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竜の巫女
竜の洞窟
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“では乗ってくれ”
そう言って御使様が私に背を向けます。
一人で乗るのは不安でしたが、私は恐る恐る背中に跨ります。
“首に腕を回して掴まるといい”
私はうつ伏せになるような体勢で御使様の首筋にしがみつきます。
すると御使様はゆっくりと翼をはためかせ、宙に舞い上がりました。その後ろからはハリス殿下もヘルメスに跨って飛び上がるのが見えます。
私たちは宙に舞い上がると、王都の少し北にある大きな山に向かいます。最初にハリス殿下と一緒に飛んだ時とは違って近場の移動だったため速度は遅く、ゆっくり下の景色を見る余裕がありました。
小一時間ほど飛んで私たちは山岳地帯に入りました。山肌は樹木が生い茂っていましたが、樹木たちは皆茶色くなっており、元気のない感じです。
「以前来た時はここまでではなかったが……」
そんな景色を見てハリス殿下が不安そうな声を漏らします。
が、やがてそんな木々も徐々に減っていき、荒れた山肌がむき出しになっているところへ御使様が降りていきます。近づいていくと、うまく言葉には言い表せないですが、嫌な気配がします。
“気を付けよ。邪な気配が蔓延している”
御使様の言葉に私は気を引き締めつつも、山肌にある一つの大きめの洞窟に近づいていきます。
すると、そんな私たちを迎え撃つように棍棒を持った醜悪な顔つきの小鬼たちがわらわらと飛び出してきました。
「きゃあっ」
思わず私が悲鳴を上げてしまいます。
魔物の存在は知っていても、こうしてはっきりと目にするのは初めてかもしれません。前にハリス殿下が倒した虫の群れも魔物と言えば魔物でしたが。
そこへさらに、後ろから出てきたスリングのようなものを持った小鬼たちが手に手に石を投げつけてきます。
「安心しろ、こいつらは僕が倒す!」
そう言うと、ハリス殿下は飛んでくる石をかわすようにヘルメスを飛ばしながら小鬼の群れに突っ込んでいきます。
“汚らわしい者たちめ、我らの洞窟を荒しおって、許さぬ。少々荒くなるからしっかり捕まっておくように”
「は、はい!」
すると御使様はその場で上下左右に小刻みに体を動かし、飛んできた全ての石を回避します。そのたびに私は体を揺さぶられ、振り落とされそうになりました。
飛んできた石を避けきると、御使様は口から緑色の魔力の光線のようなものを発射しました。竜種には吐息で攻撃する種もいるとは聞きましたが、まさか魔法を発射する種がいるとは。
御使様が吐き出した魔力がぶつかった小鬼たちはばたばたとその場に倒れていきます。
そこへ追い撃ちをかけるようにヘルメスが吐いた吐息の風が襲い掛かります。風にあおられた小鬼たちは体勢を崩してその場に倒れました。その正面に降り立ったハリス殿下は剣を縦横無尽に振るって次々に小鬼たちを倒していきます。
“竜だと、帰って来たのか!?”
“いや、違う! あれは小竜だ、囲んで戦え!”
