13 / 45
竜の巫女
竜の洞窟
しおりを挟む
“では乗ってくれ”
そう言って御使様が私に背を向けます。
一人で乗るのは不安でしたが、私は恐る恐る背中に跨ります。
“首に腕を回して掴まるといい”
私はうつ伏せになるような体勢で御使様の首筋にしがみつきます。
すると御使様はゆっくりと翼をはためかせ、宙に舞い上がりました。その後ろからはハリス殿下もヘルメスに跨って飛び上がるのが見えます。
私たちは宙に舞い上がると、王都の少し北にある大きな山に向かいます。最初にハリス殿下と一緒に飛んだ時とは違って近場の移動だったため速度は遅く、ゆっくり下の景色を見る余裕がありました。
小一時間ほど飛んで私たちは山岳地帯に入りました。山肌は樹木が生い茂っていましたが、樹木たちは皆茶色くなっており、元気のない感じです。
「以前来た時はここまでではなかったが……」
そんな景色を見てハリス殿下が不安そうな声を漏らします。
が、やがてそんな木々も徐々に減っていき、荒れた山肌がむき出しになっているところへ御使様が降りていきます。近づいていくと、うまく言葉には言い表せないですが、嫌な気配がします。
“気を付けよ。邪な気配が蔓延している”
御使様の言葉に私は気を引き締めつつも、山肌にある一つの大きめの洞窟に近づいていきます。
すると、そんな私たちを迎え撃つように棍棒を持った醜悪な顔つきの小鬼たちがわらわらと飛び出してきました。
「きゃあっ」
思わず私が悲鳴を上げてしまいます。
魔物の存在は知っていても、こうしてはっきりと目にするのは初めてかもしれません。前にハリス殿下が倒した虫の群れも魔物と言えば魔物でしたが。
そこへさらに、後ろから出てきたスリングのようなものを持った小鬼たちが手に手に石を投げつけてきます。
「安心しろ、こいつらは僕が倒す!」
そう言うと、ハリス殿下は飛んでくる石をかわすようにヘルメスを飛ばしながら小鬼の群れに突っ込んでいきます。
“汚らわしい者たちめ、我らの洞窟を荒しおって、許さぬ。少々荒くなるからしっかり捕まっておくように”
「は、はい!」
すると御使様はその場で上下左右に小刻みに体を動かし、飛んできた全ての石を回避します。そのたびに私は体を揺さぶられ、振り落とされそうになりました。
飛んできた石を避けきると、御使様は口から緑色の魔力の光線のようなものを発射しました。竜種には吐息で攻撃する種もいるとは聞きましたが、まさか魔法を発射する種がいるとは。
御使様が吐き出した魔力がぶつかった小鬼たちはばたばたとその場に倒れていきます。
そこへ追い撃ちをかけるようにヘルメスが吐いた吐息の風が襲い掛かります。風にあおられた小鬼たちは体勢を崩してその場に倒れました。その正面に降り立ったハリス殿下は剣を縦横無尽に振るって次々に小鬼たちを倒していきます。
“竜だと、帰って来たのか!?”
“いや、違う! あれは小竜だ、囲んで戦え!”
