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追放と新天地
竜国エルドラン
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「それなら申し訳ないが、僕の後ろに乗ってくれないか?」
そう言ってハリス殿下は若竜のヘルメスの背に跨ります。確かに竜の身長的に数人は乗っても大丈夫そうですが、目の前に跨っているのは隣国の王子であり、私は少し困ってしまいます。当然ですが身分に差がある相手と同じ竜に乗るのはあまりよろしくないです。
「よろしいのですか? 一国の王子と竜に同乗するというのは」
私の言葉にハリス殿下は少し困った声で答えます。
「うーん、本当は良くないかもしれないが、僕がいいと言っている以上問題ないだろう。それに言っては悪いが、この田舎町に馬車がやってくるのを待っていては何日経つか分からないぞ」
「それは確かに」
「それに、僕の方も実は国が心配でな」
最後にハリス殿下はぼそりと呟きます。そう言われてはいつまでも遠慮している訳にもいきません。私はおそるおそるハリス殿下の後ろに跨ります。
固い鱗に覆われた体は固いのかと思いきや、背のあたりにはふわふわした毛が生えており、意外と柔らかかったので驚きました。
「もっとしっかり僕の体を掴んでいてくれ。そうでないと振り落とされてしまう」
が、私がハリス殿下と距離を空けて座ったのを見てもっと近くに座るよう言われてしまいました。
しかし同乗するだけでも恐れ多いのに、殿下の体を掴むなど恐れ多いことで、躊躇してしまいます。
「ええ、でも……」
「気にすることはない。竜国では相乗りの際にはよくあることだ」
そう言われて、ようやく私は遠慮がちにハリス殿下の腰に手を回します。殿下の体は鍛え上げられているせいか、ごつごつしています。
が、それでもまだ足りないようでした。
「もっとしっかり掴まないと飛んだら落ちるぞ」
「は、はい」
そう言われて私は後ろから抱き着くような形で腰に腕を回します。こんな大胆な密着は相手が王子でなくても恥ずかしくて出来ません。
が、それでようやく大丈夫になったようで、ハリス殿下が一言「飛べ」と言うと、ヘルメスは翼をはためかせて上空に舞い上がります。急に舞い上がった浮遊感に包まれたかと思うと、気が付くと眼下にはネクスタ王国の大地が広がっています。
道行く人は見えるかどうかぎりぎりですし、街や村でさえ小さく見えます。
王宮にいた時もさらに高くから見る景色はまさに壮観でした。
「わあ、すごい!」
「ここからちょっと加速するからな、頑張るんだぞ」
そう殿下がおっしゃると上昇を終えたヘルメスはまっすぐに東方の竜国へ向かって加速します。私は馬に乗ったことはありませんが、その速さは早馬を軽く上回るでしょう。
ハリス殿下がすぐ前に座っているとはいえ、ものすごい速さで風が私たちに吹き付けます。殿下が言った通り、ちょっとでも手を緩めるとすぐに振り落とされてしまいそうでした。
気が付くと、私は最初の遠慮も忘れ、景色を楽しむ余裕も忘れ、無我夢中で殿下の腰にしがみついていました。
国境までは大分距離があったような気がしますが、みるみる縮まっていき、夕方だったのにも関わらず日が暮れる前には私たちは竜国に入っていたのです。
そこでようやくヘルメスは飛翔を止め、ゆっくりと下にある村に降りていきます。
「さすがにもう暗くなるから王都に帰るのは無理か。とはいえ、巫女候補を見つけられたから良かった。シンシアもありがとう」
「いえ」
私はと言うと、まだ自分が巫女候補であることに実感が湧きません。
その夜は村で一番いい宿をハリス殿下が手配し、私はそこに泊まらせていただきました。わずか数時間の飛行とはいえ、慣れないことだったので全身に疲れが溜まっており、宿に入るとすぐ寝付いてしまいました。
翌朝、私たちは再びヘルメスに跨って飛翔します。二日目ということで私には少しずつ景色を見る余裕も生まれてきます。
ネクスタ王国は神の加護で様々な職能を持つ人が生まれているおかげで、街や村が結構発展している印象でしたが、エルドラン王国はどちらかというと農村が多く田舎のような地域が多い印象でした。ただ、土地自体は広く豊かな国ではあります。
が、飛びながら下を眺めているとふと気になることがありました。ネクスタではあまり見ない、動物や魔物の姿が森や平地で散見されるのです。中には村を襲って兵士と小競り合いになっているウルフの群れもいました。
「あの、いいのですか?」
私の問いにハリス殿下は珍しく険しい表情を見せます。
「良くはない。だが、残念ながら今我が国に竜の巫女は不在で、守護竜様とも対話することが出来ない。そのため、これまで抑えられてきた動物や魔物の活動が活発になっているんだ」
「なるほど、それで私のことも急いでいたんですね」
「そうだ。本当は全部討伐して回りたいところだが、今は巫女選定の儀が迫っている。それまでに少しでも有望な巫女候補を探さないといけなかったのだ」
「分かりました」