不意に私の脳裏にそんな汚い声が響き渡ります。
酔っ払いが集まる安い酒場……いや、恐らくそんな酒場の酔客よりも汚い声でしょう。もしやこれは目の前の小鬼たちの声でしょうか。
そんな予想を裏付けるように、小鬼たちはハリス殿下を囲んで一斉に棍棒で打ちかかります。
そこでふと私は「帰って来た」と言う言葉が引っ掛かりますが、ということはこの洞窟の主の竜はどこかに行ってしまい、代わりに小鬼たちが棲みついてしまっているということでしょうか。
そして私は神様や竜の言葉だけでなく、小鬼の言葉まで分かってしまうとは。
次々と色々なことが起こりすぎて思考がおいつきません。
気が付くと、小鬼たちは包囲の輪をせばめ、まさにハリス殿下に棍棒が振り降ろされようとしています。
「危ない!」
思わず私は叫んでしまいましたが、ハリス殿下は素早い身のこなしで小鬼たちの棍棒を次々と回避していきます。そして返す刀で襲ってきたゴブリンたちの懐に潜り込み、次々と切り伏せていきます。
ハリス殿下が剣を振るうたびにゴブリンたちは鮮血を噴き出しながらばたばたと倒れていきました。その様子は戦闘というよりも演武を見ているようです。
そして殿下の遠くにいるゴブリンたちは御使様とヘルメスが次々と吐息で倒していきます。
こうして瞬く間に小鬼たち数十体ほどを私たちは倒してしまいました。それを見て御使様はゆっくりと地面に降り立ちます。
しかし地面は荒れ果て、周囲には雑草がぽつぽつと生えているだけという有様です。さらに周囲に血を流した小鬼の死体が転がっており、とても神聖な洞窟とは思えません。
「これは酷いな。前に来たときは荒れていてもまだ守護竜様の洞窟という雰囲気がかろうじて残っていたのだが」
それを見てハリス殿下は盛大に溜め息をつきます。小鬼のような魔物はどこにでも棲むと言われていますが、国を守ってくださるという守護竜様の洞窟にここまで大量に棲みついているというのは由々しき事態です。
また、魔物が棲む地は荒れ果てていく、とよく聞きます。この辺りの山があれていたのも彼らが原因でしょう。
「いきなり危険なことに巻き込んでしまって申し訳ない。だが安心してくれ。この先もどんな魔物が出ようとも、僕があなたを守る」
「は、はい」
おそらくそれはここへ連れてきた責任や、王子としての義務感による発言と思われますが、不覚にもその言葉に私はどきりとしてしまいました。
彼のような凛とした表情と声色で言われると、そういう場合ではないと分かっていつつも、異性として意識してしまいます。そのせいで、私はこれから洞窟が入るのとはまた違った意味で心臓が高鳴るのを抑えられないのでした。
こうして私たちは守護竜様の洞窟へと足を踏み入れたのです。
そう言って御使様が私に背を向けます。
一人で乗るのは不安でしたが、私は恐る恐る背中に跨ります。
“首に腕を回して掴まるといい”
私はうつ伏せになるような体勢で御使様の首筋にしがみつきます。
すると御使様はゆっくりと翼をはためかせ、宙に舞い上がりました。その後ろからはハリス殿下もヘルメスに跨って飛び上がるのが見えます。
私たちは宙に舞い上がると、王都の少し北にある大きな山に向かいます。最初にハリス殿下と一緒に飛んだ時とは違って近場の移動だったため速度は遅く、ゆっくり下の景色を見る余裕がありました。
小一時間ほど飛んで私たちは山岳地帯に入りました。山肌は樹木が生い茂っていましたが、樹木たちは皆茶色くなっており、元気のない感じです。
「以前来た時はここまでではなかったが……」
そんな景色を見てハリス殿下が不安そうな声を漏らします。
が、やがてそんな木々も徐々に減っていき、荒れた山肌がむき出しになっているところへ御使様が降りていきます。近づいていくと、うまく言葉には言い表せないですが、嫌な気配がします。
“気を付けよ。邪な気配が蔓延している”
御使様の言葉に私は気を引き締めつつも、山肌にある一つの大きめの洞窟に近づいていきます。
すると、そんな私たちを迎え撃つように棍棒を持った醜悪な顔つきの小鬼たちがわらわらと飛び出してきました。
「きゃあっ」
思わず私が悲鳴を上げてしまいます。
魔物の存在は知っていても、こうしてはっきりと目にするのは初めてかもしれません。前にハリス殿下が倒した虫の群れも魔物と言えば魔物でしたが。
そこへさらに、後ろから出てきたスリングのようなものを持った小鬼たちが手に手に石を投げつけてきます。
「安心しろ、こいつらは僕が倒す!」
そう言うと、ハリス殿下は飛んでくる石をかわすようにヘルメスを飛ばしながら小鬼の群れに突っ込んでいきます。
“汚らわしい者たちめ、我らの洞窟を荒しおって、許さぬ。少々荒くなるからしっかり捕まっておくように”
「は、はい!」
すると御使様はその場で上下左右に小刻みに体を動かし、飛んできた全ての石を回避します。そのたびに私は体を揺さぶられ、振り落とされそうになりました。
飛んできた石を避けきると、御使様は口から緑色の魔力の光線のようなものを発射しました。竜種には吐息で攻撃する種もいるとは聞きましたが、まさか魔法を発射する種がいるとは。
御使様が吐き出した魔力がぶつかった小鬼たちはばたばたとその場に倒れていきます。
そこへ追い撃ちをかけるようにヘルメスが吐いた吐息の風が襲い掛かります。風にあおられた小鬼たちは体勢を崩してその場に倒れました。その正面に降り立ったハリス殿下は剣を縦横無尽に振るって次々に小鬼たちを倒していきます。
“竜だと、帰って来たのか!?”
