本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
12 / 45
竜の巫女

竜の巫女選定の儀 Ⅱ

しおりを挟む
 こうして早くも巫女候補は私とアリサの二人きりになってしまいましたが、儀は粛々と続いていきます。

「では次は第二の試練を行う。御使様、お願いします」

 “次は魔法の試練だ。周囲に雪を降らせてみよ”

「そ、そんな……」

 御使様の言葉を聞いて私は絶望します。
 王宮にこもりきりだった私は今までそんな魔法は使ったことありません。アリサはどうなのか、とちらりと隣を見ると彼女も難しい表情で何かを悩んでいます。雪を降らすのが難しいのか、そもそも試練の内容が分からないのかは分かりません。

 とはいえ、今は自分に出来ることをやるしかありません。私は懸命に魔力をこめて雪が降ることを念じます。
 普通、魔法はきちんとした魔力の使い方のようなものがあり、その手順を踏まなければうまく発動しないのですが、幸い私の魔力は常人に比べて遥かに多いらしいです。となれば多少手順に問題があっても力技で発動するかもしれません。

 一方、隣ではアリサが何らかの氷魔法のようなものを使い、周辺の水分が凍り付いています。見ようによっては雪に見えなくもありません。

 私もどうにか雪を降らせなければ……そう思った時でした。

 突然、目に見えない何かと魔力でつながったような妙な感覚を覚えました。今までで似ている感覚があるとすれば、神殿で聖女の適性を試した時に鉢植えに魔力をこめた時の感覚でしょうか。

 そして突然私の脳裏に正しい魔法の手順が浮かび上がってきます。まるで前世の記憶がフラッシュバックしてくるかのように、その記憶が脳裏に浮かんでくるのです。
 何が起こったのかはよく分かりませんが、その通りに魔法を使おうとすると、気が付くと周囲にははらはらと雪が降ってくるのが見えます。

 それを見て周囲の人々は目を見張りました。先ほどリタイアした候補者たちは、この試練に残っていても無理だと思ったのか、諦めの表情になっています。

「御使様、判定は」

 殿下の言葉に御使様は私たちを見て二回頷きます。
 それを見て殿下は結果を告げました。

「とりあえず二人とも合格だ」
「ふぅ」

 そう言ってアリサは息を吐きますが、彼女はちらちらとこちらを見ながら表情を強張らせています。
 私の周りにはきれいな雪が降っていますが、アリサの周りは雪というよりは霜が降りているという様子に近く、私との差は歴然でした。

「あなた、本当に魔法初心者?」

 アリサは引きつった声で話しかけてきます。

「はい、そうですが」
「雪を降らせるなんてまぐれが起こっても初心者に使える魔法ではないわ。もしかして私を油断させるために嘘を……」

 そう言われても今起こったのはまぐれのようなことなので、どう答えていいのか分かりません。
 私が答えに困っていると、ハリス殿下が口を開きます。

「静粛に。次の試練へ進む」
「す、すみません」

 殿下の言葉にアリサは慌てて沈黙します。

 “第三の試練だ。花を咲かせてみよ”

 御使様は私たちに一つずつ、種のようなものを手渡します。方法は指示されませんでしたが、聖女の時のように適性があれば自然と咲くのでしょう。

 そう考えた私は種を握りしめて祈ります。

 するとしばらくして種が割れて芽が生え、茎がのび、桜色の淡い花が咲きます。これは聖女に選ばれる時に神殿で何度もやってみせたものと全く同じ感覚でした。
 私の手元できれいな花が咲くと、それを見た周囲の人々から歓声が上がります。

 一方のアリサは懸命に力をこめたり何かに祈ったりしていますが、結果はわずかに芽が出ただけでした。

 殿下の言葉を待たずとも、それを見てアリサはその場に膝をつきます。
 そして悔しそうに呟きました。

「はあ、負けてしまったわ」
「と言う訳で巫女候補に残ったのはシンシアだ。と言ってもこれで巫女に決まる訳ではない。これより最終試練を行い、それを達成すれば無事巫女として認定される。もし達成できなければ巫女は空席となる」
「最終試練?」

 ということはこれまでは最終試練に挑戦出来る者を選抜するためのものだったということでしょうか。
 緊張する私にハリス殿下は優しく声をかけてくれます。

「大丈夫だ。最終試練と言っても、御使様とともに竜の祠へ向かい、守護竜様と言葉を交わすというだけだ。御使様が選んだ人物が守護竜様の言葉を聞けないなんてことはこれまでほぼなかった」
「そ、そういうものなのですか」

 それを聞いて私は少しほっとしますが、「そういうものか」という気分にしかなりません。

「竜の巫女が空席になるなどあってはならないことよ。ここまでの試練を潜り抜けた以上、何としてでも巫女になってもらわないと困るわ」

 不安そうな顔をしている私に、アリサはそう言います。

「あまり不安にさせるな、と言いたいところだがアリサの言葉はその通りだ。とはいえ、守護竜様の洞窟までは僕も一緒についていくから安心してくれ」
「それでも構わないのですか?」
「ああ。試練はあくまで守護竜様と言葉をかわすこと。だから洞窟の前まで一緒に向かうことは問題はない」
「それなら良かったです」

 それを聞いて私は少しほっとします。うまくは説明できませんが、殿下がついてきてくださると聞いて、私は安心しました。
 御使様とも言葉をかわすことが出来た以上、それなら大丈夫でしょう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!

ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。 ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。 そこで私は重要な事に気が付いた。 私は聖女ではなく、錬金術師であった。 悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について

青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。 公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。 ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。 怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。 慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。 というお話にする予定です。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

とりかえばや聖女は成功しない

猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。 ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。 『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』 その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。 エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。 それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。 それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...