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第二王子オーレンⅡ
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私が連れていかれたのは王宮近くのおしゃれなレストランだった。小高い丘の上にあり、外を見るときれいな王都の夜景が見える。
しかも殿下の力なのか、他のお客さんの姿はなくなっていた。
が、私は突然自分を誘ってきたオーレンと二人(近くにメイドがいるので二人きりではないが)で食事をしているというシチュエーションに緊張して、食事や夜景を楽しむどころではなかった。
「さて、まずは一緒に食事に来てくれてありがとう。兄上のガードが固くて一度も会えないかと思ったが、こうして来てくれてうれしいよ」
「ありがとうございます」
私はとりあえずお礼を言う。
「そう警戒しなくても、別にとって食ったりはしないさ」
「一体なぜ今日は誘ってくださったのでしょうか?」
「兄上がえらく御執心だからどんな人物か気になったというのが一つ。もう一つは、兄上の意図を知りたくてね」
「マイルズ殿下の意図、ですか?」
「ああ。君は誰とも会わせてもらえないから秘密が漏れることもないと思って話すが、兄上は恐らく王位を継ぐことは出来ないだろう」
「え?」
私にしか聞こえないよう声をひそめたオーレンの言葉に私は凍り付く。
聞いた話では彼は王太子と言われていたし、成果もあげているらしい。それなのになぜ。
「簡単なことだ。兄上は有能な者には報いる反面、無能な者には冷たい。そのため、伝統しかとりえがない我が国の大貴族たちは兄上のことを恐れているんだ。それで、父上、陛下に兄上に跡を継がせないよう迫ったんだ」
「そんな……それでどうなるんですか?」
隣国のことだし、自分を軟禁するマイルズがどうなろうと本来は私にとっては関係ないはずだ。
だが、なぜかオーレンの言葉に私の胸はざわついた。
おそらく、有能ではない者たちによって王位を引きずり降ろされそうになっているという彼の状態が、どことなく自分に重なるからではないか。
「おや、君も興味があるのかい? 正直なところこの件がどうなるのかはまだ分からない。貴族たちは俺にも、もし俺がこの国の王位を継ぐ意思があるなら味方するとか言ってくるものでね」
「それで、どうご返答を?」
「それはさすがに言えないな」
それを聞いて私はついこの二人が王位をめぐって争うことがなければいいのに、と思ってしまう。
「けどそんな時に兄上が隣国からの人質を拾ってきて、しかも随分ご執心だ。だからそこに何かの鍵があると思ってね」
まさかそんな裏事情があったとは。とはいえ、私はマイルズが私の国を嵌めて私を人質に出させたということしか分からない。それが個人的な理由によるものなのか、今のオーレンの話と関係するのかもよく分からない。
もし彼が今回の勝利の立役者だとすれば、その手柄で王位に近づこうとしているような気もするが確証はない。
「……私にはマイルズ殿下の意図はよく分かりません」
少し考えた末、私はそう答えた。するとオーレンは肩をすくめてみせる。
「そうか、君は兄上の肩を持つのか」
「そう言う訳では……」
とはいえ、マイルズから聞いたことをオーレンに話さないという点では消極的にマイルズの肩を持ったのかもしれない。もっとも、それはオーレンの話を聞いて何となくマイルズに親近感を抱いたから、というふわっとした理由に過ぎないが。
「どうだい? 俺に協力してくれれば君を助けることも出来るかもしれないけど」
「助けるとは?」
「人質からもう少しいい待遇に出来るかもってことだ……例えば花嫁とかね」
それは私をスタンレット王国の貴族の誰かにでも嫁がせてくれるということだろうか。そうなれば確かにこの軟禁生活よりはいい暮らしが出来そうなものだが。
「協力も何も私はただの人質です。他国の問題に首を突っ込むことは出来ません」
気が付くと私はそう答えていた。
もちろんその言葉も嘘ではなかったが、私はオーレンの提案に頷くことは何となくマイルズに対する裏切りのように思えてしまったのは否定できない。
「そうか、振られてしまったか」
そう言ってオーレンは冗談めかして笑う。
「まあいい、もし気が変わったらいつでも俺に会いにきてくれ、と言ってもそれは難しいか。それならメイドに手紙でも渡せば、多分届けてくれるはずだ。兄上も、他人に会わせることは禁止していても手紙ぐらいは届けてもいいだろう」
「分かりました」
