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竜の巫女
竜国
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エルドラン王国の王都ロンドバルは大都市というよりは自然の都という印象でした。
石畳が整備され壮麗な建物(古びてはいますが)が立ち並ぶ我が国の王都と比べると、近くには森や川があり、街の中にもところどころに小さな林のようなエリアがあります。また、町中でも犬などの動物を連れて歩いている人々の姿もちらほら見かけました。
王宮は素朴な木造の建物でしたが、周囲には珍しい花が咲き、小川が流れる美しい庭園が広がっています。
「わあ、きれいですね」
「そう言ってもらえると嬉しい。我が国はデュアノス帝国のような財力はないが、美しい自然があるからな」
「いえ、私もお金をかけた豪華な建物を建てればいいというものではないと思います」
心の中で私はバルク王子のことを思い出します。彼は帝国に張り合うことばかりを考えていましたが、身の丈に合わない背伸びをしてもどこかで綻びがでるでしょう。どこかで思いとどまってくれると良いのですが。
「どうかしたか?」
そんな私にハリス殿下は心配そうに声をかけてくださります。
ネクスタ王国のことは心配ですが、今の私にどうにかなることではありません。
「いえ、何でもありません」
「そうか、急に来てもらって少し申し訳ないとは思っているから何かあれば言ってくれ。可能な限り応じよう」
「ありがとうございます」
「とりあえずしばらくは王宮の客間に泊まってくれ」
そう言ってハリス殿下は私を王宮の主殿の近くにあるきれいな建物へ向かって歩いていきます。すると一人の使用人の方が殿下の姿を見てこちらに歩いてきます。
おそらく四十ぐらいのおだやかそうな微笑みを浮かべた女性です。来客の対応などもしている方なのでしょう。
「お帰りなさいませ殿下! 遅くなって皆心配しておりました」
「ただいま戻った。心配させてすまない」
「いえ……それよりもそちらの方は巫女候補でしょうか?」
「ああ。隣国から無理を言って来てもらったから丁重にもてなしてくれ。シンシア、こちらはエリエだ」
「エリエです、よろしくお願いいたします」
そう言って彼女はぺこりと私に頭を下げました。
私も慌ててお辞儀をします。
「シンシアです。こちらこそよろしくお願いします」
「この国にいる間の生活で何か要望があれば彼女に言ってくれ」
「はい、可能な限りご用意させていただきます」
「いえ、そんな」
聖女時代は高級な家具が揃った部屋、高級な食事に囲まれた毎日を送っていましたが、元々平民出身だったこともありかえって息苦しいぐらいでした。
「済まないが、僕は王宮への報告や留守にしていた間の政務などがあるからこれで失礼する。また、竜の巫女選定の儀についての準備が出来たら声をかける」
「分かりました」
こうしてハリス殿下は王宮へと足早に去っていきました。
「ではこちらにどうぞ」
そう言って私が案内されたのはきれいに掃除された客間でした。おそらく一人用の部屋なのですが、小さな広間ぐらいの広さがあります。
部屋には大きなベッドとテーブルとソファが置かれていて、そして壁の半分ほどもある窓の外にはきれいな庭園が広がっているのがよく見えます。
「お食事は毎食私が部屋までお持ちいたします。今日の夕食はこれから準備しますが、時間やメニューの希望などありますか?」
「特に好き嫌いはありません。時間も特には」
「分かりました。でしたら朝・昼・夜にお持ちします。夕食も今から準備いたしますので少々お待ちください」
そう言われるとむしろ急にしてしまってすみませんという気持ちになってしまいます。私が頷くと彼女は一礼して部屋を出ていきました。
さて、私は荷物を広げて部屋を物色していると、ふと部屋の壁の庭側にドアがあるのを見かけます。庭に出られるドアなのかな、と思って開けてみると外には石造りの大きな水たまりのようなものがありました。何だろうと思って近づいてみると、なんと水は結構温かいのです。
「これはもしかして……噂に聞く温泉というものでしょうか?」