不意に私の脳裏にそんな汚い声が響き渡ります。
酔っ払いが集まる安い酒場……いや、恐らくそんな酒場の酔客よりも汚い声でしょう。もしやこれは目の前の小鬼たちの声でしょうか。
そんな予想を裏付けるように、小鬼たちはハリス殿下を囲んで一斉に棍棒で打ちかかります。
そこでふと私は「帰って来た」と言う言葉が引っ掛かりますが、ということはこの洞窟の主の竜はどこかに行ってしまい、代わりに小鬼たちが棲みついてしまっているということでしょうか。
そして私は神様や竜の言葉だけでなく、小鬼の言葉まで分かってしまうとは。
次々と色々なことが起こりすぎて思考がおいつきません。
気が付くと、小鬼たちは包囲の輪をせばめ、まさにハリス殿下に棍棒が振り降ろされようとしています。
「危ない!」
思わず私は叫んでしまいましたが、ハリス殿下は素早い身のこなしで小鬼たちの棍棒を次々と回避していきます。そして返す刀で襲ってきたゴブリンたちの懐に潜り込み、次々と切り伏せていきます。
ハリス殿下が剣を振るうたびにゴブリンたちは鮮血を噴き出しながらばたばたと倒れていきました。その様子は戦闘というよりも演武を見ているようです。
そして殿下の遠くにいるゴブリンたちは御使様とヘルメスが次々と吐息で倒していきます。
こうして瞬く間に小鬼たち数十体ほどを私たちは倒してしまいました。それを見て御使様はゆっくりと地面に降り立ちます。
しかし地面は荒れ果て、周囲には雑草がぽつぽつと生えているだけという有様です。さらに周囲に血を流した小鬼の死体が転がっており、とても神聖な洞窟とは思えません。
「これは酷いな。前に来たときは荒れていてもまだ守護竜様の洞窟という雰囲気がかろうじて残っていたのだが」
それを見てハリス殿下は盛大に溜め息をつきます。小鬼のような魔物はどこにでも棲むと言われていますが、国を守ってくださるという守護竜様の洞窟にここまで大量に棲みついているというのは由々しき事態です。
また、魔物が棲む地は荒れ果てていく、とよく聞きます。この辺りの山があれていたのも彼らが原因でしょう。
「いきなり危険なことに巻き込んでしまって申し訳ない。だが安心してくれ。この先もどんな魔物が出ようとも、僕があなたを守る」
「は、はい」
おそらくそれはここへ連れてきた責任や、王子としての義務感による発言と思われますが、不覚にもその言葉に私はどきりとしてしまいました。
彼のような凛とした表情と声色で言われると、そういう場合ではないと分かっていつつも、異性として意識してしまいます。そのせいで、私はこれから洞窟が入るのとはまた違った意味で心臓が高鳴るのを抑えられないのでした。
こうして私たちは守護竜様の洞窟へと足を踏み入れたのです。
そう言って御使様が私に背を向けます。
一人で乗るのは不安でしたが、私は恐る恐る背中に跨ります。
“首に腕を回して掴まるといい”
私はうつ伏せになるような体勢で御使様の首筋にしがみつきます。
すると御使様はゆっくりと翼をはためかせ、宙に舞い上がりました。その後ろからはハリス殿下もヘルメスに跨って飛び上がるのが見えます。
私たちは宙に舞い上がると、王都の少し北にある大きな山に向かいます。最初にハリス殿下と一緒に飛んだ時とは違って近場の移動だったため速度は遅く、ゆっくり下の景色を見る余裕がありました。
小一時間ほど飛んで私たちは山岳地帯に入りました。山肌は樹木が生い茂っていましたが、樹木たちは皆茶色くなっており、元気のない感じです。
「以前来た時はここまでではなかったが……」
そんな景色を見てハリス殿下が不安そうな声を漏らします。
が、やがてそんな木々も徐々に減っていき、荒れた山肌がむき出しになっているところへ御使様が降りていきます。近づいていくと、うまく言葉には言い表せないですが、嫌な気配がします。
“気を付けよ。邪な気配が蔓延している”
御使様の言葉に私は気を引き締めつつも、山肌にある一つの大きめの洞窟に近づいていきます。
すると、そんな私たちを迎え撃つように棍棒を持った醜悪な顔つきの小鬼たちがわらわらと飛び出してきました。
「きゃあっ」
思わず私が悲鳴を上げてしまいます。
魔物の存在は知っていても、こうしてはっきりと目にするのは初めてかもしれません。前にハリス殿下が倒した虫の群れも魔物と言えば魔物でしたが。
そこへさらに、後ろから出てきたスリングのようなものを持った小鬼たちが手に手に石を投げつけてきます。
「安心しろ、こいつらは僕が倒す!」
そう言うと、ハリス殿下は飛んでくる石をかわすようにヘルメスを飛ばしながら小鬼の群れに突っ込んでいきます。
“汚らわしい者たちめ、我らの洞窟を荒しおって、許さぬ。少々荒くなるからしっかり捕まっておくように”
「は、はい!」
すると御使様はその場で上下左右に小刻みに体を動かし、飛んできた全ての石を回避します。そのたびに私は体を揺さぶられ、振り落とされそうになりました。
飛んできた石を避けきると、御使様は口から緑色の魔力の光線のようなものを発射しました。竜種には吐息で攻撃する種もいるとは聞きましたが、まさか魔法を発射する種がいるとは。
御使様が吐き出した魔力がぶつかった小鬼たちはばたばたとその場に倒れていきます。
そこへ追い撃ちをかけるようにヘルメスが吐いた吐息の風が襲い掛かります。風にあおられた小鬼たちは体勢を崩してその場に倒れました。その正面に降り立ったハリス殿下は剣を縦横無尽に振るって次々に小鬼たちを倒していきます。
“竜だと、帰って来たのか!?”
