本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
4 / 45
追放と新天地

回想Ⅱ 聖女

しおりを挟む
 その後本当に王都からの招待状が届き、私は出発することになりました。
 出かける前夜には町の人が「シンシアはこの町の希望だ」「よく分からないけど出世してきてくれ」などと送り出しのパーティーをしてくれたのを覚えています。

 それから一週間ほど馬車に揺られて私は王都に向かいました。これまで何度か馬車に乗ったことはありましたが、その時の馬車は座席がふわふわでその時とはまるで乗り心地が違いました。しかも何人もの武装した護衛がつき、さらに乗客は護衛や神官を除けば私一人だけです。

 これまで田舎町しか見たことがなかった私には初めての王都はとにかく新鮮で、本当にこんなところに田舎者がいてもいいのか不安でした。
 そんな王都の中でもとりわけ壮麗な建物が大神殿です。私はその中に連れていかれました。

 私が連れられた部屋にはいかめしい白髭の老人を始めとし、他にも高位そうな神官がずらりと並んでいました。そしてその後ろには私とそんなに年が変わらなさそうな少女が一人座っています。

 私が席につくと、白髭の老人が口を開きます。

「遠路はるばるよく来てくれたシンシア殿。わしは大司教のグレゴリオと言う」

 大司教様はいかめしい外見とは裏腹に優しい声色で私に話しかけてくれます。
 が、一方でその後ろにいる少女が険しい表情でこちらを見ているのが少し気になりました。

「まずは『神巫』について推測できることを説明しよう。まずおぬしは計測不可能なほどの魔力を持っている。そして例の薬草を芽吹かせる力があった。ということは『神巫』には聖女の力も備わっているということだ」
「は、はい」

 大司教様の話は分かるような分からないような話で、私は少し生返事をしてしまいます。
 さらに大司教様の話は続きましたが、要約すると加護には上位と下位があるということです。分かりやすい例で言えば、『将軍』は『武官』よりも大体のことにおいて強い加護と言えるでしょう。
 その話がどう私に繋がるというのでしょうか。

「……わしは『司教』の加護を持つのだが、さらにその上に『聖女』が位置する。わしの予想だと『神巫』は『聖女』のさらにその上の加護ではないかということだ」
「な、何ですって!?」

 私は思わず大声を上げてしまいます。国で一番神様と近いと言われる聖女よりもさらに上位の加護があり、しかもそれが私だということでしょうか。にわかには信じられない話です。

「そこで、あなたには昨年現れた『聖女』のアリエラと対決していただきたい」

 大司教様が言うと、後ろに座っていた少女が立ち上がり緊張した面持ちでこちらに歩いてきます。
 彼女は私を刺すような目で見ると、宣言します。

「『神巫』が何なのか知らないけど、私より上の訳がない。そのことをはっきりさせてあげるわ!」
「は、はい」

 そこでようやく彼女が私を険しい表情で見つめていた理由を察しました。
 別に私がそう主張している訳でもないのに正面きってそう言われてしまうと気圧されてしまいます。
 が、そんな彼女を見て大司教様がたしなめるように言います。

「アリエラ殿、シンシア殿にそのように敵意を向けるでない。結果はすでに神様が決められていることであり、我らはただそれを確かめるに過ぎない」
「……」

 大司教様の言葉にアリエラは唇を噛みました。
 そこへ神官たちがこの間と似たような鉢植えを二つ運んできて、私たちの前に置きます。おそらく聖女の祈りに反応して成長する植物でしょう。

「本来は加護を競わせるというのは良くないことではあるが……。判定は簡単、どちらがより大きくこの薬草を成長させることが出来るかだ」

「分かりました」「分かったわ」

 大司教様の言葉に私たちは頷き、同時に祈りを捧げます。

 すると。確かにアリエラの前にある鉢植えからも薬草が芽吹くのですが、向こうは芽が出ただけ。対してこちらは瞬く間に数十センチ規模まで成長してしまいました。

 こうなってしまうともはや大司教様が改めて結果を告げるまでもありません。アリエラの表情は私の鉢植えを見てみるみる蒼白になっていきます。

「嘘……こんなことがある訳」

 呆然とする彼女に大司教様は諭すように言います。

「アリエラ殿。何もお主よりも上がいるからといってそれでおぬしの力が否定された訳ではない。今後も共に神に祈ろうではないか」

 よほど落ち込んでいるのか、アリエラはうなだれるばかりで大司教様の言葉にぴくりとも反応しません。
 次に大司教様はこちらを向いて言います。

「そしてシンシア殿。あなたの力は間違いなく聖女を超えている。あなたには是非聖女としての役割を果たしていただきたい」
「分かりました」

 その後大司教様が陛下にこのことを奏上し、こうして私は聖女ではないのに聖女になるという少し奇妙な事態になったのです。

 その後私は早速聖女の職務を教わったのですが、王都には聖女専用の『祈祷の間』というものがあり、そこで毎日祈りを捧げなければならないのです。そのため、その役割に就く者はどうしても一人選ばなければならず、私が選ばれてアリエラは選ばれなかったのでした。

 そして半年ほどの修行や王都での作法を学ぶ期間が終わると、前任の聖女様が高齢で引退して私が就任することになったのでした。

 そしてこの時にはすでにアリエラは神殿から姿を消していたのでした。聖女の地位には就けなかったものの、人々が皆うらやむような加護があるのだから一神官としてそれをいかせば良かったのに、と当時は思ったのでしたが彼女はなお私を追い落とすことを諦めていなかったという訳でした。

 そして殿下とともに陛下に根回しし、大司教様が病に倒れたタイミングを見計らってこの企てを行ったのでしょう。

 長くなってしまいましたが、こうして私は一度は聖女となったものの追放され、王都を出たのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について

青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。 公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。 ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。 怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。 慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。 というお話にする予定です。

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!

ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。 ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。 そこで私は重要な事に気が付いた。 私は聖女ではなく、錬金術師であった。 悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!

処理中です...