ネクスタ王国ではお風呂は炎の魔道具を使って湯を沸かさないといけないため、大浴場のようなものしかありませんでした。他人と一緒に入ることになってしまうため、私は結構遠慮してしまっていました。
しかしエルドランには天然で温泉が湧くところがあると聞いたことがあります。幸い、庭は少し離れたところで区切られており、温泉に入っても他の客間に泊まっている方がいても見られる心配はありません。
試しに手を浸してみるとちょうどいい温度で、指先からじんわり温かくなっていきます。
服を脱いで湯に入ると、少し肌寒い外気と、少し熱いぐらいのお湯が合わさって心地いいです。殿下に掴まっているだけとはいえ、数日に渡る竜の旅で疲れていた体がほぐれていくようでした。
気持ちよさに負けてしばらく無心で浸かっていると、遠くからノックの音が聞こえてきて我に返ります。
「すみません、夕食が出来ました!」
「ありがとうございます!」
「すみません、ご入浴中でしたか! でしたら置いておきます!」
どうも長湯してしまい、気を遣わせてしまったようです。
エリエが戻っていくと、私は湯から上がって用意されてあった部屋着に着替えます。そしてテーブルの上に並んでいる料理を見て目を見張りました。
そこにはネクスタではなかなか見ることのない海魚の鯛と、各種野菜の漬物、そして味噌と言われる独特の調味料を使った汁物、主食には灰色の麺が並んでいました。質素に見えますが、鯛という魚は海から遠いこの辺りでは高級魚と聞いています。
実は高級料理はネクスタ王国の王宮で毎日のように出されていたのでこのように素材の味を生かした料理の方が私は食べてみたかったのです。漬物はほどよく味がしみていておいしかったですし、汁物は独特の味が具材にしみていておいしかったです。そして鯛は柔らかく、口に入れると旨味が口の中に溶けるように広がっていきます。味付けがあっさりした塩だけということもあって、肉とは違いくどくありません。
最後に食べた麺は味はそんなにないのですが、食感と喉ごしが良く、気が付くとなくなっていました。
疲れていたところでゆっくりご飯を食べたせいか、眠気が襲ってきます。私はその眠気に誘われるままベッドに入りました。まるで宙に浮いているかのようなふかふかのベッドに吸い込まれるように、私は眠りにつきました。
石畳が整備され壮麗な建物(古びてはいますが)が立ち並ぶ我が国の王都と比べると、近くには森や川があり、街の中にもところどころに小さな林のようなエリアがあります。また、町中でも犬などの動物を連れて歩いている人々の姿もちらほら見かけました。
王宮は素朴な木造の建物でしたが、周囲には珍しい花が咲き、小川が流れる美しい庭園が広がっています。
「わあ、きれいですね」
「そう言ってもらえると嬉しい。我が国はデュアノス帝国のような財力はないが、美しい自然があるからな」
「いえ、私もお金をかけた豪華な建物を建てればいいというものではないと思います」
心の中で私はバルク王子のことを思い出します。彼は帝国に張り合うことばかりを考えていましたが、身の丈に合わない背伸びをしてもどこかで綻びがでるでしょう。どこかで思いとどまってくれると良いのですが。
「どうかしたか?」
そんな私にハリス殿下は心配そうに声をかけてくださります。
ネクスタ王国のことは心配ですが、今の私にどうにかなることではありません。
「いえ、何でもありません」
「そうか、急に来てもらって少し申し訳ないとは思っているから何かあれば言ってくれ。可能な限り応じよう」
「ありがとうございます」
「とりあえずしばらくは王宮の客間に泊まってくれ」
そう言ってハリス殿下は私を王宮の主殿の近くにあるきれいな建物へ向かって歩いていきます。すると一人の使用人の方が殿下の姿を見てこちらに歩いてきます。
おそらく四十ぐらいのおだやかそうな微笑みを浮かべた女性です。来客の対応などもしている方なのでしょう。
「お帰りなさいませ殿下! 遅くなって皆心配しておりました」
「ただいま戻った。心配させてすまない」
「いえ……それよりもそちらの方は巫女候補でしょうか?」
「ああ。隣国から無理を言って来てもらったから丁重にもてなしてくれ。シンシア、こちらはエリエだ」
「エリエです、よろしくお願いいたします」
そう言って彼女はぺこりと私に頭を下げました。
