12 / 22
第二王子オーレンⅠ
しおりを挟む
マイルズは「なかなか会えなくなる」と言っていたが、彼が会いにこないまま一週間ほどが経過した。食事や着替えなどを持ってきてくれるメイドは私の要望は基本的に聞いてくれて、本や編み物など暇つぶしの物は持ってくれたが、部屋から出すことだけはしてくれなかった。
元々人質と聞いていたので覚悟はしていたが、元々奔放なところがある私は部屋に閉じ込められていると欲求不満になってくる。
「すみません、そろそろ湯あみがしたいのですが」
私は思い切って切り出してみる。
これまでお湯の入った桶と大きめのタオルを持ってきてくれて、毎日体を拭くことはあったのだが、湯あみをしたことはなかったので体がきちんときれいになっているとはいいがたい。
「そう言えば、出かける時に殿下も週一の湯あみだけは認めるようおっしゃっていました」
「本当!? 良かった……」
私は外出が認められてほっと一息つく。
どうせ湯あみだけだろうが、湯を浴びれば多少は外出への欲求不満も晴れるだろう。が、そこで私はふとメイドの言葉に引っ掛かる。
「あの、殿下はどちらに出かけてらっしゃるのでしょうか?」
「オールディズ王国ですが、何も聞いてないのですか?」
メイドが驚いたように尋ねる。確かに私の国に行くのであれば私に何か言っていると思うのが自然だ。とはいえ何も聞いていない。
そこでふと私は殿下が出かける前に言っていた私を手に入れるという話を思い出す。もしかしたらそれと関係あるのだろうか。よく分からない。気にはなるものの、メイドが知らないのであれば私に知る手段はない。
「ともあれ、ありがとうございます」
こうして私はメイドに連れられてようやく部屋を出ることが出来た。
逃亡防止のためか、体つきががっしりしたメイドが二人ほどいつの間にかついてきている。
王宮内では何人かの人とすれ違ったが、私はずっと部屋に閉じ込められていたため顔が知られておらず、皆特に反応を示すことはなかった。これが自国の王宮だったらうまくやって逃げ出すんだけど、と思いながら私は大人しく浴室に案内される。
案内されたのは小ぢんまりとした浴室だが、板張りの湯舟には熱い湯が溜まっている。
「それではごゆっくり」
そう言ってドアが閉められたが、ドアの前と浴室の外には人の気配がある。私は苦笑しながらもまずは湯をかぶって体を洗う。タオルで拭くのと湯を浴びて石鹸で洗うのは違い、私は久し振りに体中の汚れがきれいさっぱり落ちていくような爽快感を覚えた。
そしていよいよ湯舟に入る。お湯の中に体を浸すと、体の芯からぽかぽかと温まって来て非常に心地よい。自由以外の全てを与えられた満たされた生活を送っていたつもりだったが、この心地よさを知ってしまうと、あと一週間我慢できなくなってしまうかもしれない。
気持ちよすぎて結構長湯してしまったが、一時間ほどして頭がぼーっとし始めたので私は仕方なく上がって服を着替える。
「上がりました。気持ち良かったです」
「それでは戻りましょう」
このメイドさんは一時間ぼーっと待たされていたのかと思うと多少申し訳ない。
私は来た時と同じ道を引き返していき、また元の部屋に戻る。
そう思った時だった。
部屋の前に殿下のようなスタンレット王国の王族が身に着ける勲章をつけた長身の男が立っているのに気づく。マイルズとは違い、どちらかというと筋肉質のごつごつした体に、いかつい顔立ちをしている。
彼の存在に気づいてメイドたちはさっと表情をこわばらせた。
が、私たちの緊張をよそに男は気さくに声をかけてくる。
「やあ、君がオールディズ王国のヘレンか?」
「そ、そうですがあなたは?」
「俺はこの国の第二王子、オーレンだ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
私は彼の意図がよく分からずに頭を下げる。まさかこの気さくな人物もこの国の王子だとは。
すると、メイドが強張った声で言った。
「すみませんが、マイルズ殿下よりヘレン様はみだりに余人と会わせぬよう言われていますので、部屋に戻らせていただけますでしょうか」
「おいおい、釣れないことを言うなよ」
そう言って彼は私の部屋の前に立つ。
そして私を値踏みするように見つめた。
「兄上は君をずっと閉じ込めているからどんな人かと思ったが……確かにその気持ちが分かる気がするよ」
そう言って彼は納得したように頷く。一目見ただけでそんなことが分かるものなのだろうか、と私は疑問に思わざるを得ない。
