本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
1 / 45
追放と新天地

聖女と神巫

しおりを挟む
「シンシア・ハーレーン、お前は本物の聖女じゃない。俺は本物の聖女を見つけたからお前はもう追放させてもらう!」
「え!?」

 いきなり宣言されたバルク殿下の言葉に私シンシア・ハーレーンは思わず耳を疑いました。

 元々私と殿下は折り合いが悪く、最近はお互いあえて言葉をかわすことも少なかったのですが、今日は突然殿下の執務室に呼び出されたのです。わざわざ殿下の側から呼ばれるのは珍しいことだったので胸騒ぎがしたのですが、まさかここまでの急展開とは思ってもみませんでした。

 ちなみにバルク殿下はここネクスタ王国の第一王子で現在十五歳、次期国王になると目されている人物です。しかし何事にも我を通したがる癖があり、また国民や周囲の者たちのことを考えない発言も多く、残念ながらあまり期待されているとは言えません。
 とはいえ最近は国王のベルモス陛下が老齢に差し掛かったため、何かと前に出る機会も増えています。
 国政に携わる機会も増え、分別も身に着けていったと思っていたのですが、そうではないようでした。

「確かに私の加護は『聖女』ではありません。しかし聖女としての仕事はこれまで十分以上に果たしてきたはずです!」

 私は即座に抗議しました。
 殿下が言っているのがどういうことかを説明するには、我が国特有の事情、『加護』について説明しなければなりません。

 ここネクスタ王国は通称神国とも呼ばれ、国民は皆十歳になると神殿で神様に『加護』と呼ばれるものを授かります。『加護』には『鍛冶屋』『農民』『戦士』など様々なものがありますが、大体は何らかの職業を指しています。そして加護を授けられた人はその加護に一致する能力を授かるのです。例えば『鍛冶屋』の加護を授かった者は他の人よりも鍛冶の能力が高いという訳です。

 そしてネクスタ王国の民に対する神の加護に報いるため、これまで国に一人だけ存在するという『聖女』の加護を持つ者が神様に感謝の祈りを捧げてきました。

 私が授かっているのは『神巫』という加護で聖女ではないのですが、聖女以上の魔力と適性を持っています。そのため、出身村の神殿の司祭の勧めで私は都にのぼり、そこで神殿に認められて聖女の役割を務めているのです。

 それについては大司教のグレゴリオ様が国王陛下に奏上してすでに決まったことであり、別に私が勝手に聖女をしている訳ではありません。そして私が聖女を務めていた期間、ネクスタ王国は神様の加護を受け平和が続いてきました。

 そういう経緯があったため殿下の言葉は何を今更という思いです。
 が、それでも殿下はなぜか自信満々に続けます。

「そうかもしれない。だがこの国はずっと『聖女』の加護を持つ者が治めるという伝統が続いていた。それを乱したから最近デュアノス帝国の動きが不穏なのだろう」
「それは聖女の務めとは関係ありません!」

 神の加護は作物の実りや災害に影響するのであって、隣国の情勢は祈りでどうにかなるものではありません。それをわざわざ言い立てるということはよほどの無知か、よほど私を無能ということにしたいかのどちらかでしょう。
 殿下は私の言葉を聞き入れる様子は全くありませんでした。

「だが『神巫』などという加護は聞いたことがない。やはりそんな怪しい加護を持つ者に聖女の役割を任せたのがよくなかったのだ」
「それはもう大司教様や国王陛下が話し合って決めたことです。大体、それなら誰を公認にすると言うのですか?」
「決まっている、正しい『聖女』に決まっているだろう?」

 そう言って殿下はにやり、と嫌な笑みを浮かべました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!

ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。 ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。 そこで私は重要な事に気が付いた。 私は聖女ではなく、錬金術師であった。 悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について

青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。 公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。 ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。 怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。 慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。 というお話にする予定です。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

とりかえばや聖女は成功しない

猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。 ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。 『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』 その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。 エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。 それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。 それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...