そして国内に入ってから飛ぶことさらに二日。私たちはようやくエルドランの王都ロンドバルに着いたのです。
そう言ってハリス殿下は若竜のヘルメスの背に跨ります。確かに竜の身長的に数人は乗っても大丈夫そうですが、目の前に跨っているのは隣国の王子であり、私は少し困ってしまいます。当然ですが身分に差がある相手と同じ竜に乗るのはあまりよろしくないです。
「よろしいのですか? 一国の王子と竜に同乗するというのは」
私の言葉にハリス殿下は少し困った声で答えます。
「うーん、本当は良くないかもしれないが、僕がいいと言っている以上問題ないだろう。それに言っては悪いが、この田舎町に馬車がやってくるのを待っていては何日経つか分からないぞ」
「それは確かに」
「それに、僕の方も実は国が心配でな」
最後にハリス殿下はぼそりと呟きます。そう言われてはいつまでも遠慮している訳にもいきません。私はおそるおそるハリス殿下の後ろに跨ります。
固い鱗に覆われた体は固いのかと思いきや、背のあたりにはふわふわした毛が生えており、意外と柔らかかったので驚きました。
「もっとしっかり僕の体を掴んでいてくれ。そうでないと振り落とされてしまう」
が、私がハリス殿下と距離を空けて座ったのを見てもっと近くに座るよう言われてしまいました。
しかし同乗するだけでも恐れ多いのに、殿下の体を掴むなど恐れ多いことで、躊躇してしまいます。
「ええ、でも……」
「気にすることはない。竜国では相乗りの際にはよくあることだ」
そう言われて、ようやく私は遠慮がちにハリス殿下の腰に手を回します。殿下の体は鍛え上げられているせいか、ごつごつしています。
が、それでもまだ足りないようでした。
「もっとしっかり掴まないと飛んだら落ちるぞ」
「は、はい」
そう言われて私は後ろから抱き着くような形で腰に腕を回します。こんな大胆な密着は相手が王子でなくても恥ずかしくて出来ません。
が、それでようやく大丈夫になったようで、ハリス殿下が一言「飛べ」と言うと、ヘルメスは翼をはためかせて上空に舞い上がります。急に舞い上がった浮遊感に包まれたかと思うと、気が付くと眼下にはネクスタ王国の大地が広がっています。
道行く人は見えるかどうかぎりぎりですし、街や村でさえ小さく見えます。
王宮にいた時もさらに高くから見る景色はまさに壮観でした。
「わあ、すごい!」
「ここからちょっと加速するからな、頑張るんだぞ」
そう殿下がおっしゃると上昇を終えたヘルメスはまっすぐに東方の竜国へ向かって加速します。私は馬に乗ったことはありませんが、その速さは早馬を軽く上回るでしょう。
ハリス殿下がすぐ前に座っているとはいえ、ものすごい速さで風が私たちに吹き付けます。殿下が言った通り、ちょっとでも手を緩めるとすぐに振り落とされてしまいそうでした。
気が付くと、私は最初の遠慮も忘れ、景色を楽しむ余裕も忘れ、無我夢中で殿下の腰にしがみついていました。
国境までは大分距離があったような気がしますが、みるみる縮まっていき、夕方だったのにも関わらず日が暮れる前には私たちは竜国に入っていたのです。
そこでようやくヘルメスは飛翔を止め、ゆっくりと下にある村に降りていきます。
「さすがにもう暗くなるから王都に帰るのは無理か。とはいえ、巫女候補を見つけられたから良かった。シンシアもありがとう」
「いえ」
私はと言うと、まだ自分が巫女候補であることに実感が湧きません。
その夜は村で一番いい宿をハリス殿下が手配し、私はそこに泊まらせていただきました。わずか数時間の飛行とはいえ、慣れないことだったので全身に疲れが溜まっており、宿に入るとすぐ寝付いてしまいました。
翌朝、私たちは再びヘルメスに跨って飛翔します。二日目ということで私には少しずつ景色を見る余裕も生まれてきます。
ネクスタ王国は神の加護で様々な職能を持つ人が生まれているおかげで、街や村が結構発展している印象でしたが、エルドラン王国はどちらかというと農村が多く田舎のような地域が多い印象でした。ただ、土地自体は広く豊かな国ではあります。
が、飛びながら下を眺めているとふと気になることがありました。ネクスタではあまり見ない、動物や魔物の姿が森や平地で散見されるのです。中には村を襲って兵士と小競り合いになっているウルフの群れもいました。
「あの、いいのですか?」
私の問いにハリス殿下は珍しく険しい表情を見せます。
「良くはない。だが、残念ながら今我が国に竜の巫女は不在で、守護竜様とも対話することが出来ない。そのため、これまで抑えられてきた動物や魔物の活動が活発になっているんだ」
「なるほど、それで私のことも急いでいたんですね」
「そうだ。本当は全部討伐して回りたいところだが、今は巫女選定の儀が迫っている。それまでに少しでも有望な巫女候補を探さないといけなかったのだ」
「分かりました」
そして国内に入ってから飛ぶことさらに二日。私たちはようやくエルドランの王都ロンドバルに着いたのです。
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