「どうだい? せっかくだし一緒に夕食でも」
「そ、それは……」
メイドは困惑していますが、相手が第二王子であるため言い返すことも出来ずに困っているようだ。
「大丈夫だ、食事を一緒に食べたら必ずここへ帰そう。俺は君の意志を訊いているんだ、ヘレン」
そう言って彼は私を見てくる。
マイルズの言う通りにするのであれば断るべきなのだろうが、私としても部屋の外にいられる機会があるのなら逃したくはない。
「分かりました。でしたらご一緒させていただきます」
私が答えると彼は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。じゃあ早速行こうか」
「ですがせめて私たちもご一緒させていただきます!」
メイドは渋々という表情で言う。
「少々無粋だが、ついてくるというのであれば勝手にするがいい」
そう言ってオーレンは自然に私の手をとると歩いていくのであった。
元々人質と聞いていたので覚悟はしていたが、元々奔放なところがある私は部屋に閉じ込められていると欲求不満になってくる。
「すみません、そろそろ湯あみがしたいのですが」
私は思い切って切り出してみる。
これまでお湯の入った桶と大きめのタオルを持ってきてくれて、毎日体を拭くことはあったのだが、湯あみをしたことはなかったので体がきちんときれいになっているとはいいがたい。
「そう言えば、出かける時に殿下も週一の湯あみだけは認めるようおっしゃっていました」
「本当!? 良かった……」
私は外出が認められてほっと一息つく。
どうせ湯あみだけだろうが、湯を浴びれば多少は外出への欲求不満も晴れるだろう。が、そこで私はふとメイドの言葉に引っ掛かる。
「あの、殿下はどちらに出かけてらっしゃるのでしょうか?」
「オールディズ王国ですが、何も聞いてないのですか?」
メイドが驚いたように尋ねる。確かに私の国に行くのであれば私に何か言っていると思うのが自然だ。とはいえ何も聞いていない。
そこでふと私は殿下が出かける前に言っていた私を手に入れるという話を思い出す。もしかしたらそれと関係あるのだろうか。よく分からない。気にはなるものの、メイドが知らないのであれば私に知る手段はない。
「ともあれ、ありがとうございます」
こうして私はメイドに連れられてようやく部屋を出ることが出来た。
逃亡防止のためか、体つきががっしりしたメイドが二人ほどいつの間にかついてきている。
王宮内では何人かの人とすれ違ったが、私はずっと部屋に閉じ込められていたため顔が知られておらず、皆特に反応を示すことはなかった。これが自国の王宮だったらうまくやって逃げ出すんだけど、と思いながら私は大人しく浴室に案内される。
案内されたのは小ぢんまりとした浴室だが、板張りの湯舟には熱い湯が溜まっている。
「それではごゆっくり」
そう言ってドアが閉められたが、ドアの前と浴室の外には人の気配がある。私は苦笑しながらもまずは湯をかぶって体を洗う。タオルで拭くのと湯を浴びて石鹸で洗うのは違い、私は久し振りに体中の汚れがきれいさっぱり落ちていくような爽快感を覚えた。
そしていよいよ湯舟に入る。お湯の中に体を浸すと、体の芯からぽかぽかと温まって来て非常に心地よい。自由以外の全てを与えられた満たされた生活を送っていたつもりだったが、この心地よさを知ってしまうと、あと一週間我慢できなくなってしまうかもしれない。
気持ちよすぎて結構長湯してしまったが、一時間ほどして頭がぼーっとし始めたので私は仕方なく上がって服を着替える。
「上がりました。気持ち良かったです」
「それでは戻りましょう」
このメイドさんは一時間ぼーっと待たされていたのかと思うと多少申し訳ない。
私は来た時と同じ道を引き返していき、また元の部屋に戻る。
そう思った時だった。
部屋の前に殿下のようなスタンレット王国の王族が身に着ける勲章をつけた長身の男が立っているのに気づく。マイルズとは違い、どちらかというと筋肉質のごつごつした体に、いかつい顔立ちをしている。
彼の存在に気づいてメイドたちはさっと表情をこわばらせた。
が、私たちの緊張をよそに男は気さくに声をかけてくる。
「やあ、君がオールディズ王国のヘレンか?」
「そ、そうですがあなたは?」
「俺はこの国の第二王子、オーレンだ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
私は彼の意図がよく分からずに頭を下げる。まさかこの気さくな人物もこの国の王子だとは。
すると、メイドが強張った声で言った。