その後、オーレンはマイルズや政治向きの話を一切出さず、私たちは普通に談笑しつつ食事を終えた。そして私は何事もなく、元の軟禁生活に戻ったのであった。
しかも殿下の力なのか、他のお客さんの姿はなくなっていた。
が、私は突然自分を誘ってきたオーレンと二人(近くにメイドがいるので二人きりではないが)で食事をしているというシチュエーションに緊張して、食事や夜景を楽しむどころではなかった。
「さて、まずは一緒に食事に来てくれてありがとう。兄上のガードが固くて一度も会えないかと思ったが、こうして来てくれてうれしいよ」
「ありがとうございます」
私はとりあえずお礼を言う。
「そう警戒しなくても、別にとって食ったりはしないさ」
「一体なぜ今日は誘ってくださったのでしょうか?」
「兄上がえらく御執心だからどんな人物か気になったというのが一つ。もう一つは、兄上の意図を知りたくてね」
「マイルズ殿下の意図、ですか?」
「ああ。君は誰とも会わせてもらえないから秘密が漏れることもないと思って話すが、兄上は恐らく王位を継ぐことは出来ないだろう」
「え?」
私にしか聞こえないよう声をひそめたオーレンの言葉に私は凍り付く。
聞いた話では彼は王太子と言われていたし、成果もあげているらしい。それなのになぜ。
「簡単なことだ。兄上は有能な者には報いる反面、無能な者には冷たい。そのため、伝統しかとりえがない我が国の大貴族たちは兄上のことを恐れているんだ。それで、父上、陛下に兄上に跡を継がせないよう迫ったんだ」
「そんな……それでどうなるんですか?」
隣国のことだし、自分を軟禁するマイルズがどうなろうと本来は私にとっては関係ないはずだ。
だが、なぜかオーレンの言葉に私の胸はざわついた。
おそらく、有能ではない者たちによって王位を引きずり降ろされそうになっているという彼の状態が、どことなく自分に重なるからではないか。
「おや、君も興味があるのかい? 正直なところこの件がどうなるのかはまだ分からない。貴族たちは俺にも、もし俺がこの国の王位を継ぐ意思があるなら味方するとか言ってくるものでね」
「それで、どうご返答を?」
「それはさすがに言えないな」
それを聞いて私はついこの二人が王位をめぐって争うことがなければいいのに、と思ってしまう。
「けどそんな時に兄上が隣国からの人質を拾ってきて、しかも随分ご執心だ。だからそこに何かの鍵があると思ってね」
まさかそんな裏事情があったとは。とはいえ、私はマイルズが私の国を嵌めて私を人質に出させたということしか分からない。それが個人的な理由によるものなのか、今のオーレンの話と関係するのかもよく分からない。
もし彼が今回の勝利の立役者だとすれば、その手柄で王位に近づこうとしているような気もするが確証はない。
「……私にはマイルズ殿下の意図はよく分かりません」
少し考えた末、私はそう答えた。するとオーレンは肩をすくめてみせる。
「そうか、君は兄上の肩を持つのか」
「そう言う訳では……」
とはいえ、マイルズから聞いたことをオーレンに話さないという点では消極的にマイルズの肩を持ったのかもしれない。もっとも、それはオーレンの話を聞いて何となくマイルズに親近感を抱いたから、というふわっとした理由に過ぎないが。
「どうだい? 俺に協力してくれれば君を助けることも出来るかもしれないけど」
「助けるとは?」
「人質からもう少しいい待遇に出来るかもってことだ……例えば花嫁とかね」
それは私をスタンレット王国の貴族の誰かにでも嫁がせてくれるということだろうか。そうなれば確かにこの軟禁生活よりはいい暮らしが出来そうなものだが。
「協力も何も私はただの人質です。他国の問題に首を突っ込むことは出来ません」
気が付くと私はそう答えていた。
もちろんその言葉も嘘ではなかったが、私はオーレンの提案に頷くことは何となくマイルズに対する裏切りのように思えてしまったのは否定できない。
「そうか、振られてしまったか」
そう言ってオーレンは冗談めかして笑う。
「まあいい、もし気が変わったらいつでも俺に会いにきてくれ、と言ってもそれは難しいか。それならメイドに手紙でも渡せば、多分届けてくれるはずだ。兄上も、他人に会わせることは禁止していても手紙ぐらいは届けてもいいだろう」
「分かりました」
その後、オーレンはマイルズや政治向きの話を一切出さず、私たちは普通に談笑しつつ食事を終えた。そして私は何事もなく、元の軟禁生活に戻ったのであった。
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