“いや、違う! あれは小竜だ、囲んで戦え!”
不意に私の脳裏にそんな汚い声が響き渡ります。
酔っ払いが集まる安い酒場……いや、恐らくそんな酒場の酔客よりも汚い声でしょう。もしやこれは目の前の小鬼たちの声でしょうか。
そんな予想を裏付けるように、小鬼たちはハリス殿下を囲んで一斉に棍棒で打ちかかります。
そこでふと私は「帰って来た」と言う言葉が引っ掛かりますが、ということはこの洞窟の主の竜はどこかに行ってしまい、代わりに小鬼たちが棲みついてしまっているということでしょうか。
そして私は神様や竜の言葉だけでなく、小鬼の言葉まで分かってしまうとは。
次々と色々なことが起こりすぎて思考がおいつきません。
気が付くと、小鬼たちは包囲の輪をせばめ、まさにハリス殿下に棍棒が振り降ろされようとしています。
「危ない!」
思わず私は叫んでしまいましたが、ハリス殿下は素早い身のこなしで小鬼たちの棍棒を次々と回避していきます。そして返す刀で襲ってきたゴブリンたちの懐に潜り込み、次々と切り伏せていきます。
ハリス殿下が剣を振るうたびにゴブリンたちは鮮血を噴き出しながらばたばたと倒れていきました。その様子は戦闘というよりも演武を見ているようです。
そして殿下の遠くにいるゴブリンたちは御使様とヘルメスが次々と吐息で倒していきます。
こうして瞬く間に小鬼たち数十体ほどを私たちは倒してしまいました。それを見て御使様はゆっくりと地面に降り立ちます。
しかし地面は荒れ果て、周囲には雑草がぽつぽつと生えているだけという有様です。さらに周囲に血を流した小鬼の死体が転がっており、とても神聖な洞窟とは思えません。
「これは酷いな。前に来たときは荒れていてもまだ守護竜様の洞窟という雰囲気がかろうじて残っていたのだが」
それを見てハリス殿下は盛大に溜め息をつきます。小鬼のような魔物はどこにでも棲むと言われていますが、国を守ってくださるという守護竜様の洞窟にここまで大量に棲みついているというのは由々しき事態です。
また、魔物が棲む地は荒れ果てていく、とよく聞きます。この辺りの山があれていたのも彼らが原因でしょう。
「いきなり危険なことに巻き込んでしまって申し訳ない。だが安心してくれ。この先もどんな魔物が出ようとも、僕があなたを守る」
「は、はい」
おそらくそれはここへ連れてきた責任や、王子としての義務感による発言と思われますが、不覚にもその言葉に私はどきりとしてしまいました。
彼のような凛とした表情と声色で言われると、そういう場合ではないと分かっていつつも、異性として意識してしまいます。そのせいで、私はこれから洞窟が入るのとはまた違った意味で心臓が高鳴るのを抑えられないのでした。
こうして私たちは守護竜様の洞窟へと足を踏み入れたのです。
32
お気に入りに追加
3,534
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!
ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。
ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。
そこで私は重要な事に気が付いた。
私は聖女ではなく、錬金術師であった。
悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!
みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について
青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。
公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。
ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。
怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。
慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。
というお話にする予定です。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる