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追放と新天地
回想Ⅱ 聖女
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その後本当に王都からの招待状が届き、私は出発することになりました。
出かける前夜には町の人が「シンシアはこの町の希望だ」「よく分からないけど出世してきてくれ」などと送り出しのパーティーをしてくれたのを覚えています。
それから一週間ほど馬車に揺られて私は王都に向かいました。これまで何度か馬車に乗ったことはありましたが、その時の馬車は座席がふわふわでその時とはまるで乗り心地が違いました。しかも何人もの武装した護衛がつき、さらに乗客は護衛や神官を除けば私一人だけです。
これまで田舎町しか見たことがなかった私には初めての王都はとにかく新鮮で、本当にこんなところに田舎者がいてもいいのか不安でした。
そんな王都の中でもとりわけ壮麗な建物が大神殿です。私はその中に連れていかれました。
私が連れられた部屋にはいかめしい白髭の老人を始めとし、他にも高位そうな神官がずらりと並んでいました。そしてその後ろには私とそんなに年が変わらなさそうな少女が一人座っています。
私が席につくと、白髭の老人が口を開きます。
「遠路はるばるよく来てくれたシンシア殿。わしは大司教のグレゴリオと言う」
大司教様はいかめしい外見とは裏腹に優しい声色で私に話しかけてくれます。
が、一方でその後ろにいる少女が険しい表情でこちらを見ているのが少し気になりました。
「まずは『神巫』について推測できることを説明しよう。まずおぬしは計測不可能なほどの魔力を持っている。そして例の薬草を芽吹かせる力があった。ということは『神巫』には聖女の力も備わっているということだ」
「は、はい」
大司教様の話は分かるような分からないような話で、私は少し生返事をしてしまいます。
さらに大司教様の話は続きましたが、要約すると加護には上位と下位があるということです。分かりやすい例で言えば、『将軍』は『武官』よりも大体のことにおいて強い加護と言えるでしょう。
その話がどう私に繋がるというのでしょうか。
「……わしは『司教』の加護を持つのだが、さらにその上に『聖女』が位置する。わしの予想だと『神巫』は『聖女』のさらにその上の加護ではないかということだ」
「な、何ですって!?」
私は思わず大声を上げてしまいます。国で一番神様と近いと言われる聖女よりもさらに上位の加護があり、しかもそれが私だということでしょうか。にわかには信じられない話です。
「そこで、あなたには昨年現れた『聖女』のアリエラと対決していただきたい」
大司教様が言うと、後ろに座っていた少女が立ち上がり緊張した面持ちでこちらに歩いてきます。
彼女は私を刺すような目で見ると、宣言します。
「『神巫』が何なのか知らないけど、私より上の訳がない。そのことをはっきりさせてあげるわ!」
「は、はい」
そこでようやく彼女が私を険しい表情で見つめていた理由を察しました。
別に私がそう主張している訳でもないのに正面きってそう言われてしまうと気圧されてしまいます。
が、そんな彼女を見て大司教様がたしなめるように言います。
「アリエラ殿、シンシア殿にそのように敵意を向けるでない。結果はすでに神様が決められていることであり、我らはただそれを確かめるに過ぎない」
「……」
大司教様の言葉にアリエラは唇を噛みました。
そこへ神官たちがこの間と似たような鉢植えを二つ運んできて、私たちの前に置きます。おそらく聖女の祈りに反応して成長する植物でしょう。
「本来は加護を競わせるというのは良くないことではあるが……。判定は簡単、どちらがより大きくこの薬草を成長させることが出来るかだ」
「分かりました」「分かったわ」
大司教様の言葉に私たちは頷き、同時に祈りを捧げます。
すると。確かにアリエラの前にある鉢植えからも薬草が芽吹くのですが、向こうは芽が出ただけ。対してこちらは瞬く間に数十センチ規模まで成長してしまいました。
こうなってしまうともはや大司教様が改めて結果を告げるまでもありません。アリエラの表情は私の鉢植えを見てみるみる蒼白になっていきます。
「嘘……こんなことがある訳」
呆然とする彼女に大司教様は諭すように言います。
「アリエラ殿。何もお主よりも上がいるからといってそれでおぬしの力が否定された訳ではない。今後も共に神に祈ろうではないか」
よほど落ち込んでいるのか、アリエラはうなだれるばかりで大司教様の言葉にぴくりとも反応しません。
次に大司教様はこちらを向いて言います。
「そしてシンシア殿。あなたの力は間違いなく聖女を超えている。あなたには是非聖女としての役割を果たしていただきたい」
「分かりました」
その後大司教様が陛下にこのことを奏上し、こうして私は聖女ではないのに聖女になるという少し奇妙な事態になったのです。
その後私は早速聖女の職務を教わったのですが、王都には聖女専用の『祈祷の間』というものがあり、そこで毎日祈りを捧げなければならないのです。そのため、その役割に就く者はどうしても一人選ばなければならず、私が選ばれてアリエラは選ばれなかったのでした。
そして半年ほどの修行や王都での作法を学ぶ期間が終わると、前任の聖女様が高齢で引退して私が就任することになったのでした。
そしてこの時にはすでにアリエラは神殿から姿を消していたのでした。聖女の地位には就けなかったものの、人々が皆うらやむような加護があるのだから一神官としてそれをいかせば良かったのに、と当時は思ったのでしたが彼女はなお私を追い落とすことを諦めていなかったという訳でした。
そして殿下とともに陛下に根回しし、大司教様が病に倒れたタイミングを見計らってこの企てを行ったのでしょう。
長くなってしまいましたが、こうして私は一度は聖女となったものの追放され、王都を出たのです。
出かける前夜には町の人が「シンシアはこの町の希望だ」「よく分からないけど出世してきてくれ」などと送り出しのパーティーをしてくれたのを覚えています。
それから一週間ほど馬車に揺られて私は王都に向かいました。これまで何度か馬車に乗ったことはありましたが、その時の馬車は座席がふわふわでその時とはまるで乗り心地が違いました。しかも何人もの武装した護衛がつき、さらに乗客は護衛や神官を除けば私一人だけです。
これまで田舎町しか見たことがなかった私には初めての王都はとにかく新鮮で、本当にこんなところに田舎者がいてもいいのか不安でした。
そんな王都の中でもとりわけ壮麗な建物が大神殿です。私はその中に連れていかれました。
私が連れられた部屋にはいかめしい白髭の老人を始めとし、他にも高位そうな神官がずらりと並んでいました。そしてその後ろには私とそんなに年が変わらなさそうな少女が一人座っています。
私が席につくと、白髭の老人が口を開きます。
「遠路はるばるよく来てくれたシンシア殿。わしは大司教のグレゴリオと言う」
大司教様はいかめしい外見とは裏腹に優しい声色で私に話しかけてくれます。
が、一方でその後ろにいる少女が険しい表情でこちらを見ているのが少し気になりました。
「まずは『神巫』について推測できることを説明しよう。まずおぬしは計測不可能なほどの魔力を持っている。そして例の薬草を芽吹かせる力があった。ということは『神巫』には聖女の力も備わっているということだ」
「は、はい」
大司教様の話は分かるような分からないような話で、私は少し生返事をしてしまいます。
さらに大司教様の話は続きましたが、要約すると加護には上位と下位があるということです。分かりやすい例で言えば、『将軍』は『武官』よりも大体のことにおいて強い加護と言えるでしょう。
その話がどう私に繋がるというのでしょうか。
「……わしは『司教』の加護を持つのだが、さらにその上に『聖女』が位置する。わしの予想だと『神巫』は『聖女』のさらにその上の加護ではないかということだ」
「な、何ですって!?」
私は思わず大声を上げてしまいます。国で一番神様と近いと言われる聖女よりもさらに上位の加護があり、しかもそれが私だということでしょうか。にわかには信じられない話です。
「そこで、あなたには昨年現れた『聖女』のアリエラと対決していただきたい」
大司教様が言うと、後ろに座っていた少女が立ち上がり緊張した面持ちでこちらに歩いてきます。
彼女は私を刺すような目で見ると、宣言します。
「『神巫』が何なのか知らないけど、私より上の訳がない。そのことをはっきりさせてあげるわ!」
「は、はい」
そこでようやく彼女が私を険しい表情で見つめていた理由を察しました。
別に私がそう主張している訳でもないのに正面きってそう言われてしまうと気圧されてしまいます。
が、そんな彼女を見て大司教様がたしなめるように言います。
「アリエラ殿、シンシア殿にそのように敵意を向けるでない。結果はすでに神様が決められていることであり、我らはただそれを確かめるに過ぎない」
「……」
大司教様の言葉にアリエラは唇を噛みました。
そこへ神官たちがこの間と似たような鉢植えを二つ運んできて、私たちの前に置きます。おそらく聖女の祈りに反応して成長する植物でしょう。
「本来は加護を競わせるというのは良くないことではあるが……。判定は簡単、どちらがより大きくこの薬草を成長させることが出来るかだ」
「分かりました」「分かったわ」
大司教様の言葉に私たちは頷き、同時に祈りを捧げます。
すると。確かにアリエラの前にある鉢植えからも薬草が芽吹くのですが、向こうは芽が出ただけ。対してこちらは瞬く間に数十センチ規模まで成長してしまいました。
こうなってしまうともはや大司教様が改めて結果を告げるまでもありません。アリエラの表情は私の鉢植えを見てみるみる蒼白になっていきます。
「嘘……こんなことがある訳」
呆然とする彼女に大司教様は諭すように言います。
「アリエラ殿。何もお主よりも上がいるからといってそれでおぬしの力が否定された訳ではない。今後も共に神に祈ろうではないか」
よほど落ち込んでいるのか、アリエラはうなだれるばかりで大司教様の言葉にぴくりとも反応しません。
次に大司教様はこちらを向いて言います。
「そしてシンシア殿。あなたの力は間違いなく聖女を超えている。あなたには是非聖女としての役割を果たしていただきたい」
「分かりました」
その後大司教様が陛下にこのことを奏上し、こうして私は聖女ではないのに聖女になるという少し奇妙な事態になったのです。
その後私は早速聖女の職務を教わったのですが、王都には聖女専用の『祈祷の間』というものがあり、そこで毎日祈りを捧げなければならないのです。そのため、その役割に就く者はどうしても一人選ばなければならず、私が選ばれてアリエラは選ばれなかったのでした。
そして半年ほどの修行や王都での作法を学ぶ期間が終わると、前任の聖女様が高齢で引退して私が就任することになったのでした。
そしてこの時にはすでにアリエラは神殿から姿を消していたのでした。聖女の地位には就けなかったものの、人々が皆うらやむような加護があるのだから一神官としてそれをいかせば良かったのに、と当時は思ったのでしたが彼女はなお私を追い落とすことを諦めていなかったという訳でした。
そして殿下とともに陛下に根回しし、大司教様が病に倒れたタイミングを見計らってこの企てを行ったのでしょう。
長くなってしまいましたが、こうして私は一度は聖女となったものの追放され、王都を出たのです。
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