱旋も何も、武器を持っただけの農民に勝利しただけだが。当然バルクもそれを聞いて喜ぶことはない。反乱がおきたというだけで不愉快であった。
「よし、残った反乱に関わった者やそれを止めなかった者を全員殺せ」
「は?」
バルクの残虐な命令に、将軍も思わず訊き返してしまった。
それを聞いてますますバルクは苛々する。なぜこいつは当たり前の命令を受けるのにいちいち訊き返すのだろうか。
「王国に刃を向けた者は全員死罪。それは法で決まっていることだろう?」
「は、はい」
それはその通りであるが、もとはと言えばバルクが過酷な労役を課したことが乱の原因である。しかも実際に王国と戦った者だけでなく、巻き込まれた農民たちまで殺すのであればその数は相当数に上るだろう。そんなことをすれば王国への怨嗟の声はさらに膨れ上がるだろう。
「どうあってもその命令は撤回されないということでしょうか?」
「当然だ! なぜ王子である俺が家臣の言葉で命令を撤回しなければならない!」
バルクが苛立った声で言うと、将軍は決心した。
そして深々と頭を下げる。
「分かりました。それでは不肖この私は本日をもって将軍を辞官させていただきます」
「何だと!?」
それを聞いてさすがのバルクも驚愕する。
だが、将軍の決意は固かった。
「いくら罪があろうと、私に数百以上の農民を殺せと下知することは出来ません。とはいえ主君の命令に従えない者が将軍を務める訳にもいきませんので、ただいまをもって辞めさせていただきます」
「何だと……」
呆然としているバルクを尻目に、彼はすたすたと部屋を退出していく。
先日大司教を交代させたばかりで今度は将軍も辞めてしまった。さすがにこうも色々なことが重なると、さすがのバルクでも自分が正しい、という自信に揺らぎが生じてくる。
そこへ将軍と入れ違いになるように、一人の兵士が息をきらして飛び込んでくる。
「大変です殿下! 西方の貴族が王国に反旗を翻しました!」
「何だと」
そして兵士は反乱を起こした数名の貴族の名前を挙げる。
いずれも大した家ではないが、よりにもよって将軍が交代したタイミングでそのようなことが起こるとは。
困ったバルクはもはや唯一頼れる人物であるアリエラの元へ向かう。バルクにとって、他の者は隙あらばバルクの粗を探し「やはり聖女を間違えだった」「宮殿の新築は間違えだった」などと文句をつけてくるので信用出来ない。だがアリエラだけはバルクのために動いてくれるし、親身になってアドバイスをしてくれた。
バルクは神殿に入ると、中にいるアリエラを尋ねた。
現在アリエラは神殿で恐怖政治を敷き、新たな聖女として君臨していた。最近忙しくて会えていなかったが、バルクがやってくるとアリエラは少し嬉しそうにしたが、すぐにただならぬ表情に気づく。
「数日ぶりですね、殿下。……いかがしましたか?」
バルクはすぐに一連の事件についてアリエラに全てを打ち明ける。
「……ということがあったんだが、どうしたものだろうか」
「なるほど。それでしたら殿下が直々に軍勢を率いて反乱を鎮圧されてはいかがでしょうか? そうすれば誰もが殿下の武勇にひれ伏すことでしょう」
アリエラは別に政治や軍事に詳しい訳でもないただの素人だったが、彼女の意見は今のバルクには正しいように思えた。他の者たちがバルクを侮るのは皆バルクが無能だと思っているからだ。ならば力を見せつければ良い、というのは単純明快な理屈だった。
「さすがアリエラ、名案だ! 皆俺の実力を知らぬから侮って反乱など起こすのだろう!」
「きっとその通りでございます」
「とはいえ、そうなればしばらくの間そなたと会えなくなるのが心残りだ」
すぐに名案を思い付いたアリエラをすごいと思いつつ、同時にバルクはそんなアリエラと別れることを寂しく思うのだった。
「はい。ですが殿下の留守中、私が代わりに王都を護っておきます」
「やはり俺が頼りに出来るのはそなたしかいない」
そう言ってバルクはアリエラを抱き寄せるのだった。
翌朝、将軍が辞めて混乱する軍勢を率いてバルクは王都を出立した。兵士たちも困惑していたが、反乱した農民を殺すよりはまだ反乱した貴族を倒す方が気持ち的にましである。そのためどうにか心を合わせて西方に向かった。
今回反乱を起こしたのは元々バルクと縁が薄い貴族たちで、王宮の新築で資金を負担させられそうになったことに嫌気が差しての反乱であった。
とはいえ突発的な反乱であり、まとまっていないとはいえ王国軍に勝てる訳はない。反乱軍は一戦して敗れ、それぞれの城に逃げ込む。バルクは勝利に気を良くして城を囲んだ。
そんなバルクの元に一人の兵士が報告にやってくる。
「殿下、大変です。反乱軍にデュアノス帝国の者が紛れ込んでおりました」
「何だと!?」
デュアノス帝国はネクスタ王国の西方にある帝国で、新しい国であるが一番国力がある。以前バルクが外交に出向いた時も遠回しに馬鹿にされた。
そして、反乱を起こした貴族たちに領地を接している。
元々軍備を増強するなど不穏な動きを見せていた帝国だったが、今回のごたごたに乗じてついに手を出してきたらしい。もしかしたら貴族たちに反乱をそそのかしたのも帝国かもしれない。
そう考えるとバルクの苛立ちはデュアノス帝国にも向かう。
「こうなったら、反乱を鎮圧した勢いで帝国も蹴散らしてやる!」
バルクは一人息巻く。
「明日は反乱軍の城を全て落とす! そのために英気を養っておけ」
そう言ってバルクは兵士たちを休ませた。
バルク率いる王国軍は一万ほどの兵力で、反乱軍は一千から二千程度の兵力。早ければ明日中には片がつく、というのが大方の予想であった。
そして翌朝。
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しかし自分よりも力を持っているデュアノス帝国は黙らせることが出来ない。
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バルクはそう叫び、我先にと王都へ駆け出すのであった。
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