「すみませんが、マイルズ殿下よりヘレン様はみだりに余人と会わせぬよう言われていますので、部屋に戻らせていただけますでしょうか」
「おいおい、釣れないことを言うなよ」
そう言って彼は私の部屋の前に立つ。
そして私を値踏みするように見つめた。
「兄上は君をずっと閉じ込めているからどんな人かと思ったが……確かにその気持ちが分かる気がするよ」
そう言って彼は納得したように頷く。一目見ただけでそんなことが分かるものなのだろうか、と私は疑問に思わざるを得ない。
「どうだい? せっかくだし一緒に夕食でも」
「そ、それは……」
メイドは困惑していますが、相手が第二王子であるため言い返すことも出来ずに困っているようだ。
「大丈夫だ、食事を一緒に食べたら必ずここへ帰そう。俺は君の意志を訊いているんだ、ヘレン」
そう言って彼は私を見てくる。
マイルズの言う通りにするのであれば断るべきなのだろうが、私としても部屋の外にいられる機会があるのなら逃したくはない。
「分かりました。でしたらご一緒させていただきます」
私が答えると彼は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。じゃあ早速行こうか」
「ですがせめて私たちもご一緒させていただきます!」
メイドは渋々という表情で言う。
「少々無粋だが、ついてくるというのであれば勝手にするがいい」
そう言ってオーレンは自然に私の手をとると歩いていくのであった。
3
お気に入りに追加
2,428
あなたにおすすめの小説
白花の姫君~役立たずだったので人質として嫁いだはずが、大歓迎されています~
架月はるか
恋愛
魔法の力の大きさだけで、全てが決まる国。
フローラが王女として生を受けたその場所は、長い歴史を持つが故に閉鎖的な考えの国でもあった。
王家の血を引いているにもかかわらず、町娘だった母の血を色濃く継いだフローラは、「植物を元気にする」という僅かな力しか所持していない。
父王には存在を無視され、継母である王妃には虐げられて育ったフローラに、ある日近年力を付けてきている蛮族の国と呼ばれる隣国イザイア王との、政略結婚話が舞い込んでくる。
唯一の味方であった母に先立たれ、周りから役立たずと罵られ生きてきたフローラは、人質として嫁ぐ事を受け入れるしかなかった。
たった一人で国境までやって来たフローラに、迎えの騎士は優しく接してくれる。何故か町の人々も、フローラを歓迎してくれている様子だ。
野蛮な蛮族の国と聞いて、覚悟を決めてきたフローラだったが、あまりにも噂と違うイザイア国の様子に戸惑うばかりで――――。
新興国の王×虐げられていた大国の王女
転移でも転生でもない、異世界恋愛もの。
さくっと終わる短編です。全7話程度を予定しています。
死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。
拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。
一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。
残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。
【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~
吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。
ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。
幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。
仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。
精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。
ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。
侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。
当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!?