私も慌ててお辞儀をします。
「シンシアです。こちらこそよろしくお願いします」
「この国にいる間の生活で何か要望があれば彼女に言ってくれ」
「はい、可能な限りご用意させていただきます」
「いえ、そんな」
聖女時代は高級な家具が揃った部屋、高級な食事に囲まれた毎日を送っていましたが、元々平民出身だったこともありかえって息苦しいぐらいでした。
「済まないが、僕は王宮への報告や留守にしていた間の政務などがあるからこれで失礼する。また、竜の巫女選定の儀についての準備が出来たら声をかける」
「分かりました」
こうしてハリス殿下は王宮へと足早に去っていきました。
「ではこちらにどうぞ」
そう言って私が案内されたのはきれいに掃除された客間でした。おそらく一人用の部屋なのですが、小さな広間ぐらいの広さがあります。
部屋には大きなベッドとテーブルとソファが置かれていて、そして壁の半分ほどもある窓の外にはきれいな庭園が広がっているのがよく見えます。
「お食事は毎食私が部屋までお持ちいたします。今日の夕食はこれから準備しますが、時間やメニューの希望などありますか?」
「特に好き嫌いはありません。時間も特には」
「分かりました。でしたら朝・昼・夜にお持ちします。夕食も今から準備いたしますので少々お待ちください」
そう言われるとむしろ急にしてしまってすみませんという気持ちになってしまいます。私が頷くと彼女は一礼して部屋を出ていきました。
さて、私は荷物を広げて部屋を物色していると、ふと部屋の壁の庭側にドアがあるのを見かけます。庭に出られるドアなのかな、と思って開けてみると外には石造りの大きな水たまりのようなものがありました。何だろうと思って近づいてみると、なんと水は結構温かいのです。
「これはもしかして……噂に聞く温泉というものでしょうか?」
ネクスタ王国ではお風呂は炎の魔道具を使って湯を沸かさないといけないため、大浴場のようなものしかありませんでした。他人と一緒に入ることになってしまうため、私は結構遠慮してしまっていました。
しかしエルドランには天然で温泉が湧くところがあると聞いたことがあります。幸い、庭は少し離れたところで区切られており、温泉に入っても他の客間に泊まっている方がいても見られる心配はありません。
試しに手を浸してみるとちょうどいい温度で、指先からじんわり温かくなっていきます。
服を脱いで湯に入ると、少し肌寒い外気と、少し熱いぐらいのお湯が合わさって心地いいです。殿下に掴まっているだけとはいえ、数日に渡る竜の旅で疲れていた体がほぐれていくようでした。
気持ちよさに負けてしばらく無心で浸かっていると、遠くからノックの音が聞こえてきて我に返ります。
「すみません、夕食が出来ました!」
「ありがとうございます!」
「すみません、ご入浴中でしたか! でしたら置いておきます!」
どうも長湯してしまい、気を遣わせてしまったようです。
エリエが戻っていくと、私は湯から上がって用意されてあった部屋着に着替えます。そしてテーブルの上に並んでいる料理を見て目を見張りました。
そこにはネクスタではなかなか見ることのない海魚の鯛と、各種野菜の漬物、そして味噌と言われる独特の調味料を使った汁物、主食には灰色の麺が並んでいました。質素に見えますが、鯛という魚は海から遠いこの辺りでは高級魚と聞いています。
実は高級料理はネクスタ王国の王宮で毎日のように出されていたのでこのように素材の味を生かした料理の方が私は食べてみたかったのです。漬物はほどよく味がしみていておいしかったですし、汁物は独特の味が具材にしみていておいしかったです。そして鯛は柔らかく、口に入れると旨味が口の中に溶けるように広がっていきます。味付けがあっさりした塩だけということもあって、肉とは違いくどくありません。
最後に食べた麺は味はそんなにないのですが、食感と喉ごしが良く、気が付くとなくなっていました。
疲れていたところでゆっくりご飯を食べたせいか、眠気が襲ってきます。私はその眠気に誘われるままベッドに入りました。まるで宙に浮いているかのようなふかふかのベッドに吸い込まれるように、私は眠りにつきました。
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