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王都

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 その後も私の快適な旅は続いた。グレイルは出来る限り私の要望をかなえてくれたし、馬車の中にふかふかのクッションも置いてくれた。おかげで腰が痛くなることもなくなった。また、夜に泊まる宿では必ず高級な料理や地方の名産品が出てきた。
 自国を出て隣国に入った瞬間こんなに旅路が快適になるとは皮肉なものである。

 そうこうしているうちに私は王都に到着した。
 とはいえ、相変わらず私の不安は晴れなかった。考えてみて欲しい。自国ですらずっと雑な扱いを受けていたのに、隣国に入った瞬間こんなに厚遇を受けることがあるだろうか。だからこれはもしかしたら何かの間違いかもしれない。
 城に入った瞬間、冷血王子あたりが「人質ごときをこんなに厚遇するとは何事か」と言い出して全てが終わるのではないか。私はそんな想像に脅えていた。



 王都に入って最初に思ったのは、スタンレット王国はオールディズ王国に比べて何もかもが発展しているということだ。最初に訪れた街も発展していたが、それはたまたまその都市が栄えているだけという可能性もあった。
 しかし両国の王都と王都を比べれば、国力の差は残念ながら明らかだった。
 スタンレット王国の王都スタンビークは堅牢な石造りの城壁に囲まれ、中には立派な建物が立ち並び、行きかう人々の数も多い。また、店先には異国の産物も所せましと並んでいた。

 それは王城に辿り着いた時も同じように思った。王城も我が国に比べて一回り大きく、建物も新しい。新しいということは最近改修されたということであり、勢いがあるということだ。一方の我が国の王宮は二百年ほど前に建設されて以来そのままで、少し古びてきているが、改修する余力はない。
 何でこんな国に勝てると思って戦いを仕掛けたのか、つくづく父上の考えに疑問が芽生えてくる。

 私は王城の綺麗な庭を案内されて城内に入った。
 てっきり最初に偉い人に挨拶でもさせられるのかと思っていたが、私が通されたのは控え室のような部屋だった。
 そこでグレイルは当然のように告げる。

「ではこちらで正装にお着換えください」
「……お恥ずかしながら、着替えは持たされていないのです」

 本当に恥ずかしかったので、私は小声で言う。そして出発の際に減らされてしまった手荷物を見せた。
 するとグレイルの表情が変わった。

「何と、人質とはいえ一国の王女が隣国に赴くのにまさかそのようなことがあるのですか!」

 それについては私も本当に同意見である。そのため心の中で頷くしかない。

「分かりました、でしたら対応を伺ってまいります。少々こちらでお待ちください」

 そう言ってグレイルは急いでその場を離れる。しかしすぐに入れ替わりにメイドがやってきて、私の前に紅茶とクッキーを置いてくれた。本当に至れり尽くせりだ。


 やがて小走りでグレイルが戻ってくる。

「大変お待たせいたしました。そういうことでしたら我らの国のものではありますが、貸し出しいたします」
「ありがとうございます!」

 私はグレイルの、というよりはスタンレット王国の配慮に涙が出そうになる。

「はい、一国の王女殿下に恥をかかせる訳にはいきませんので」

 グレイルの言葉に私はほっとした。さすがに一週間旅をして汚れた旅装で隣国の王族の前に出るのはたまらなく嫌だったからだ。
 本当にそういう常識的な考え方を我が国の王族にも持って欲しい、と思うのだった。
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