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ジェニーの後悔
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「お兄さんとても格好いい方ね。どちらまで行くの?」
停留所に着くと、突然通りすがりの女がラインハルトに話しかけてくる。安物の癖にやたら露出が多くて派手な、庶民に流行ってそうな服を着た軽薄そうな女だ。
そんな奴がなぜラインハルト様に、と思ったジェニーはすぐに気づく。
今の自分たちは少し前までのような貴族の装いをしている訳ではない。
庶民が着るような服に身を包み、庶民と同じ馬車の停留所にいる。だからこの女にとってラインハルトも少し格好いい庶民、ぐらいにしか見えなかったのだろう。
いくら変装しているからと言ってラインハルトを庶民扱いするなんて、とジェニーは内心激怒したが、その程度の見分けもつかない相手なのだ、と納得する。
もっともそのための変装だしもしも庶民だと思われないとしたらその方が問題だ、ということにジェニーは気づいていなかったが。
そしてそんな軽薄そうな女にもラインハルトは笑顔で対応する。
「ちょっと遠方の友人に会いにいくことになってね。君もこの馬車に乗るのかい?」
「そうよ。旅は道連れと言うし、良かったら道中だけでも仲良くしない?」
「もちろんだ。君のような可愛い女の子と仲良く出来て嬉しいよ」
そう言ってラインハルトはにこりと笑う。
ジェニーの見る限りそれは愛想笑いというよりは彼の本心から出た笑みのようであり、彼女は内心苛立たしくなる。どこの世界に駆け落ち中に明らかにナンパ目的の女と談笑する男がいるのだろうか。
すると女は目ざとくラインハルトの傍らにいるジェニーを見つける。
「あら、そちらの子は妹さん?」
「ち、違うっ、私は……」
「まあそんなようなものだ」
ジェニーが反論しようとするとラインハルトはそれを遮るように言う。
それを聞いて女は満足そうに笑った。
きっと彼女は自分が声をかけたラインハルトの隣に女がいたので恋人かもしれない、と思ったがラインハルトが否定したので彼に声をかけても大丈夫、と思ったのだろう。
一体何で、とジェニーは思ったが答えは明白だった。
ラインハルトは目の前の軽薄そうなチャラチャラした女と仲良く話したかったから駆け落ち相手である自分のことを「妹のようなもの」と濁して説明したのだ。
そんなジェニーの横で二人はどうでもいいことを楽しそうに話している。
そこへ馬車がやってきたので、待っていた乗客たちはぞろぞろと乗り込む。
当然ジェニーはラインハルトの隣に座ろうとしたが、そこに強引に割り込んでくる人物がいた。見ると、先ほどの女と同じような軽薄そうな女だ。
「あら、馬車で偶然あなたのような男性と隣になれるなんて嬉しいわ。私はアメリア。道中仲良くしましょう?」
「何言っているの? 彼にはすでに私がいるんだけど」
それを見て最初の女がわざとらしく唇を尖らせる。
そんな二人を見てラインハルトは鼻の下を伸ばす。
「まあまあ二人とも落ち着いて。僕のことで喧嘩してくれるのは嬉しいけど、せっかくだし皆で仲良くしようじゃないか。ほら、旅の仲間は一期一会なんだから楽しい方がいいだろう?」
「まあ」
ラインハルトの言葉に女たちはしぶしぶ頷く。
「まずは皆で自己紹介をしようじゃないか。僕はラインハルト」
そう言って彼は雑談を仕切り始めるのだった。
そして、
「まずは彼女がジェニー。僕の幼馴染で妹みたいなものだ」
とジェニーのことを勝手に紹介する。
一緒に駆け落ちしたつもりがただの幼馴染にされたジェニーは内心屈辱的だったが、彼女はラインハルトの言葉を否定することが出来なかった。
「ほら、ジェニーも何か言って。悪いね、彼女恥ずかしがりなんだ」
「可愛いわね」
そんなジェニーにラインハルトは勝手に新たな性格を足していき、女たちもすっかり侮った扱いをしてくる。
こうしてジェニーにとっては屈辱の馬車旅が始まったのだった。
停留所に着くと、突然通りすがりの女がラインハルトに話しかけてくる。安物の癖にやたら露出が多くて派手な、庶民に流行ってそうな服を着た軽薄そうな女だ。
そんな奴がなぜラインハルト様に、と思ったジェニーはすぐに気づく。
今の自分たちは少し前までのような貴族の装いをしている訳ではない。
庶民が着るような服に身を包み、庶民と同じ馬車の停留所にいる。だからこの女にとってラインハルトも少し格好いい庶民、ぐらいにしか見えなかったのだろう。
いくら変装しているからと言ってラインハルトを庶民扱いするなんて、とジェニーは内心激怒したが、その程度の見分けもつかない相手なのだ、と納得する。
もっともそのための変装だしもしも庶民だと思われないとしたらその方が問題だ、ということにジェニーは気づいていなかったが。
そしてそんな軽薄そうな女にもラインハルトは笑顔で対応する。
「ちょっと遠方の友人に会いにいくことになってね。君もこの馬車に乗るのかい?」
「そうよ。旅は道連れと言うし、良かったら道中だけでも仲良くしない?」
「もちろんだ。君のような可愛い女の子と仲良く出来て嬉しいよ」
そう言ってラインハルトはにこりと笑う。
ジェニーの見る限りそれは愛想笑いというよりは彼の本心から出た笑みのようであり、彼女は内心苛立たしくなる。どこの世界に駆け落ち中に明らかにナンパ目的の女と談笑する男がいるのだろうか。
すると女は目ざとくラインハルトの傍らにいるジェニーを見つける。
「あら、そちらの子は妹さん?」
「ち、違うっ、私は……」
「まあそんなようなものだ」
ジェニーが反論しようとするとラインハルトはそれを遮るように言う。
それを聞いて女は満足そうに笑った。
きっと彼女は自分が声をかけたラインハルトの隣に女がいたので恋人かもしれない、と思ったがラインハルトが否定したので彼に声をかけても大丈夫、と思ったのだろう。
一体何で、とジェニーは思ったが答えは明白だった。
ラインハルトは目の前の軽薄そうなチャラチャラした女と仲良く話したかったから駆け落ち相手である自分のことを「妹のようなもの」と濁して説明したのだ。
そんなジェニーの横で二人はどうでもいいことを楽しそうに話している。
そこへ馬車がやってきたので、待っていた乗客たちはぞろぞろと乗り込む。
当然ジェニーはラインハルトの隣に座ろうとしたが、そこに強引に割り込んでくる人物がいた。見ると、先ほどの女と同じような軽薄そうな女だ。
「あら、馬車で偶然あなたのような男性と隣になれるなんて嬉しいわ。私はアメリア。道中仲良くしましょう?」
「何言っているの? 彼にはすでに私がいるんだけど」
それを見て最初の女がわざとらしく唇を尖らせる。
そんな二人を見てラインハルトは鼻の下を伸ばす。
「まあまあ二人とも落ち着いて。僕のことで喧嘩してくれるのは嬉しいけど、せっかくだし皆で仲良くしようじゃないか。ほら、旅の仲間は一期一会なんだから楽しい方がいいだろう?」
「まあ」
ラインハルトの言葉に女たちはしぶしぶ頷く。
「まずは皆で自己紹介をしようじゃないか。僕はラインハルト」
そう言って彼は雑談を仕切り始めるのだった。
そして、
「まずは彼女がジェニー。僕の幼馴染で妹みたいなものだ」
とジェニーのことを勝手に紹介する。
一緒に駆け落ちしたつもりがただの幼馴染にされたジェニーは内心屈辱的だったが、彼女はラインハルトの言葉を否定することが出来なかった。
「ほら、ジェニーも何か言って。悪いね、彼女恥ずかしがりなんだ」
「可愛いわね」
そんなジェニーにラインハルトは勝手に新たな性格を足していき、女たちもすっかり侮った扱いをしてくる。
こうしてジェニーにとっては屈辱の馬車旅が始まったのだった。
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