“いや、違う! あれは小竜だ、囲んで戦え!”
不意に私の脳裏にそんな汚い声が響き渡ります。
酔っ払いが集まる安い酒場……いや、恐らくそんな酒場の酔客よりも汚い声でしょう。もしやこれは目の前の小鬼たちの声でしょうか。
そんな予想を裏付けるように、小鬼たちはハリス殿下を囲んで一斉に棍棒で打ちかかります。
そこでふと私は「帰って来た」と言う言葉が引っ掛かりますが、ということはこの洞窟の主の竜はどこかに行ってしまい、代わりに小鬼たちが棲みついてしまっているということでしょうか。
そして私は神様や竜の言葉だけでなく、小鬼の言葉まで分かってしまうとは。
次々と色々なことが起こりすぎて思考がおいつきません。
気が付くと、小鬼たちは包囲の輪をせばめ、まさにハリス殿下に棍棒が振り降ろされようとしています。
「危ない!」
思わず私は叫んでしまいましたが、ハリス殿下は素早い身のこなしで小鬼たちの棍棒を次々と回避していきます。そして返す刀で襲ってきたゴブリンたちの懐に潜り込み、次々と切り伏せていきます。
ハリス殿下が剣を振るうたびにゴブリンたちは鮮血を噴き出しながらばたばたと倒れていきました。その様子は戦闘というよりも演武を見ているようです。
そして殿下の遠くにいるゴブリンたちは御使様とヘルメスが次々と吐息で倒していきます。
こうして瞬く間に小鬼たち数十体ほどを私たちは倒してしまいました。それを見て御使様はゆっくりと地面に降り立ちます。
しかし地面は荒れ果て、周囲には雑草がぽつぽつと生えているだけという有様です。さらに周囲に血を流した小鬼の死体が転がっており、とても神聖な洞窟とは思えません。
「これは酷いな。前に来たときは荒れていてもまだ守護竜様の洞窟という雰囲気がかろうじて残っていたのだが」
それを見てハリス殿下は盛大に溜め息をつきます。小鬼のような魔物はどこにでも棲むと言われていますが、国を守ってくださるという守護竜様の洞窟にここまで大量に棲みついているというのは由々しき事態です。
また、魔物が棲む地は荒れ果てていく、とよく聞きます。この辺りの山があれていたのも彼らが原因でしょう。
「いきなり危険なことに巻き込んでしまって申し訳ない。だが安心してくれ。この先もどんな魔物が出ようとも、僕があなたを守る」
「は、はい」
おそらくそれはここへ連れてきた責任や、王子としての義務感による発言と思われますが、不覚にもその言葉に私はどきりとしてしまいました。
彼のような凛とした表情と声色で言われると、そういう場合ではないと分かっていつつも、異性として意識してしまいます。そのせいで、私はこれから洞窟が入るのとはまた違った意味で心臓が高鳴るのを抑えられないのでした。
こうして私たちは守護竜様の洞窟へと足を踏み入れたのです。
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