本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。
+番外編があります。
11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。
11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
聖女の代役の私がなぜか追放宣言されました。今まで全部私に仕事を任せていたけど大丈夫なんですか?
水垣するめ
恋愛
伯爵家のオリヴィア・エバンスは『聖女』の代理をしてきた。
理由は本物の聖女であるセレナ・デブリーズ公爵令嬢が聖女の仕事を面倒臭がったためだ。
本物と言っても、家の権力をたてにして無理やり押し通した聖女だが。
無理やりセレナが押し込まれる前は、本来ならオリヴィアが聖女に選ばれるはずだった。
そういうこともあって、オリヴィアが聖女の代理として選ばれた。
セレナは最初は公務などにはきちんと出ていたが、次第に私に全て任せるようになった。
幸い、オリヴィアとセレナはそこそこ似ていたので、聖女のベールを被ってしまえば顔はあまり確認できず、バレる心配は無かった。
こうしてセレナは名誉と富だけを取り、オリヴィアには働かさせて自分は毎晩パーティーへ出席していた。
そして、ある日突然セレナからこう言われた。
「あー、あんた、もうクビにするから」
「え?」
「それと教会から追放するわ。理由はもう分かってるでしょ?」
「いえ、全くわかりませんけど……」
「私に成り代わって聖女になろうとしたでしょ?」
「いえ、してないんですけど……」
「馬鹿ねぇ。理由なんてどうでもいいのよ。私がそういう気分だからそうするのよ。私の偽物で伯爵家のあんたは大人しく聞いとけばいいの」
「……わかりました」
オリヴィアは一礼して部屋を出ようとする。
その時後ろから馬鹿にしたような笑い声が聞こえた。
「あはは! 本当に無様ね! ここまで頑張って成果も何もかも奪われるなんて! けど伯爵家のあんたは何の仕返しも出来ないのよ!」
セレナがオリヴィアを馬鹿にしている。
しかしオリヴィアは特に気にすることなく部屋出た。
(馬鹿ね、今まで聖女の仕事をしていたのは私なのよ? 後悔するのはどちらなんでしょうね?)
【完結】強制力なんて怖くない!
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のエラリアは、十歳の時に唐突に前世の記憶を取り戻した。
どうやら自分は以前読んだ小説の、第三王子と結婚するも浮気され、妻の座を奪われた挙句、幽閉される「エラリア」に転生してしまったらしい。
そんな人生は真っ平だと、なんとか未来を変えようとするエラリアだが、物語の強制力が邪魔をして思うように行かず……?
強制力がエグい……と思っていたら、実は強制力では無かったお話。
短編です。
完結しました。
なんだか最後が長くなりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
「君を愛す気はない」と宣言した伯爵が妻への片思いを拗らせるまで ~妻は黄金のお菓子が大好きな商人で、夫は清貧貴族です
朱音ゆうひ
恋愛
アルキメデス商会の会長の娘レジィナは、恩ある青年貴族ウィスベルが婚約破棄される現場に居合わせた。
ウィスベルは、親が借金をつくり自殺して、後を継いだばかり。薄幸の貴公子だ。
「私がお助けしましょう!」
レジィナは颯爽と助けに入り、結果、彼と契約結婚することになった。
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0596ip/)
みんなが嫌がる公爵と婚約させられましたが、結果イケメンに溺愛されています
中津田あこら
恋愛
家族にいじめられているサリーンは、勝手に婚約者を決められる。相手は動物実験をおこなっているだとか、冷徹で殺されそうになった人もいるとウワサのファウスト公爵だった。しかしファウストは人間よりも動物が好きな人で、同じく動物好きのサリーンを慕うようになる。動物から好かれるサリーンはファウスト公爵から信用も得て溺愛されるようになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる